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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
107/157

場末の錬金術師

き、切る場所が無かった……ちびっと長めです

7/19 

一部ばっさり無くして 語りを少々変更しました。

ストーリーに変更は御座いません。



 いや~美味かった! 実に旨かったし、上手かった。


 特にパッションフルーツで煮込んだって言う赤身肉が絶品だった。

 なんせ、そう! 長粒種(インディカ米)とは言え炊いた米まで付いていたのだ。YES!

 その米はバターライスっぽく軽く炒めてあって、平皿にその煮込み肉と一緒にプレートで出て来たんだが、肉に絡みつく煮汁と米とが絡まり合って相まって、口に入れると……。

 くぅ~! 思い出しただけでも涎が出そうだ。

 ザ・反芻。


 とにかく旨かった。

 他も食ったが、羊肉の焼き物が超旨かった。あえてラムではなくマトンで、歯ごたえも食べ応えも抜群でさ~、サラダも口をサッパリさせてくれる酸味の効いたドレッシングが格別で、何かのテールスープも濃厚な旨味がギュットしてて――。

 か~ぁ全部旨かった。

 

 超大当たりなあの店、他の三人も三様にかなり気に入った様子だ。

 特にジェシカはあのプレートを見た時は『ふぉ~』とか目をまん丸にして叫んでたしな。うん、アンやベリも連れてきたい店だ。飯だけでも歓迎って女将さんも言ってたし、また来よう。是非、来よう!


 

 再び午後は、門外街に出てあの道具屋通りに向かって情報収集を再開だ。

 湯を使わせてもらってニオイも取れたし着替えも完了、腹も満たされて気力十分。


 なのになんで聞こえるかな……悲鳴。


 門をくぐって闇市に向かう道中で聞こえたその声。

 ……感じは「やはり」と言うか、またもや女性。

 どうやら耳の良い三人娘にも聞こえたらしい。

 全員、目が険しい。


「マスタぁ」


 はぁ。だよね。行くよね。聞えちゃったもんね。

 微笑ましそうにロミィを見るリナ。肩を竦めて『しょうがないじゃん』って顔のジェシカ。よし、異論はないみたいだ。


「また路地だけど声は近い、変な所に連れて行かれる前にケリを付ける……行くぞ」


『了解っ』





 再び薄暗い路地を行く。走った距離は極僅か。


「嫌っ、痛っ、うぐっ!」


 ちっ、昼間っから全く……。あんまり女性陣に見せたいものではない感じの雰囲気。

 声が少し大きく聞こえる……近いな、急ぐか。

 魔力を廻らせ身体魔術をオンにしようと思った瞬間、リナとロミィの速度が上がる。

 ちっ、ジェシカには絶対付いて行けない様な速度。

 ここは俺がジェシカに合わせるしかねぇ。


「へっ、金目のモン持って一人でこんなところ歩くからよぅ!」


「か、返し、えぶっ」


 声が明確に聞える。かなり近い、が、裏か!?

 ちぃ、面倒だ!!


「ちょっとぉ!? うひゃぁっ」


 オン! 俺は走りながらジェシカを脇に抱え上げた。最初からこうしてりゃよかった。

 壁を蹴り通路を形成している建物の屋根へと三角飛びの要領で駆け上がる。屋根の上ならジェシカも安全だしね。


「この狼藉者めっ、その女性から離れろ」


 上から見降ろせば、どえらいシーンだった。


 指を男三名にビシリと突き差し、フードを降ろしたリナがその狼藉者と思しき男達に啖呵を切った瞬間だった。

 同時にいつもの訓練の際のマックススピード近いロミィが、壁際に倒れている女性の前に立ち塞がり助けに入ったのも見えた。


「ジェシカはここで援護待機。なるべくなら見つかるな」


 例の石弓を投げてジェシカに寄越しながらに言った。

 その間にも下では「劇」が続いている。


「なんぁだ?」


砂糖菓子(ぼたもち)の登場」


「うめぇ事いうなオマエ」


 三人の内どいつがリーダーとかは無い感じ。ただのゴロツキだな。

 ぽんぽんと手で弄ぶ革袋から金属音。女性の財布だろう、結構入ってそうな音だ。

 他にも女性の荷物と思われる物が地面に散乱している。


「痛いですか。立てますか」


 ロミィが男達を前にし背後の女性を気遣っている。

 ステータス オン!


 雑魚中の雑魚だ。盗賊と戦士、三レベル一人に一レベルが二人。

 

 あれならば二人の心配は必要なさそうだ、じゃあ俺は退路を断つべく裏側に降りるとするか。

 

「か、返えして……ううっ」


 野郎っ。汚れた頬から見るに女の顔を蹴りやがったか? 下種(ゲス)だな。

 口の中を切ったのであろう。女性は口の端から血を流れさせている。

 

 ちぃ、さっさと降りて終わらせる。


「オイコラ、チンピラ。死にたく無きゃ、その女性の物を返してさっさと失せやがれ」


 こちとら隠れなきゃならん要素が皆無。戦闘力の薄いロミィやジェシカを除く、って条件が付くのだが、ロミィは既に晒しちまった後。

 ならばここは逆に、この娘達には俺が居る、って解らせとく必要がある。

 報復とか、ド定番なド阿呆共が思い付くような真似をさせん様にせねばならん。


 奴らの背後に降り立った俺は一応の警告を出した訳だが……正直、テレビの見過ぎな台詞だとも思う。

 がしかし、こんな時って他に何を言えばいいってのよ。


「身なりがちょっと良い。草餅も追加だな」


「ちげぇねぇ」


 むっ? この格好でも、まだダメか。

 そこらの冒険者達を真似て買った、麻のシャツを着てるってのに……。

 っとイケネ。


「リナ」


 ここは俺に任せて下がってろ。ってな感じで中二病全開な台詞を吐こうとしたらだ。


「駄目っ、ボクと先輩でやる。ケイゴ殿がヤると、この人たち全員死んじゃうから」


 撃たなきゃ死なんとは思うのだが、ウインクの一つもない、あんな真面目な顔でそんなこと言われると応じざるを得ん。


「了解、お手柔らかにな。ロミィはダーメ、その女性(ヒト)を守れ」


 それを聞いた男たちはゲラゲラと笑った。

 そして笑うと同時に腰に差してあるナイフや小剣を抜く。


「抜きました」


「グズめっ」


 リナの行動は早かった、男たちが抜いたその瞬間飛び込んだ。鈍色が閃いたと思えばそのうち一人のナイフを持った指を切断。そして離脱。

 一方でロミィは金色に目を輝かせながら目の前に居たエセインテリの股間を掠める様に殴る、殴る、殴る! 三連打撃。うわぁ……悶絶する暇もねぇな。

 速攻を貰った男は白目をむいて裏返った。口角には泡付。


 ったく、ロミィは駄目だって言ったのに。いやはや強いのは知ってるけどさ……ねえ?

 けど、攻撃は最大の防御って言葉もあるか。それに専守防衛を指示しなかった訳で。

 う~む、ただ叱るのは駄目だな、ちゃんと言って聞かせなきゃかな。


「へ? な、なにが起こって。ひぃ」


 容赦のない己の身内の行動に若干の『ヒキ』を感じたが、やってる事は俺も変わらんと自分に言い聞かせて台詞を吐く。そう、後から思えばこれは『セリフ』だわ。


「抜いたな? 抜いたって事は死ぬ覚悟ができた時か、守る時だよなあ?

 ならお前は『前者』って事なんだろ?」


 はぁ~悶えるわ~。なんであんなこと言っちまったのかねぇ。

 ハズイなぁ。


「ゆびがぁ!!!」


 声の無い仲間と叫ぶ仲間、それそれを目の前にして混乱している男にベレッタを抜いて銃口を向ける。

 この行動を相手がどう理解するか、だなんて事は俺には思い付いていない。


「そいつら連れて失せろ」


 パンッ。


 男の耳を掠めさせて攻撃を受けたことは現実であることを自覚させる。

 魔力弾を受けて一部が掛け、血がしたたり落ちる耳を抑えながら再度悲鳴をあげる男。


「それとも俺達と一戦交えるか? お前たちの言う『一戦』じゃなくて命のやり取りになると思うが……どうだ?」


「戦闘にらない。それは虐待と呼ぶと思うよボク」


 虐殺とワイ内でくれるのね……。

 とまぁ、俺の心境はともかく、小剣を投げだし仲間を置いて逃げようとする男に向け、足元に更にもう一発を放つ。


 パンッ。


 ちなみにではあるが、さっきから放っているのはレベルを最小限に落とした単なる『魔力弾』(エネルギーバレット)による一撃。

 それでも当たれば、ダガー投擲や石弓でのダメージには匹敵する威力を持っている。

 足元の地面が爆ぜ、漸く男は俺が放つ魔術による攻撃だと認識した様だ。


「ひ、ひぃぃぃぃい、おた、おたすけけけけっ」


「置いてくんじゃねえよ。仲間だろ? あと女性の持ち物は置いてけってんだよ」


 ゴミ虫がっ。


 パンッ。 パンッ。 パンッ。


 一発毎に地面が抉れ、小石が飛び散る。

 

「わ、わかったよう、わかったようっ」


 男は答えると、悶絶している男に声をかけ、白目の男を担いだ。

 それでも動かないらしい悶絶男の手を、俺は止血程度にだけ癒してやる。


「行け。それとも……もう動きたくない……か?」


「はいぃぃ! おい、行くぞ。おいぃっ」


「ま、まてよ。俺の指がよぅ」


「殺されっぞ。俺は行くからなっ」



 ここはマジで治安が悪すぎる。

 全くもってこの街は、壁の内と外で治安が大違いだ。

 これでは安心して散歩すら出来ん。


「ケイクン?」


「ジェシカ。キミの思ってる事、多分当ってると思う」


「やっぱり?」


「ケイゴ殿――だしね」


 俺の思ってる事って――二人は何の話をしているのだろうか。

 二人がそろって肩を落とすようなマネをした覚えは無いのだが。


「はぁ……。いい? これ位当たり前なんだからね」


「はい?」


「街の治安が悪い、とか思ってるんなら『お生憎様』だって言ってるんじゃん?」


 なんだと?


「そりゃ一体どう言う……」


「ジェシカ嬢の言う通り、この程度普通だよ。女性が薄暗がりに一人でいる事は凄く危険なのさ。ケイゴ殿は、グレアスやアンジェ殿の治めるヘリオスと比較したんだろうけど、あちらの方が異常なんだ。どちらも領軍が精強で近隣街道も整備されてて安全だし、街の衛兵だって練度が恐ろしく高いって評判さ」


 まーじーでーか。

 考えが甘すぎた、イチゴに練乳、更にガムシロップを上乗せした位に甘かった。

 ぐぬぬ、予想外。完全に想像以上に過ぎるぞ。

 こんなのイタリアのシチ○ア島や、アメリカのブルッ○リンより酷いじゃないか。紛争地域並とかブラジルのサン○ウロの路地裏並だろうよこれ。

 あ~表現が酷いとか聞かないぞ? 俺の感想だからな。


 強盗一発即死刑、もしくは奴隷落ち、っていう物騒極まりない法律した世界なのに

 『見つから無ければ、どうと言う事は無い』

 ってレベルの価値観が横行してるって事実。脳みそついてんのかコッチの人間は。

 ちったあ、何をやればどうなる、とか考えろよ……。

 こちとら驚き過ぎて、びっくりを通り越して驚愕だわ。


「あ、あのぉ」


 おっと、助けておいて放置プレイとか我ながら酷い扱いだ。



「大丈夫……じゃないですね。じっとしてて」


 指輪に魔力を込めて痛めていそうな箇所を癒す。

 腹部とあと頬かな。肘も擦りむいてるか。

 よし。


「えっ嘘、痛くない!?」


「大丈夫そうですね、気分とかどうですか? 頭とかぶつけてないですか」


「さっき攻撃魔術を撃ってたのに、癒しの術って……そ、そんな馬鹿な……」


「もしもし?」


「しかも無詠唱、且つノータイム――それにあんなに続けて。しかも癒しだなんて……」


「もしも~し?」


「あ、済みません。平気です。あっ、有難う御座います。あ、えっとその、わ、私近くで魔道具等の露店を営んでいるゲルトの娘でミリージアって言います」

 

 うん?  おや、まてよ。ゲルト?


 ステータス オン!

 ほう、国術院の学生さんなのか。クラスはウイッチ、二レベルだ。

 年齢は二十一。

 はは~ん、道理で俺の術に反応する……って、やっべ!


 マズイな。これは不味い。

 この世界では基本的にだが、魔術師系と聖職者系は同居しないって聞いた。

 つまり、攻撃魔法を使う者は癒しの魔法が使えないってのが当たり前。

 真っ当な思考展開をすれば、俺って存在は相当な異端って事は明白。

 だからこそのこの反応。

 マズッた、けどやっちまったものは仕方がない。考えるより産むが易し!

 あれ? 案ずるより……だっけ? まあいいや。はぁドジった。



「マスタぁ」


 くいくいと袖を引っ張るロミィ。


「あ、あのぅ」


 いけね。ステータス看破は基本マジマジと見る必要がある。

 初対面の女性、しかもかなりの至近で使った今回。気が付いてみれば少々気まずい。

 そばかすがチラホラあるものの南国特有のうっすら小麦色の肌を持つ美人だ。

 見惚れたと思われても仕方ない様なこの状況……いや。

 言い訳なんぞせんのだ。ここはさらりと流すべしなのだ。


「ああ、いえ。大したけがが無くて良かった。俺はケイゴ。こっちはリナで、この子はロミィ。

 あと――あれ?」


「マスタぁ、ジェシ姉ぇ怒ってるみたいです」


 上に置いたままだったぁ!


「ちょ、ちょっと失礼っ」



 怒られた。

『忘てた挙句女の人に見惚れてるってどう言う事?』とか『女の人助ける度に色目浸かってんじゃないよ、このハゲ!』とか言われた。

 さらには『アンジェさんとベリっちに言いつけてやる』とか言うし。



~~~



「だぁから! 考え事をしてた()ったじゃないか」


「はぁ、ミリーさん美人だもんね。私達みたいにチビじゃないしさ」


 何を言うのか。大体『達』ってアンタの他は誰だよ。


「はぁ……話を聞いてたか?」


「えぇ、ケイクンが変態だってハナシでしょ。聞いてた、聞いてたよ~」


 むぅ失敬な。


「俺みたいな術者は異端であって、それについて触れて回られたら後で困るって話だ。誰が変態だ!」


「キ・ミ・だ」


 くすん。聞いてくんない。怒らせてからこっち、話が堂々巡りなのデスヨ。

 ずーっとこの調子なのだよ諸君っ。トホホでござるよ。


 ちなみにこの一連の会話は、ひっそり、こっそりと展開中。

 バ~イ、ミリージアさんの案内で親父さんの営む店までの道中、である。


「キミが変態なのは置いくとして」

 

 ようやく置いといて頂けるらしいデスヨ。


「あれよ、あれ……さっきからやってるロミィのアレはなんなワケ」


 ふむ。アレですか。あれはですね……。


「……喜びの舞……かな」


 例の頭に両掌を乗せてパタパタとやる耳のポ-ズをみてジェシカがジトっとした目を向けて来る。完全に「アンタの趣味仕込んでんじゃないってのよ」って(ツラ)だ。

 変態認定さんを全然放置されてないですよ? 寧ろ加速気味でないかい?

 まさに誤解極まる!


「違う、断じて俺じゃあないぞ……」


 ううっ。街中でやるなと言ったのにぃ。

 余程嬉しかったのかな、あれ。


 実は今はあのトンファーを背負っている。ポーチにあったロミィの防寒用ストールがあったのを思い出してホルスターの代わりにしているのだ。

 とは言え括っているだけの一時しのぎに過ぎないのだが、ロミィは気に入ったらしい。

 ちゃんとしたのを揃えてやる心算ではある。


「ロミィ、リナから離れるなよ」


「はぁい♪」


「ふふ。ロミィちゃんって凄い上に可愛いですね」


「ええ、とても。ところでお店は近いんですよね」


「はい、もう見えますよ。あっそこです、そこ――父さんっ」


 指差す方向に目を向けると、通路に溢れんばかりに敷き詰められた道具類があった。

 駆け出し声をかけるミリージアさん。無論後に続く俺達。


「うん? 今帰りかミリー。今日はちと遅かったのと違うか」


「あはは。色々あって……お客さん連れて来たよ」


 声に応じたのは初老に差し掛かったダンディな雰囲気の男性、異常なほどに片眼鏡(モノクル)が似合う彼は店番をしつつ単眼鏡を調整中って所だったようだ、その様がすげえ絵になってて格好良い。


 って単眼鏡だって!? 十六世紀にはあったらしいけど、こちらの世界は技術的にもう少し遅れていると思われる。流石魔法の世界、技術レベルがイマイチ安定しない。やはり、時代考証やらなんやらってのは、あれこれ考察しても仕方が無さそうだ。もはや、完全に何でもありと考えた方が身の為だろうな。

 しかし『それ』を扱えるってのか。この人は一旦どういう人なのだろう、単なる魔道具を扱う商人ではなさそうだ。

 

「ふん! 得体の知れない奴らを連れて来るなと、いつも言ってるだろう」


 そう言って片眼鏡(モノクル)を机がわりな樽の上に置いて立ち上がり、しげしげと俺達を眺め出した。


 見た目のダンディさとは裏腹に偉く粗野な感じだな。

 かと言って同じように応対しては失礼かとも思うし、ここは下手に出るのが吉か。


「お忙しい所失礼」


「忙しくはないがな……ふん。見た所冒険者でも無い、身綺麗すぎる。どこかの貴族の雇われ者。あるいは商家の遊興ってトコか、にしては身のこなしが良すぎる。

 得にお前さんだ、見た目は若いのに内包魔力の量が尋常じゃねえ。アンタ達一体何モンだ」


 おいおい。また『すげぇ人』って奴か?

 いきなり色々看破されたぞ、それに魔力放出を押さえる道具が役に立ってねぇ!

 ええい、名ばかりの『アーティファクト』め、実に使えん奴よ。


 明らかにこちらを警戒した様なその声に反応したのは、娘のミリージアさん。


「ヤメテ父さん。この人たちは、不埒なゴロツキ共から私を助けてくれたんだからっ」


「コラっ! またお前、近道だって変なところ通ってきやがったな? お前じゃあ危ないからやめろと言ってるだろうに……じゃあ持って来いと言つけた、あれはどうなった?」


「それも無事。この人たちが取り返してくれた」


「ほう、そいつは――。ふん、こりゃ娘の恩人に失礼したな。済まないな客人」


「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから」


「偶然な上に、手間も掛からなかったから気にするなってか? ふん! 驚きやしないな。お前さん方ならこの街のゴロツキ程度なら一個中隊でも相手できそうだ」


「いや、は、はは」


「で、何の用だ。娘に唆されて態々礼だけをを貰い来ただけとは思えんが」


「父さん、さっきから失礼よ。この人高名な方よ、きっと。なにせ無詠唱の攻撃魔術に加えて治癒術まで使えるんだから」


「――ほう」


 ちぃ、余計な情報与えないで欲しいな。

 説明の計画とか探りを入れる計画が台無しじゃないか……。

 はい、ごめんなさい、嘘つきました、計画なんてないデス。


 ステータス オン! 

 名は確かにゲルトとある、シュニッツラー・フォン・ルディアス・ゲルト、四十三歳。

 フォンは持っているが当代騎士爵って奴らしい。

 おお? こいつは驚いた。本職は錬金術師(アルケミスト)で、付与術師(エンチャンター)だとは、こらまたレアなクラスだ。他にもおまけ程度ではあるが商人(マーチャント)のクラスまで持ってら。

 備考欄を見るに商人ってのは手慰みか、どうやら本職は講師らしい、それも国術院の。


「二つ向こう通りの珍しい武器を扱う商人に、貴方の事を聞いてきました……『ゲルト』さんで宜しいですか」


「こいつは丁寧だな。普通の奴なら『お前がゲルトか』とか『ゲルトと言うのはお前で間違いないか』って誰何するもんだろうに。こんな場末で商売やってる奴に『ミスター』なんて付けるんじゃあない――皮肉を言いに来たのか小僧。それに儂は『ナニモンだ』と聞いたんだがな……さっさと名乗れ」

 

「父さん!」


「るせぇ、黙ってろ! ちっ胡散臭すぎる野郎を連れてきおったわ」


 メンドクセェ、怒らせちまったぞ。

 いや、ここでキレて感情だけぶつけていても、今までと変わらん。

 あの偉大な『盗賊』の助言を聞くのなら、己を抑えるって事を覚えないとな。


「あ、えっと俺はケイゴって言います、それから……」


「ちげぇよ馬鹿野郎っ、何処のどいつかって聞いたんだ。お前さんの名だけ聞かされて儂はどうすれば良い? 誰かに又聞かにゃあならんのか? ええ?」


 むぅ、ちとカチンと来たぞ。TPO弁えなくて済みませんでしたね! 

 あえて丁寧にする当たり俺はまだまだだって自覚はある。

 だってムカつくもんは仕方ないじゃん!


「……失礼。アン・ゼルフ男爵領ヘリオスから参りました、男爵夫人付き筆頭武官を拝命しておりますヨネハラと申します。

 お目に掛かれて光栄です、国術院特別講師 ゲルト殿」


「けっ。調べてあるんじゃあないか。それに男爵夫人付きだあ? て事はお前ぇ……赤炎の奴の従者か、するってと巷で噂の『神速』だろ小僧」


 好き好んでそんな恥ずかしい名を誰が名乗るか!

 あ~もぉ、あったまキタぞ。


 備考の称号部分にあった『これ』は注意書きがあった『忌み名』忌避したい名らしい。

 本来の名である『真名』とも呼ぶ東アジアの文化。それが意味するのは『隠したい』だろう。なら突きつけてやるってんだ、畜生。


「左様です、灰水の大賢王」


 俺は態々耳元で囁くようにその名を使った。

 大賢王つまり、この男はアンと同程度のレベルを持つ著名な錬金術士って事だ。

 尤も……トータルなレベルではアンの方が圧倒的に上だ。


「よせ! その名で呼ぶな小僧っ」


「なら俺も、ケイゴと呼んでもらいたいねゲルトさんよ。

 第一、そいつは俺が認めた名じゃねえっ」


「ふん!『名』なんてのな小僧っ、常に他者が付けるもんだ。呼ばせるかどうかはさて置いてだがなっ、まぁいい。ふん、マトモに話せるじゃあないか。それで良いんだ……ココではな。早く用件を言え」


「では簡潔に。俺達はギルドの依頼で、この街に運ばれて来る筈の輸送品の行方を追って、ある品々を探している。覚えは無いか」


「無ェ。無ぇがこの市の何処かにある事は確かだ、なんせこの目で見たからな、まて、早まるな。もう売れちまってるから行っても無ぇぞ」


 ちっ。


「妙に羽振りのいい若え連中が売りに出してやがったが、あいつ等はこの(いち)の常連じゃねえ。もっと後ろ暗い品を扱う連中を相手に品を卸しに来てる感じだ。

 ちっ、そうか……どうやら儂も被害者だ小僧」


「どういうことだ」


「仕入れた筈の品が来やせん。大体一月(ひとつき)ほど前になるが『南』からの品がまだ来てねえ。だが、帝都やもっと北からの品は大方届いている」


 そいつはオカシイだろう。ギルドの品が入らなくなってまだ三日だ。

 いくら何でも日数が離れすぎてやしないか?

 俺はおっさんの被害妄想なんぞに付き合う気は無いぞ。


「はは~ん。調子に乗ってきたって事じゃん? わっかりやすい連中だな~」


「へっ、そこの将来有望そうな使用人のお嬢ちゃんの言う通りだろう」


 いや、どやぁ? って顔されても困るんですよジェシカさん?

 教えて、教授して、てるみーわーい?

 俺の意見を促す視線を感じたのであろうジェシカが『困った子ネ』的な困惑を浮かべた。しかし敬愛するこの年上の女性は、不出来な生徒に少々レクチャーをしてくれる気になった様だ。それも非常に完結に。


「つまり、前々からやってたって事だよ。んでさ、輸送品を襲う頻度が上がってぇ、明確に品物の流通に影響が出始めて来たのがつい最近。且つギルドの商品にまで影響が出て顕在化したのが三日前って事じゃん」


 さらに、どやあ? と大きくふんぞり返る。

 不肖の弟子としては少々……いや、非常にその仕草が可愛かったので、頭を撫で繰りまわしてみる事にした。

 うむ。つやつやの髪は、手触りも最高である。


「ほっほう、頭脳は大人な有名な名探偵もビックリってヤツじゃん」


 ジェシカも丁度似た様なもんか。


「わふぅ!? ちょ、あふ、やめっ角ヤメ、あんっ」


 調子に乗ってやっていると髪が酷くくしゃくしゃになってしまった。

 先日の反省を踏まえてないって?  

 ……仕方ないだろ……可愛かったんだよ。


 アンもこれ位可愛い反応してくれたらいいのに。

 彼女の場合『どやあ?』すらない。泰然と『当たり前でしょ』って感じだからな。

 

「コントは終わりか? ふん、お嬢ちゃんが正しかろうな。潜在的に犯行があったんだろうよ。で、捕まらんモンだから勢い付いてきたって所だろう。

 注文した品が届かないなんてのは、稀ではあっても以前からある事だからな。

 そう――品薄になる位にハデにやりだしたって事だな。くっくっく」


 おっさんが笑うのもわかる。俺ですら――って奴だわ。

 度し難い馬鹿どもだ。

 だが、その馬鹿さ加減のお陰で犯行が明るみに出たって事はこの際は僥倖。

 犯人にはそろそろ年貢を納めてもらうとしよう。

 俺達の行動にも支障が出ている事だし。

 

「情報提供に感謝するよ」


「気にするな、もういのか」


「いや」


「ふん! なんだ」


「娘さんへのお願いだ。俺の事は『内密』に願いたい。ふれ回って、俺の知らないところで娘さんに手が及んでも守り切れないんでね」


「ふん! 言われんでも心得ておるわ。お前さんに関する娘の話が本当なら、高級貴族連中が黙ってはおらんだろうからな」


「恐縮です、それともう一つ」


「ふん! まだ何かあるのか、手早くしやがれ」


「まだ、商品を見せてもらってない――なんか良いのある?」


「……ぷっ……くっくっく。小僧……お前さんの目的、実はそっちか」


「無論『変わった品』を扱うと紹介されてきたんだ。興味が出ちまって仕方がない。当然ギルドの依頼もやるが、コイツは『別腹』さ」


「く~くっくっく。こりゃ傑作だ!

 良いぜ好きなだけ見てけ、どれでも一つだけくれてやる。娘の窮地を救ってくれた礼としてな」


次回 07/24 AM 02:00を予定しております。

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