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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十四日目~十七日目 人魚の街セレスティアル
81/208

80 レンジさん泥棒

 クエストを達成し、俺たちはNPCの人魚から報酬を受け取る。今回は討伐だが、他にも薬草の採集やアイテム制作などのクエストもあるらしい。今後は積極的に利用した方が良いな。

 今回、このフィルン海溝で、俺のレベルは25へと上がる。新しい技スキルを手に入れていないため、戦略の幅は広がっていない。だが、ロボット騎乗時にジャストガード可能になったのは大きいかな。




 俺は一度ログアウトし夕食を取る。再ログインした時刻は現実の7時半、【ディープガルド】時刻では朝の6時だ。決戦の8時まではあと二時間。まずは、増援に来たヴィオラさんたちと合流する。


「レンジー!」

「ヴィオラさん!」


 宿の前で俺たちは顔を合わせる。ギルド【IRIS】のメンバーで支援に来たのは二人。他の四人はレベルが低いので、メンバーから外したようだ。

 テンションの下がっているルージュはともかく、アイもちゃんと従ったんだな。あいつの事だから無理やりついて来ると思ったが、どうやらそこまで無茶ではないらしい。

 ヴィオラさんと共に、【エンタープライズ】のメンバーも増援に来てくれた。ギルドマスターのハリアーさんに加えて、数十人のレイドパーティー。アパッチさんはお留守番かな。


「ハリアーさん、協力ありがとうございます」

「やられっぱなしが気に食わないだけだ。お前たちは私の指揮下という事を忘れるな」


 何だか、勝手に傘下に加えられてる。まあ、後輩の作ったギルドなのだから、あながち間違ってはいないか。

 ラプターさんは額に手を当て、メンバーの顔を確認していく。どうやら、その人数に引っかかっているようだ。


「うーん、やっぱりメンバーが少ないね」

「昨日の戦いで、本部プレイヤーを多数ゲームオーバーにされた。記憶は残っているようだが、既に【覚醒】持ちのメンバーが半数を占めている状況だ」


 それって、つまり半壊という事か……上位プレイヤーはあの程度の雑魚に苦戦することはないが、新入りのプレイヤーはゲームオーバーになってしまったらしい。

 すぐに、イシュラの事を思い出す。彼女はまだレベルが低く、シースケルトンの大群に対抗できるはずがない。まさか、そんな……


「あの! イシュラは……」

「安心しろ。奴は生き残った。お前に置いて行かれたことが悔しかったのか、とにかく必死だったな。中々の根性だろう」


 そうか、イシュラは無事だったか。一先ずは安心だな。

 彼女には武器を作ってもらった。同じギルドのメンバーじゃないが仲間なんだ。昨日の戦いで置いて行ってしまったことを反省して、ちゃんと理解しないとけない。また、ギスギスした関係になるのは御免だからな。

 俺が仲間の事を気に掛ける中、ヴィオラさんは別の事を気にかけている。今、【エンタープライズ】に起きている状況が、芳しくないと思ったのだろう。


「ねえ、【覚醒】持ちを増やされたら不味くないの? 敵に操られちゃったら……」

「バーサク耐性を高めるアクセサリーを持たせ、手は打った。念を入れてメンバーからは外したがな」


 なるほど、俺と同じように状態異常耐性を強化すれば、操作を無効にできる。バーサクにならなければ、記憶を操作される事はないだろう。まあ、俺のような例外はいるが。


 そんなことを話しているうちにも、決戦の時に近づいていく。ラプターさんとバルメリオさんとは、戦いの位置取りについて話し出した。


「さて、時間まであと少しだけど、どこで構えるかが問題だね。戦力を分散させるか、山を張って集まるか……」

「フレンド登録画面に奴らの名前は無かった。スキルで居場所を特定することも出来ないな」


 一度出会ったプレイヤーはフレンド登録画面に名前が表示される。そこから名前を選び、フレンド申請を出すことができるシステムだ。

 しかし、敵はNPCのような存在。よって、フレンド登録を行うこと自体出来ないのだろう。プレイヤー扱いされないなら、当然プレイヤーの居場所を特定するスキルも使えない。本当にチートだな。

 だが、手がないわけではない。敵がNPCを殲滅する手段を俺は知っている。まず間違いなく、奴らの要はマシロという少女だ。


「マシロという僧侶(プリースト)の幹部がいます。彼女はレネットの村を襲う前、至るところに魔法陣を描いていました」

「【魔法陣】のスキルか。各魔法を罠のように使うためのスキルだが、レベルを上げれば点で繋げて広範囲攻撃出来る。複数の魔法陣を描くため、実践向きではないと思っていたが。まさかNPCの虐殺に使うとはな……」


 ハリアーさんの話を聞く限り、レネットの村はこのスキルによって滅ぼされたのだろう。大きな魔法陣を何個も描く作業は時間を要する。先にマシロを叩いてしまえば、目的を達成できないはずだ。

 そうなれば、まずは彼女を探さなくてはならない。バルメリオさんも俺と同じことを考えていたようだ。


「別れてマシロを探すのがベストだが、リスクも大きいな」

「わざわざ僕のいる街を攻めるんです。敵は僕も纏めて潰すつもりだと思いますよ」

 

 俺をスルーするのならば、他の街を攻め落とした方が良い。イデンマさんが俺を仕留めに出たことを考えると、敵の目的は二つあると考えられる。


「ならば、敵は街を落とすチームと、レンジを潰すチームに別れているのは確実だ。手は決まった。まずはお前を護衛し、敵からマシロの位置を聞き出す。目的よりも戦闘を優先するチームは、恐らく口が軽いだろうからな」


 作戦の指揮官、ハリアーさんがそう指示を出した。俺もこの作戦に意義はない。マシロの位置を特定するには、敵との接触が必要不可欠だからだ。















 更に時間が進み、いよいよその時が訪れる。【エンタープライズ】のメンバーが、緊迫した表情で俺を囲んでいった。

 時計は進み、時刻は現実世界でも【ディープガルド】世界でも8時となる。さて、敵はどう来るか……


「時間ですが……」

「気配を感じる……来るぞ!」


 【気配察知】のスキルを鍛えているバルメリオさんが、真っ先に気がつく。すでに、俺たちは数人のプレイヤーによって囲まれていた。

 【エンタープライズ】メンバーの一人に斬りかかる剣士(ソードマン)。そんな彼の剣をハリアーさんの巨大錨が受け止める。

 海賊(パイレーツ)のパワーに、拮抗する剣士(ソードマン)。彼の瞳には剣の紋章が浮かび上がっていた。


「【覚醒】持ちか……」


 敵はこの街にいる【覚醒】持ちのプレイヤーを操作しているようだ。この男に続き、瞳に杖のマークが刻まれた僧侶(プリースト)、三角帽子のマークが刻まれた魔導師(ウィザード)、手裏剣のマークが刻まれた忍者(ニンジャ)なども戦闘に加わる。

 見たところ数十人はいるか。【エンタープライズ】メンバーは彼らの攻撃に対し、一斉に対抗姿勢を見せる。まさに戦争だな……

 そんな敵の中に混ざる弓術士(アーチャー)の少年。なるほど、お前がこいつらの親玉か。リルべ!


「へえ……待ち伏せとか、やってくれるじゃん。この前のお返しをしないとね。レンジ兄ちゃん!」


 この人数に加えてこいつか……これだけでも充分恐ろしい相手だが、俺達の敵はもう一人いた。

 真っ黒い鎧に身を纏った低身長の戦士(ナイト)。まさか、お前まで来ているとはな。ビューシア………


『彼は私の獲物です。取らないでください……』

「そんなー! おいらだってリベンジマッチしたいのにさ!」


 【覚醒】持ちプレイヤーと【エンタープライズ】メンバーが戦っている中、敵の二人は楽しそうに会話している。

 彼らからは、マシロの居場所を聞き出さなくてはならない。戦いは他に任せ、俺たちは情報収集に力を入れよう。


「あの子が最強のプレイヤーキラー……」

「ビューシア……本当にそんな組織に入っていたんだな」


 身長から幼さを感じ、驚いた様子のヴィオラさん。

 そして、尊敬している相手と敵対してしまったバルメリオさん。彼がプレイヤーキラーを始めたのは、こいつの影響だったな。


「お前はPKを行う事に誇りを持っていたはずだ。何でそいつらの言いなりになっている……!」

『私は誰にも縛られません。それは今でも同じです……』


 バルメリオさんがそう問いただしても、ビューシアの様子は変わらない。どうやら、彼の芯はぶれていないようだ。

 また、リルべの方も全くぶれていない。彼は前回と同じ喋りで意気揚々に語っていく。


「悪いけど、今回ばかりはお兄ちゃんもお終いだね。お兄ちゃんがゲームオーバーになってないと知って、イデンマ姉ちゃんブチギレでさー。こっちも総戦力で来てるんだよねー」


 総戦力か……ここに二人ということは、ヌンデルさんとイデンマさんはマシロの護衛か。

 街を潰すチームは少人数で動いているはず。なら、【覚醒】持ちのプレイヤーはここにいるので全員かな。

 【エンタープライズ】メンバーは、ここに残ってもらった方が良さそうだ。彼女たちは対抗手段を持っているのだから。


僧侶プリースト! お前らは弱った【覚醒】持ちに【回復魔法】キュアだ!」


 ハリアーの指示により、僧侶(プリースト)の一人が敵の【覚醒】持ちに状態異常回復魔法を放つ。すると、効果によってバーサク状態が解け、プレイヤーはその場にヘタレこんでしまう。なるほど、この手があったか。


「バーサク状態を治せば、操作は無効だろう?」

「なっ……こんなの聞いてないじゃんよー!」


 これにはリルべも驚きだ。相変わらず、彼は【覚醒】の仕組みを理解していない。実力は高いが、言動は三流だな。

 焦って無防備な状態の敵に、ラプターさんが攻撃に出る。ようやく幹部との直接対決だ。


「やっはー! 今がチャンス! スキル【スナイプショット】!」

『やれやれです……』


 彼女の放つ雷属性の弾丸。その攻撃をビューシアはいとも簡単にジャストガードする。

 弾丸を見極めるジャストガードとは……こいつはアイ以上の技術プレイヤーで間違いない。ラプターさんは完全に唖然としている。


「そんな! 弾丸をジャストガードするなんて……!」

『邪魔をしないでください。私はレンジさんと遊びたいのです……』


 俺はお前と遊びたくない。しかし、ビューシアは俺に対する異常なまでの執念をさらけ出していく。


『レンジさんは私のものです。私だけのものです。貴方にも、エルドさんにも絶対に渡しません……! レンジさんは私のことだけを見ていれば良いのです……!』


 何を勝手なこと言ってるんだ。こいつもホモなのか……?

 本当にヤバイ奴に気に入られてしまった。リルべを含め、この場にいる全員がドン引きしているぞ……


『レンジさん泥棒にはお仕置きしないと……楽しみは後に取っておいた方が良いですしね……』


 ビューシアは剣を構え、ラプターさんに対抗姿勢を見せる。そして、俺たちに求めていた情報を話していく。


『赤い珊瑚の下に、マシロさんがいます。彼女はそこから【魔法陣】を描き始めているはずです……』

「俺たちを騙す気か……?」

『さあ、どうでしょう……』


 こいつは俺を気に入っている。嘘をつきはしないはず。なら、彼を信じてマシロの元に向かおう。

 ヌンデルさんともう一度話したい。バルメリオさんとイデンマさんの戦いを見守りたい。そして何より、決着をつけるのは俺だ!

 俺たちの意思を感じ取ったのか、ラプターさんが錨を振り回し敵を吹き飛ばす。これで、目的地に向かえるな。


「【エンタープライズ】メンバーはここに残らせる。指揮は私とラプターで引き受けよう。ヴィオラ、決着はお前たちで付けてこい!」

「当然よ!」


 敵は三人だが、マシロは【魔法陣】を描くのに手一杯。俺たち【IRIS】の三人で勝てる戦いだ。

 俺、ヴィオラさん、バルメリオさん。このメンバーで必ず街を救ってやる。

 赤い珊瑚に向かって俺たちは走り出した。

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