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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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力ってのは

もう少し頑張ってみて、もう一話上げます。



「ガッハッハ。こんな日暮れ間際にまたやって来て。まさか、本当に連れ込みかよ」


 これまた「ええ笑顔」を店主の親父さんに貰った所で、お後が宜しい様で。

 って何度も同じネタやってる場合……。


「ちゃうわぁ!」


 こほん……こりゃ失敬失敬。

 あまりに酷い、宿屋の親父さん挨拶に思わず反応してしまった。

 うん、連れ込みでは無いのだ、セリフとしてあながち謝りでもない。よし!

 気を取り直してっと。


「あ~、今度は今夜の部屋を借りたいだ。二部屋頼む。勿論、晩飯も食いたい」


「ほっ、こりゃ呆れた。お前さん方、さっきあんなに食ったろう。それに二部屋だとぅ?

 むぅ上級者な夜がお望みってか? 若えのに『アレの癖』が偉え患ってるのぉ」


「だぁれが、病的な性癖の持主だ。他人聞きのワルイ」


「そんな事を大声で叫ぶとは(まさ)しく正真正銘(モノホン)なのか、その……羞恥に悶えるのかお前さん?」


「ざっけんなっ! アンタのメシが気に入ったんだよ。この子達も同じさ」


「ほっほ~こらまた驚いた。お前さんの様な家柄の良さげっぽい若様がねえ。嬉しいこと言ってくれるじゃあないか。いや、揶揄(からか)って悪かった」


 これって、冒険者の新人とか評してたくせに、実はそう思っていなかったって事なのかねえ。

 だとしたら、砕け過ぎだろ親父さん。そのうち無礼討ちになったりするなよ……。

 俺が親父さんの事を心配する最中、リナが横合いからずずいと前に出た。


「ああ、ケイゴ殿の言う通りだ。店主殿の肉の煮込みは格別だった。また何かオススメを頂きたい」


 どうやら俺を押しのけてまで伝えたかったのはこれらしい。

 本当に食いしん坊キャラが板についてきたな姫様?


「ミルクと果実のミックスジュースも美味しかった」


「羊の串焼きも美味しかったです」


 お前らもか……うん、まあ美味かったけどさ。


「ガーーッハッハ! そうかそうか。なら今度は別の旨いモンださねえとな、おいお前!」


「まぁたやってんのかいアンタ! って……あらあら、なんだい。また亭主がくっちゃべってると思ったら。お早いお越しだね」


 奥からエプロンを叩きつけながらにドスドスとばかりにやってきた女将さんは、俺達の姿を目にして一転、相好を崩した。


「女将さん。昼間はどうもでした。実は、今夜お世話になろうと思いましてね」


「ああ、そうなのかい。ならさっきの部屋でいいかい」


「ああ問題ないよ。けど俺の分、もう一部屋頼みたいんだけど。空いてるかな」


「大丈夫さ、空いてるよ。大歓迎さ。ところで……」


「なんです?」


 ちょいちょいと手招きで女将さんが呼ぶので、何かと寄ってみる。

 すると内緒話がしたいのか耳打ちの仕草。ふむ?


「もう一部屋だなんて、さてはスワローテイルの娘でも呼ぶのかい?」


 てな事を耳元でヒソリと言った。

 はて、燕の尻尾? なんじゃらほいでっしゃろか。

 

「スワロー……なんです、それ」


「あらヤだよう、店の名前を知らないんだね。ほら、ブレンダン地区のヒッグス通りにある、あの有名な高級娼館だよう」


 口元に手を当て、まるで井戸端会議の奥様方の内緒話な仕草で言う女将さん。


 まてまて。娼館んっ……なんでそうなる!?

 するってと何か? 

 俺がこの娘達をほっぽり出して、別の部屋でお商売なお姉さんとくんぐほぐれつ?

 ナイナイ! アリエナイ。

 何故だ、何故そう思うのか。変か、なんにか変なのか? 

 俺とこの娘達が別の部屋ってのは、そんなに変な事なのか!?


「な、なんでそう思う」


「女たちを遠ざけるからさ」


「トンデモナイ。アリエナイ。チガウ、誤解デス」


 即座に否定。ぶんぶんに首と手を高速で振る不審者様の登場である。


 そんな俺を見てさらに困惑気に歪む女将さんが続けて聞いてきた。


「じゃあワケありかい? 怒らせでもしちまったのかい」


 はい?


 キョトンとした俺を見て、口元を抑えた女将さん。


「あら。これも違ったかい? いやね、虎人の娘さんがちょいと沈んで見えたからねえ。それに他の二人はアンタの(しもべ)か使用人なんだろう。それを二人とも預けちまって別の部屋だなんていうから、あたしゃてっきり御楽しみかと、それか喧嘩でもしちまったのかと思ってさあ」


 いやはや、目端の利く女将さんだとは思ったが……凄いね接客業のスペシャリスト。


 でもまぁ、気を使ってくれただけか。

 ってかやっぱ、奴隷や使用人は手元に置くのがアタリマエって事なんだな。

 ん、ちょっと気をつけなきゃだな。


「リナ。あの虎人族の娘さんは俺の友人でね、子供達はあれで手練れなんです」


「ああ『護衛』なのかい。へえ、ちいさいのに凄いんだね」


 嘘も方便。

 いや、そこいらのゴロツキにどうこうできないって点では嘘でも無いか。


「じゃあアンタのほうは一人でも大丈夫なのかい」


「ご心配なく。店に面倒を掛けるつもりはないよ」


「それを聞いて安心したよう。ようこそ『ひよこ亭』へ。ゆっくりして行きな」


「ああ、一晩お世話になる。女将さん」


「ふふふっ。一晩の『お世話』は、あたしでいいのかねえ」


「お、女将さん!?」


「アハッハ。亭主が絡むのも無理のない子だよお。そんな時ここいらではね『世話になる』より『厄介になる』って言いな。そんな言い方、この下町じゃあ口説き文句になっちまうよう」


 おっとっと。


「……勉強になります」


「そうだ、今回は湯は要らないんだろ。まだ日があるし共同浴場なんだろう?」


「共同浴場? もしかして湯に浸かれたりするのかな」


「ああ、この街は初めてだったんだっけね。――ああそうさ。この街じゃ、水には困らないし湯を沸かす為の魔術使いにも困らないからねえ、公営の浴場があるんだよ」


「ほへ~。そいつは面白そうだ。うん、早速荷物を置いたら行ってみるよ」


「場所は通りに出れば案内板があるから判るだろうけど、手書きで良けりゃ地図でも書こうかい」


「いいね、頼めるかな」

 

 風呂、ふむ風呂ねぇ。

 今夜はちょいとゆっくり出来そうだ。


 俺達は案内された部屋に殆ど無い手荷物を降ろす事にした。

 



「よう、そっちの部屋はどうだジェシカ」


「どうだも何も、昼間に借りた部屋じゃん?」


「でなくてだ。三人で狭くはないのか」


「あ~それは全然大丈夫かな、それよりケイクン……キミの方の部屋も同じ間取りなら少し寂しくない。良かったらお姉さんが一緒してあげても、いいじゃん?」


 まあたそんなイイ顔をするんだから。

 本当に勘弁してほしい。折角の西洋美少女な表っ面が台無しだよ。


「よーせってば。そんなに純情で無垢な少年を虐めて楽しいか?」


「無垢ぅ?」


「少なくとも、(アレ)的な意味では無垢ですから」


「ふうん。そういう事にしとく」


「助かるよ……で、冗談はさて置き、ちょっと時間が欲しい、数分もあれば用を済ませるから下でみんなでジュースでも飲んで待っててくれないか。あと貴重品や宿に置いておくには問題のありそうなものは俺が預かるから纏めてておいてくれるよう伝えて欲しい」


「数分で済むの?」


 下品なっ! 嬉しそうに握り拳を縦にブンブン振り回すんじゃありませんっ。


「――そろそろ本っ気で怒るぞ?」


「ニヒヒッ。ゴメンナサイ。話は了解じゃん、私のご主人様」


 おっと。ふむ、ウインクと共に日本語で言われると「ク」るね、なんか。

 ちびっと出された舌が見えなかったら危ない所だったな。


「ああ、じゃ後でな」



 俺は部屋に入り不思議な鞄バッグ・オブ・ワンダー化したポーチから、購入……と言うか「与えられた」だな、魔巻物(スクロール)を全て取り出し、それらをベッドの上に並べる。


 そもそも俺には魔法を覚える事が困難だ、呪文を唱えても発動自体しない事も多い。第一、魔術師見習いとして一から勉強して覚えるなんて余裕も無い。

 解かってる、チートな力で新たに魔法を身に着けたとしても、それは付け焼と呼ぶモノだという事を。

 分かってる、そんな身に着け方をしても、効果的な運用を知らずして効果的な結果を得ることは出来ないであろう事を……その位の分別ははある。

 だが、俺には力が必要だ。


 世界の異分子であるこの俺が、力を得て好き勝手して良い訳が無い事も知ってる。


 認識()っている、理解(わか)っている。だけど俺は守りたい。


 俺は、日に日に増えてゆく守りたいものを全て守りたい。

 全ては無理だと承知(ワカ)っていてもだ。


 そしてその上で、俺の力は誰にも利用させはしない。


 自己満足上等、邪魔する奴は全て薙ぎ倒す。


 俺は……俺だ。俺であり続けるべきなのだ。


 だから俺はには力が必要(いる)


 そう在り続けるためにも。


次回 08/14 AM 07:00を予定しております。


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