ゲーム世界の命の価値
VRMMO世界に定住してみたの続きです。
「大変だー!攻略組に死人が出たぞー!」
「急いで司祭様を呼んで来い、あとバックアップもだ!!」
店の外から剣呑な叫びが聞こえる、どうやら攻略組のパーティーがへまをしたようだ。
「欲をかいたかな」
「トールさんの所のNo2パーティだそうですよ」
聞き耳スキルを持つ常連が外の会話を伝えてくれる。
どうやらギルド内の派閥争いが原因の様だ。
「ま、バックアップがあれば魂の復元のできるから冒険で無茶しちゃうのもわかりますけどね」
「それでも経験値はセーブした時に戻っちまうから大損なんだけどな」
「ですね」
VRMMOリトルガーデンの世界に閉じ込められた俺達は一種の精神生命体としてゲーム内で生活していた。
そんなある日ある回復魔法を使うプレイヤーが魂のデータをセーブしておけば死んでも生き返ることに気付いたのだ。
その日からリトルガーデン内の、いや世界の常識が変わった。
冒険者たちは冒険前にセーブをして自分達のバックアップを作り危険な作業をする者達はもしもの時の為にバックアップを取るようになった。
面白いのは付き合い始めた恋人達もバックアップを取るのが常識になったのだ。
マンネリ化してつまらなくなったり破局寸前の二人がやり直しをするためにバックアップデータを使って付き合い始めた頃に戻るのだ。
それまでに培った歳月を失ってしまうので攻略組でやりたがるものは少ないが定住組ではたまに見かける光景だ。
もっともデメリットも存在する。
まずバックアップしたデータなのでそれ以降の経験値は失われること。
次にセーブとバックアップにより復活の代金が高いこと、具体的には所持金の半分だ。
バックアップ技術は発見者のプレイヤーが完全に秘匿しており独占状態で、
情報の開示を求める者たちも居るが同じ様に秘匿している者達も居るので強くはいえない状態だ。
何事も先駆者が多くの利益を独占するのはいつの世もどの世界でも変わらないらしい。
「でも司祭様、これだけあこぎに稼いで恨まれないのかなぁ」
「まぁ恨まれてるだろうな」
だが彼は経済を回してくれる、彼が高い買い物をしてくれるので店はより良い品を仕入れる意欲がわく。
商人に高く品物を買い取って貰えると職人もやる気が出る。
それに彼のボディーガードは高給取りの高レベル冒険者で彼らはバックアップ代金を免除されている。
護衛のやる気も出るというものだ。
「金持ちケンカせずですねぇ」
「金払いが良い客は商人にとって神だからな」
司祭様の天下は他のプレイヤーがバックアップの方法を発見するまで続いた。
だがそれで彼が転落することも他のプレイヤーと顧客の奪い合いをする事もなかった。
あらかじめこのようなときが来ることを想定して彼は秘密裏に交渉したらしい。
知的財産保護法という概念のないファンタジーMMOの世界では同じ技術を持ったものが好き勝手振舞うのを取り締まる事は不可能だ。
だから彼らはお互いの住み分けを行った、リトルガーデンの世界は広い。
彼らはお互いの支配地域を設定し、それを犯さないことでお互いの王国を作る事にしたのだ。
遠くの安い店に買い物に行ったらガソリン代と無駄に使った時間の分近くの店で買ったほうが良かったということは多い。
彼らはそれに習って遠くの街で住み分ける事を選択したのだ。
こうして今日もVRMMOの世界は平穏に続いていくのだった。