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一学生に過ぎない俺が大魔導師の下僕として召喚されたら  作者: 路地裏こそこそ
~七章 クアベルト編~
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闇市の闇2


 近くと言うのは本当だった。

 門外街に近年新設された貯蔵倉庫群。その幾つかがスラムを根城にした盗賊グループの盗品置き場として使われているらしい。

 スラムのグループは幾つもあり、その中でもこいつ等は武闘派で通っていたそうだ。確かにステータス看破で見れば、この案内をさせた男でもレベルは七もある。一般的に考えれば非常に高い。

 こいつ等は武闘派であるが故に犯行が派手だ。結果、ほとぼりが冷めるまで置いておく必要のある品々を保管する為に頭がこの倉庫を手に入れたと男は言った。

 そして門外街を仕切る盗賊ギルドにガードマンの要請をしたって話だ。


 ひと悶着あるだろう。そう警戒してここへ来たのだが、意外にもガードマンは聞き訳が良かった。


「契約対象者が死んじまって居ない上に、中途で終わっちまう契約の違約金を払ってくるってんだ。ギルドとしては貰う物さえもらえれば、下手を打ったコイツ等に肩入れする義理はねぇんでな」


 とまぁ、本当に金だけで解決する事ができたのだ。

 金貨一枚も取られたけどね。


 倉庫を開ければ結構な数の品があった。どれが何時どうやってこいつらの手に入ったかは不明だが、後で案内に残したこの男を街の衛兵に付きだせば後始末を引き継いでくれる筈だ。

 眠っているロミィを抱きつつジェシカを伴い内部を捜索し始めると、程無く倉庫内に部屋を増設してあるのを見つけることが出来た。

 部屋の扉の前まで来るとジェシカが表情を曇らせる所を目の端で確認、恐らく何かを臭いで感じ取ったのだろう。その理由(なにか)は施錠すらされていない扉を開くと判明した。馬鹿共の被害者と思しき女性達がそこに居たのだが、眼前にある状況は俺の顔を顰めさせるのだった。


 被保護対象者は六名、その全てが女性。この馬鹿共が攫ったと言うのは二名で、他の四名はその羽振りの良い一団から預かったそうだ。

 部屋の内部には簡素ではあるが木造なりには強固な牢があり、そこに四名の女性が囚われていた。牢内の四名の健康状態は悪くはない、奴隷の仮印が施されてはいるが比較的丁重に扱われた様子だ。

 スラムのグループに攫われた二名は酷いものだった。衰弱が酷く、どう見ても性的暴行の被害にあっている。発見当時、二名は共に全裸。一人は鎖に両の腕を吊るされぐったりしており怪我もしていた、どこがとは言わない、複数個所だ。もう一人は足枷を嵌められ、枷と粗末なベッドを繋ぐ様に括られていて異臭を放つそのベッドの上で気を失っていた。

 どうやら(カシラ)とやらは酷くサディスティックな男だった様子。

 今回は少々人殺しが過ぎたと思ってはいたが、そんな呵責はあっさりと霧散した。

 

 倉庫内を俺同様に捜索していたリナに衛兵への連絡を頼んで帰りを待つその間、四名の内で比較的心身の状態の落ち付いている女性から救助への礼を貰い、これまで経緯を詳しく聞くことが出来た。尤も、この女性は四名の内、直近でここへ運ばれたらしく、他の三名についての経緯は知らないらしい。


 彼女はこの街へ来る商隊(キャラバン)の一員で、彼女自身が商人でもある。

 一行は、港町から魔道都市クアベルトへと向かう道中、突如現れた翼竜(ワイバーン)に馬車を襲われたそうだ。

 

「レイドンの港町からクアベルトまでのルートは三つあるのだが、北部の森林地帯ルートは『グレイハウンド』と言う狼よりも巨大な肉食の魔物が群れを成して巣くっており、非常に危険だと事前に知らされた。

 だから我々は、中央の本街道である草原の街道(グラスライン)と南のメリルバス湿原を通る湿った街道(ウェットパス)の二択しかなかった。

 中央の草原の街道(グラスライン)は獅子人族の支配地域であり魔物も少なく安全だ。反面、通行の際には多大な通行税が科せられる。その無駄な経費を嫌った我々は、レイドンの港街で追加の護衛要員を募り、新たに護衛経験豊かな冒険者を雇って南ルートを選択したのだが……」


 翼竜(モンスター)の被害に遇ったと言う事か。

 何とも皮肉である。一番危険なルートと、通行税より安上がりなルートを選んだと言うのに最悪の結果を招いたと言う訳だ。


 馬車を引く馬を犠牲にしつつ、冒険者達が依頼主を庇いながら戦う中、何とか難を逃れて生き残ったメンバーは極少数。怪我を負った男性二名と彼女のみ。出発当初の商隊キャラバンの人数から考えて半数以上が命を落としていた。

 殿として残った冒険者のその後については彼女は知らないと言った。

 

 何故なら彼女と負傷した二名の男性はクアベルト目指し逃げている最中、不幸にも野盗に襲われたからだ。

 翼竜(ワイバーン)から依頼主を逃がす為に追随した冒険者はまだ一名が存命していたが野盗の前に倒れた、怪我を負っていた二名の男性もだ。

 彼女はの時から捕らわれの身となり今に至る。


 世界情勢や治安を嘆いても仕方ないのではあるが、アンの言った通り俺はこの世界ってものを確かに知らなかった。

 こうやって被害に遇った人間を目の前にした時、俺の様な平凡な人生を送ってきた人間が持てる感情なんてのは『嘘だろ』『なんだよそれ』『ゲームかよ』等、現実を受け入れられない思い。そして『虚無感』『絶望感』と言った自分の無力を嘆く思い。

 そんなモノしかなかった。


 俺の中の『嘔吐感』って奴だけは死ぬ気で押し殺す。


 情報を聞き出しておいて掛ける言葉一つ持たない自分愚かさや、いい加減さって奴に呆然としたが、寝息を立てるロミィがもそりと動いて腕の中の暖か存在を実感した時、頭の中に渦巻いていた嫌な思考が晴れてきた気がした。


 イカンな。まだ聞くべき事があるってのに。

 そう、俺にはやるべき事がある。

 俺は『守護者』になるって決めた。

 この件を片付けるって事も『何かを守る』って事になる筈だ。

 立ち止まってどうする、気合いを入れろ!

 最早ここは『現実』で今の『俺の世界』だ。

 抱いているこの子や仲間達に『無様』を見せてる場合じゃねぇだろう!


 すぅと息を吸い込み、肺の奥に貯まった弱気を吐き出す。

 意図せずしてこの場所の据えた匂いがさらに俺に『現実感』を与えてくれた。


 はん、ゲスなこの香りも今の俺には役に立つ。

 いつの間にか俯いていた頭を語って聞かせてくれた彼女に向ける。


「どうやら、とてもご苦労為さったようで……そんな貴方にこれ以上何かを語れと言うのは大変心苦しいのですが、もう少々聞かせてください。

 貴方をこの倉庫に引き渡した族は、再度現れましたか?」


「いや、少なくともわたしは見ていない」


「そうですか……」


 ふむ、何か他の手掛かりや特徴みたいな物があれば良いのだけれど……。


「ふむ、特徴と言えば気になる事がある。武器は軍隊が使う様な長剣を使っていた、その他の装備も盗賊の類としては充実していた様な気がする」


 しまった、口に出てしまっていたか。

 しかし、これは……情報としては重要。ではあるが同時に嫌な妄想も広がる。

 自作自演(マッチポンプ)とかでは無い事を祈りたいが――確かめなきゃだな。


「ふふ、お若いのに苦労性のようだな貴殿は。

 改めて礼を言う。積み荷は失ってしまったが命は拾うことが出来た事に、心から感謝する」


「い、いえ、俺は何も……」


 実際偶々に過ぎない、俺がやった事は身内の救出に過ぎない。挙句、助けた相手に気を遣わせるとは不甲斐無いことこの上ない。正しく恐縮の極み。

 

 

「これからどうなさるので?」


「本当に苦労性だな貴殿。うん――衛兵に事情聴取されるのだろうが、そのあとの事なら問題無い。ここはクアベルトなのだろう? ここは私の拠点(ホーム)なんだ。旧門外で『フォルカーベイル商店』と言う小さな交易商を営んでいる。

 ああ、しまった。恩人殿に名乗りも上げていなかったな、私はジョアンナ。ジョアンナ・フォルカーベイルと言う。恩人殿の名を聞かせて貰えないだろうか」


「ケイゴ。ケイゴ・ヨネハラと言います、フォルカーベイルさん」


「名を頂戴できて感謝するよヨネハラ殿。そうだ、場と機会を改めて礼をしたい。時があればで良いから、是非店を訪ねてくれると嬉しい」


「ええ、機会があれば。ああ、ちょうど仲間が衛兵を連れてきたみたいですね」


「うむ、では行こうか」


「へ?」


「何を頓狂な声を上げる事が? 衛兵達はヨネハラ殿からも事情を聞きたがると思うが?」


 おおう、そらそうだ、迂闊。迂闊に過ぎる。確かにそれは間違いない。

 面倒だなぁ……いっそ逃げるか? いやしかし、ここでバックレて余計に面倒が起こってもタマラン。むぅ、致し方ない。


「ですね。では、参りましょうか――リナ!」


 俺の声に気が付いたリナが衛兵を一名ともなってこちらへ来る様だ。

 さて、どんな風に説明したもんかね。

 頭をポリポリ掻きながら思案しているとフォルカーベイルさんが動き出した、彼女は囚われていた女性達の元へと赴くようだ。

 ふむ、どうやら彼女が被害者たちの代表として衛兵に応対するのかな。

 


「ケイクン、ロミィが起きそうかも」


「ううん……マスタぁ」


 俺の背中側に居たジェシカから声が掛かったと同時に、ロミィが寝返りを打つようにモソ付きながら寝言を言い出した。

 俺は頭から背中にかけて撫でながらに声をかけてみる。


「おはよう、ロミィ」


「ふあ? おはようございます。 ん、おはよう? あれ? ロミィ寝てましたか」


 自分が抱かれている事に気が付いた様子。

 眠そうに目をこしこしと擦るロミィをもう一度優しく撫で上げる。


「ああ、気分はどうだい」


「はふぅ、気持ち良いです――あっ!」


 きょろきょろモソモソと腕の中で動き回るロミィ。理由は多分これだろう。

 俺はヒップバッグからトンファーを取り出して彼女に手渡す。


「はぁ~、ありましたですか」


 嬉々とした声。オロオロの原因はどうやら正解だったようだ。

 しかしこの反応、自分に何があったかは覚えていないように見える。ならばそっとしておこう、ただ眠ってしまった。それだけだ。

 そっと降ろしてやる。するとそこへジェシカの心配そうな声が掛かった。


「ロミィ?」


「ジェシ姉ぇ。あう、ごめんなさい。ロミィ寝てしまいました」


「ううん、良いんだよ。おかしなところは無い? 痛い所とかは? ちょっと変なとこで寝ちゃったから」


「えっと、くん? くんっ!?」


 小さな鼻孔をひく付かせた後、それは発生した。あれは凄まじい嫌悪を現す感情表現。

 愛らしいロミィの眉間に発生した鋭い隆起現象、大きな縦皺が発生した。『眉根を寄せる』等と言う古典的で生易しい表現では収まらないと思える。

 


「ダ、ダメです! 近寄っちゃだめです! くん、くん!」


 あちゃ~、匂いに気が付いたみたいだ、自分で服や手を嗅いでは幾度もあの酷い顔になっている。そして凶悪なスピードで俺から離れてゆく。

 

「ロミィ~」


「駄目ですぅ! マスタぁあっち行ってください」


 うぐっ、ち、ちと堪える台詞だなぁ……。

 娘に嫌われる親父ってのはこんな気分を真正面から味わうのかぁ、尊敬するぞ俺は。


「お、おおう。わかった……ジェシカ? こいつを着せてやってくれないか」


 ヒップバックから既にエンチャント済みのロミィの着替えを取り出してやる、ついでにサンダルも替えがあったハズ。急いで探して取り出す。


「ロミィ、着替。この倉庫自体が臭うけど、少しはマシになると思うし」


「はい! 替えるです! 早く下さいジェシ姉ぇ」


「ケイクンも自分の服、替えがあったら着替えてよね。私も結構限界でヤバイ感じ、出来れどこかで着替えてお風呂に入りたい」


「事情聴取の後になるかもな。ってうわぁ!? ああっ、いや! わ、わかった、了解した。努力しよう! いや、今すぐ衛兵に頼んでみるからってばっ」


『ヤバイつってんだろ、このボケっ。いっぺん死ぬか? あぁん!?』


 てな顔で睨まれた。正直死ぬほどビックリした。『ジェシカ』の顔造形でであんな凶悪な表情を作り出せるとは思えない。それほど凶悪な絵面だった。故に俺は、前言を即時撤回。やれやれ、こりゃ急いだほうが身の為だ。

 何よりも美少女達の凶悪な表情への変化ってのが俺の精神衛生上よろしくない。

 とてもよろしくないのデス!!

 ええい、離脱だ離脱。速攻でこの場から離れるのだ。


 リナと衛兵の元へと俺は足を急がせる。



次回 07/10 AM 02:00を予定しております。

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