第六話「村本の静かな戦い」byウタガメ
はい、今回はウタガメさんです! 以前いちどご一緒に書かせてもらった一人ですね! 話の根幹が動き出すした気がします! さてさてどうなるのでしょうか?
少々、不味いことになってきたな―
夜7時。少々人が少なくなった武蔵野警察署2階、男性用トイレの個室で村本警部は一人ごちる。
トイレ、と言っても彼にとってのそこは別に用を足すがための場所ではなく、言うなれば村本の妙な癖、あるいは悪癖がために占有される場所であった。
彼は某かの事柄を、誰にも干渉されず、誰にも見られずに熟慮しなければならなくなると決まってトイレに座り込むきらいがあるのである。
ことに今回の案件については、これでもう4度目だ。最初は事件が起きた翌日の夜。続いて楠本ひかりの取り調べの前。昨日の安形と楠本ひかりの接触の後。そして、今。
彼がトイレに籠り始める3分ほど前に彼のスマートフォンを鳴らした一通のメールが、かれこれ1時間がたった今もなお彼のしかめ面を照らし続けている。
ふと表示されている時間を確認し、ため息。そして、ぼそりと呟く。
「―大友幸一……とうとう奴まで出てきてしまったのか……」
スマートフォンの液晶に表示されっぱなしの見知りの交番勤務の警官からの連絡には、「大友幸一と楠本ひかりの接触を確認した」とある。その文面が、そこから想像されうる事態が、彼の頭をより悩ませているのであった―
ここで一つ、読者に種を明かさなければならないだろう。実は村本は自殺説を信じてなどいない。ひかりに見せた不機嫌そうな顔も、自殺説を押し付けるような言い回しも、あれは全てブラフであったのだ。
なぜそのような回りくどい真似をするのかと言えば、それはひとえに楠本椋殺人事件が、単純に犯人と被害者の関係の内に纏められない程度のスケールを秘めている可能性が大いに高いからに他ならない。簡単に言えば、新米デカである安形や、実妹のひかりを巻き込みたくないのである。
村本の考えはこうだ。自分はあくまで「使えないデカ」。そこに業を煮やした二人は勝手に調べを始めるはず。ところが、情報はそう簡単には手に入らないのだ。いや、入ることには入るかもしれないが、それはおそらくブラフであることが確実である。
ブラフばかりが彼らを覆うのには、また彼らの身内がどうの、等といった表のものでない理由が付きまとう訳だが、村本はこれを利用して時間を稼ぎたかったのだ。
彼らがことの核心を"知ってしまう"までの時間を。―
「……しかし、奴は現れた。……1週間だ。1週間も早く……!」
だからこそ、大友というジョーカーの余りに早すぎる接触は、村本にとって最も避けたかった事態であったのだ。そのために、わざわざ奴の現れそうなタイミングを計りながら複数人の警官に目を光らせて貰っていたはずなのに。
再び頭を抱えた村本は自責した。
接触の報告ではなく接近の報告が欲しいのだ、と言うべきだった。言葉が足りていなかったのだ。プロとしてあるまじき失態だこれは、と。
「……どこまで言われてしまったのだろうかね。少なくとも、"川井さんの娘"の件については…あるいは絶望的かも知れんな」
苛々とひとりごちて、そこでふと、村本は疑問を覚えた。
「……待てよ」
待て。何かがおかしい。―
楠本涼の遺体の刺し傷は、とても綺麗に刺されたものであった。勢いをつけて急激に刺されたものではなく、まるで寝ている人間にじっくりと刺したような。
防御痕が無いから誰かに刺されたものではなく自分で刺した、つまり自殺だ。そんな事を村本は楠本ひかりに言っていたし、実際"自分が罪悪感を感じている誰かさん"に自殺に追い込まれた、すなわち脅迫殺人であると村本は考えていた。だが、よく考えるとそれは妙な話である。
勢いもなく、じっくりと確実に自分の腹を刺せる程の胆力が楠本涼にあったのか?
「……本当に刺されたのか。それも、全く予想だにしていなかった身内から」
村本の目がきらりと光る。便座から立ち上がり、服装をただしてそこから出ていった。
事件の本質はそう簡単じゃない。が、核心は思った以上に単純な何かじゃないのか。
村本の考え方はまた一歩進展した。
小説を書くようになって、随分と思慮が深くなりました。私の場合は恐ろしく大きくいなった妄想にリアリズムを注入することで話を作るタイプなのですが、十人十色のようで……w 統制が取れないということは多様性の出現を意味さします。このリレー小説というルールで最低限の統制を図り、多様性をうむ。ちょっと現代の理想国家に近いですね(笑) さて、哲学的なお話はこれで終わりにして、次の方は「南国」さんです。PN命名は私がしたのですが、実はスケートをしていたような(笑) この方も初参戦です! ではではヽ(・∀・)ノ