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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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錬金術師のコレクション②

後編です


「喧嘩を売りたいらしいな小僧! そんなもん……そんな、もん……ば、馬鹿なあ!?」


「もう、父さん。幾ら昼間でも大声出し過ぎよっ」


「むぅうっ……確かにこれは大声で話せることじゃねえ……」


「父さん?」


 お、察しが良い。それに流石の目利き、やはり見抜くのが早え。

 おっさんがその怪訝に顰めた顔を俺に向けてくる。

 そして、そんな趣味は無いと言うのに頭をひっつかまれて胸元に寄せられた。


「小僧お前……一体(いってぇ)何しやがった……」


「何も……ただ、俺も付与術師(エンチャンター)なけだ。ちとばかし変だけどな」


 キツイ加齢臭かがせんじゃねぇーっての。


「とぼけんな『変』で済ませられる事か。これがっ!」


 怒気と裏腹な小声ってのは冷静ではあるが苛立ちも同居するってか?

 俺は腕を振り払い言い捨てる。


「済ませろよ。話せるわけがないって……アンタならわかるだろう」


「ふん! 違いない。こんなことが知れりゃ一大事だ」


「なら、目利きの時間だ。そいつで幾らになる」


 腕を組みながらしばし唸るゲルトのおっさん。そして思い付いたように一本の剣を手に取った。それは陽の光を浴びギラリと刀身を輝かせている様に見える。先ほどのナマクラとは異り正しく見事な一振りだと俺は感じた。


「なあ虎のお嬢ちゃん。儂がコイツで受けるからよう、ソイツで儂の剣に打ち込んじゃあくれねえか」


『良いのか』と問うリナの困惑した視線、対して肩を竦めただけの俺。

 無言を肯定と取ったリナは俺が付与した剣を構えた。


「行きます……いぃやっ!」


 彼の大剣の時の如く両手で持ち大上段から鋭い打ち込み、耳奥に響く金属同士の打ち合わさる音、そして両断されるゲルトのおっさんの剣。最初から予想していたらしい、上手く身をかわしておっさんは無事だった。


「――っ!?」


「ふん……思った以上だ。感動を通り越して馬鹿げてやがる」


 斬ったリナ本人は己の手の内にある剣と落ちた剣をマジマジと見比べている、驚愕に満ちた表情から察するに一刀両断とまではいかないと思っていた様子かな。

 やはり『鋭利化』の術の効果はとてつもない、相手がただの鉄剣ならこうなるのか。

 実に魔術の影響度が高い。ナマクラと見えたただの鉄剣がこうにも変化するのだから。


破鎧剣アーマー・ブレイカブル・ソードの類……少なく見積もって三百ってトコだな。上は……見れば際限が無いだろう。どんな剣士だろうが好事家だろうが、種族と職種を問う事も無く、誰もが欲する品だ。癖が無いのも利点だ」


「は? おいおい大げさなおっさんだ――蜥蜴を見てドラゴンだって叫び出しそうだぜ」


 柳眉を上げ俺を見据えるゲルトのおっさん。

 俺はそんなにおかしい事を言ったか?


「気が付いていなかったか、どうやら錬金術のほうはからきしらしいな小僧……この折れた――いや斬れちまったのはな、弱いながらも紛れも無く魔力を帯びてる。しかも隕鉄を鍛えて造られた剣だ。こんなバカげた切れ味の逸品は、一般人なら『(ホーリィ)』とか大仰な名をつけてこの剣を呼ぶだろうよ。こいつは第四階梯って所だろうな」


 そんな風に言いつつ、おっさんは呆れた素振りで折れてしまってた片方を地面に投げ捨てた。辺りにある木箱に無造作に腰かけたと思えば、懐から出したパイプを咥えた。


 第四階梯ねえ――。


 アンの話や文献によると、この階梯ってのは一階梯や二階梯ならそれほど珍しくも無いらしい。ダンジョンに籠ったりすればそのうちお目に掛かれるだろうし、オークションにも出回るとの事。RPGな思考で物を捉えるなら+1とか+2って事だろう。だがこれ以上にとなれば話が変わる。金銭的な入手難度で言えば二階梯までなら個人で手が出るが、第三階梯となると余程の大商家か伯爵家クラスでもないと無理だと……。

 俺の片手間の結果は金貨三百枚。銀貨一枚はおよそ一万円程、十枚で金貨と等価。

 ……さんぜんまんえん!?


「けっ。何を馬鹿面ぁ晒してやがる、儂が見誤っとると? ふん! 逆だな、過小評価をしているくらいだ。いいだろう……全部くれてやる。コイツが頂けるのならな。オマケも付けてやる」


 葉たっぷり詰めたパイプに火を点け、煙をくゆらせながらにそう言った。

 そして『どれ』と発したかと思えば、魔法の商材箱(インベントリボックス)を足元に引き寄せて中身を漁りだした。

 

「もってけ。お前さんが何故魔巻物(スクロール)を探しているのかは解った(・・・)つもりだ。だから儂が今見繕った」


 投げて寄越されたのは三本の魔巻物(スクロール)


「一つは『蛇の知覚センス・オブ・スネイク』もう一つは『暗闇の看破ブラウズ・ザ・ダークネス』効果はわかるな?」


「あ、ああ、想像はつくよ。でもなんでまた」


「お前に必要だからだ。お嬢ちゃん達は種族特性がある、お前には無い。状況次第ではお前が一番足手まといになる。そのくらいも理解できんか小僧」


「いや、そうじゃなくて」


「ああ、あった。最後にこれだ『一夜の幻影ワンナイト・ファンダムズ』こいつは手の平でなぞった個所に思い描いた幻影を貼る術だ。逆式で発動させれば、貼られた幻術を除くこともできる。幻影の効果は七時間。

 使い方はお前次第、あとは勝手に慣れろ」


「だから、あのな?」


「まだ足りんか、ふん、がめついとは言わん。確かな価値がその剣にはあるからな」


「違うつーの!」

 

 聞けよおっさんっ。


「俺が言いたいのは、なんでそこまでしてくれるのかって話だ。等価交換でないと錬金術師としての矜持が許さないからか? ならイラネェお世話だ。ソイツを引っ込めろよ」


「……はぁ……『赤』の奴はお前に何も言われなかったのか小僧。なんで儂の目の前で、こんなゲスな場で……お前のそのソレ()を使いやがった」


「あん? あんたが信用できると思ったからに決まってんだろ」


「馬鹿野郎っ! テメェの儂への見解がどうあれ、やっちゃならねえ事だってぐらい、わかっていただろう、解かってテメェはやりやがった。一体何故だっ!」


「……気に入っちまったからかな。

 あんたの作品と、作品を俺に見せる時のあんたを……」


「……っ」


「見せたかったんだ。俺に何ができるかを知って欲しかった、あんたに。

 それと、あんたの作品が気に入ったってのが大きい。俺には使える。俺が使いこなして見せる。あんたとは違う、俺なりの使い方で」


「馬鹿め……」


「俺の質問に対する回答をまだ、貰っちゃいねぇんだが?」


「ふん……お前は、お前自身を守らなきゃならんからに決まってる。出来れば儂自らの手でどこかに監禁して、しまいこんじまいたいくらいだ。

 お前のそれは、それ程に在っちゃならん力だって事よ。だがな儂にはおそらくお前さんを『どうこう』できる力は無い。

 それ位の目は持っとる心算だからな……ならば儂の手で……チッ、口が滑った。忘れろ」


 唾棄。そして唐突に胸ぐらをつかまれた。


「おいっ」

 

 咄嗟に振り払おうとした瞬間、おっさんの目が見えた……マジだった。

 俺はされるがままにして聞くことにした。


「いいかテメェ、絶対に誰の手にも落ちるんじゃあないぞ。あと、人目のある街中では付与の術はもちろん、できるだけ他の術も使うな! 見る奴が見ればお前のその身に着けているアーティファクトですら隠し切れん馬鹿げた力はすぐにわかる。いいな?」


 こくりと頷く。目から視線は離さない。

 それが俺に出来るせめてもの誠意の示し方だと思ったから。


 俺を解放したゲルトのおっさんを見る。そして周りを見渡す。

 普通に行き過ぎる人々。これだけ騒いでいるのに仲間達意外には注目の一つもない。

 やはり……いつの間にか静寂空間(サイレントフィールド)が展開されている。


 こいつは高度な術だ、対象と領域を両方指定する。対象が出す音は指定対象以外の者には絶対に聞こえない。しかしエリア内で発生するその他の音は聞こえるって言う、他者に違和感が最も少ない遮音魔術。


 故に今の一連の会話は、近隣の商人や道行く誰にも聞かれていない。

 この人は本当に冷静に、そして過不足無く俺を評価したに違いない。

 で、結論がこうなったわけだ。

 俺は自覚する。何を? この人の信頼に応える必要が出来た事をだ。


「お前のそれを知るのは他に誰が居る。今まで幾つ捌いた。答えろ」


「俺の主と主の仲間(パーティ)。あとはグレアスの領主ニコラス・キャプラ・ベルフ男爵それだけだ。捌いたのは五つ、どれも俺が作ったとはわからない様に出所の話はしていないか、創作話をでっちあげた」


「主とは『(ルージュ)』のやつだな、その仲間(パーティ)とくれば戦斧王達か。ならばひとまず安心か。グレアスの領主は過大な野心を持つ様な男ではないと聞く。ふん、人選はしてるようだな小僧、今後も絶対に軽々に話さず、人目に付くところでは使うな」


「わかっている――が、絶対に『使うな』とは言わないんだな」


「言えるかよ。お前には必要な力なのだろう……認めたくはないがお前は儂と同じタイプだ、それに儂などよりは余程将来性がある。故にひとつ助言を贈る」


 助言? はて、おっさん俺の事を気に入って無いように思えたのだが。

 思ったことが表に出るってのは俺の欠点だ。今回もそれが出たらしい、方眉を上げておっさんが言う。


「気に入らんか、俺もお前が気に入らねえ。が恐らくこれは同族嫌悪だ。まあ聞いてけ」


「拝聴するよ」


「儂等の様な付与術師(エンチャンター)錬金術師(アルケミスト)はおおよそ戦闘力と呼べるもんは無い。だから一事が万事、事前に準備する事こそが寛容なのだと知れ。

 そのためには学べ。

 調べろ。

 策を練れ。

 足りなさを補う(すべ)として、我等の(じゅつ)はあるのだ。

 勝つ見込みが無ければ探せ。

 探してなければ作れ。

 作る方法が無ければまた方法を探せ。

 勝つための道具を探し、見つけて、勝ち目を付与しろ。

 それが儂等の戦闘方法(いきかた)だ」


 染み込む。染み込んで、染みわたり、次第に馴染む。

 経験と苦労の結晶、長年の努力の蓄積。そんな言葉。

 俺は気が付かないうちに片膝を付き頭を垂れていた。

 続けて紡ぐ言葉はこれしかない。

 

「御教示、感謝します師ゲルトよ(マァスタ・ゲルト)


 ゲルトのおっさんの事だ、今のは講義でも使わない類の金言(セリフ)なのだろう。

 教えを乞うても貰えず、請うてもその教えの許しすら出る事無く、聞く事も叶わぬ。

 そんな言葉なのだろう。

 それを貰った、俺は幸運にもヒント(教示)を得たのだ。

 あとは俺次第。

 いつだってそうだ。

 俺は前に進む言葉を与えて貰える。

 これこそ俺に宿った天啓(チート)だ。


「ふん! (そいつ)はやめろケイゴ。儂は儂、お前はお前だ。

 お前は、お前の(すべ)とその(わざ)の使い方を学べ。その師はお前自身だ」


「ああ、理解(わか)った」


 俺はこの僥倖で得た食材たちを捌き、噛みしめ、消化し、今後に生かせるのだろうか。

 豚に真珠と言われたく無きゃって声がどこからか聞こえてきそうだ……なあ親父。


次回 08/07 AM 02:00を予定しております。

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