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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十四日目~十七日目 人魚の街セレスティアル
82/208

81 赤い彗星

 赤い珊瑚の下、そこに俺たちの目指す標的がいた。

 宙に浮かぶ水泡、空中を飛び回る魚たち。それらを視線で追っているのは、目隠しをした少女マシロ。彼女の隣には赤いマフラーのイデンマさん、三体のモンスターに囲まれるヌンデルさんが立っていた。


「待っていたぜミスター!」

「なぜここが分かった……! リルべとビューシアは何をやっているんだ……」


 二人はマシロを守るように立ち塞がり、こちらに向かってじりじりと近づいてくる。彼らを倒さない限り、この街を守ることは出来ないって事か。

 前回と違い、俺はロボットの操作に慣れている。レベルも上がり、敵の行動パターンも把握済み。有利に戦闘を進めれる自信があった。

 なにより、先輩のヴィオラさん、バルメリオさんと協力できるのは大きい。【IRIS】のギルドマスターは、ヌンデルさんたちに剣を向けた。


「貴方たちの思い通りにはさせないわ! 私たちギルド【IRIS】が相手よ!」

「イデンマ! 今度こそお前をぶっ倒す!」


 バルメリオさんは連携を取ることなく、一人でイデンマさんの方へと銃撃していく。彼がそのつもりなら、こっちも協力する筋合いはない。ただ、健闘を祈る。それだけだ。

 俺は彼らの戦いを避けるように移動し、ヌンデルさんを誘い出す。彼はそれを察したようだが、受けて立つつもりらしい。


「昨日のようにはいかないぜ。今日はチーム連携で戦わせてもらう。スキル【覚醒】!」

「ヴィオラさん、彼は二人で倒しますよ! スキル【覚醒】!」


 ヌンデルさんと俺は、互いに同じスキルを発動させる。流石に使役獣の方は分断できないか。昨日はその方法で勝ったから、当然敵も対策を打つだろう。

 俺たちがそれぞれ戦闘を開始すると、僧侶プリーストのマシロが【魔法陣】を描き始める。よっぽど眠たいのか、彼女はウトウトとした様子だ。この調子なら、描き終わるのに時間を要しそうだな。

 なら、とりあえずはヌンデルさんとの戦闘に集中だ。彼はこの戦いを最後に、俺との決着を付けるつもりらしい。


「これで最後だ! 行くぜミスタァァァ! スキル【心意一体】ィ!」

「スキル【起動スタンドアップ】!」


 俺はスキルを発動し、ロボットに乗り込む。マシロに【魔法陣】を描かせるわけにはいかない。即効で勝負を決めるしかなかった。

 そんな俺に対し、ヌンデルさんは使役獣との一体化スキルを使用する。彼が選んだのはユニコーンのジョン。僧侶プリーストに近い戦略を取る支援タイプのモンスターだ。


『悪いが慎重に行かせてもらうぜ! スキル【防御魔法】プロテクトオール!』

『ワオーン!』


 防御力を上げる全体スキルで、自身と使役獣を強化する。それと同時に、フェンリルのジョージが【噛み付き】による攻撃態勢に移った。

 アタッカーはヴィオラさんに任せて、俺は防御に徹底しよう。ジョージの牙を防御で受け止め、カウンターのパンチを放つ。ジャストガードは出来なかったが、反撃に移れたので結果オーライだ。

 フェンリルは受け身を取り、【バックステップ】によって後方へと下がる。身のこなしは速いが、威力は大したことない。ロボットの装甲で充分に対処できた。


『なるほど……元々堅いロボットの装甲を高めるため、【防御力up】のスキルを鍛えているわけか』

「まぐれですけどね!」


 ヌンデルさんは感心しているが、この構成になったのは偶然だ。まあ、結果として有用に働いてくれたので良しとしよう。

 敵は俺のステータスを読み、物理攻撃の使用を控えた戦略に出る。ジョージを盾役に回し、自身とケットシーの二人で魔法の詠唱を始めた。


『なら、魔法で対抗だ! スキル【光魔法】シャインリス!』

『ニャニャニャー!』


 ヌンデルさんは【光魔法】、リンゴは【雷魔法】。それぞれが強力な魔法を放つ。

 空から降り注ぐ光と雷。ロボットの機動力を活かし、一気にその場から退避する。しかし、魔法の詠唱が早く、【光魔法】の方を食らってしまった。

 直撃ではないがダメージは大きい。機械技師メカニックは科学のジョブ。とにかく魔法攻撃には弱かった。

 それに対し、敵は魔法使いタイプが二人。相性最悪だな……

 俺の弱点を知るヴィオラさんは、ジョージとの戦闘を放棄し他の二人にスキルを放つ。


「魔法職を先に仕留める! スキル【バッシュ】!」

『させねえなぁ。スキル【防御魔法】バリアー!』


 広範囲に衝撃波を放つ【バッシュ】。それをヌンデルさんは【防御魔法】によってガードした。

 このバリアーは、前方に壁を出現させる魔法らしい。素早さを集中的に上げ、手数で攻めるヴィオラさんには鬱陶しい魔法だ。

 しかし、一応威力の高いスキルも使えるらしい。彼女は片手剣を強く握りしめ、ヌンデルさんに向かって思いっきり叩きつける。


「私は軽剣士なのよ! 【防御魔法】は嫌いなんだって! スキル【ヘビーブロウ】!」

「スキル【移動魔法】テレポート!」


 壁を叩き割る威力を持つ、渾身の振り落とし。彼はそれを【移動魔法】によって場所を変更し、軽々とかわしてしまう。

 【防御魔法】に【移動魔法】、まさに僧侶プリーストの得意とする魔法だ。ヌンデルさんは自らの扱う魔法を悠々と解説していく。


「ヌンデル様の魔法講座だ! 【移動魔法】は大きく分けて三つある。テレポート、同じマップの指定ポイントに移動する。ワープ、一度入った街に移動する。エスケープ、ダンジョンから脱出する」


 すぐに気付く、彼の解説はこちらが有利に動くためのヒントだ。ヌンデルさん、助かります!

 俺は前衛で戦うフェンリルに鉄の拳を放ち、ダメージを与えていく。何度か【突進】による反撃を受けたが、今は動きさえ止めれればそれで良い。


「ヴィオラさん! マシロに【魔法陣】を描かせちゃダメだ! テレポートで移動されたら、詰みですよ!」

「なら、先にマシロって子を攻撃ね! スキル【アサルトブロウ】!」


 俺がジョージを止めている間に、ヴィオラさんは強襲スキルによってマシロの方へと走り出す。とにかく、今は敵の目的を阻害することが最優先だ。

 しかし、そんな彼女の前にヌンデルさんが立ち塞がった。彼は魔法を発動し、ヴィオラさんの前に透明の壁を作り出す。


「スキル【防御魔法】バリアー! おいおい、俺様を無視とは釣れねえなあ!」

「なっ……」


 この人は助けたいのか邪魔したいのか、いったいどっちなんだ……まあ、この場にはイデンマさんもいるんだ。ヒントは与えても、仲間を裏切るわけにはいかないよな。

 やはり、彼を撃破しないとマシロを止めれないか。俺は今戦っているジョージのライフを一気に削りに行く。スキルを使い、彼の背部を思いっきり殴りつけた。


「スキル【解体(テイキング)】! このままジョンの方を……」

「ジョンとリンゴを撃破する作戦もさせねえ。スキル【回復魔法】ヒールリスオール!」


 しかし、ここでヌンデルさんのサポートが入った。彼は広範囲を回復させる魔法を使用し、仲間のライフを回復させてしまった。これではきりがないな。


 ポールと合体した時のような圧倒的力による絶望は感じない。しかし、少しづつ追いつめられているのが分かる。

 ヌンデルさんの方は、攻め続けて攻撃魔法を邪魔できる。しかし、このままではリンゴの魔法を受けてお終いだ。


『ニャニャー!』


 ケットシーが放つ強力な【土魔法】。それを、ヴィオラさんが盾になるように受け止めた。

 彼女は足元から突き出る大地により、ダメージを受けてしまう。俺はすぐに回復薬を振りかけ、そのダメージを回復させた。

 俺自身もジョージと組合つつ、隙を見て回復薬を飲む。時間はないが長期戦は確実だった。


 俺はバルメリオさんの方へと視線を向ける。彼は俺達以上に追い詰められているようだ。


「スキル【ぶんどる】」

「ぐ……!」


 毒消しを使おうとしたバルメリオさんを突き飛ばし、イデンマさんがそれを奪う。成功率は下がるが、盗みに加えダメージも与える【ぶんどる】。上位の盗賊(シーフ)が使うスキルだった。


「その程度かバルメリオ。どうした? 早く毒消しを使わなければ、毒で終わりだぞ?」

「くそっ……」


 【毒斬り】で毒を与え、【隠れる】で遅延し、アイテムを使おうとすれば【ぶんどる】でダメージを与えつつ奪い取る。

 本気のバルメリオさんに対し、真面に殴り合う気もないのかよ……彼女は後方のマシロに状況を尋ねた。


「マシロ、まだ描けないのか」

「もう少し……」


 ダメだ。このままじゃ逃げられる……

 ヴィオラさんは、ヌンデルさんの【防御魔法】とリンゴの【風魔法】によって封じられている。俺もジョージの相手と回復支援で精一杯だ。

 俺に魔法が使えれば、長距離に攻撃できる。マシロを止めることも出来るだろう。だが、俺は機械技師(メカニック)だ。魔法が使えるわけがない。


 本当はバルメリオさんが彼女を止めるべきだったんだ。いや、彼には彼の仁義がある。責任転嫁してどうするんだよ……

 頭が真っ白だ。マシロの魔法陣を見ると、ほぼ描ききっているのが分かる。

 ここまでか……俺が完全に諦めたその時だった。


「スキル【炎魔法】ファイアリス!」

「ふえ……?」


 突如上空から、中位の【炎魔法】がマシロへと放たれる。魔法陣の完成間近で油断していた彼女は、一瞬にして火だるまになってしまった。

 炎を振り払い、少女はイデンマさんに泣きついていく。


「イデンマー……邪魔されちゃった……」

「だ……誰だ……!?」


 攻撃の正体をつかむため、彼女は炎が放たれた方向を見る。それに続き、俺たちも同じ方向に視線を向けた。

 赤い珊瑚の上に立つ二人の少女。彼女たちの姿を確認し、俺は思わず笑みがこぼれてしまう。


「天に輝く星二つ!」

「あ……悪を倒せと轟叫ぶ……!」

「ノラン!」

「る……ルージュ!」


 俺たちと同じ、ギルド【IRIS】のメンバー二人。ノランとルージュだ。彼女たちは人差し指を敵に突き付け、決めポーズをとった。


「みんな虐める困った奴!」

「お……お天道様が許してもこのギルド【IRIS】が許さない……!」


 ノランの後に続いてルージュが叫ぶが、若干恥ずかしそうだ。キャラを作るのも大変だな……

 しかし、ようやく彼女も元気になったらしい。それを証明するように、装備していたローブが別の物になっていた。


「あ……赤くなってるー……」


 赤い服に青い星の模様が入った三角帽子。このビジュアルはどこかで見たことがあるぞ。

 あの有名なアニメーション映画を髣髴させる。魔導師ウィザードであるギンガさんの弟子だから、間違ってはいないか。

 って、いやいや……そもそも、なんでルージュとノランがここにいるんだよ! こいつら、こっそり付いてきたな……本当に無茶なことをする奴らだ。


「赤い彗星ルージュ……! 完全復活だぁ!」


 ノランに背中を押されたのか、やはりテレているように見える。しかし、これで流れが変わったな。

 ヌンデルさんは嬉しそうに笑い、イデンマさんは舌打ちをする。マシロの【魔法陣】を止めた事により、形勢は逆転した。

 ここから一気に決める。さあ、ギルド【IRIS】の反撃開始だ!

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