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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十八日目~二十日目 荒野の街スカーレット
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89 浪速宝石商人

 ヴォルカン山脈の洞窟を進み、俺たちは荒野の街スカーレットを目指す。

 もっとも、バルメリオさんは【ドレッド大陸】に向かったという情報しかないため、本当にその町にいるかどうかは不確定だ。まあ、拠点となる街はあるだろうし、今は進むしかないな。


 俺はジャストガードによって岩の巨人、ゴーレムの拳を弾き飛ばす。このダンジョンのモンスターは全体的に遅く、ジャストガードが狙いやすい。

 出てくるモンスターは、毎度おなじみコウモリ系モンスターのジャイアントバット。二足歩行の豚さんオーク。パワーバカな巨人トロール。堅い岩石の体を持つゴーレム。そして、出来れば倒したくない可愛らしい子犬コボルトだ。

 戦闘を行いながらも、俺はアルゴさんに敵組織の情報を伝える。約束通り、次は彼が話す番だ。


「んー……まあ、そっちの事情は把握した。じゃあ、今度はこっちの番だな。数日前、俺たち【ROCOロコ】にコンタクトの魔石で救難メッセージが入ったんだー」

「へえ、誰からです?」

「それがおっかなびっくり、【7net(セブンネット)】のヒスイだったんだよなー」


 このゲームには魔石というアイテムが存在し、使用することによって一定効果の魔法を発動できる。俺も街の移動が出来るワープの魔石を何回か使っていた。

 コンタクトの魔石を使えば【交信魔法】コンタクトが発動され、他プレイヤーと会話が可能だ。これにより、ヒスイさんは【ROCOロコ】に助けを求めたのだろう。

 アルゴさんは大型の銃を掃射し、オークを次々に撃ちぬいていく。俺よりもはるかにレベルが高いのか、モンスターは一撃で消滅してしまった。見惚れる俺を尻目に、彼はさらに言葉を続ける。


「ヒスイはエルブでの事件がどうたらと濡れ衣を着せられ、同じ【7net(セブンネット)】のメンバーからギルドを追放された。それからなんだよなー、【ゴールドラッシュ】と衝突が激しくなったのは」

「……ヒスイさんは無事なんですか?」

「無事だから、ここヴォルカン山脈で俺たちを待ってるって事だな」


 どうやら、ヒスイさんは街で待っているわけではなく、このダンジョンの奥で待っているらしい。恐らく、彼を追い出した【7net(セブンネット)】のメンバーに追われていると見て間違いないだろう。

 アルゴさんはドリルアームのアイテムを使い、ゴーレムの装甲をぶち抜く。それに合わせて、俺もスパナによる連撃を繰り出していった。


「んー、お前の話しと合わせると、【7net(セブンネット)】は完全に【覚醒】持ちに乗っ取られてるなー」

「追放されたヒスイさんは、逆に幸運だったかも知れませんね……」


 完全に【7net(セブンネット)】は敵の手中に落ちたと予測できる。思えば、バルディさんもあの時点で既に【覚醒】のスキルを持っていた。【ゴールドラッシュ】との衝突といい、敵からの集中攻撃を受けた結果がこれだろう。

 【7net(セブンネット)】は攻略することを目的としていないお遊びギルドだ。登録人数が多く、実力も他より劣るので、格好の的になってしまったというわけだな。ヒスイさんも災難なものだった。

 アルゴさんは会話をしながらも、機械アイテムを使って次々にモンスターを倒していく。しかし、ここでヴィオラさんからのストップが入った。


「ちょっと! 貴方は強すぎるから手を出しちゃダメよ! ゲームにならないじゃない!」

「あー、すまん」


 やはり、アルゴさんのレベルは俺たちより遥かに上らしい。アイテムの威力はレベルに左右されないが、動きが速いので次々に使用できる。このダンジョンがヌルゲーになるのも当然だろう。

 ここ数日、ハードなレべリングを熟している事もあり、第一陣プレイヤーに追いつくほど俺たちは強くなっていた。だからこそ、四つ目の大陸である【ドレッド大陸】を進むことができたのだ。

 しかし、アルゴさんはそんな俺たちよりもはるかに強い。第一陣から休まずにプレイした廃人勢と見て良いだろう。


「アルゴさんは、ギルドマスターのミミさんより強いんですね」

「当然っすよ。アルゴ先輩はずっと生産ばかりしてるっす。このゲームはアイテムを作れば、経験値が入るっすからね」


 そう言えばそうだったな。イリアスさんの言うように、生産特化のプレイでも、ひたすらに極めれば大量の経験値が手に入る。アルゴさんはそういうプレイヤーなのだろう。

 しかし、ミミさんの方が弱いのは意外だ。彼女はギルドマスターなので、もっと高レベルになっていると思っていた。俺たちと大差ないのはどういう事なのか。


「ミミさんたちは生産でレベルが上がらないんですか?」

「私たちは生産市場ギルド。生産で経験値を手に入れることは出来ますが、市場の方で増えるのはお金だけです。ギルドマスターの私は、店舗経営で忙しいんですよ」


 なるほど……唯でさえ生産でのレベル上げは非効率なのに、市場操作にも時間を使えば弱いのも当然だ。彼女たちの目的は、あくまでも生産ランキングでの上位なのだから。

 それにしても、あのおバカなミミさんが経営活動をしているのか……【ROCOロコ】は比較的まともなギルドだと思っていたが、とんでもない裏事情が見えてしまった。

 俺たちの会話を聞いたルルノーさんが、こちらに興味を示す。彼は生産職のアイにある提案を促した。


「今から接触する【7net(セブンネット)】のヒスイさんは、特に市場関係に力を入れている商人マーチャントです。今後店舗を開くのなら、彼の意見を参考にされたらいかがでしょうか?」

「それは素晴らしいですね! 私、絶対ヒスイさんから色々聞きますよ!」


 商人マーチャント、戦闘や生産より経営や販売が得意なジョブだ。戦闘ではアイテムやお金を使いこなす独特な動きをし、お金さえあれば理論上最強とも言われている。

 アイテムを使うという点では錬金術師アルケミストと似ているな。そう言えば、ルルノーさんは戦わないのだろうか。錬金術師アルケミストは薬や魔石を使いこなして戦えるジョブと聞いているが。


「ルルノーさんはレベルが高そうですけど、やっぱり強いんですか?」

「残念ながら、レベルはあっても戦闘経験がありません。能力によるゴリ押しなら出来ますが、それでは迷惑なので控えさせてもらっています」


 なるほど、戦闘に全く興味なしという事か。レベルが勿体ないような気がするが、生産特化のプレイヤーとはこういうものだろう。

 そう言えば、ルルノーさんはダイブシステムの研究としてこのゲームをプレイしていると言っていた。当然、このデータ世界の知識も豊富に持っているはずだ。

 【ダブルブレイン】のこと、彼なら何か知っているかもしれない。近いうちに、話しをするのも良いかもしれないな。

















 【ディープガルド】時刻の5時。俺たちは洞窟を抜け、ヴォルカン山脈の山道ステージへと移る。

 新たに現れたのは、鳥形のモンスターキラーコンドルと、翼をもった色っぽい女性ハーピィだ。

 ハーピィは誘惑の状態異常攻撃を使うが、状態異常耐性を極めた俺には無意味。ミミさんとルージュが食らってメロメロになっているが、当然スルーする。食らった方が悪いな。


 やがて、山道の桟橋を渡り、大きな滝の前に出る。水しぶきがあたり一面に広がり、マイナスイオンが溢れ出ているような感覚だ。桟橋の上から見える滝は絶景で、こういう山のダンジョンも悪くはない。

 どうやら、ここが待ち合わせの場所のようだ。少し待機していると、俺たちの前に一人の男性プレイヤーが姿を現す。


「ミミやん、待っとったよ。なんぞ、予定よりようけ来たな!」

「こんにちは、彼らは途中でお供しました」


 アラビアンハットを被った褐色肌の男。至る所に宝石を身に纏い、胡散臭いえせ関西弁を喋っている。こういう切っ掛けがなければ、まずお近づきになる事はないだろう。

 しかし、彼は【7net(セブンネット)】のギルドマスターであるヒスイだ。かなりの廃人プレイヤーで実力も高いので、一応ヴィオラさんは自己紹介をする。


「私はギルド【IRISイリス】のギルドマスター、ヴィオラよ」

「いりす……聞かへん名前や。いつ作ったんや?」

「一ヶ月前ぐらいかしら。今後ともよろしくね」

「よろしゅうなー」


 胡散臭いが悪い人ではなさそうだ。彼は大笑いをしながら、自らの境遇を話していく。


「いやー、ほんまに助かった助かった。 敵も味方も分からん状況で、頼れるんはミミやんだけやったん」


 全然笑えない状況だな……ここまで無事だったのが奇跡のようなものだ。

 しかし、油断は出来ない。彼が【覚醒】持ちならこちらの身に危険が及ぶ。失礼だが、確認だけはした方が良いだろう。


「あの、失礼ですけど【覚醒】のスキルは持っていますか?」

「それそれ! そのスキルのせいでわい、命からがらここまで逃げてきたっちゅうわけや」

「つまり無事であると」


 こっちの質問に答える気はないらしい。しかし、だいたいの状況は読めてきたぞ。

 彼は仲間に追われる原因となったのが、【覚醒】のスキルだと知っている。流石は情報掲示板ギルドだ。敵の存在を認識しているのなら、ここまで逃げきれたのも納得できる。

 現状、取り残されてるのは生産市場ギルド【ROCOロコ】だけか。状況を理解していないミミさんは首を傾げ、ルルノーさんは興味津々に会話に入ってくる。


「【覚醒】……使用すればバーサーク状態になり、全てのステータスが上昇するスキルですよね。それが何か?」

「最近、【覚醒】を持っているプレイヤーがバーサクで暴れているみたいだ。俺もよく知らないけどなー」


 アルゴさんが適当に説明し、その場は適当に誤魔化した。戦闘が苦手なこのギルドに、物騒な話しを持ち出したくないのだろうか。俺としては、ルルノーさんに協力してもらいたいんだけどな。

 だけど、彼がそういう意向なら仕方がない。【ROCOロコ】の協力は諦めて、他を当たるしかないだろう。

 だが、話すべき事は話しておく。俺は【覚醒】のスキルを持っているので、後に話がややこしくなるのは御免だ。


「僕も【覚醒】のスキルを持っています。でも、【状態異常耐性up】のスキルを鍛えて対策しているんですよ。出来れば、他のプレイヤーにもバーサク対策を促してほしいです」

「分かりました。考えておきます」

「わい、仲間全滅してもうたわ。しゃべる奴がおらへん!」


 ミミさんは俺の言葉を聞き入れ、ヒスイさんは全く笑えないジョークをかます。これで、少しでも被害を減らすことが出来ればいいのだが、難しいだろうな。

 俺の境遇に興味津々なルルノーさんは、熱心にメモを取っている。やがて、彼は一つのアドバイスを導き出した。


「なるほど、【覚醒】は使用スキルです。使えば使うほどに成長していきます。【状態異常耐性up】のスキルをもっと鍛えて、用心に越したことはないと思いますよ」

「レンジ……! ボクとの約束は終わりだ! 用心しとけ!」


 ルルノーさんの言葉を受け、ルージュがすぐに気を使ってくれる。あんなに自分勝手だった子が、気配り出来るようになったんだな。先輩としては実に嬉しい。

 俺はこのアドバイスを受け、【状態異常耐性up】のスキルを再び鍛えることにする。【防御力up】のスキルは充分強くなったので、当分はノータッチで行くつもりだ。

 戦闘マニアのアイは少し残念そうな顔をしている。まあ、対人戦ではあまり使えない【状態異常耐性up】は、彼女にとって不必要なものだろう。

 しかし、自分の身を守るためにも、これは譲れない。俺は初めからこのスキル一本なのだから。

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