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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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門前宿近辺の風景



 権力万歳。

 俺は初めて権力って奴は馬鹿にできない物だと痛感した。

 俺自身やリナもこの地での権力なんてのはカケラも無い。

 冒険者としても精々Bランク。冒険者ランクとして高い部類に上位ではあるがBランクってのは実は結構多く、ギルドのミッションを着実にこなしていれば、そのうち辿り着く。故にギルド職員からはそれなりの信用を得られるが、衛兵からの信用の度合となるとクソ程だ。

 何せ俺に至っては殆ど実績すらないしね。


「情報の提供、及び捜査へのご協力に感謝します」


 そう言う訳で駐屯兵にこのセリフを吐かれるくらいの『権力(チカラ)』なんぞ何も無い。

 無いと思っていたのだが、実は在った、いや持っていた。


『検閲無用の木札』


 こいつだ。

 この『木札』には総督たるアグーデ伯の名で執印が施されている事は認識していた。が、コイツが持つ絶大な効力はたった今痛感したばかりである。

 当初、怪しい格好をした冒険者を名乗る一団。衛兵達にとって俺達はその程度の存在だった。

 身元を証明するために『木札』を提示した訳だが、おかげで俺達は、彼等の態度が一転する様を目の当たりする事になったのだ。

 

 いやぁ、まぁなんだ……権力って恐ろしいもんだね。

 いや、居たよ?


「むぅ! それを何処で手に入れた怪しい奴め」


 とか言う、胆力のある兵も居たんだよ?

 居たんだけどさ。


「ちょ、馬鹿! お前正気かぁ!? この獣族の女性は俺達の詰め所に来たんだぞ、不届き物がそこまで馬鹿な真似をするか? そのお仲間が怪しい訳があるかぁ?」


「い、いやしかしだな、人族の小僧とメス獣族の一団ってなんか怪しいじゃないか」


「族が族を売ったって言いてぇのか? ありえん。族の一味なら女たちを解放するメリットがどこにあるってんだよ。お前……そろそろ謝った方が良いぞ……来月祝言を上げるとか言ってなかったか? いきなり嫁さんと路頭に迷ってこの門外街に住みたいのか?」


 てな会話が俺の目の前でヒソヒソと繰り広げられた。

 ヒソヒソどころか、完全に丸聞こえだったんだけどな。


『メス獣族』の辺りでリナとジェシカから不穏な気配が生まれた気がするのだが……恐ろしくて目を向けれぬ。

 メキッって音が小さく聞こえた気もするが、そんなマンガじみた事象は発生しない。

 うんしない……ハズ。

 しない。しないったら、しないの! 

 しないんだよ、怖ェよもう。


 やり場のない視線を内緒話中のつもりな衛兵たちに向けると忠告を受けた方の衛兵は、見るも無残なイキオイで顔色が蒼白に変じてゆくのが見えた。


「す、すんませんでしたぁっ」


 土下座をくれた衛兵その二。

 うん、その二君の肩震えてるね。背中丸いね。……うん。


 いや~ホント怖いね『権力』って。


 俺は皆を代表し、衛兵達に対して被害者達の保護と身元の確認を依頼する。それと同時にちょっとした経緯をフォルカーベイルさんを伴って伝えた。

 最後にもっと詳しく俺に話を聞きたければ、アグーデ伯の別邸に滞在しているので俺の名を出して欲しい旨を伝えると。


「ひっ、ひぃぃ! マジすんませんでした。

 あっいえ! 大変、申し訳ありませんでしたっ。どうか、どうかご無礼をお許しいただきたくっ……

 ううっ、うっく……うひ~ん、も、もうし、もうし……」


 うげ……とうとう泣いちゃたよ……。


「へぇ~。トドメ刺すとか――エグイ事するじゃん」


 するとイイ顔をしたジェシカが服の裾を引っ張りながら身に覚えがない事を言った。

 って言うかイイ顔過ぎだろ。やっぱ相当怒ってたんだなアレ……。

 いやいや、そうじゃなくてだ! トドメってなんだよ。


「はい?」


「ひょっとして怪しいって言われた事、根に持っちゃったとか?」


「いや別に俺は……」


「彼、一応とか。念の為。ってくらいでキミに謝ったワケじゃん? それをこの場で確定させてあげちゃうとか、超ドSじゃん、超ウける~」


「そ、そこまで気にしてられねぇよ。ほれ、行くぞ」


「ちょぉ! ちょっとぉ! 着替えさせてくれるって話は?」

 

 あっ。このやり取りでまたわすれ……げふん、げふんっ。

 えっと、んと、良い(トコ)思い付いたぞ、あそこに確か――うん。


「旧門外の入り口付近に『門前宿』的な所があったろ? あそこで湯を借りようと思う。ちょうど腹も減ってきたし昼メシもついでにってトコだな」


 ほ、ほらな? えぇ、忘れていませんとも。

 それに、アレだ、俺も着替えなきゃだし。このままじゃロミィに近寄ってもらえん。


「あっ、それいいかも。ボクもちょっとお腹が空いた気もするし」


「おし、決まりだな」



~~~



 俺達は門外街の倉庫群から旧門外との境にある宿の立ち並ぶ付近へと移動。

 ここいらはこの街に到着した時に通ったあの通りだ。

『門前宿』ってのはこの世界ではかなりポピュラーなシロモノだ。欧米発のファンタジーRPGにも良く出て来るアレだな。

 町や村では基本的に柵や壁が街を囲んでいる、更に大きな町になると『城塞都市』って呼ばれるって訳だ。で、当然のことながら外界と隔てる壁には外と出入りするための『門』が存在する。その門の内側には、街から街への赴く旅人達に一時の屋根を提供する宿屋がよく見かけられる。それを単純に『門』の『前』の『宿』『門前宿』って言うんだな。

 門の手前で宿を営むって理由は実に簡単(シンプル)、街に入ってすぐ宿があれば便利じゃん? 探さなくていいじゃん? って事だ。安直とかっていうなよ?

 宿とか飲食店ってのは目立ってナンボな所あるだろ? 

 ……あるんだよ! 


 そういった門前宿付近ってのは、希望に満ちた魔術師見習いっぽい若者や、これからの商談に向けて目をギラ付かせている者、各々様々な思惑と希望を持った、これまた様々な他の地方から始めて来たと思しき者達、所謂『お上りさん』がたっぷり居る。

 彼等と俺達も『お初』って意味では同様な訳で、思わず親近感が沸いたりしちゃうね。

 これらの新規の顧客を得ようと、宿の前ではガッツリ目な呼び込みの声が多くあり、通りに大きく響き渡っていた。


 そして数ある宿の中で俺たちが選んだのは、一際大きな宿兼飲食店と思しき店。この辺りと言うか、先に述べたこの世界でもっとも一般的な営業形態な店で名は『ひよこ亭』と言うらしい。

 釣り下げられた板看板には愛嬌のあるひよこがナイフとフォークを持っている絵が描かれておりとてもシュール。看板の下部にはアルファベットで屋号が記されていた。

 

 俺達の世界で表現するとなればどうだろう……一階部分が軽食を出すバーで二階が素泊まり宿なモーテルが近いのだろうか。はたまた、道の駅に宿が付いたって方が近いか。



「やぁお若いの」


 広く開かれた入り口を通ってみれば賑わう店内、窓際の通りを眺める事の出来る空いたテーブルに着くと、じゃがれた声をした大男が気さくに声をかけてくれた。

 彼は顎に蓄えた豊かな髭を扱きながら俺達を眺めてこう言った。


宿泊(とまり)かい? それとも食事(メシ)だけかい?」


 応じる俺はと言うと。

 

「食事を。後、湯と部屋を一時(いっとき)借りれないかな」


 とまぁ当たり障りない事を言ったつもりであったのだが。


「ほう。幼い別嬪所なんかを連れてこんな席窓際に不用心に座ったと思えば、やっぱりウチみたいな店の使い方も知らないって位の見たまんまな新人(ベイビーフェイス)かい」


 うぐっ。

 これは真正面から罵倒されるよりキツイ、否定できないからやたらと身に染みる。マジで一度時間を取って色々とリナに指摘しててもらう必要があるかもしれん、このままじゃ何時まで経っても不用意に浮きまくって仕方無い。


「ゲハハ、そう気を悪くするな。いやぁ若いってのは良いな、言葉一つで反応が楽しめらぁ。どれひとつ人生経験豊富な宿屋のオヤジが教示(レクチャー)してやろう。

 ワシらの様な店では陽が落ちる前は、部屋の時間貸しはやらねぇ。大抵のウチみたいな店に来る客は、飯を食うだけか荷を降ろせる部屋を見繕いに来るかだ」


「陽が落ちたら?」


「そりゃお前ぇ、陽が落ちた後は連れ込みも歓迎するがな……ん? もしかして本当に連れ込みかい」


「と、とんでもない!」


 連れ込みってアレだろ?

 女性をソレっぽいお店から連れ出して……っていうアレだろ? アレするんだろ?

 チガウ、断じてチガウぞ。


「仲間が、えっと、その湯あみと着替えを必要としていて――」


「ガ~ッハッハ、本当に素直だぁ!」


「ちょいとっ、いい加減にしなアンタ。ここはアタシに任せてさっさと厨に戻りな! 

 済まないねお客さん、ウチの亭主はいつもこうなんだ。街に来たばかりの若いのをからかうのが好きでね。で、部屋を所望なのかい? でも生憎ウチは亭主が言った様に時間貸しはやってないんだよ」


「いや、宿泊料金で構わないんだ。お湯と一緒に一部屋だけ借りれないかな、えっと女将さん?」


「えっ……いいのかい? 言うのも何だけどウチはちょいと高いよ」


 小さく俺に助言してくれる女将さん。俺は周囲を見渡し客が多くいる事を確認。

 雇いの従業員であろう給仕係もいる位の繁盛店。忙しいだろうに、店主と思しき人物と女将にまで手を取らせちまっている。


「銀貨二枚で事足りるのなら是非お願いしたい」


「そりゃアンタ、倍もボりゃしないよう。一刻くらいで良いんだろう? なら食事込みで一枚でやらせてもらうよ。但し、面倒な事は御免だよ?」


「普段はやらないんだろ? なら二枚で。その代わり食事を七人前出してもらえるかな?」

 リナとロミィが意外に量を食うのだ。

 俺もこちらに来てからと言うものの何故か結構な量を食うようになった。

 それに、クアベルトに着いてからの初めての庶民食。今からどんなものが出て来るのかワクワクしていたりする。

 えっと初見でそんなに頼んで大丈夫かって?  大丈夫だ、問題無い! 

 店に入った瞬間から周りのテーブルからいい匂いが俺の鼻をくすぐり続けてんだよ。く~ぅ、俺はこの機を逃すつもりはない!

 

「おやおや、見た目より剛毅なお客さんだよぅ。あいよ、お任せで良けりゃ直ぐに持ってくるからね」


「ああ頼むよ、いや~助かった。ありがとう女将さん」


「あらまぁ丁寧だね。どれ、ウチの給仕に言いつけて部屋を用意させるとするよ。準備次第声かけるから二階に上がんな」


「わかった。それまでここで待つよ、あぁ! 先に何か飲み物を貰えるとありがたいんだけどいいかな」


「エールと果実水でいいかねぇ」


「果実水だけでいいよ、まだ仕事があるんだ」


「あれま、そりゃあ大変だね。あいよ、直ぐ持ってこさせるよ」


 気安い主人に、面倒見のいい女将。宿の繁盛っぷりも頷ける。

 これはメシは期待できそうだゾ。


次回 07/17 AM 02:00を予定しております。

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