第九話「明日が見えない」by無駄に哀愁のある背中
久しぶりに私だけで書きました。まだ新生活に慣れてないせいで、この前も草案作りだけ手伝って、全部投げた気がする(笑)
ではどーぞ!
※順番が変更になりました
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友紀をたまにすごく遠くに感じることがある。そんな友紀を見ると、とても寂しくなる。今だってそうだ。久しぶりに友紀の家に来て、夕ご飯を食べたあとで友紀の部屋に来ている。漫画を読む私の横で友紀は窓から随分と遠くを見ている。
「友紀……どうかしたの?」
「うん? なんでもないよ、大丈夫」
「そっか……」
いつも友紀はそう答える。私や椋枝君は段階的にだったから後になって気がついたが、友紀はあった頃とは随分と違う。とても感情的で、涙もろくて、私に隠し事なんてしなかった。今では何かを私に隠している。そういう友紀への不信感が……探偵に情報を与えることになったのかもしれない。
「ねぇ、友紀、困ったことがあるなら言ってね」
「大丈夫だよ。私に悩み事なんてないし、もしもあっても今のひかりには絶対しないよ。私の悩み事なんて、今のひかりに比べればさ……まあ大丈夫ってこと!」
「そ、そう」
私はいつだって、クールな友紀に頼ってしまう。あなたは私には頼ってくれないの……?
漫画の内容は頭に入ってこなかった。気付けば夜が深まり、時間が遅くなってしまっていた。友紀のお母さんが「泊まっていけば?」と言ってくれたが、なんとなく今の友紀とは一緒に居たくなかった。だから、帰ることにした。トボトボ一人で歩く道のり、今思えば、この道には兄との思い出も友紀との思い出もあるんだな……。
(私はふたりの何を見てきたんだろう)
家に着くと、人影があった。すると、その人は近づいてきた。
「久しぶりですね、ひかりさん」
「探偵さん……ですか、なにか用ですか?」
「いやはや、あなたからもらった情報がある程度、使えたのでお礼でもと思いまして」
「結構です。では失礼します」
私が強引に家に入ろうとすると、探偵さんは言った。
「どうでしたか? 川井家ではなにか聞けましたか?」
「……え、なんでその事を?」
「私は探偵ですよ。調査とは足で稼ぐものです」
私は振り返り、ずっと気になっていたことを思わず聞いてしまった。
「あなたは清宮さんとかいう人の探偵でしょ? なのになぜ執拗に友紀に固執するの?」
探偵は顎に手を当てて考えているようだった。かなりの沈黙があった。すると、思い立ったのか、顎から手をどけて話しだした。
「人生とはどこで誰に運命を握られているか、わかりません。清宮こころさんは私に依頼したのでしょうか? それとも……依頼するように誘導されていのでしょうか?
「え、それって?!」
「また、私の依頼人はずっと昔から一人です。その人物からの依頼は……『川井友紀を見守ること』と……いや、これ以上は守秘義務に触れるな……」
探偵は頭を掻くと、その場を離れようとした。
「ちょっと待ってください、探偵さん! どういうことなんですか?」
「私にとって有益な情報を持たない今のあなたとは取引の要素がありません。あなたが川井友紀の情報で有益なものを引き渡せるときにまた会いましょう。そのときは私のほうからお伺いしますから」
「待ってください」
「あ、そうそう。私は探偵さんではないです。『大友』ですからね」
そういうと、大友は去っていった。一体何が起こっているんだろう。兄の死を追いかけていたはずなのに……。
頭に友紀のことと兄のことがぐるぐるまた回りだした。
(何が本当なんだ……?)
ずっと回り続ける二つの悩みは次の日の大学まで響いた。授業に身は入らず、大好きな律法会という法律サークルの会合もサボって家に帰ることにした。私は何がしたのだろうか? 兄の死の真相を知りたい……そして友紀をどうにかしたい……悩みはただ深まっていくだけだ。大学の出口までいったところだろうか、突然、
「あの?」
「ああ!」
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまって、私のこと覚えてますか?」
「ああ、刑事の……安形さん?」
あの警察署の刑事さんだった。
「あの、実はお伝えしたいことがありまして、少し時間を割いていただきませんか? もちろん、調査のことです」
「ええ、今なら時間あります」
「では近くの喫茶店でも」
大学から少し離れた喫茶店に二人で入った。すると、座りしだい調査の話を聞いた。要約すれば、調査がほぼ自殺になっていて、担当がほとんど安形さんと村本という刑事だけになっているらしい。その村本さんもよくいなくなるらしい。まったくといったものだ。やっぱり友紀の言うとおり警察は役に立たない。でも、その中でひとつ興味深い話があった。
「ひかりさん……実は不思議なことがあって……大友という男をご存知ですか?」
「え!? なんでその名前も」
「ひかりさんもご存知なんですか!?」
「いや、知っていると言っても名前だけです。で、なんでその人のことを?」
「この前ね、警視庁のお偉いさんがわざわざうちの所轄までやってきてね。どうも村本さんが呼んだみたいで……その時に会議室での話を偶然耳にしてね。その時に出てきた名前が、大友という名前の男なんだよ。そのお偉いさんも凄く関心を持っていたみたいだし、今僕たちが担当している事件ってひかりさんのお兄さんの事件だけだし、なにか関連性があるかなって思って」
「実は……」
その大友から接触があったことを話そうか悩んだ。この状況で名前を出していいのか。
「実はですね、私」
言おうとした瞬間だった、
「あ、やっぱり楠本さんだ!」
喫茶店のテーブルの横に椋枝君が立っていた。
「あ、椋枝君……」
椋枝君は私の方を見て、そういった後安形さんを見て言った。
「あら、そちらの男性は?」
「ああ、私、刑事の安形といいます。実はひかりさんにこの前の事件のことでご報告をと思いまして」
「初めまして、僕は楠本さんの知り合いの椋枝と申します。お邪魔でしたね、失礼しました」
「いえいえ、私はちょうど帰ろうと思っていましたので。ひかりさん、協力が欲しければ連絡ください。では失礼します」
安形さんは去っていってしまった。言えなかったことを悔いるべきなのか、言わなくてよかったことなのかはわからないけど。気付くと、椋枝君は安形さんの座っていた席に座っていた。
「一緒に話してもいい?」
「いいよー」
「最近、楠本さんのことを見かけると、いつも浮かない表情してるから心配なんだよね。辛いとは思うけど、俺や川井に頼りなよ」
「……椋枝君、友紀って昔からあんなにクールだっけ?」
「ああ、それね。俺もしょっちゅう思うよ。小学校の頃なんかは俺のことは下の名前で『とーた』って呼んで、俺も当時の川井のニックネームの『やーちゃん』って呼んでたもんだよ」
「『やーちゃん』? どこにも友紀の成分ないけど?」
「ああ、昔の苗字からのニックネームだからね。俺も川井の親にいろいろあってから呼ばなくなったし」
「そういえば、友紀の旧姓知らないかも」
「え、あいつ言ってないのかよ?!」
「なんか、聞いちゃダメかなって」
「確かにね。まあ、言っても大丈夫だろうから言うけど、『谷津井』だったよ。詳しい話は俺も聞けないから知らないけど、当時は大変だったみたいだよ。今も、今のお父さんの名前ではなく、お母さんの旧姓使ってるのもなにか、思い入れがあるからじゃないかなって思ってるけど」
「そうだよね……友紀だけ、家族で苗字が違うんだもんね……」
妙にうざい夕日が私たちのテーブルに射してくる日だった。
推理小説のトリックってなんなのでしょう? 今回は私の意図があってあるトリック成分を入れてみたのですが、多分生かせない(笑) 難しいですよね。推理ものを書ける人は羨ましいですし、尊敬できます。嫉妬もしますけどね(笑)