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モールさんのええ加減にしなさい

作者: 鈴木妙子

「いじめはなくなりませんわ。教師だっていじめられたくないわけやからね。いくらいじめはあかんと教師が言うても、そんなん自分がいじめられたくないから言うてるんやから。いじめはあかんいうのはもとからいじめっ子の理屈や。周りと違うことすればいじめられるの知っとる、いじめっ子の意見や。いじめられてるやつなんか殺してもOKやどんどん殺せ、なんてまともな大人が言うたら、そいつその日からいじめられてもそいつの助けてくれは誰もうけつけんやろ」

 たまたまつけたテレビでやっていた昼過ぎのワイドショー。コメンテーターが、日本語がわからなければ虫がミーミーと鳴いてるんじゃないかとおもうような独特の妙に高い音をだすしわがれ声でゆっくりとしゃべっていた。俺は、たまげた。

「といいますと?」

 司会者が神妙な顔を作りながらも、どこかニヤニヤといやらしい目をコメンテーターに向けていた。

「そんなこと言われてもなあ」

 コメンテーターの男は長い髪の毛を色とりどりサイケに染めていた。見るだけで胸焼けをしそうな豪華七段デラックスパフェを頭からひっかぶったような、そのデラックスパフェを無理して食べきった奴が立ち上がり際に吐いたゲロを浴びたような、うす汚いおっさんだった。

 胸もとのテロップの一行プロフィールには、「知る人ぞ知る、あらゆる形而上世界のプロ!」とでている。リモコンの番組表ボタンを押して、ちらっと、データを見ると、この日の放送は違法薬物特集だった。形而上世界のプロ、というものがなんなのか俺にはわからないが、きっとその線でこの男はその場に呼ばれたのだろう。

「いやいや、あるでしょ。こうしたらいいとか」

「そりゃみんないじめられたくない思っとるんやから、生まれたての赤ん坊から棺桶に埋まってかろうじて爪の先が外に出てる臨終間際の泉重千代のようなやつまで、みんながみんな、いじめられたいわあ、思っとるような考えやったらなくなるんやない?」

「…なるほど、全人類がドMになればいじめはなくなると…何を言わすんや」

「それから大人の止め方もあかん。どんな止め方しとるか知ってるわけちゃうけど、なにをしとんねんやめろアホボケカス、みたく絵本みたいな内容の説教と根性論で止めてるんと違う?」

「あんたさっきのVTR中何してたんや。教育学の理論に基づいた指導法のマニュアルがある言うてたやろ」

「そんなん初耳や。…ニューイヤーや」

「帰らすでほんま」

「そのたいそうなマニュアルにはいじめっ子の首絞めながら、これからお前も毎日同じ目にあわせ続けてやる! なんてやったらええなんて書いてなかったやろ?」

「当たり前やがな。何言うとんの」

「俺はそれでやめたんや」

「体験談かいな。しかしまあ、むかしはそういう、まあ、ええ先生というかね」

「その先生、あとあと痴漢で捕まってん。ただブレーキのきかない奴なだけやってんね」

「あんたの周りはどないなっとんのや。そんな話ばかりやないか」

「俺のせいちゃうよ」

「そうやけどやな」

「教育って、ベースに性善説があるんやってね?」

「急になんや」

「そうや。性善説に立ち過ぎなんや。性悪説に立つ必要もないけども。知らないってことは清いことちゃうで。未必の邪悪を秘めとる。邪悪なもんには説教や説明やなく、腹割って交渉せなあかん」

「交渉ですか? いじめっ子と?」

「そうや。いじめられっ子はなんも悪ないのに何を交渉する言うんや。来月に校長試験あるからいま俺の担当学年に問題起こるとまずい、あと一月は我慢してくれへんか。そのあとなら内申に響かないようにして転校手続きしたるから。こう言うんか? …まあそれもええな」

「よくないわ! それこそさっきのニュースちゃうけど、捕まる前にドラッグ抜いてるんとちゃうねんから」

「それええな。いじめやってだんだん量と行為が過激になってくやろ。なら、中毒の治療とおんなじや。心や知性や理性や常識なんてわけわからんもんやなくて、物質的に脳に働きかけてかなあかん。形而上の世界に逃げこむんとちゃうんやから。さっき見たやろ? 針のない注射器つかって打つフリしてたやん?」

「自分のとこだけはまじめに見とったんやな」

「 あれとおんなじや。いじめっ子にいじめてる奴の顔写真貼ったサンドバッグ渡すんや。手と頭のついた人型のサンドバッグがあんねん。四十キロぐらいのもんでな。俺ふたつもってるんや。トシ子ちゃんとサロメちゃん。全身緑色やで?」

「知らんがな。サンドバッグでええんやろそれは」

「サンドバッグ。レスリングなんかで使うらしいわ」

「なんであなたがそんなものふたつもってんの」

「え? そんなんひとつは予備やないか。サロメちゃんがバックアップや。サロメちゃん、家庭的なサンドバッグちゃうねん。気難しくて生意気で、たまにならええけども、毎日相手するにはしんどいわ」

「何いうとんのや。家庭的なサンドバッグってなんや。もうええから、サンドバッグをどうするんや」

「写真貼ったサンドバッグ渡してな。まずはここからはじめよか言うて。どうしてもいじめたくなってきたらそのサンドバッグ叩かせんねや。サンドバッグ相手に好きなだけいじめさせるんや。そんでいじめても疲れるだけで終わることを脳にわからせていくんやね」

「そんなん問題になるわ」

「これはええで。ひょっとしたらそのいじめっ子の中からそのうちボクシングヘビー級の世界チャンピオンが生まれるかもわからん。ボクシング好きなんや俺」

「知らんわ。なに言うてん」

「弱い子をいじめたい気持ちを必死になって抑えて、時には耐えられなくなって裸踊りさせたり万引きさせたり当たり屋させたり、それらがバレて退学したりしたんやけど、なんとかふんばってサンドバッグを叩きつけてきたからこそ、日本人初のヘビー級チャンピオンになれたんや。そんなんもう、いじめっ子の星やで。一等星や。全国のいじめを我慢してるいじめっ子たちの希望の星や」

「途中で退学なるほどがっつりいじめてるやん。何を言ってん、このおっさんは」

「引退会見で、引退したあとなにがしたいですか? ってきかれたらこうや。爽やかーな笑顔で、高校に入りなおしてもう一回いちから人をいじめたい、や。へへへ」

「何を笑っとんねんおっさんほんま。…えー、いじめは社会がはらむ病理、これはもう麻薬だと、依存だと、事前の対策はもちろんのこと、問題が表出したのちには科学的アプローチが大事だと、モールさんはおっしゃってます」

「そんなこと言うてないよ。なんやそれ」

「もうええやないかこれで」

「まああなたが良ければ俺はええけどもやね」

「あんたの話や! ほんまこのおっさんは。ええ加減にしなさい。えー視聴者のみなさま。たいへんお見苦しい、お聞き苦しい放送となってしまいました。深くお詫びいたします。なお、クレームは当番組あてではなく、モールさんの事務所に直接お送りくださいますようお願い申し上げます。あのおっさんね、意外と評判とか気にする気のちっちゃいおっさんやから、クレーム入れたら効果覿面です」

 カメラが引いて、スタジオ全体を映した。他のコメンテーターの引きつり笑顔がみてとれた。そんななかモールは、

「あんまりいじめんといてや」

 と言いながらこ汚い笑顔でカメラに手をふった。

「さ、CMのあとは」

 俺はテレビを消した。


 俺は体育教諭だ。母校でもある中高一貫の男子校に勤めて四年が経つ。今年度は中学二年A組の副担任になった。担任は一歳下の女教師だ。

 テレビをつける前まで、モールの言うところの「たいそうなマニュアル」にさっと目を通していた。マニュアルは大学の同窓で公立校教諭の友人にコピーしてもらったものだ。うちの学校にもそれはあるはずだが、いまはまだ秘密裏にことを進めなきゃならないため、そうした。

 マニュアルにはいじめた側いじめられた側双方の個別面談時におけるチェックポイントや面談からえられた情報に基づいた生徒へのケアの仕方、教諭が手を出していい範囲のガイドラインなどが、事細か、につづられていた。

 俺は自慢じゃないが、保健の教科書以外の書籍をまともに読んだことがない。さっと目を通す、程度で精いっぱいなのだ。

 俺は文字に弱い。字が並んでいるのを見ただけで頭の中が「いーっ!」となって、なんだかよくわからなくなってくる。子どものころからそうだった。勉強という勉強もしたことがない。自分で書く文字にすら、頭がクラクラしてくるぐらいなのだ。

 それでもテストの結果は悪くなかった。特別によくはないが、ノートも取らず自主的な勉強も一切してこなかった割には、上出来といえる。文字媒体による記録に頼らないで過ごしてきたことで、耳から入ってくる情報をしっかりと記憶し整理する能力が常人よりも機能するようになっていたのだろう、と、勝手に自己分析している。俺が縄文人だったら良い語り部になったとおもう。

 文字は苦手だが、そのかわりサッカーがうまかった。高校も大学も仕事も、ボールを蹴っぽっているうちに決まっていたと言ってなんら問題ない。

 いや、やはりそう言い切るには問題がある。高校までは文字と真正面から向き合う必要もさほどなかったが、大学に入ると、文字に弱いことが大きな壁になった。まず、レポートが提出できない。書けないことはないが、自分のペースでやっていたらまず間に合わない。記述式の試験は最悪だった。それでもなんとか進級できたのは、人より多くボールを蹴っていたおかげに他ならないだろう。明らかに俺より学力のない、人より多く人をぶん投げていた奴も、人より多く鉄球を放り投げてた奴も進級できていたので、きっとそうだろう。

 …実はレポート、そして卒論も、持ち帰ることができるものは、つきあっていた笑顔の愛らしい、かわいい娘に書いてもらっていた。だから、ボールを蹴っぽっていたら人生それなりに順風満帆などと言い切るには問題があることになる。彼女のおかげで俺はのんきに人より多くボールを蹴っていられたのだから。

 振り返れば彼女とのデートはかなりの時間、口述筆記作業に費やされていた。彼女は体を動かすぐらいなら般若心経を写経していた方がマシ、という具合のおしゃまな娘で、般若心経を写経するぐらいならぶっ倒れるまで走ってる方がマシ、な俺とは真逆のタイプだった。書記デートを心から喜んでいたわけではなかっただろうが、苦にはしていないようだった。つくづく彼女には世話になった。

 卒論担当教授のチェックラインは、先輩に言わせれば、「とにかく読みやすく書いとけば内容なんかどうでもいいんだよ。日本語の形をなしているかどうかと、露骨なコピぺかどうか、が基準なんだから」程度のものだったから、なんとか書いたA4紙二枚分の大まかなアウトラインとテーマに沿っているだろうと思われる本と聞き取り調査と書きやすいよう恣意的に歪められた不確かなアンケート結果を彼女に渡して、二十枚ほどの論文に仕上げてもらった。本来スペース潰しの稼ぎどころとなるはずのグラフの小さいことといったらなかった。果たしてこれは読みやすいものなのだろうかと不安を覚えたが、提出してみると一発ですんなり通った。

 その作業中、微笑を浮かべながら文字で埋め尽くされていく画面を見て、よどみなくキーボードを打つ彼女に向かって、俺はプロポーズをしてみた。

「君には私なんかより向いてる子いるよ。私、知ってるんだその子」

 と彼女は画面を見ながら言った。

「いるかあ? 俺も知ってる?」

「うん」

「思い当たらないけど、誰?」

「Siri」

 本気か冗談かわからない彼女の素っ気ない言葉に、急に恥ずかしくなった俺は、俺の目論見ばれてたか、なんておちゃらけてうやむやにした。


 俺が書いた文章を読んだ彼女は、「チョムスキーに見せてみたい」と評したことがある。チョムスキーが誰だか知らないが、俺をバカにしていることだけはよくわかった。言われっぱなしはしゃくなので、何か言い返してやろうとしたのだが、やっぱりチョムスキーが誰なのかわからない。彼女はペットを飼っていないので、おそらく目のある生き物であるところのチョムスキーが犬や猫の名前ではなく人名であることと、日本人ではないこと、ぐらいの判断はついた。こういうのは間をおけばおくほどいけない。だってそれをマヌケというのだから。

 俺はとっさにおうむ返しの要領で、「お前にチョムスキーの何がわかるっていうんだよ」と言いかけて、少なくとも彼女は俺よりチョムスキーを知っているだろうことに思い至り、「お前ってチョムスキーに顔が似てるよ!」と言いかえたところ、すごく怒られた。してやったり、とは思えないほど怒られた。

 どうやら俺が書く文章は壊滅的に「てにをは」がおかしいらしい。ということは、俺が独力で卒論を提出したら、日本語の形をなしていないために何度も弾かれて、何度も直してるうちに留年していたことだろう。


 いまでも文字には苦労する。けれども、以前ほどではない。文字を読む際のコツをつかんだ。これもきっかけは彼女のおかげだ。

 大学四年の冬、彼女と一緒に行った美術館で目玉の展示物だった大曼荼羅図を見たとき、俺は活字の海に放り込まれたような気分になって、立っていられなくなった。

 それまでに、絵を見てクラクラすることはなかった。彼女に肩を借りながら外のベンチまで這い出すと、

「ねえ、たぶん、ひょっとしたら、私わかったかも」

 と少し興奮気味に彼女は切りだした。

「君は、文字のひとつひとつに複雑な絵を見てるのよ。そしてそのひとつひとつから意味を読み取ろうとして、いっぺんに並列処理しようとして、脳がパンクするのよ。君は新聞に曼荼羅を見てるの。ひとつひとつの文字が意味のある仏さまになって、君に襲いかかっているんだわ」

 俺は少しうんざりした。それを口実にして彼女を散々利用しながらも、文字に弱いことは俺にとって直視したくないコンプレックスだった。

「君は俺が象形文字にあてられてると言うのか? だったらローマ字はどうなるんだ? あれは記号だろ? 俺は英語もダメだぜ?」

 ぶっきらぼうに彼女の話を遮ると、

「うーん」

 と、うめいて空を見上げては何かぶつぶつとひとりごとをいった。

 次のデートで、顔をあわすなり彼女は、

「ローマ字も象形文字だったんだよ」、と晴れやかな顔で言ってきた。

 彼女はノートを取りだすと、ボールペンの試し書きみたく、くるくると筆先を走らせた。

「これを見てみなよ」

 ノートには寸詰まりのくるくるがいくつか書かれていた。

「なにこれ?」

「なんもないでしょ?」

「くるくるしてる線がある」

「でも、くるくるにはならないでしょ?」

「くるくるはしないけど、なにこれ?」

「やっぱり! これはね、キリル文字の筆記体よ」

「キリル文字? 文字なのかこれは? 落書きじゃなく?」

「ロシアの文字よ」

「…なんて書いてあるんだ?」

「それを自分で調べてもらおうと思ってね」

「なるほど。でも、プロポーズの返事だろこれ」

 彼女は少しのあいだ押し黙ってから、なんでわかったの? と白状した。

「俺にはこの線から、縁側で日向ぼっこしてる年老いたふたりがみえるんだ」

「…これで治ると思ったんだけどなあ。見当外れだったのかなあ」


 彼女の見当はあたっていた。ロシア語を常用することはなかったが、文字を記号として認識する訓練、を重ねると、くらくらすることは少なくなってきた。それでも文字には難儀するが、教壇に立って板書するぐらいは問題ない。


 だがこの「たいそうなマニュアル」みたような、次になにが飛び出してくるか予想のつかない未知の文はダメだ。読むのに人の十倍はかかるし、くらくらしてくる。事細かにつづられる未知の文章を、五字ぐらいに分けて目を通しては、目を閉じて、その五字の持つ記号としての意味を理解する作業の繰り返しなのだ。いつもなら妻に読みといてもらうのだが、出産準備で里帰りしている妻にややこしさのかたまりみたいなものをぶつけるわけにはいかない。

 そんな格闘に嫌気がさしたとき、何気なく、ふだんひとりの時はつけないテレビをつけたところ、耳に飛び込んできたタイムリーな情報に感化されたのは、しょうがないことだ。

 教師になるぐらいだから、俺は学校生活を嫌いだと思ったことはない。いやな思い出もとくにない。いじめられた記憶も人をいじめた記憶もないが、「僕は君にいじめられてたじゃないか」と訴えてくる同級生が絶対にいないとも断言はできない、いじめに加担した覚えはないが、それを見てにやにやぐらいはしている、ふつうの学生だった。


 もうすぐ俺はいじめに悩む生徒にあう。よく笑う子という印象の生徒だったが、よく笑うのは笑うことでしか身にかかる火の粉を払う術を持たなかっただけらしい。段々とエスカレートしていく被害に恐怖を感じていて、日常的に階段から突き落とされたあげく落ち方のリアクションが悪いと罰金をとられる、ようになって、はじめて俺に助けを求めてきた。話を聞く限り、蒲田行進曲の出演者も真っ青な日常だ。

 特段その生徒と仲が良いわけでもなく、顧問をしているサッカー部の部員でもないが、この年頃の男の子が若い女に恥部をさらすより同性で、ヒステリー気味の担任が生徒から株を下げるだけ勝手に上がっていく、「現実の立場」よりもふた回りぐらい良いだろう株を持つ体育教師の俺に恥をさらすことを選択したその気はわかる。

 生徒から相談されたとき、俺は取り繕った威厳のある顔で話を聞いていたはずだが、内心あたふたしっぱなしで、てきとうな理由をつけて問題の先延ばしをして、あたふたしっぱなしのままこの日の回答期日をむかえたわけだ。俺が生徒だった頃のうちの学風ならば、当時すでに教師による体罰は社会問題になっていたが、いじめてる奴を殴り倒してそのあとラーメン屋でビールをちょこっと飲ませながらうっすらと涙を浮かべた目で「約束」をすれば、それで解決しそうなものだが、今となってはそうともいかない。俺も妻が身重のこのタイミングで職を失うなんてマヌケなことはしたくない。

 どうするべきか悩んでいたところにモールだ。モールが何を言わんとしていたかわからないが、俺はいじめっ子の気持ちはわかっても、いじめられてる子のケアはできない人間なのだと思い知らされた。と同時に、どうするべきかわかった。

 浮かんだアイデアを胸に秘め、俺は生徒との待ち合わせ場所に出かけた。




「お久しぶりのご登場になります、モール・サイモン・ゲドーさんです。あのあとどうでしたか?」

「どうもこうもないよ。カミソリの刃、や。そんなもん送りつけられてみい。たまらんで。ほら、これや」

「安全剃刀の、替え刃やないですか」

「十個パックや。たち悪いわ」

「たち悪いことあらへん。安全剃刀やで」

「俺の使っとるひげそりにようはまらへんねやで?」

「ようはまったら、そっちのほうがこわいやろ。なんで俺の使ってるメーカーしってんねんなるやろ」

「…そやね」

「そやねあらへん」

「栗も送られてきたんや」

「栗って、イガイガかいな」

「枝つきのイガや。まだ青いんや。秋の便りをお楽しみください、やて。これ、熟れたら俺の頭の上に落ちるで、いうことやろ? 血まみれになる俺の姿を見たいってことやろ? そんなんかなわんわ」

「生けなきゃええだけちゃうんか」

「栗も送られてくるいうことは、そのうちウニもくるやろな。ウニよう食われへんねや俺。見るだけでイヤや。そのうちカニもくるやろ。あんなんまともに相手したら手が血だらけになるで。かったい煎餅とか、口ん中ズタズタや。いい酒もくるやろ。余計に飲ませて肝臓ボロボロにさしてくんねん。大人のやりくちやで」

「何いうとんのや。それ饅頭こわいとちゃますか。では、何事もなくお過ごしになられたということで」

「いや、あったよ。視聴者の奥さんからたいそうな手紙もらってん。若いのに綺麗な字でなあ。あれは美人さんやろうね」

「何をうれしそうに。どうせクレームやろ?」

「えらい怒ってはんねや。ああ、視聴者の奥さんちゃうわ。視聴した人の奥さんやね。でも奥さんも内容を確認するために遅れて視聴したみたいやから、こうなると視聴者の奥さんでもええんやろか?」

「それは、それでええんやないか?」

「うん。彼女の旦那さんは教師でなあ。いじめの対処してる真っ最中にあれを見たようや。そんで、どこをどうして育てばそんな間違いを起こす人間になるのか、俺のいうこと真に受けたらしいんやわ」

「何をしたんやその人は」

「もっと人を見た目で判断してほしいわ。こんなおっさんの言うこと真に受けてたら、命いくつあっても足りんで」

「だから何をしたんやその人は」

「その人なあ、階段から落ちて怪我して入院したんや。首の骨いかれたらしいわ」

「そんなん笑われへんやないか。どうしてそうなったんや」

「というのもな、いじめられてた子は、毎日、階段から突き落とされてたらしいんや。そんでようわからんけど、リアクションが悪いって難癖つけられて罰金払ってたんやて。ジャッキーでも金もらわなよう落ちんで」

「ジャッキーは仕事やねんからね」

「意味がわからんわ。毎日やで。蒲田行進曲かかってる劇場ちゃうんやから」

「そんでどうして先生が階段から落ちてん?」

「なんや俺のいうこときいて、そんなら私がいじめられましょ、思ったらしいわ。そんでお手紙や。うちの旦那になにやらすんやて。そんなこと俺言うてへんねやけども」

「あかんでほんま」

「割と人望のある先生らしいねや。そんな自分が落とされることで、こんなんやっておもろいか、いうのをわからせようしたらしいわ。自分たちが何をしてるか被験者を変えて浮き立たせようとしたんやな」

「まあなんちゅうか、ええ先生ではあるね」

「いやいや。そんな先生あかんで。恋愛禁止の学校でそんな先生に見つかったらどうなるんや」

「おそろしいこといわんといてや」

「君に逢いたくて、放課後ひとりで待ってたりするんやで? 自販機で当たったからっておまけの一本をわざわざ家まで届けにきたりするんや。炭酸やぞ。おっさんが炭酸もってやってくるんや。スカッと爽やかどころの騒ぎやないで」

「もう恋愛なんて二度とせんから堪忍してえ、なるわな」

「それをやったんや。その先生には、だからエスカレートする前に、初回で事故ってよかったねといえるんやね」

「なんやただの責任逃れやったんか」

「そんなん知らんで。あなたが知らなかったいうことは、ニュースにもなってないいうことやし、たいそうなもんやあらへん」

「なんやその言い草は。今からその先生んとこ取材とばそか?」

「それはええけども…奥さん美人やなかったら俺どないしよ」

「どないもこないもないわ。見合いとちゃうねん。まったくあんたは、ええ加減にしなさい。えー、たいへんお見苦しい放送となってしまいました。引き続きお叱りのメールはモールさんの事務所あてでお願いします。え、さて、次はいま話題のパイナップルアート特集ということで、あなたご存知ですか?」

「あの字で美人やなかったら責任とってほしいわ」

「あんたもう、ええ加減にしなさい」




途中で何回か操作をミスして、書いては消えてをくりかえした結果、重要な繋ぎの部分になにを書いてたか思いだせなくなってあきらめた。中途半端に残っていたものをもうこれでいいやとしたもの。


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