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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十八日目~二十日目 荒野の街スカーレット
89/208

88 炭鉱の大陸へ

 俺たちは【ドレッド大陸】に向かうため、一度【イエロラ大陸】のエンダイブにワープする。

 【ドレッド大陸】は【イエロラ大陸】と陸続き。汽車を使えば、一気に移動することが出来るだろう。

 しかし、俺たちは討伐依頼を全く熟していないので、許可書が下りない。初期の状態で移動できる【イエロラ大陸】とはわけが違った。

 当然、移動手段は徒歩しかない。山を一つ超える必要があるが、まあ仕方ないな。ヴィオラさんは日差しを手で遮りつつ、街の外へと歩いていく。


「相変わらず、【イエロラ大陸】は暑いわね……」

「また砂漠越え……」


 ルージュはうんざりしているが、これも修行だ。サンビーム砂漠のモンスターは、今となっては雑魚ばかり。次に控える山越えが重要だな。


「【ドレッド大陸】の入り口に立つヴォルカン山脈。奥に進まなければ、大したダンジョンじゃないわ。ぱぱっと突っ切りましょ」


 意外にも山のダンジョンは初めてだな。ステージ4は山ステージということだろう。砂漠よりマシだが、これも結構キツそうだな。まあ、このゲームに疲労はないのだが。

 俺たちが砂漠に歩み進めると、女ノランがそれを止める。どうやら、彼女はこの冒険に付き合えないらしい。


「ノランちゃん、今日は用事があるからここに残るよ。後で追いつくから、先に行っててね」

「分かったわ。でも、用事って……」


 ヴィオラさんが詳しく聞こうとすると、ノランは突然走り出す。そして、こちらに振り返って一言だけ叫ぶ。


「乙女のヒ・ミ・ツ!」

「おと……め……?」


 性別不明だが、まあ乙女という事にしておこう。しかし、どうも怪しいな……

 すでにログインしたという事は、この世界での用事ということだろう。また、ライブか何かだろうか。

 まあ、どうでもいい事だろう。俺はそれ以上気にすることなく、ヴィオラさんの後に続いていった。















 俺たちはモンスターから逃げつつ、サンビーム砂漠を北に進む。このメンバーで旅をするのは、何だか久しい感じだ。

 途中、【イエロラ大陸】の三遺跡であるエクリュ遺跡の位置を確認する。ここは倒壊した古代の遺跡のようなダンジョン。内部を進む他のダンジョンとは違い、外部を進むようなデザインだ。

 いくつもの石の柱が立ち並んでおり、何本かは倒れて砂に沈んでいる。ミステリアスな砂漠とマッチしており、結構好みのダンジョンだった。


「今日は行かないわよ。またいつかね」

「レベリングをするには少し遠いですね」


 街から遠いし、不人気ダンジョンだろう。【イエロラ大陸】の過疎化が心配になってくる。

 だからこそ、他プレイヤーとの接触にはすぐに気づく。特に、それが知り合いなら一発で認識できるだろう。


「みんなー! お久しぶりっすー!」

「イリアスさん!」


 ゴーグルを付けた褐色肌の女性。生産市場ギルド【ROCO(ロコ)】の機械技師(メカニック)、イリアスさんだった。

 彼女の横には同じ機械技師(メカニック)である武将髭の男、アルゴさんも付いている。しかし、彼ら以外にも意外な人物が二人いた。

 一人は【ROCO(ロコ)】のギルドマスター、麦わら帽子の農家(ファーマー)ミミさん。もう一人は、眼鏡をかけた錬金術士(アルケミスト)ルルノーさんだった。


「こんにちは」

「お知り合いですか。これはまた面白い。私は科学者ですけど、運命というものを感じてしまいますね」


 相変わらずドライなミミさんに、喋りまくるルルノーさん。どうやら、彼は【ROCO(ロコ)】のメンバーだったようだ。

 ルージュは真っ先に、貰った薬のお礼を言う。あれのおかげでこいつは助かったからな。


「く……薬ありがとう……! 助かったぞ!」

「いえいえ、お役に立って良かったです」


 何という聖人だ。笑顔が非常に眩しい。

 それにしても、なぜ【ROCO(ロコ)】のメンバーがエクリュ遺跡に訪れているのか。本部のエンダイブに近いので不自然ではない。しかし、どうにも気になってしまう。

 毎度おなじみだが、俺より先にアイが疑問を投げた。


「こんなところで何をしているんですか? アルゴさんたちは【グリン大陸】駐在ですよね?」

「んー? ちょっとした取引だ。俺とイリアスは護衛なー」


 だらけた態度でアルゴさんが答えるが、あまり答えになっていない。ヴィオラさんが更に踏み入って詳細を尋ねる。


「ふうん、誰と取引? なんでエクリュ遺跡に来たの?」

「ここに来たのは私の趣味です。すぐにでも【ドレッド大陸】に向かって、【7net(セブンネット)】のヒスイさんと接触しますよ」


 ルルノーさんが言うには、ここに来たのは俺達と同じ寄り道らしい。そして、目的地も同じというわけか。

 そうなれば、当然一緒に行く流れになるだろう。アイがこのチャンスを見過ごすはずがない。


「丁度いいです! 私たちも【ドレッド大陸】に行くんですよ! 一緒に行きましょう!」

「んー? 俺は良いがギルドマスター判断だなー」


 そう言って、アルゴさんはミミさんに判断を仰ぐ。彼女は麦わら帽子で砂漠の風を防ぎつつ、アイの提案に許可を出した。


「かまいませんよ。では、行きましょう」


 そう言って、ミミさんは率先して砂漠を進みだす。しかし、すぐにルルノーさんがそれを止めた。


「ミミさん、真逆です」

「……!? よく出来ましたね。貴方をテストしました」


 おいおい、この人は何を言っているんだ……絶対まともな人だと思っていたが、一気に雲行きが怪しくなってきたぞ。いや、方向音痴なのは仕方がないが。

 しかし、それだけではなかった。ここから一気にミミさんの崩壊が始まる。その切っ掛けを作ったのはイリアスさんの一言だ。


「旅は道連れ世は情けっす! 行くっすよミミっち!」

「旅はみちず……呪文?」


 駄目だこの人。ことわざを理解していない。呪文だと思ってるよ……

 会話がドライだったので気付かなかったが、もしやものすごくバカなのでは……試しに、俺はミミさんに簡単な計算問題を出してみる。


「ミミさん、100×10=答えは?」

「何ですか急に……」

「良いですから」


 彼女は両手の指を使って必死に計算する。物凄く焦っている様子だが、やがて正しい答えにたどり着いた。


「はっ……1000です!」

「正解」


 滅茶苦茶嬉しそうな顔をするミミさん。可愛いな畜生。まさかのアホの子だったか……

 そうやって見惚れていると、アイにジト目で睨まれる。待て待て落ち着いてくれ。俺は浮気なんて絶対にしないぞ……って、俺はお前の恋人じゃないからな!


「レンジ……! どうした!」

「何でもない!」


 体が熱くなっていると、ルージュに心配されてしまう。今の俺は少しおかしくなってるな……

 アイの好意なんて、今までは怪しくて何も感じなかった。しかし、時間がそれを変えたのだろうか。少しずつ、彼女を意識するようになってしまった。

 ヴィオラさんとイリアスさんが、ニヤニヤとこちらを見ている。ものすごく鬱陶しい。


「さあ、早く行きますよ! 山越えは大変ですから!」


 この火照りは砂漠の暑さによるものだ。そういうことにしておこう。

 俺たちギルド【IRIS(イリス)】はギルド【ROCO(ロコ)】と共にヴォルカン山脈を目指すのだった。












 【ディープガルド】時刻の12時。ようやく俺たちはサンビーム砂漠を超え、【ドレッド大陸】に足を踏み入れる。

 一面が赤茶色の土で覆われており、地面が非常に硬い。そして、目の前に広がるのは広大な山脈。木々は一切生えておらず、まるで巨大な岩の絶壁だった。


「山は山でも日本のとはまるで違うな……」

「まさに、山脈という見た目ですね。あそこにトロッコの線路がありますよ」


 リュイが指差した先には、錆びた線路が敷かれている。まさか、乗る流れになるんじゃないよな? ガタガタに見えるし、線路が繋がっている保証もない。本当に勘弁してもらいたかった。

 イリアスさんが詳しくこの山を解説していく。


「ヴォルカン山脈、【ドレッド大陸】の南にそびえ立っているダンジョンっす。鉱山としての役目は終わって、今はただの洞窟という設定っすね」

「山越えと言っても、洞窟が中心になりそうね。【ドレッド大陸】は汽車で移動したから、私もこの場所は初めてよ」


 どうやら、ヴィオラさんもここは初めてのようだ。

 そうなれば、詳しいのは【ROCO(ロコ)】のメンバーか。生産職ばかりだが、戦闘は出来るのだろうか? まあ、俺よりレベルは高いよな。

 そんな事を考えていると、突然アルゴさんが俺の手を引く。そして、他メンバーのいない場所に移動し、会話を投げかける。


「レンジ、あの闇組織の話し。俺も色々と調べたぞー」

「ありがとうございます」


 俺はだいぶ確信に近づいている。新たに発覚することはないと思うが、せっかく彼に話を持ち出したんだ。協力してくれるというのなら、喜んで話を聞きたい。

 アルゴさんは生産市場という観点から、【ダブルブレイン】について調査していた。それは俺たちが携わらない事なので、期待が膨らむ。


「実は最近、【7net(セブンネット)】が不穏な動きを見せてててなー。今回、この大陸に来たのもギルドマスターのヒスイと接触するためだ」

「それと闇組織……いえ、【ダブルブレイン】とどんな関係が……」

「あー、待てって。情報が被るかも知れんから、先にお前の方から話してほしい。怪しまれるから、歩きながらだなー」


 そう言って、彼はミミさんやヴィオラさんの元へ戻っていく。俺も彼に続いてパーティーへと歩いていった。

 アルゴさんの言い方から察するに、【ROCO(ロコ)】の方も敵の影響を受けているらしい。その結果、今回のようにギルドマスター自らが移動することになったのだろう。これはまた、雲行きが怪しい所だ。
















 ヴォルカン山脈、洞窟と山登りを交互に熟す【ドレッド大陸】らしいダンジョンだ。

 まず俺たちは洞窟の中を進んでいく。道には松明が灯っており、視界はそこまで悪くない。今までのダンジョンと違って通路が狭いため、モンスターとの戦闘は接近戦となるだろう。

 これは【起動スタンドアップ】を使わない方が良いな。仲間と接触して大惨事になる事が目に見える。

 当然、グレネードのような爆発系アイテムも使えない。こっちは、機械技師メカニック三人なのに上手く動けないな……まあ、このスパナで何とかするしかないな。


「レンジさん! 敵モンスターですよ」


 出てきたのは槍を持った豚さん、オーク。醜いモンスターと聞いたことがあるが、安定のデフォルメデザインだ。可愛く二足歩行する豚さんにしか見えない。

 接近戦が得意なリュイが前に出て、カウンタースキルによって斬りつけていく。大きな戦いでお留守番だったが、やっぱり彼は強い。頭の悪いオークの攻撃など、簡単に受けて返り討ちにしてしまう。


「スキル【燕返つばめがえし】!」


 相手のガードを切り崩し、そこから斬り返して一気に攻める。レベルが上がり、PPパワーポイントも上昇したため、消費の激しい【燕返つばめがえし】の使用頻度も上がっていた。

 俺もスパナで他のオークの攻撃を弾くが、精々遅延にしかならないな。まあ一応俺は盾役、敵の攻撃をいなしてリュイやルージュの攻める隙を作るだけだ。

 俺たちが消費したのを見計らって、ミミさんがサポートスキルを使用する。たしか、農家ファーマーは自然を操るドルイドの役割も持っていたな。


「スキル【生命の木】。木に近づけば回復します」

「ミミっち、そこ遠いっすよ……」


 岩陰に隠れながら、ミミさんは地面から一本の木を生やす。しかし、イリアスさんが言うとおり、そこはあまりにも遠くて意味がない。何がしたいんだ……

 アルゴさんは大きくため息をつき、俺の方へと近づく。そして、先ほど約束した通り、敵組織についての会話を再開した。


「レンジ、まずはここ数日のことを話してくれ。戦いながら、出来るよなー?」

「出来ますよ。僕が終わったら、貴方の番ですからね」


 オークを倒すと今度は棍棒を持った巨人、トロールが出現する。洞窟が狭いため、物凄く動き難そうだ。しかし、こっちだって油断をする気はない。

 俺は戦いながらも、アルゴさんに【ダブルブレイン】について知っている事話していく。彼は熱心に聞き、そして真剣に考えてくれた。

 俺は幸運だ。周囲の人間にこれほどまでに恵まれているのは本当に奇跡だろう。この奇跡を噛みしめつつ、俺は全ての情報を話し終えるのだった。

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