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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~一章 守護者の召喚~
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サイドメニュー:「ある村の畑での出来事」

10万字突破記念+ブクマ2桁突破記念の自慰です。

~ある農村の畑~


 女性には心残りがあった。

 己が16の時に産んだ子供が、孫を見せてくれない事だ。

 村一番の力持ちとの間に生まれた娘は既に18歳。

 孫が居ても何ら不思議はない。器量は悪くは無いと親の贔屓目で思ってしまうが、事実、孫は居ない。

 そんな心残り。

 

 女性はこれからの、悲惨で短い残りの人生を模索。

 打たれ、複数のオスに犯され。望まぬ子を為し、死んでゆく未来。

 死ぬまではあと十年とちょっとはあると思っていたが、長くても一年だろう未来。


 せめて、自分の娘が被害に遇わぬよう願っていた。

 あの、十年ほど前に移住した小さな村。神様、どうかご加護を。守ってください。

 すでに旦那を亡くしていた女性には、祈る対象は神しか居なかった。

 目の前の魔物が村を襲いませんように。そう祈るだけ。


 魔物の名前は『ゴブリン』雑食で繁殖力の強い魔物。

 同種でも異種でもメスは蹂躙する魔物。

 人族の女性にとってはオークに並ぶ最悪の魔物。

 これに襲われる位なら、いっそ奴隷の方がまだましだ。と、そんな風に思う女性は数多く居るだろう。


 そんな魔物が、冬も近い農村の畑に三体。魔物が食料を漁るには向かない季節。

 農閑期の最後の一仕事に来た彼女は、そんな稀にしかない事態。冬の畑を荒らすゴブリンを目の前にし、即座に転進し村へ駆け込んだ。

 いや、そうは為らなかった。

 大きな悲鳴を上げ転進する際に足を捻ったのだ。

 地に伏し、倒れ込んでしまった。足はじくじくとした痛み。即座に村に帰り連絡しようとしたのに。

 村の男衆に頼れば、退治出来たかもしれないのに。

 

 彼女は倒れたが、魔物は周到だった。逃がさないよう石を投げつけたのだ。

 拳ほどもある石は女性の腕や、肩、そしてまだ痛めていなかった反対の足にも当った。


 先にあげた大きな悲鳴は無くなり、人生を悲観する小さな呻きだけとなった。

 もう逃げる事も出来ない。 


 ウォウォッ。

 ウォオーーーッ!


 人族の背丈から見れば比較的小さな個体でしかないゴブリン。倒れている女性と比較しても、女性の胸元までしかない様な矮小な体躯。

 しかし凶暴性は比較になりはしない。盗賊の人攫い方が生き残れる可能性もあっただろう。

 あの矮小な魔物は、怪我をしていても逃げ切れる、と楽観できる様な者では無かった。

 魔物の数は見えるだけでも三体。もっと居るかもしれない絶望感。


 その内の一体が手にしている得物は手斧。枝打ち用の伐採斧だろうか。誰かが近くの林にでも置き忘れた様な、錆びた手斧。錆が醜悪さと恐怖を冗長させていた。


 その一体は、彼女の目の前で鼻を鳴らし女性としての匂いを嗅ぐ。

 魔物は相手がメスであることを匂いで判断し歓喜。喜んでいるであろう魔物が邪悪な笑みを浮かべた様に彼女には見えた。

 

 仲間を遠吠えのような叫びで呼び寄せる。

 あぁ、せめてあの斧が今すぐ自分の頭に落ちてくればいいのに。

 そんな事を思ってしまう。


 祈りはすれど、覚悟なんて出来る筈もなく、震える体を痛めた腕で抱え込む。

 嫌悪感が胸に上がり、臓腑を震わせ嘔吐感が込み上げる。

 咽かえるような魔物の悪臭が、更にそれを加速させていた。


 更に打たれる! 動けなくなるまで、気を失うまで打たれるに違いない。

 彼女の目が極限と思われるまで恐怖によって見開かれたその時、それは起った。


 ギュゲ


 そんな声とも打撃音とも判別できない音が彼女の耳朶を叩いた。

 女性の傍らには、漆黒の色に染め上がったズボン。

 同色の頭髪を持つ男性が、あの音が鳴る前に風と共に現れた。


 上げられた片足からすると。男性と思しき人物は魔物を蹴ったらしい。

 らしい、としか彼女には思えなかった。


 何故なら、魔物は遥か十数メートルは先に飛んで地面落ちたからだ。

 悲鳴のようなあの音と共に聞いた音は、恐らく破砕の音。

 魔物の全身の骨や肉を砕いた音と感じた。そんな訳は無いのに。


「ありゃ? 異常に脆いなゴブリンって」


 トーンの高い声がした。まだ若いらしい。

 彼女は飛び去った魔物を一瞥し、すぐさま視線をめぐらせ、ズボンの先にある顔を見上げると陽光で見えなかった。


「大丈夫かい、おば、いや、お姉さん。怪我してるみたいだけど」


「あ、あの……」


 声をかけよう。彼女は行動に移したが、二の句が継げなかった。

 残りの魔物が、仲間を失い逆上、襲い掛かってくるのが見えたからだ。


「すぐ終わる、待っててね」


 深い紫のライン。光だ。魔力の光が男の全身から迸った。

 その直後『パパァーン』と高い音が鳴った。

 音源は男性がいつの間にか、抜き放ったカギ状の魔法の杖。彼女にはそう見えた。

 魔法の杖は小さな魔力の光を放った後、破裂したような音を響かせたのだ。


「的中。残敵……ナシっと」


 男性はそう言った。

 まさか? 首を魔物が二対居たであろう方に向けた。

 驚きだった、ピクピクとは蠢いてはいるものの、あれは死にゆくものだと彼女はすぐさま察知出来た。野ウサギを絞めると、すこし動くことがある。あの動きだ。


「立てそうもないね、お姉さん。抱っこの許可くれる?」

「え、あっ、はい。 え?」


 確かに足をくじき、反対の足は投石により血が流れていた。

 しかし、痛みはするものの折れてはいない。無理を推せば歩けないでもなかった。

 

「お、軽っ」


 そんな訳が無い。太っても居ないが、抱き上げて軽いと言われる程に痩せてもない。そんな自分を、やっと見えた若い男性、いや、少年がそんな事を言った。

 尋常では無い力強さ。そんな力に若い頃、旦那に抱き上げられた様に横抱きにされた。

 お姫様抱っこだ。

 年甲斐もなく、赤くなる頬。思わず顔を覆いたくなり手を伸ばそうとした。


「いたっ!」


 思い出せば、腕も怪我をしていたのだ。


「無理しないで。村まではすぐ其処だしちょっと我慢して」


 歩けます。という言葉が出ない。


「知らない男に抱かれる不快感は勘弁してね。背負っても良いけど、お姉さん意外と立派なのあるし、背中が幸せ過ぎて俺が死んじゃうからさ」


 少年が、はにかむ様にそう言うのを聞き、更に赤面は加速した。

 小さくコクコクと頷くしかできなかったのだ。


「俺は、そこの魔女の塔の……見習いみたいな者だよ、一応自分では怪しくないと思ってるから、ほんのちょっとの間、お姉さんを抱っこさせて下さい」


 もう一度、声も無く頷くしかできなかった。


 領主様のお弟子様が御救い下さった。 


 ああ神様、夢ならどうか冷まさないでください。

 悲惨な未来を覚悟した直後に、こんな幸せな気分は『夢』に違いないのだと。

 彼女はそう感じた。


 どうか、村に帰った時に娘に見られませんように。

 彼女は先程とは別の事を神に祈った。



SSとかて邪魔な方、ごめんなさい。やってみたかったんです。

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