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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
一日目 始まりの街エピナール
8/208

07 猫耳最高!

 俺たちは街を出て、セラドン平原でレべリングを行っていた。

 レべリングとは、モンスターを倒して経験値を稼ぎ、レベルアップを行う事。しかし、それは考えようによっては単なる虐殺行為に他ならない。スライムやゴブリンを倒すのにも抵抗があったが、それ以上に倒すことに抵抗があるモンスターに遭遇してしまった。


「わ……ワンコが……! ワンコが死んだー!」

「レンジ、落ち着いて……」


 草原の上で光となって消滅する狼。俺のスパナとアイの大針によるコンビネーションによって、打ち倒されたのだ。

 俺のレベルは3に上がったが、テンション方は最低値まで落ちる。ゲームだと分かっているが、何だか非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 そんな俺を、ヴィオラさんは必死に宥める。


「あのね……モンスター倒すたびに騒いでいたら、いつまでもレベルが上がらないわよ」

「だって、ワンコが……」

「ワンコじゃないわ! シルバーウルフよ! これはゲームなの、割り切りなさい!」


 彼女の言葉はもっともだ。モンスターを倒さなければ、俺はいつまでたっても強くなれない。ここは心を鬼にして、敵を打倒せねばならないのだ。


「そうですよね……俺達のレベルは、スライムとゴブリンとワンコの屍の上に、築かれているんだ!」

「ちょっと、嫌な事言わないでよ……」


 俺とヴィオラさんで漫才をしていると、アイがこちらを振り向き、空を指さす。どうやら、何かを見つけたようだ。


「レンジさん! ヴィオラさん! あれ、見てください!」


 空の向こうを飛行する真っ黒い飛空艇。朝方に見たものとまったく同じ物だった。

 青い空と白い雲を掻き分けるように飛行するそれは、いつ見ても壮観。素直にかっこいいと思える。


「また、あの飛空艇ですよ」

「あれ、いったい何なんだろうな」


 俺とアイが不思議そうに見つめていると、ヴィオラさんがその疑問に答えた。


「巨大空中要塞ギルド【漆黑しっこく】のギルド本部よ」

「あれが全部ギルドなんですか!」

「ええ、【漆黑しっこく】はギルドランキング一位の最強ギルドよ。人数は少ないけど、メンバー全員がベスト200に入ってる手練れ揃い。幹部に至っては全員ベスト20に入ってるわ」

「何と言うか……文字通り、天の上の話しですね」


 天の上を飛ぶ巨大飛空艇は、やがて俺たちの視界から消えていく。

 本拠地ごと大移動出来るギルドならば、怖いものなどないだろう。ダンジョンも、討伐するモンスターも、移動の手間もなく万全の状態で挑める。加えて、団員は上位プレイヤーの集まり。最強ギルドになるのも必然と言える。


「ギルドランキングは目を通した方が良いわ。この世界の情勢を知るためにもね」


 そう言うと、ヴィオラさんは一枚の色紙を取り出す。そしてそれを広げ、俺とアイに見るように促した。

 どうやら、これは号外のようなものらしい。紙面には、ギルドランキング上位五つが記されていた。





一位  巨大空中要塞ギルド 【漆黑しっこく


二位  王都自警ギルド 【ゴールドラッシュ】


三位  巨獣討伐ギルド 【エンタープライズ】


四位  生産市場ギルド 【ROCOロコ


五位  情報掲示板ギルド 【7net(セブンネット)





「一位の厨二っぷりがぶっちぎりですね」

「言うと思った」


 いや、だって全く知らないもの。それぐらいしか感想が出てこない。

 ただ気づいたのは、王都自警、巨獣討伐、生産市場という三つの言葉。これらは、各ギルドの専門を表していると予測できる。だからこそ、一位の浮きっぷりが物凄い。


「名前は厨二だけど実力は本物よ。特にギルドマスターの黑陰クロカゲと、団員のjonoジョノはランキング上位のプレイヤーよ」

「厨二ネームはマスターの好みですね。一瞬で察しました」


 黑って何なんだろうか、普通に黒じゃダメなのだろうか。たぶん、変わった漢字の方がかっこいいと思っているのだろう。団員のジョノさんが普通のネームなのが、さらに悲壮感を漂わせた。


「上位ギルドのマスターは総合個人ランキングでも上位よ。こっちが個人ランキング上位七人」


 同じ紙面には、ギルドランキング以外のランキングも記載されている。これは六月のランキングで、一カ月ごとに更新される仕組みのようだ。

 今、記載されているプレイヤーは、記念すべき第一弾ランキング上位という事になる。





一位  ソロプレイヤー エルド

     攻略ランキング:一位 討伐ランキング:一位


二位 【漆黑しっこく】ギルドマスター 黑陰クロカゲ

    攻略ランキング:二位 討伐ランキング:二位 決闘ランキング:二位


三位 【ゴールドラッシュ】ギルドマスター ディバイン

    決闘ランキング:一位 攻略ランキング:三位 討伐ランキング:四位


四位 ソロプレヤー 銀河ギンガ

    討伐ランキング:四位 攻略ランキング:四位 決闘ランキング:五位


五位 【エンタープライズ】ギルドマスター ハリアー

    討伐ランキング:三位 攻略ランキング:五位


六位 【ROCOロコ】ギルドマスター MiMiミミ

    市場ランキング:一位


七位 【漆黑しっこく】メンバー jonoジョノ

    決闘ランキング:三位 討伐ランキング:五位





「ランキングは全部で四つ。攻略、ダンジョン攻略得点合計。討伐、モンスター討伐得点合計。決闘、闘技場でのランキング。市場、生産で会得したお金の合計よ」

「あれ? エルドは闘技場で結果を出していないんですか?」

「あいつは滅多に人前に出ないから。当然、脚光を浴びるような真似もしないわ」


 エルドと他二人を除けば、見事にギルドマスターばかりだ。ソロプレイヤーは二人、エルド以外に一人いて予想よりもは多かった。


「ちなみに、八位以降は殆ど【漆黑しっこく】メンバーが独占、時々【ゴールドラッシュ】のメンバーが入るぐらいね」

「ギルドランキング五位の【7net( セブンネット)】に上位プレイヤーはいないんですか?」

「【7net( セブンネット)】は自称、馴れ合いギルド。ガチプレイヤーに敵意を燃やしてる遊び人の集まりなの」

「だから、ランキング入りなんてどうでも良いってことですね」


 どんなゲームでも、本気のプレイヤーと遊びのプレイヤーは水と油の関係。決して交わることなく、常に衝突を繰り返しているものだ。このゲームでも、そういった抗争が垣間見られた。



 話しも終わり、俺たちはレべリングを再開する。

 最初の平原という事もあり、モンスターに苦戦するという事は特にない。ただ淡々と弱いモンスターを倒すという作業ゲームだ。

 しかし、その成果はあった。めでたく俺のレベルは4となり、新しいスキル【解体テイキング】をマスターする。

 効果は、機械系のモンスターに大ダメージを与え、機械素材を搾取するというもの。うん、微妙だ……

 機械系のモンスターとか、明らかに後半現れる部類だろう。一応、普通の敵にもダメージを与えられるようだが、真価を発揮するのはまだまだ先のようだ。

 アイのレベルも4になり、相手を拘束状態にする【まつり縫い】を習得する。正直、こっちの方が使えそうだ……

 ある程度の成果も出たことにより、俺たちは街へ戻るのだった。






 【ディープガルド】時刻は6時。あたりは少しづつ暗くなり、俺たちは噴水広場のベンチで休息を取る。休息と言っても、このゲームに疲労と言う概念はない。これは心の休息と捕えればいいだろう。

 話し合いの結果、解散予定を8時と決め、それまで会話によって時間を潰す。今日出会ったばかりの三人だが、俺たちはそれなりに仲良く会話をしていた。それはアイの図々しさと、ヴィオラさんの世話焼きあってのことだろう。今も彼女は、俺のスキル強化を相当心配している様子。


「ところで貴方、まだ【状態異常耐性up】を育ててるのね」

「ええ、今回手に入った6ポイントも、全部それに入れました。スキルレベルも3に上がりましたよ」


 俺は自慢げにそう返す。状態異常にならなければ、冒険が非常に楽になる。この強化方法に間違えなどあるはずがない。そう思っていたのだが……


「あのね、勘違いしているかもしれないから言っておくけど……【状態異常耐性up】のスキルレベルをMAXにしても、完全な耐性は手に入らないから」

「……え? なっ……何でですか!」

「あくまでも耐性の上昇だからよ。そこまで強力なスキルだったら、みんな育ててるわよ」


 ヴィオラさんの口から明かされる衝撃の真実。何だか、微妙にショックだ……

 確かに、状態完全無効など壊れ性能にもほどがある。いくらスキルポイントを投資してでも、手に入れる価値はあるだろう。俺は淡い夢を見ていたのだ。


「レンジさん……」


 ショックを受ける俺を心配そうに見るアイ。やがて、彼女は何かを決心したのか、突然俺の手を握る。


「大丈夫です! 私が何とかします!」

「いや、何とかするって……」

「安心してください! 絶対! 絶対何とかします!」


 アイはそう言うと、出来ていないウィンクをする。そして、その場を離れ、道具屋の方へと走っていった。

 いったい何をするつもりなんだ……期待と恐怖を胸に抱きつつ、俺とヴィオラさんは彼女の帰りを待つ。


 数分後、アイは嬉々としながら俺たちの元へと戻ってくる。その手には綺麗にラッピングされた袋が一つ、握られていた。

 【裁縫】のスキルで作ったのだろうか、雑なラッピングだが綺麗に見せようという努力が分かる。彼女はその袋を俺に手渡し、恥ずかしそうに笑う。


「これは……」

「プレゼントですよ。状態異常耐性を上げてくれるアクセサリーです。スキルと合わせれば、完全耐性も夢じゃありませんよ!」


 アクセサリーでの自己強化。これは盲点だった。

 誰でも思いつくことだが、話しを聞いて速攻で行動に移した彼女は只者ではない。ヴィオラさんは素直に感心している様子だ。


「そうか……スキルと装備効果は重複する。性能の良いアクセサリーを付ければ、完全耐性も不可能じゃない!」

「このプレゼントは、今あるお金で買った安物です。完全な耐性は夢のまた夢ですが……私が裁縫師テーラーとして、もっと性能の良いアクセサリーを作って見せます!」


 そう言って、両手を合わせるアイ。

 何という眩しさ、何という優しさ。お前は天使か。

 捻くれた俺の心を浄化するかのような輝き。こいつは正真正銘の大バカ者だ……


「アイ……お前……」


 彼女は何故ここまで俺のために尽くしてくれるのだろうか。こんなに頼りなくて、ヘタレな俺をなぜ見捨てないのだろうか。考えれば考えるほどに、感動で涙腺が緩みそうになる。

 俺はアイの優しさに感謝しつつ、プレゼントの袋を開ける。だが、その中身を見た瞬間、今までの全ては吹き飛んだ。


『猫耳バンドを手に入れた』


「……は? え? 猫耳?」

「そうです! 状態異常耐性を得る序盤のアクセサリー、猫耳バンドです!」


 俺の髪色と同じ茶色の猫耳。見た目は非常に可愛らしいが……

 いや、プレゼントは嬉しい。彼女の優しさも身に染みて分かった。だが、これを装備しろと言うのか。

 恥ずかしいというレベルではないぞ。こんな物、使えるはずがない!


「もしかして、気に入らなかったですか……」


 焦る俺に対し、深く俯き、悲しい表情をするアイ。そんな顔するなよ畜生……

 俺はグッと親指を立て、彼女に向かって満面の笑みを返す。


「猫耳最高!」

「そうですか! 良かったです!」


 そうか、ビジュアルカスタマイズで何故か目に留まった猫耳、あれはフラグだったのか……全てはこの時に繋げるための伏線というわけかよ。酷いな神様!

 俺は後ろで爆笑するヴィオラさんをキッと睨み付けた。


「ヴィオラさん、笑いすぎです!」

「だって! だって! だっはー!」


 こうして俺はセルフ呪いの装備、猫耳バンドを装着してゲームプレイをする羽目になってしまった。

 くそっ、何で俺がこんなものを付けなくちゃならない。だったら、こっちもやり返すまでだ。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は先ほどのアイ同じように、その場から走り出す。

 やられたらやり返すのは当然。それが良いことでも、悪いことでも同じだ。

 感謝の気持ちと、厄介を押し付けられた気持ち、その両方を晴らす方法は一つ。全く同じことを彼女に対して行えばいいのだ。

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