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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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前兆と予兆と推測


 翌朝。俺の毛布にいつの間にか潜り込んできていた愛おしい寝息をあげる金色を発見。

 しばらく眺めていたくて非常に名残惜しいが、その金色を一撫でして起き上がる事にした。

 反射的になのだろう、しがみ付いていた腕にほんのりとした柔らかさを感じたが、頭を振り記憶を捨て去る。


 そうノータッチなのだ!


 陽も登っていない空白み始めた程度なのだが、だんだん気温が上がりだしてきてる。

 どうやら今日も暑くなりそうだ。


 朝飯をしっかり目に取りって意気揚々と出発。

 俺達は群がってくる湿地の野獣や魔物を鎧袖一触と薙ぎ倒し、このじとじと街道をゆく。


 野営地を出発してから約三時間が経ったあたりだっただろうか、横転している馬車を見つけた。まだ情報が行き渡っていないのか、この南街道で商売を行っている者がいたようだ。

 馬車の近くには「砕けたガラクタ」と化してはいるが、交易品であろうと思しき品物が散乱していた。散っているその品々は馬車の許容量から考えるに、明らかに数が不足だ。

 例え人間が複数名乗っていたのだとしてもだ。

 通常の商人が皆、魔法の背嚢(ホールディングバッグ)を所持しているのか。答えは否だ。

 ならば失われた品々は、間違い無く盗賊懐に違いない。

 それを示すのは砕けた品々と、逆に一つとして存在しない壊れていない商品だろう。

 あとは、地面に見られる大量の赤黒いシミ、それが複数の場所にある。

 血痕……だ。

 複数の人間が大いに踏み荒らしたのであろう足跡の数々。

 この俺にすらわかるような明確な痕跡。

 十中八九ってやつか。



 昼を過ぎたあたりで空腹を感じた。休憩場所を探そうかと相談中、生物の鳴き声と思われる奇怪な音が空から降ってくる様に聞えた。聞き耳効果の感度は下げてはいたが方向は完璧。

 三人娘の内、リナにはちらりとだけ聞こえたようだ。

 三人の中ではリナが一番耳が良く、嗅覚は可哀想な事に現代人の感覚を持つジェシカ。ロミィはその双方を、二人より僅かに劣る感度で持っている様子。だが視力は圧倒的。しかし夜目に関しては一番リナが利くみたいだ。


 昼飯を保存食では無く道中で得た獲物の焼肉を強請られ、何故かまたもや俺が焼く羽目になった事はさて置いてだ。

 飯から大体三十分が過ぎた辺りでまたもや音。今度はしっかり『声』として認識できた。馬が生存本能に従った危機感知能力による恐怖で大きく嘶く。首辺りをやさしく叩きなだめる。


 方角としては、このまま街道を進んだ方向で間違いなさそうだ。

 しかしまぁ、なんだ。


「なに? 今の大昔の西映SF大怪獣みたいな声」


 先を歩いていたジェシカが似た様な感想を持ったようで、俺の方に振り返りながらいつも通りに、美少女台無しな感じで表情を歪めてそう言った。


 せめて、古い恐竜パニック映画物の様な、と言ってもらいたい。

 その系統は親父達の趣味では無かったのだろう、だから俺は見たことが無い。

 蛇はシャー、カエルはゲコ。じゃあドラゴンや恐竜はアンギャーってか?

 そうなのだ、口で言うとチープ極まるが『ンアンギャー』とか『キギャァオォゥ』とかって声だった。よくよく考えれば、爬虫類は声帯を持たないので鳴き声と言われても出る訳が無いだろうと言いたい。確か、呼気による音とか咬合音だったはずだ。

 でもまぁ声でいっか。例の地竜君も悲鳴を上げてたしね。

 

「翼竜種に似た声だったけど、何か違う感じだった。どう思う先輩」


「はい、リナ様。お山でもきいたことない気がします」


 三人とも聞こえたらしいけど、やっぱりリナが一番はっきりと聞えたみたいだ。


「えらく遠い感じだったし、もう少し進めば何か判るだろう。先を急ごう」



 しばらくすると見えてきたのは、またもや馬車。今度は単に横転しているというより、完全に破壊されている。違いがある事と言えば、物色しているような動きを見せる者が付近にいる事だろう。

 俺達は馬から降りて警戒の度合いを高めた。


「もしかして、ターゲット発見じゃんアレってば」


「先輩、準備」


「はい、リナ様っ。マスタぁ!」


 この様に反応する三人娘からもわかるように、馬車周辺には武装した人影が見当たる。

 その数は三。しかしだ。

 

「まてって、よく装備を見てみろって」


 様々ではあるが非常にと言って良い程防具としての質が高い。

 今までに見た強盗や野盗、盗賊達の身に付けいたくたびれた様な装備とはまるで違うのだ。


「ありゃあ街道の衛兵じゃないのか?」


 俺は手に持っていたレミントンのスコープをジェシカに投げて渡す。

 この距離且つ、丘陵の上に位置するこの場所なら焦って行動するより、まず観察に徹した方が良いだろう。

 しゃがめば相手からこちらは良く見えない筈だ。


「ん~とどれどれ。ふーんむ、確かにケイクンの言う通り兵士っぽいカンジぃ?」


「そうなのかジェシカ」


「うん。斧槍って言うの? 槍の先に斧みたいなのが付いてる奴を持ってるのが居るんだよね。ケドぉ……」


「けど、なんだい」


「よく見るとさぁ、武装した衛兵みたいに全員同じ装備じゃないカンジじゃん?」


「ああ、俺もそれは思ったよ。さすが魔道都市周辺の兵だと思ったね。全員が一つは魔力付与された武器もってやがった」


「一般兵である街道衛兵が魔力武器?」


「ああ……お? もう一人増えたか」


「うん、街道向こうから騎竜に乗ってくるのが居る。合流するみたい」


「きりゅう……」


 ここから裸眼では今一ハッキリしないが、俺の認識の範疇で表現するならラプトルっぽいアレか。

 騎乗している奴一人が、もう一匹を騎竜とやらを連れて来たみたいだ。

 どうやらジェシカの言う様に、あの三名に合流する様子だな。


「ケイゴ殿!」


「なんだよ、いきなり」


「そ奴等は賊だ! 間違いないっ」


「あっ、行っちゃた。全員騎竜に乗ってったよ~」


 振り返り見ればまさに走り去っていくところだった。

 『人物探知』ヒューマン・ロケーションを発動。なんとか一味の一人にマーキングを施すことに成功。

 これで追う事は可能。しかし俺一人ならって条件が付く。

 今すぐ全力で追えば――いや、三人を置いてくなんて事は――くっ。

 距離は既に四百弱は離れた。

 どうする? 

 ジェシカの狙撃でもここからじゃ無理だろう。

 おっと、ダメな癖が出てきちまった。

 焦ってんじゃねぇよ俺、一旦落ち着け。

 ふぅ。よし。


「どういうことだリナ。確証はあるのか」


「い、今見ただろう!? 明確におかしいじゃないか」


「だから『何が』だよ」


「飛竜兵以外のルシアナ帝国の騎獣は決まって『馬』だ」


 ドラゴンライダーって言葉に心が動きかけたが、問題はそっちじゃない。


「間違いないか」


「無論。ルシアナ法で定められているハズだ。この国の兵は森林だろうが山岳だろうが、場所を問わず何故か頑なに馬を用いる。それを疑問に思って、昔父から聞いた事がある。理由は法で定められているからだ、と」


 迂闊、帝国法には魔女の塔でもヘリオスの街で手伝いをしてた時も、暇を見つけては読んで目を通してはいたのだが、軍部の細かい制度等を見落としてたって事か。


「でもさー『魔道都市の兵だから~』とか『最南部だから~』だとかあり得るんじゃ……」


「無い。飛竜兵を除いて、他に『例外』は無い、そういう法。だそうだ」


 ミスったな、強襲すれば行けたかもだ。

 仕方ない切り替えよう。


「今回は()した。が、まだ相手の規模が分らん。あの様子じゃ他にまだ仲間が居そうだ。故に、軽々に急いで追うのも愚策と言う物だろうな、何しろこちらは少数なんだから」


「だね」


 俺とリナは顔を見合わせてコクリと頷く。

 なにやらズボンがクイと引っ張られる。


「マスタぁ。しつもんしても良いですか」


「ん。ああ、いいよロミィ、なんだい?」


「あれは冒険者ではないですか。ロミィ達と一緒ちがいますか」


 ほう。現状、その可能性は否定できないかな。

 すると思案気に渋った表情を見せたジェシカが一言「無んじゃん?」と言った。

 その心は? と問うと宙に絵を描くように指先を走らせながらネタを披露してくれる。


「えっとねえ、胸ん所に騎士の鎧っとかってさぁロゴみたいのあるじゃん? 革製でも金属製でも。アレついてたよ。あのロゴ、間違いなくクアベルトの衛兵のと同じだったよ」


 ふむ。


姫様(リナ)


「うん?」


 俺の唐突な呼称に、彼女は怪訝な表情を浮かべた。


「軍の装備品ってなぁ、横流しとか……つまり中古品が出回ったりとかってあるものなのか」


 腕を組み、ひと思案。


「無いとは言わん。だが、紋章をそのままに捨て置く、だなんて事はまず考えられん」


 そしてさほど唸るでもなく俺に答えを与えてくれた。

 リナの応答する様は、若くとも威厳があった。

 カッコイイぞ姫様。


 俺は一国の『姫』である人物に問い、そしてリナはそれを余す事無く汲み取ってくれた。


 装備品に紋章を残すその意味とは。

 一、面倒だから。二、消さない理由がある。三、消す必要が無い。等が考えられる。

 身分の詐称。つまりカタリは結構な重罪だったはずだから、横流し品を手にしても、紋章を削らなかったり、装備をそのまま使うっての言語道断、多少なりとも加工を施すだろう。なら常識がある奴ならば『一』は無い。なら『二』か『三』だな。


 くそ、どちらでも厄介そうだ。 


「言われて見れば、削れてるのもいたいた」


「なんだって?」


「一人だけ見たよ」


 一人だけって……余計に話がややこしくなる面倒な情報だなオイ。

 


 俺は今現在での情報頭の中で掻き集めて整理を開始する。

 すると……幾つかの想定と言うより妄想だな、が思い付く。


 まず、さっき奴らは件の賊の関係者、あるいは賊そのものと考えられる。

 理由は例の馬車の惨状……ととっ。

 これはあの現場を見て、壊れた品以外ない等の共通点を照らし合わせてからかな。


 先に考えるべきは、奴等が衛兵を倒すほどの実力があるかも知れない、って点が一つ目。あの武装は一般的な衛兵と比較しても格段に良い物だろう。まして、そこらの盗賊等とは比較するまでも無いだなんて事は語るまでもない。


 そして二つ目、その装備品についてだが……入手方法が複数考えられる。

 横流し品や中古である可能性、それはお姫さん(リナ)の話から考えて十分あり得る。

 あとは実力で警備の兵から奪った、ってのが容易に想定できる二ケースだ。

 残る一つの手段が一番厄介且つ最悪なケースだが――これについては置いておこう。

 現段階では確証が無いどころか、完全に俺の妄想に過ぎないのだから。

 

 現時点で、奴らが件の賊である可能性は十分に高い、だが断定できる様な情報は何も無い。

 なんつたって賊は賊でも『完全に別口』って線もあるからね。

 ならば先を急ぎ『答え合わせ』といきますか。




次回 09/25 AM 02:00を予定しております

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