表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
116/157

湿原の街道



 一刻の休憩場所としてた場所を後にし、俺達は港町へと続く三本の街道のうちの一つ、本街道である草原の街道(グラスライン)から見て更に南を通る街道、通称、湿った街道(ウェットパス)、その街道口へと至った。

 街道の行く先を眺め、その名の由来に思いをはせる、そして納得する。

 納得は出来たのだが――。


「湿原っていうか~ぁ、一面の沼地じゃん?」


 同感だ。湿原って聞いた時は俺も、も~ちっと美しい感じを想像したんだがなあ。


 だってねぇ? 日本人で湿原って言えば童謡にも出てくるアレ『尾瀬おぜ』じゃん? でも、そんなに整備されている訳も無く、数少ない水に沈んでいない地面を繋いで道を為しているみたいだ。

 通り道として足りない箇所には、行政の賜物なのか商工会の根回しの一環なのか、板切れが置かれたり、足場となる道に盛り土をしたりで、人の手も少なからず入っている様である。

 こんな道を街道として活用するって事は、馬車が通るには不向きではあっても、物流の円滑化の為には欠かせないのだろう。その為の補強って事か。

 どうやら、北の街道と中央の本道には、(こちら)を選択せざるを得ない理由って奴が多そうだ。



 整備された美しい観光地とは比べるべくも無い、だがここは確かに湿原だ。湿った足元の他、先ほどの狩場でも見たような小さな池や沼地がそこら中にある。

 ちらっと見た程度では、そいつが浅いのか深いのかさえもわからない。

 足の長い葦に似た植物が群生している所も多くあり、視界が良好とは言いにくい。

 中央の街道とこちらを隔てる、標高の低い山や丘からの湧き水が集まっているのだろう、規模の大小は様々だが河川とは呼べない程の、小さな流入を数多く見ることが出来る。

 

「ここを行く(ゆく)のは想像より大変そうだね」

 

 リナが湿気によるベト付きを気にしているのか、しきりに尾や髪を撫でつけている。

 ちょっと雨の日の猫っぽくて可愛い。


「みんなちょっと布を敷くから休憩にしよう。それからブーツとか履物を俺に寄越してくれるか」


「え~、嗅いじゃイヤん」


「嗅ぐか! ざけんな。いいから、脱ーげ!」

 

 くすくすやってるオバサン(ジェシカ)は置いておいて、皆の履物を預かって例の術を使う。


「『防液性の膜(リキッドプルーフ)』。これで多少の泥や湿気は完全にシャットアウトだ。不快感は幾分軽減できるだろう」


「おぉ~。ついでに消臭までしてくれちゃうとイイカンジじゃん?」


「お前ねぇ……まあいい。『消臭の霧ディオドライジング・フォッグ』、済んだぞ」


「ありがとう、素敵な旦那様っ」


「その「旦那様」のイントネーションには「ご主人様(マスター)」的成分に欠ける。却下だ」


「あら、冷たい」


「るせぇ、言ってろ。他に防水して欲しい物があったら言ってくれ」


「全身。って言いたいけどガマンする。う~~。湿気は苦手だよ」


 のわりに、風呂には入るんだよねこの猫さん、いや虎か。

 変な感慨にふけっていると、真剣な表情でロミィがトンファーを差し出してくる。


「マスタぁ、これは湿っても大丈夫ですか」


 うん、可愛い。

 額に汗で張り付いた金の髪をかき上げて整えてやりながら言う。


「ああ大丈夫だよ。材質的にも木みたいに弱くはなさそうだし」


「はい。だったら、これだけお願いします」


 そういって差し出してきたのは、ラッチングホルスターの代わりにしているストールだ。強度的には魔力付与がなされているので問題ないが、汚れるのを嫌ったかな。

 俺は、その小さな願い事を叶えてやる。


「ありがとうございます、マスタぁ」


 大事そうに抱えて再度身に付ける。そしてトンファーをマウントする手つきを見るに慣れてきた感じである。

 俺はロミィの金色を再度一撫でして皆に声をかける。


「さて、行こうか。ここまで来れば近隣の集落もかなり減る。出会う人間は全て要注意で頼む」


「「了解」」

「は~い」


 実際に湿った街道(ウェットパス)を歩き始めて約二時間。

 感想としては湿った感じと、南国の高い気温は気になるが、意外と南側からの弱い潮風もあり、倒れそうになるほど暑くも無い。暑さの耐性に不安のあるロミィやジェシカをみても、身分が優れないって事は無さそうだ。

 リナは変わらず不快気ではあるが、体力的には何の問題も無い様子。

 

 平穏に馬の歩みを進めていると突如、ロミィが険のある声を上げた。

 ……こいつは……。


「何か、来ます」


「うん、二時時の方向。風に乗ってと水音と獣臭。距離不明」


「了解」


 リナが応じと共に抜刀した。


 俺はみんなが臨戦態勢に入る中、借りて来た二頭馬を近くの灌木に括る作業に入る。


 てか、なんかジェシカ凄くね?

 FPSマニアとか何とかなのかな……。


 遅ればせながら俺もグロックを抜く。


「敵、多分沼狼(スワンプウルフ)。数、七!」


「ボクが前に出る。先輩はジェシカをフォロー」


「はいっ」


「ケイクン、例のアレ貸して。私、試してみる」


 おいおい。ぶっつけ本番で大丈夫か?

 一応、昨夜の事の話をする流れでアレについては伝えてはいたのだが。


「はっ、やっ、くっう!」


 仕方なく俺がマジックポーチからレミントンを取り出すと、ひったくる様に奪って行くジェシカ。驚くような怒涛の勢いをもって膝立ちで構え、即!


 スパッッ。

 

 消音機の様な効能による小さな発射音と、風を切る音。そして続く音は舌打ちの音。

 てか! 俺が誤射とか大丈夫かな? とか思う前に撃ちやがったんですが……。

 実際に撃っている感じを見ると、俺が撃つ際より幾分威力が減少している様子。しかし射撃自体は安定はしているように思えた。

 が……。


「もぉ、ケイクンの嘘吐き。なにが真っすぐよ! こんな距離だって言うのに、落ちるどころか、逆に若干跳ね(ホップす)るじゃない」


 盛大に文句を吐かれる始末。

 それより、初射撃でそんな事が判断できるとは――こりゃ俺と同じ趣味を持つ経験者の様だ。


 それでも、グダグダ言いながらも手慣れた操作で、なんかの部品をいじって再度トリガーを引いた。


 スパッッ。


 うそぉ……ん。一頭の頭が跳ね上がったように見えたんですが……。

 マジかよ、どえらく遠いぞ、百メートルやそこらで効かなくなくな~い?

 コ○ゴかよ、アンタ。


 俺じゃ、ああは行かない。

 自慢にならんがライフルはハンドガンに比べると苦手で、あんな風に扱えない。


「排莢も無いのに、ボルトアクションってイチイチ面倒よ……ねっと、いやった~二っ匹目ぇ!」


 被弾による悲鳴も聞こえない距離で狼らしきものが跳ね上がった。

 沼狼(アイツ)達、偉い勢いで走って来てるってのに――。

 的中個所が胴体とは言え、相手は俊敏に動いる、それにあの距離。

 ……それをまあ、いとも簡単に……且つ、あんなに正確に。

 リコイル操作もべらぼうに早ええし、なんなのこの人。超熟練者じゃねぇか。

 

 俺がジェシカの有様に驚いている間にも、援護射撃を利用してリナは猛烈な勢いで散開し逸れた一頭に接敵、そのまま前に立ちはだかる。

 彼女は牙を剥き襲い来る沼狼に一閃。

 一刀の元にその首を絶った。


「マスタぁ後ろです!」


 むっ?


 声に反応して振り向くとそこには人型。

 魚っぽいぬらりとした体と二メートル弱の体躯。


「図鑑で見た、魚鬼(フィスデモニ)系かっ」


 鰓呼吸なのか、水中から出てきたように思える位置から唐突に現れたそれ。

 距離、およそ十五メートル。

 唾棄! 

 こんな至近にまでっ。


 その手に武器は無し。文明性は感じん。その上、図鑑によれば魔物。容赦の必要無し。

 姿を現したのは、三匹が後方左側、反対にもう二匹の計五匹。


「ちぃっ、ロミィ!」


「大丈夫、です!」


 金色の輝く帯を引き、ロミィが跳ぶ。

 心配だが、あの状態なら俺の付与もあるし、しばらくは!


 ならば俺は目の前に集中。


「らぁっ!」

 

 パパッパァン。


 右のグロックで俺側の視線の先、二匹を始末。

 抜いた左のベレッタで残り一匹の眉間を射抜く事に成功。

 即座にロミィを見ると、既に一匹を蹴り飛ばして首を折ったらしい。

 あっちは!?


 振り返るとジェシカは石弓に切り替え、残りが射程に入るのを待っている様子。

 その奥側では更に二匹を血祭りにあげ、回り込んでジェシカに向かう奴を追うリナの姿。

 狼の進行方向――の野郎ぅ、狙いは馬かっ。

 

 ジェシカが石弓を放つ。


 ボッ!

 

 トリガーが引かれ射出の際のカチリと打ち合わさる金属音の他、想像以上の風切り音を上げて小石が飛んだ。

 涎を流しながらに襲い来る狼を冷静にぶち抜きやがった。

 上等、心配無用ってかぁ?


 もう一度振り返れば、魚鬼(フィスデモニ)が魚面から鉄砲魚の如く魚面から泥を噴出したところだった。ロミィは飛び来るそれを身を捻って難なく避ける。抜き放ったトンファーをその捻りの遠心力で振り抜いた。魚鬼(フィスデモニ)は膝を砕かれたのか、足をあらぬ方向に曲げながら崩れ落ちるのが見えた。


「ケイクン!」


 わかって……るって!

 最後の一頭。俺に食いつこうとする瞬間の狼の顎を、俺は硬質化(アダマンシェイプ)された手甲の裏拳をもって殴り飛ばした。


「ふぅ。驚かさないでよね。気付いて無いのかと、焦ったじゃん」


 ふむ。足場の悪い沼地なのに、恐ろしく早かったなコイツ(沼狼)等。

 魚人だって、近くに寄られるまで感知すらできなかったし。

 ここは本当に巡回のある街道なのか? 

 あまりにも危険度が高すぎな気がする。



 うん? 若干涙目なリナが戻ってきた。そして帰って来るなり泣き言を吐く。

 

「ううっ。びしょびしょになっちゃったよう」

 

 あぁそれは仕方がないね。水溜まりを全力疾走したんだものね。


 湿地を爆走した彼女がそう言うと、ロミィも自分の服に目をやり、しょんぼりと肩を落としてしまった。


「ロミィもです、服……汚しました」


 はは~ん。これは「怒りますか?」って顔だな。

 ならばだ。


「よくやったぞロミィ。ジェシカを守ったな」


「~~~っ。はいっ」


 よしよし。ニンマリな良いお返事を頂きましたよ。


 意外な事に、想像よりも遙かに三人の高い戦闘力を目の当たりできた。

 うん。気の抜き過ぎは良くないが、気を回し過ぎる必要も無いかもね。

 いや、ロミィはともかく一応、他の二人のステータスも確認しておくか……オン!


==============================

 名前  パウリーネ・メル・ガボン

 種族  虎人族           

 年齢  14歳

 クラス ファイター Lv13    

 備考  族長の娘

     従属 アンジェリーナ・ティクナート

 通称  黒衣の大剣導士          

 フラグメント

     先見(ガボン一族)

==============================


==============================

 名前  ジェシカ

 種族  ドゴラゴニュート(雑種)  

 年齢  11歳

 クラス アーチャー Lv6     

     レンジャー Lv2     

 備考  奴隷 主 ケイゴ・ヨネハラ 

 通称  None                      

 フラグメント

     伝わる言の葉メッセージ・トランスミテッド

     紡ぐ記憶(メモリー・スピン)

     移り行く人生フローティング・ライフ

==============================


 たははは~っと……やっぱりレベルが上がってやがる。

 どうなってんだ? リナは良いとして、ジェシカまであがってやがる。

 何にもしてないよな?

 強いて言えば『契約』ってのが思い浮かぶ。俺と契約したジェシカ。アンと契約しているリナ。まさか主人との契約で従者の能力が引き上げられる? そうとしか考えられない結果だ。

 なんにせよ、ロミィも含めてみんな街の衛兵等の一般的な兵士達より余程レベルが高い。ましてリナに至っては、最早心配何ぞするだけ無駄ってレベルだ。余程の強敵でもない限り、リナに傷をつける事すら難しい。

 

 あっと、そう言えば。


「なぁリナ、獲物の剥ぎ取りとかって……何か必要かな」


 通常の冒険者なら取っておいた方が良い物とかの判断の付かない俺は、先輩たるリナに指示を仰いだ。


「普通の冒険者として。って意味なら必要だろうね。単にギルドの依頼事項の遂行の為ならば、全く必要ない作業だよ」


「ハック・アンド・スラッシュって響きには心惹かれるけど。今回は私もパスに一票。でも、強いて言うなら沼狼の皮と肉かなあ。結構需要があるんじゃん?」


 ほほう、興味深い。ジェシカに「どんな?」と聞けば、打てば鳴る鐘ってな具合。


「沼狼の皮は水を弾く皮素材として、えっと、ケイクンにわかりやすく言うと『ワニ革』とかと同等の価値があるしぃ、お肉はそのまんま、食用じゃん?」


 く、食えんのかコイツ。雑食動物の肉って『熊肉』みたいなもの? 

 むぅ、意外と珍味さんなのかも。


「なら、ジェシカのバックパックにでも入れとくか? さっきの枝肉と一緒にさ。んで、下処理とか時間がかかるのか?」


 こいつは、愛用のポーチタイプでは無い方、アン謹製バッグ・オブ・ワンダー化した背負い袋。ファンタジーな感じに言うなら背嚢。現代風なら普通にリュクサックって奴だ。

 無限にモノが入ったりはしないが、五十平方メートル程の許容量を持つ。ついでに言えば重さは、中に入れた物の重量に関わらず、このバック分の重さしかない。なので実際の重さとはと言えば、少し大きく丈夫な素材で作られているので少々重いがそれでも一キロ程。

 かの我が主は、人の事を化物付与術の使い手と言うが、こんなものを作成できるのだから、アンだって十分チートな性能を誇っていると言える。

 つか、アンはこの大陸では右に出る者の無い最高級の魔術師って話だしね。


「そりゃね。バッグにそのまま入れたりしたら、この気候だもん腐っておしまいじゃん」


 ありゃ? 説明してなかったっけ……。


「んー、何を勘違いしているのか知らんが、このバックパックなら腐らんぞ」


「はぁ!?」


「アンが作った奴なんだがな、これなら入れたナマモノが腐らねぇーんだよ。いや~、さすがファンタジー世界だよな」

 

 実に便利でいいよね。


「ちょっと。アンタそれ、意味解って言ってる?」


「ジェシカ……ケイゴ殿とアンジェ殿の事。だぞ……」


「くっ……この主従は、揃いも揃って……」


 なしてそこまで必死に拳を握り込むデスカ?

 つか、リナまで一緒になってヒドイ評価をしてくれるじゃないの。ホワイ?


「魔法のカバンってそんなもんだろ」


「空間の時間を止めるなんて事を『そんなもん』とか言うなぁ!」


 む?


「あっ、頭悪いんじゃないのアンタ!? 腐らないんだよ? 劣化しないって事だよ? それって、このカバンの中の空間は時間が止まってるか、すっごく進みが遅いかって事じゃない。そんな事にも気が付かない訳ェ?」


 だって、初めて魔法のカバンを見せてもらった時から、それしか知らねぇモン。

 それになあ? 洋ゲーの大作なこだわり作品じゃあるまいし、RPGの取得アイテムって大抵作品では腐敗とかしねぇーし。

 

「そんなもんなんだな~って思ってた」


「あ、呆れた適当さ加減だこと……アンタ達、本当にいい主従よ……はあ~」




次回 09/11 AM 02:00を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ