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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十四日目~十七日目 人魚の街セレスティアル
83/208

82 最高のエンターテイーメント

 マシロの【魔法陣】を止めたことにより、敵の計画は一気に崩れる。不意打ちだった事もあるが、それでもルージュの攻撃タイミングは見事だった。

 俺と顔を合わせていないこの二日間。どうやら彼女も勉強していたらしい。一度、ギンガさんに厳しく言われ、へこんだことが成長に繋がったな。

 敵の目的を阻害したことにより、ルージュは更に行きおいづく。彼女は再び魔法を詠唱し、バルメリオさんの支援へと入った。


「スキル【氷魔法】アイス!」

「ちいっ……!」


 凍結魔法はダメージだけではなく、行動を阻害する効果もある。攻撃を受けないイデンマさんだが、それを恐れてか、魔法を上手く逃げかわす。流石は盗賊シーフ、回避行動はお手の物だな。

 俺はヌンデルさんを警戒しつつ、ルージュに弄れたことを言う。


「馬子にも衣装だから、防具はいらないんじゃなかったのか?」

「あ……アイに作ってもらったのだ……! 装備しない訳にもいかんだろ!」


 口を三角に尖らせ、彼女は頬を染めた。アイのやつ、粋なことをしてくれるじゃないか。

 俺がいない間、みんなに励まされてルージュは再起したのだろう。これで、晴れてこいつは赤魔道士の仲間入りだな。


 ルージュの参入だけではなく、ノランが現れたことにより状況が変わる。ヌンデルさんはニッと笑い、少女姿の彼女に構えた。


『来てくれたんだな。嬉しいぜミース!』

「ヌンデルくん!」

『昨日は情けない所を見せちまったからな! お前に認められなかったことが、心残りだったんだぜぇ!』


 彼は散々エンターテイメントを否定されてたからな。彼は彼なりに、ショックを受けていたのかも知れない。

 ノランはその場で回り、【防具変更】のスキルを使用する。それによりタキシードの少年に姿を変え、俺の後ろへとついた。


「このノラン様。悪い奴を許すわけにはいかないぜ? スキル【ワルツ】!」

『その悪い奴の意地! 見せてやるぜ! スキル【回復魔法】リジェネート!』


 ノランとヌンデルさん、二人が使ったスキルは両方ともオート回復させるもの。それにより、俺とフェンリルは少しずつライフを回復していった。

 バッファー兼、ヒーラー対決か。人を楽しませ、支援することが最高のエンターテイメントという事だろうか。

 何にしても、俺のやることは一つ。先に使役獣を叩くだけだった。


 俺たちの戦いにノランが参入し、ヴィオラさんは安心した様子だ。彼女は俺に背を向け、イデンマさんのほうを睨む。


「レンジ、ごめん! 私、やっぱりバルメリオの奴をほっとけない! ぶん殴ってでも協力してやる!」

「僕も同意ですよ。ヌンデルさんは僕たちに任せてください!」


 ヴィオラさんは剣を強く握りしめ、バルメリオさんの支援へと向かった。

 その間にも、ケットシーの魔法がこちらへと放たれる。最上位の【土魔法】が足もとを襲うが、同時にノランの【ポルカ】が掛けられた。

 突き出した地面がロボットの下部に命中する。しかし、ノランの【ポルカ】によって魔法防御力が上昇し、何とか大ダメージを回避した。【ワルツ】によるオート回復も合わされば、何とか魔法攻撃にも耐えれそうだ。


 こちらの戦闘は安定したが、バルメリオさんたちの方は何やら揉めている。どうやら、ルージュが支援に入ったことが気に入らないらしい。

 確かに、イデンマさんはバルメリオさんにとって宿命の相手だ。しかし、こちらは人数で勝っているのに、わざわざ一人で戦う必要はない。俺たちは、彼の事が心配だった。


「ルージュ、何で邪魔をした! あいつは俺が……」

「聞こえんわ……!」


 バルメリオさんの言い分をルージュは振り払う。彼女はメイスを突き付け、大きく胸を張った。


「貴様がボクたちの言葉を聞かないなら、ボクたちも貴様の言葉など聞かん! まさに銀河応報……」

「因果応報だ! 別に上手いこと言ってないからな!」


 ギャグなのか本気なのか、彼女の場合はよく分からないな……

 ともかく、今は言い争っている場合ではない。この間にも、イデンマさんは攻撃の手を緩めなかった。

 彼女は素早い身のこなしで近づき、ナイフを振り上げる。しかし、その攻撃はヴィオラさんの剣によって受け止められた。やはり、彼女が支援に入ったのは正解だったな。


「ルージュちゃん、バルメリオは私に任せて! ギルドマスターとして責任を持ちたいの!」

「うむ……! 頼んだ!」


 イデンマさんが放つ高速の斬撃を、ヴィオラさんは華麗な剣さばきで受け流していく。やはり、彼女はこういうスピード勝負が得意なのだろう。素早さで優っている盗賊シーフに対して、ほぼ互角に渡り合っていた。

 もっとも、まだイデンマさんは【覚醒】のスキルを使っていない。やはり、バルメリオさんと協力できなければ、勝ち目などなかった。


 バルメリオさんから離れたルージュは、自らが戦うべき相手を見定める。

 目の模様が入った目隠しをした僧侶プリースト、マシロ。【魔法陣】が邪魔されたことにより、彼女も戦闘に参入することになる。この少女、完全にルージュをマークしていた。


「マシロの邪魔した……ピッタリマーク……」

「ボクの相手は貴様だ……!」


 まさかこいつ、一人で戦う気かよ! 支援に入りたいところだが、プロテクトで防御力の上がったフェンリルを突破できない。おまけに、敵にはケットシーの攻撃魔法と、ヌンデルさんの支援魔法がある。組合を行うので精一杯だった。

 イデンマさんはヴィオラさんとの戦闘を放棄し、一度その場から離れる。そして、少し焦った様子でこちらへの挑発を行った。


「無駄な足掻きだ。低レベルが二人入ったところで、何が出来る!」

『だが、士気は上がった』


 そんな彼女の言葉を仲間のヌンデルさんが否定する。確かに、彼の言うとおりだ。たとえ戦力として心持たなくても、この場の流れは変わったのは事実。戦闘に置いて、士気と好機というものは非常に重要だった。

 イデンマさんは彼の言葉を認める。だからこそ、本気で俺たちを潰しにかかった。


「士気か……ならば、もう容赦はない! スキル【覚醒】!」

「スキル【スラッシュ】!」


 イデンマさんは右目に手を当て、そこにナイフの紋章を浮かび上がらせる。そんな彼女に対し、ヴィオラさんはスキルによって速攻勝負に移った。

 剣によって切り裂かれるイデンマさん、しかし彼女の傷口はすぐに再生する。こんな攻撃では全く意味がない。俺がヌンデルさんに行ったように、とにかく再生力の限界までラッシュを続ける以外に勝機はなかった。

 勝負の要は、正確な攻撃によるサポートが得意なバルメリオさん。ヴィオラさんは彼に向かって叫ぶ。


「バルメリオ……気持ちは分かるけど我慢して! みんな貴方が心配なのよ!」

「あいつは俺のけじめだ! それを前にして、お前らに頼れって言うのか!」

「そうよ! お願い!」


 ギルドマスターとして、彼女も大きく成長しているという事か。ずっと避けていたハリアーさんとの接触が、良い起爆剤になったみたいだな。上から目線になってしまったが、実際そうなので仕方ない。

 ヴィオラさんは一人、イデンマさんと武器を打ち付け合う。しかし、バルメリオさんはサポートに入ろうとしなかった。助けられた事が気に食わないのか、受けた毒も治癒していない。少しずつ、彼のライフは削れていく。


『おいおい、ミスター。他の戦闘が気になっちゃ、昨日の俺と同じだぜェ! スキル【ぶん回し】!』


 俺がバルメリオさんに気を取られていると、突然ヌンデルさんの鞭が打ち付けられた。ロボットがバランスを崩し、危うく転倒しそうになる。

 あと少しで、ヌンデルさんの【心意一体】とプロテクトの効果が切れるんだ。他が気になって粘り負けたら元も子もない。今は仲間を信じるしかないんだ。

 ヌンデルさんが大声を上げたことにより、バルメリオさんがこちらに視線を向ける。目と目が合った俺は、彼を軽蔑の目で睨み付けた。

 すると、ようやく自らの情けなさに気づいたのか。バルメリオさんの瞳に一筋の炎が宿る。


「あーくっそ……俺は駄々をこねるガキか……」

「スキル【ハンティング】!」


 戦闘中に麻痺の効果を受け、動きの鈍ったヴィオラさん。そんな彼女に、容赦なくイデンマさんのスキルが放たれる。

 バルメリオさんは即座に銃弾を放ち、振り上げたナイフを狙撃した。見事、銃弾は盗賊シーフのナイフに命中し、その攻撃を弾く。ようやく、彼も冷静になってきたみたいだな。

 バルメリオさんはアイテムバックから毒消しを取り出し、それを一気に飲み干した。そして、サングラスを取り外し、ヴィオラさんの後ろに付くように陣形を変える。


「安心しろ。頭は冷えたさ。二人でこいつをぶっ倒す……!」

「やってくれたな……バルメリオ!」


 本来、銃士ガンナーは前衛向けのジョブではない。それに加え、バルメリオさんは正確な攻撃を得意とする慎重派だ。彼が後衛に回ったのは、この戦いに置いて非常に大きかった。


 これで俺も安心して、ヌンデルさんとの戦いに集中できる。今までは、ノランに負担をかけすぎていたな。

 俺は盾、しっかり彼への物理攻撃を塞がなければならない。


「スキル【ボレロ】! そろそろ壁を突破するぜ。子猫ちゃん」

「誰が子猫ちゃんだ。スキル【衛星サテライト】!」


 ノランは薔薇の花をくわえ、熱いステップで【ボレロ】を踊る。これで攻撃力が上昇し、ヌンデルさんの壁だって打ち破れるだろう。

 鉄くず二つで小型のロボットを作り、俺はサポートとして横に付けた。攻撃のためではなく、防御のためのサポートだ。今は時間を稼ぐのが最優先なのだから。


『そうか……こんな所にあったんだな……俺の求める世界最強……最高のエンターテイーメント……』


 満ち足りた表情で、ヴィオラさんたちを見つめるヌンデルさん。一体何を見つけたのだろうか……

 覚悟を決めた使役士テイマー。いよいよ、彼は最後の攻撃に移る。


『お前たちの登場で絶望は希望に変わった! 最高にショーを盛り上げてくれるじゃねえかァ!』


 ヌンデルさんはジョージをこちらに走らせ、リンゴに魔法を詠唱させた。自信も彼らのサポートに徹底し、本格的に俺たちを潰しに掛かっているな。

 だが、俺はもう負ける気なんてしなかった。既に敵の【覚醒】が限界なこともある。しかし、それ以上に、仲間が俺の力を最大限まで高めてくれているように感じたからだ。

 俺は鉄くずと鉄鉱石にスパナを打ち付け、フェンリルのジョージを迎え撃つ。しかし、ここでヌンデルさんのサポートが入った。


『スキル【防御魔法】バリアー!』

「スキル【発明クリエイト】! アイテム、ドリルアーム!」


 彼が使用したのは【防御魔法】。悪いが、ドリルアームに防御は無効だ!

 壁を容易く破壊し、ジョージの体にアイテムを打ち付ける。【ボレロ】の効果もあり、その威力は絶大だ。一気に彼のライフを削り取った。


「レンジ! リンゴの魔法が来るぞ!」

「ああ、守りは頼んだ!」


 リンゴのステッキから放たれる最上位の【雷魔法】。ノランが俺の前に立ち、その雷を脳天から受け止めた。

 ヌンデルさんはこの隙にジョージを回復させようとする。だが、それは俺の計算通りだ。

 彼はまた同じ罠に掛かってしまったらしい。なぜなら、俺は初めからジョージを狙ってなどいなかったのだから。


「後衛を先に潰すのが常識です! また引っかかりましたね!」

『なに……!?』


 【衛星サテライト】で作った小型ロボットが、後衛のケットシーへと回り込む。そして、彼女に向かって飛びかかり、少しずつダメージを与えていった。

 ここまで削れば、あとはバッファーでも充分に倒せる。任せたぞノラン!


「レディを傷つけるのは心が痛むが……勘弁してくれよ」

『ニャニャ……!』


 フェンリルとヌンデルさんを走り抜け、ノランがナイフによってリンゴを切りつけていく。やがて、彼女のライフはゼロとなり、その場に倒れこんでしまった。

 それと同時に【覚醒】の効果が切れ、ヌンデルさんからジョンが分離される。彼の体力も限界、とても戦える状態ではない。

 残る敵は実質ジョージのみ。流石のヌンデルさんも両手を上げ、文字通りお手上げの様子だった。


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