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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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湿原の街道の夜


 敵に対峙し退治する度に……と言うか事あるごとに呆れられたり、溜息を吐かれたりしつつも、俺達は街道を難事も無く順調に進んでいく。すると次第に陽が山間に掛かり始めた。

 そんな一日の疲れがピークに差し掛かる頃になると、湿地の足元の緩さには次第に慣れた、戦闘毎に馬のケアが必要な事にもだ。

 が、如何ともし難い湿度による不快指数の上昇には全員が辟易としていた。

 その貯まったうっぷんを最初に爆発させたのはジェシカだ。


「あ~もうヤダ! 汗でベッタベタだし服は汚れまくるし、イラつきまくりじゃん!?」


 疑問形なのは誰かに同意を求めているのだろうか。

 俺は聞かれりゃ同意するがね。


「キミに比べれば、ボクは旅慣れている方だ。故に旅の先輩からの忠告として、愚痴を吐くなと注意をしたい所だけどね、この湿度が耐え難い物である事には強く同意する」


 ジェシカの愚痴に対し、いつに無く饒舌なリナがしきりにベタつく髪や尾の毛を気にしながらそう言った。

 

「もうすぐです……ご飯です……もうすぐです……ご飯です……」


 やべ。気分転換に馬から降りて歩いていると思ったロミィの様子が変だ。見てみると朦朧と目をぐるぐるさせた状態で、なにやらブツブツと呪文を唱えながら歩いてた。


「この近くには休める様な村は無いし、今日はここら辺にしておくか」


「やったぁ! ケイクン大好きぃ。あとお風呂用意してくれたら、もっと……スキィ」


 最後まで叫ぶこともできずにへたり落ちたジェシカ。


「お風呂が良いものだった事には同意だ。けど、ふう。無茶を言う」


 リナも結構ヘバってんな。

 体力的にはいけそーなんだろうけど、湿度がなぁ。


「マスタぁ。ロミィご飯です。火が欲しいです」


「あーわかった、わかったいい子だから座って。ご飯は俺が作るよ。だからロミィは休んでな」


 あーっとこりゃ駄目だ。距離稼ぎが過ぎた。

 急いてたのかな俺。

 ちぃと無茶させすぎたのかも知れない。反省。

 

「ジェシカ。そっちのバックバックをもらってくぞ」


「う~ドゾー」


 こっちも限界だな。

 丁度、広めの丘陵地もある。あそこに陣取るとするか。

 うん、ここなら水が上がってくる心配も、馬車が通る心配も無くと良さそうだ。

 比較的根のしっかりとした木を選び馬を括る。


 野営の準備より、先に飯だな。

 へばり切ってる彼女達をこき使うってのもアレだし、ここは俺がやっちまおう。

 さて、この欠食者達に何を作ろうか。

 獣脂はあるし、肉もある。春菊っぽい野草とキャベツに似た葉物野菜もストックがあるし。ステーキ定食で良いかな。

 えっと、塩、胡椒、ガーリックチップ、ビネガー。おおぅ、結構そろえてくれてるな。

 

 何、簡単だ。ホットプレートの魔法具があるからな。鉄板焼きにすればいいだろう。

 木皿は余分にあるので問題ない。焼けた端から食っててもらっても良いしね。


 ポーチから、マジックボトルと寸胴とホットプレートを取り出す。


 寸胴に、ナイフで適当に切ったタマネギっぽい野菜とサイコロ上に切った肉。獣脂を少々加えてホットプレートの上に置く。

 適当に下炒めをして、いい匂いがしてきたところで、塩と胡椒をまぶして更に少々炒める。


 完全にIH調理みたいだなこりゃ。


 寸胴にマジックボトルからダブダブと水を注ぎ、ロミィが取り置いていたらしい、野鳥の鳥ガラと皮をそれぞれ湯通ししてからぶち込む。丁度なサイズの落とし蓋が有ったので乗せて、後は煮立たせる。

 その間に、キャベツっぽい物を千切りにして、塩と胡椒で揉む。

 少ししんなりしたら、少量のビネガーと取り置いたさっきの炒めた時の獣脂から出た油分を木皿の上でキャベツとあえる。

 植物由来つーか、菜種みたいな豆油もバックパックにあったがあえてこちらを使った。

 量的には二玉分全部刻んだし、足りないってこたぁ無いだろう。



 蹴り足の先からマジックパーテーションを作り出し、簡易的なテーブルを作る。

 その上に皿を置き、小石も載せる。上に蝋燭を灯せば、誰も除けないだろう。


「うし、先にこいつを白パンと一緒に食っててくれ」


 念のため、石は除けるなと言い含める。


「うはっ。ザワークラウトっぽいけど、サラダ?」


「いんいや、そんな御大層なモノじゃ無いよ。ザ・適当レシピってね」


「へ~料理出来るんだね?」


「親父に仕込まれてキャンプで作る様なのを少々ってレベルでね。だから申し訳ないがありあわせな料理だよ。さぁ、さっさと塩分補給してくれ」


 嬌声が上がるのをみて、思わず笑みが浮かぶのを自覚。

 嫌がりもせず食ってくれてるみたいなので作業を進める。


 少ししか時間は経っていないが、いい感じに火が入ったみたいだ。魔法万歳。

 蓋を退かせば、湯気からは結構な獣臭。

 別の寸胴を取り出し、麻の布があったのでそれで濾す。

 タマネギと肉だけ布からとって、新しい寸胴に移す。

 クミンシードなんて良いものは無いので、地物の生姜の様な野菜を刻んで布でくるんでぶち込み、更に煮る。

 上がる獣臭が少なくなってきた。

 何時間もかけて作る鶏がら白湯とは程遠いが、うん、なかなかいい香りだ。

 臭み消しの野菜を取り出してアクを適当に取る。

 透明で綺麗な油を取らないのがコツだ。


 後ろでワクワクな声がするので、早速味見。うん、食えそうだ。

 塩と胡椒で更に味を整えて完成、深めの木皿に盛る。


「ホイおまち。黒パンの外側は削った。けどまだ硬いんでスープに浸して食ってみてくれ」


 再び上がる嬉しそうな声。俺は無視してメインに取り掛かる。


 寸胴をパーテーションを作って退かす。


 空いたホットプレートに獣脂を引き、一口サイズに切った肉を焼く。

 塩と胡椒は適度にまぶす。

 表面に油が浮いて、焼いている肉が汗をかいたようになったら、裏返して焼く。く~結構攻撃的な匂いだ。腹が鳴るぞ。

 味見としてパクリ!


 かぁ、こら何とも言えねぇ旨さ。けしてA5の和牛って方向のうまさではないが、ジビエ特有の野性的な旨さだ。ラムチョップやジンギスカンな旨さと言えばいいか。


 本格的に焼く。今度はプレートの広さを生かして、ステーキサイズで何枚も焼く。

 暴力的な焦げる香り。空腹感に耐えつつ焼き上げた時、目の前には涎な三人娘。


「は、はやく! に、肉、ニクぅ~」


「ケイゴ殿。これは苦行ですか。修行なのですね。耐えろと言うのですね! じゅるっ」


「マスタぁのお肉、マスタぁのお肉、マスタぁのお肉」

 

 ロミィさん目がぐるぐるで怖いです。俺の肉じゃないですよ?

 姫様は完全にヨダレキャラとして定着だな。

 こうなるとジェシカが一番普通に見えるのが不思議だ。

 っと呆けてちゃ可哀想だ。


「ほれ、食いな」


「あ~まって! 私のは切らないで、ガブリと行きたいからぁ~」


 待てないのかサラダ用に出してやった木皿を出してくる。

 仕方ないのでその上にステーキを乗せてやる。

 

「ジェシ姉ぇ、文句ダメです。ロミィは我慢できます。待て、できます」


「いや、しなくていいから。はい。一口にサイズ切ったよ。お食べ」


「いただきますっ」


「ケイゴ殿ぉ! 熱いです、旨いですが、あう! あっついです! 行なのですね」


 さっきから「です?」って――壊れてら……と、まてまて。

 確か猫舌だよな、お姫様? あんながっつくと火傷するんじゃないのだろうか。



 人間、動いてから食うものって何でもウマイよね。

 さぁて、俺もあまりものを食うとしますか!



 と思ったらロミィ先輩は流石でした。

 俺の分キッチリ残しててくれてたよ。

 えっと、肉は我ながら結構うまかった。良きかな良きかな。



 欠食三人娘は満たされた腹をこなしながらに、後片付けと野営の準備をしてくれている。

 ロミィも復活したのか、馬達の世話を甲斐甲斐しくしてくれている様だ。


 ならば、期待の声に答えられるか、否か。

 実験と行きますか。


 まず小さめのパーティションを用意。

 そいつを基準に、四方をマス酒のマスの様な形に仕切り板を構成。

 念の為に基準のパーティションには石ころを置く。


 数秒経っても消えない。四つの壁も全部が消えないみたいだ。

 石をどけると消える。ふむ、面白い。


 次に同じようにマスを作り石ころの上から水を注ぐ。

 数秒経過。消えない。来たねえ。キタよコレ!

 隙間なくパーティションを組んでいるので水漏れも無い様だ。

 任意の場所に、任意の大きさで出せる透明な壁。微調整も容易。

 便利過ぎるぞコレ。消費魔力はチビッと多い目だけどね。

 一回当たり、標準で撃つグロックの十発くらいかな。

 でもこれ位なら、時間経過による自然回復で賄える。


 今現在の魔力残量は約九割。

 魔力の枯渇なんて状況はベリに出会ったあの時位で、実は今まで量で困ったことは一度も無いんだよね俺。それでも、全ての身体魔術をフルドライブ状態で一日を過ごすことは出来ないけんだどね。

 それにしても魔術師の塔に居た頃より若干消費がマシになってきた感じだな。


 くっくっく。これなら心置きなく出来(やれ)そうだな。

 早速始めるとするか。


 しかし『透明』なのはちぃとばかし問題だ。

 世の一般男性諸君には『ウハッ(はあと)スッケスケなバスタブって素敵すぎね? 最高じゃね? いろんな角度から見れるような設計を是非キボンヌ』的なシーンを作り出すアイテムとなるのだろうが、マジマジと眺める訳にもいかん。

 むしろ俺の場合、万が一にでも覗きや、それに当たる事実が(あの方に)バレでもした日にゃあ、あとでドンな目に合わされる事やら、って奴だ。つーか、ロミィはともかく、あの二人とも後々目を合わせ辛い事この上なし。


 くそぅ、俺だってあのほんにょりと感じた尻の下の感触の実物を拝んでみたい! だとか、大人になりかけで且つ中身は本物の大人の恥じらうあの姿をもう一度! とか思うけどね。高校生だもん仕方ないじゃん。

 あと『命大事に』は捨てちゃだめだと思うの。

 イタイもの……。


 以上によって、ここは心を鬼にして、目隠しの策を考える。


 さてどうやって隠そうか。色を付けれれば簡単なんだが。いやまてよ?

 パーティションの側面を覆えばいいわけだから……。

 おおう。考てみれば簡単な事じゃないか。


 まず基準となる床板としてパーティションを配置。奥行十五センチ、横幅七メートル(・・・・・)位でいいか。それを二枚準備。厚みは殆ど無くていいや。


 そうそう。師はこのパーティションの大きさは然程デカくならんと言ったが、確かにならない。俺が使っても、精々一辺十メートルがやっとだった。


 それはそうとして。


 次に高さを三メートル、厚さ三センチで衝立となる部分を作る。

 これに、ロール単位で持っている、カーテン素材の様な布を上から被せる。

 念には念を入れて、厚さ一センチの壁で挟み込んで布が飛ばないように加工。

 布を大きめにして、それぞれのパーティションにちょいとひっかければ上に物がある状態だから消えやしない。基準は上に物が乗っている状態だしね。 


 これを三セット追加で作ってっと。

 おし。完成。


 次にバスタブだ。やっぱ、でかいのがいいな。でも水入れるのに時間もかかるし。

 基準は六メートル四方。高さはそうだな、ロミィも居るし六十センチにしよう。基準より内側、五メートル四方でマスを形成。

 湯に入りやすい様にステップも作る。上に獣の皮で防水マットを作って置こう。

 これでバスタブも完成っと。

 んじゃ水を全力でぶっこんで、ホットプレートでいい感じに温めますか。


 

 野営準備が終わって一息した頃、いい感じに沸いた風呂を三人娘に見せると狂喜乱舞してくれた。へへっ。ちびっと疲れたが作って良かった。

 皆、今日一日の汚れを風呂で流し、野営の夜はふけて行った。


 俺? ええ、三人娘の残り湯を使いましたが……なにか?



次回 09/18 AM 02:00を予定しております。

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