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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十三日目 漁村の村ゼニス
76/208

75 さあ、ショーを楽しもう!

 海賊船ホルテンジアの船上、俺はノランと共に敵幹部のヌンデルさんと対峙する。

 彼は四体のモンスターを使役するエンターテイナー。同じ目立ちたがり屋のノランに対し、僅かな対抗心を見せている様子だ。


「はーはっはっはっ! 一番楽しんじゃう人か……」


 ヌンデルさんは大笑いすると、腰に装備した鞭を掴む。そして、それを振りかざし彼女へと攻撃を放った。


「やっぱり俺様じゃねーかァ! スキル【ぶん回し】!」

「スキル【起動スタンドアップ】!」


 俺はノランの盾になるため、【起動スタンドアップ】のスキルを使用する。アイテムバッグからロボットが出現し、ノーモーションで運転席に騎乗された。

 敵が使用したのは汎用スキル【ぶん回し】。同じ汎用スキルの【薙ぎ払い】と違い、回転するように全方向を巻き込む攻撃だろう。

 範囲は広いが威力は低い、なおかつヌンデルさんは使役士テイマー。俺はロボットの左腕を突きだし、その鞭を絡め取った。この強行突破にヌンデルさんは驚く。


「力技だと……! おいおいおいおいおい! どうしちまったんだミスター! お前らしくもない!」

「あえてですよ! あえてこいつの性能だけは僕好みじゃないんです!」


 たぶん、自分を変えたかったのかもしれない。俺は卑怯で小細工専門だが、それでも守りたいものはある。そのためには断固とした力が欲しかった。理由はそれだけだ。


 鞭を掴まれて動けないヌンデルさんに、俺はロボットの右拳を打ち込む。やはり、使役士テイマーは自身のステータスが低い。彼のガードを突破し、そのまま本体を鉄の拳で貫いた。

 だが、貫通した部分に見えるのは0と1の情報数列。本人の言ったとおり、彼らは人間ではない。俺がロボットの手を引き抜くと、その傷口は瞬時に塞がってしまった。

 相手は使役士テイマー、再生されたところで使役獣の方を叩けば問題ない。幸いにも、敵は能力とジョブが噛み合っていなかった。

 ヌンデルさんは俺の言葉を聞き、納得の笑みを浮かべる。そして、捕まれた鞭を振りほどいた。


「なるほど、策の一つか……ポール【鋼鉄くちばし】!」

「スキル【タンゴ】。まずは防御力を上げていくぜ」


 ポールに命令し、ヌンデルさんは俺へと攻撃を撃ちこむ。その隙に、ノランはダンスによって防御力の上昇を行った。

 元々と堅いロボットの装甲。それがさらに堅くなり、もはや怖いものなしだ。俺は機械の両腕でボディをガードし、ポールのくちばしを受け止める。これなら、絶えてから返り討ちに出来るだろう。

 しかし、ヌンデルさんにはもう一匹の使役獣がいる。彼はポールを囮に使い、後方のリンゴに支援命令を出した。


「ポール、そのまま引き付けろ。リンゴ【水魔法】アクアリジョン!」

「スキル【ポルカ】。魔法防御もきっちり上昇させ……」


 子猫のステッキから放たれた激流。すぐにノランは次のダンスを踊り、魔法の対策に出る。

 だが、機械技師メカニックはVIT(魔法防御力)が恐ろしく低いため、一発でも大ダメージは確実。甘んじて受けようと覚悟した時、踊子ダンサーの少年が前に飛び出した。


「俺様が盾になる!」


 右手を付きだし、激流をその身に受けるノラン。彼は華麗に着地し、髪に掛かった水をかっこよく振り張った。いやいや、かっこつけている場合じゃないだろ!


「ノラン! お礼は言うが無茶のしすぎだ!」

「おいおい、忘れちまったのか? 俺様は基本バッファーだが、ヒーラーも兼ねている。回復力を上げるVIT(魔法防御力)のステータスは結構高いんだぜ?」

「でも、お前はサポートだろ……前衛に出てくるなよ!」


 しかし、言い争っている場合ではない。ヌンデルさんはポールに命令をだし、さらに追い打ちをかけてくる。

 俺は瞬時に鉄くずと鉄鉱石を取り出し、応戦態勢を取った。


「ポール【痺れくちばし】!」

「スキル【発明クリエイト】! アイテム、ドリルアーム!」


 状態異常を狙ったポールのくちばし。俺はロボットの右腕にドリルを装着し攻撃を弾く。

 思ったとおりだ。【発明クリエイト】はアイテムを作り出して使用するスキル。ロボットに乗った状態で使った場合、アイテムはそっちの方に装備される。これなら問題なく使用できるな。

 結果的に、ノランのおかげで敵にダメージを与えることに成功する。それに、彼の行動にはちゃんとした意味があった。


「俺様は前衛に出ないと機能しないぜ。踊子ダンサーは『陣』を使いこなすジョブ。今の俺様は自分から半径3メートルが効果範囲の限界だ」

「なっ……」


 そりゃそうだよな……こんなに強力な補助効果を全体に使えたら、僧侶プリーストが涙目だ。

 ノランは今まで、『陣』の中に俺たちが入るポジショニングで動いてた。それこそ、ダンスは全体効果だと勘違いしてしまうほどの正確さだ。


「タンクやアタッカーが前に出れば、踊子ダンサーも前に出なきゃならない。それも、無防備な踊っている状態でな」

「じゃあ、どうすれば……」


 俺が弱音を吐こうとした時、その口にノランの人差し指が当たる。彼はいつのまにか、彼女へと姿を変えていた。


「それを守るのがタンクの役目だよ。私を守ってね王子様!」

「何が王子様だよ。試しているのならそう言え! スキル【衛星サテライト】!」


 上等だ。守ってやるよ!

 鉄くず二つを小型ロボットに変え、俺の横にサポートとして付ける。大小のロボットで一気に畳み掛ければ、ポールかリンゴのどちらかを打倒できるはずだ。

 何も殺すわけじゃない。二匹とも戦闘不能にし、ヌンデルさんの機能を停止させる。処分はその後に考えればいいんだ。

 この攻めの姿勢を察知し、ノランの方もさらにダンスを重ねていく。


「さあ、ショーを楽しもう! スキル【ワルツ】!」


 彼女のダンスによって、先ほどポールから受けたダメージが癒えていく。これは、陣に入っている味方をオート回復させるスキルだな。

 俺の後ろにぴったりついているノラン。盾役を突破しない限り、ポールは彼女を妨害できない。そのため、ヌンデルさんはリンゴに踊子ダンサーの相手を任せる。彼女がVIT(魔法防御力)特化とも知らずにな。


「男になったり女になったり、面白い奴だ! リンゴ【氷魔法】アイスリジョン!」


 後衛で子猫が放つ凍結魔法。ノランは一瞬にして凍ってしまうが、すぐにそれを打ち破る。オート回復の効果は本人にも掛かっているので、踊子ダンサーと言えど魔法に対して堅かった。

 リンゴは彼女に任せ、俺は小型ロボット共にヌンデルさんを殴りつけていく。勿論、彼にダメージを与えられない事は知っている。本命は、その肩に乗っているポールのライフを削ることだ。


「ヌンデルさん! サンビーム砂漠の遺跡。リチャードさんのお墓なんですよね!」

「ああ、そうだ! あの時、それを読み取ったお前を単純に面白い奴だと思ったぜ!」


 ヌンデルさんは鞭、ポールはくちばし、それぞれ通常攻撃でこちらのラッシュに対抗する。だが、攻撃力も防御力もこちらが上回っている様子。着実にポールのライフは削れていった。

 ヌンデルさんはそれに気づいたようだが、どうにもできない。回復役のユニコーン、ジョンの不在が大きく響いていた。


「だが! こうやって俺様の前に立ち塞がるとは思ってもみなかったぜェ……!」

「それは僕も同じですよ! スキル【解体テイキング】!」


 ロボットに乗った状態での【解体テイキング】は、右腕によって叩き潰す攻撃だ。当然、狙うのは主人ではなくポールの方。その時、ようやくヌンデルさんは自身が危機的状況だと気付く。

 初めて、彼が焦りの表情を見せた。だが、使役士テイマーはすぐに冷静になり、コカトリスに攻撃命令を下す。


「ポール【石化くちばし】!」

『コッケー!』


 攻撃は同士討ち。【解体テイキング】によって目標を叩いたが、【石化くちばし】がロボットの腕に命中してしまう。

 その時、俺は体にずっしりと重い感覚を受ける。見る限り変わりはないが、明らかに何らかの影響を受けていた。

 そうだ……こいつの【石化くちばし】は巨大なサンドワームを一瞬で石化させた。猫耳バンドと【状態異常耐性up】の両方を越えて、俺の体に微弱な石化効果を与えたんだ。

 この状況に気づいたのか、後ろのノランがすぐに回復動作に移る。


「スキル【サンバ】! 足りないなら、ノランちゃんが補うよ!」


 状態異常の耐性を高め、回復するスキル。これで、ポールの状態異常攻撃を封じたな。

 俺は【起動スタンドアップ】を解除し、鋼鉄スパナを握りしめる。もう、ロボットは動ける限界が近い、ここからは自身で攻めた方が得策だ。


「ポール、敵がロボットを解除した。一気に決めるぜェ! 【鋼鉄くちばし】だ!」

「スキル【発明(クリエイト)】アイテム、グレネード!」


 ヌンデルさんはポールに指示し、防御力の下がった俺を崩しに来る。俺は鉄くずと火薬にスパナを打ち付け、それをグレネードに変えた。

 敵はこの爆弾を前衛に放つと思っただろう。そうすれば、進行を阻害できるのだから。

 だが、俺の狙いは別だ。俺の狙いは……


「これで決める! リンゴ!」

「なにっ……!?」


 俺はこちらに突っ込むポールを無視し、後衛のケットシーにグレネードを投げつける。瞬間、コカトリスのくちばしがクリティカルし、大ダメージを受けてしまった。

 しかし、リンゴの方も無事ではない。彼女の頭上にはすでに爆弾が近づいていた。


「リンゴ……! 【風魔法】ウインディジョン!」


 とっさに、ヌンデルさんは【風魔法】を命じ、迎撃を狙う。しかし、その判断は遅かった。

 魔法が放たれるより前に、グレネードは大爆発を起こす。そして、リンゴの周囲を焼き払っていった。

 すぐに、使役士テイマーは後方へと下がる。やはり、使役獣のことが心配なんだな。


『フニャー……』


 炎が晴れると、そこには戦闘不能となったケットシーが横たわっていた。やはり、彼女は完全な魔法特化。グレネード一発で一気にライフを持っていかれたようだ。

 ヌンデルさんは背を向けることをいとわず、リンゴの元へと駆け寄る。そして優しく抱きかかえ、安全な場所へと移していった。


「やるじゃねえか……」

「なめないでください! 僕だっていつまでも初心者じゃないんです!」

 

 俺だって、敵のジョブを調べている。使役士(テイマー)のスキル【以心伝心】。使役獣とテレパシーで情報交換するスキルだ。

 恐らく、ヌンデルさんはこれを鍛えて、使役獣とのコンビネーションを高めている。相手は複数の目を持っていると言っていい。

 なら、俺が行うべき行動は一つ。騙し討ちだった。


「お前らマジでヤバいな。何事も楽しむことを信条としているんだが、そうも言ってられねえか……」


 リンゴを避難させると、彼は再び戦場へと戻る。瞬間、俺の体に異様な悪寒が襲った。何度も味わっている嫌な感覚。しかも、今回は今までの非ではない。いったい、何をする気だ……

 ヌンデルさんは自らの右目を抑える。そして、俺のよく知っているスキル名を叫んだ。


「【ダブルブレイン】ヌンデル! 組織の一員として不穏分子を排除する……! スキル【覚醒】!」

「なっ……!」


 彼が右目から手を放すと、そこには瞳に獣の牙のマークが浮かび上がっていた。

 まさか、こいつらも【覚醒】のスキルを使うとはな……リルベが使おうとした奥の手はこれだったのか。

 俺やカエンさんと違って、紋章が浮き出ているのは右目だけ。これは、まだ不完全な状態なのかもしれない。

 ノランも俺と同じように、このただならぬ雰囲気を感じたようだ。


「わあ、何だかすっごくヤバそうだよ……」

「落ちつけノラン。【覚醒】でのステータス上昇は使役獣の方に及ばない。使役士テイマー自身がパワーアップしても、たかが知れてる」


 以前戦ったカエンさんは召喚術士(サモナー)。魔法による召喚のため、【覚醒】の効果がイフリートにも及んだ。

 しかし、使役士(テイマー)の使役獣は別プレイヤー扱い。自身を強化する【覚醒】とは全く噛み合っていなかった。


「ヌンデルさんだって分かっているんでしょう? その不死身の肉体も【覚醒】のスキルも、使役士テイマーの貴方とは相性が悪いって!」


 ヌンデルさんを無視して、使役獣を倒せば全く問題はない。この戦いは勝てる戦いなんだ。 

 俺もノランもかなりダメージを受けている。しかし、敵はそれ以上にダメージを受けていた。俺たちは充分対抗できていると言える。

 苦しい戦いだ。しかし、希望はある。そう思った時だった。


「悪ぃな。何か手加減してるみたいな感じになっちまって……」

「え……」


 何を言っているんだ。まるで、今まで本気を出していないような言い方じゃないか。

 呆然と立ち尽くす俺をしり目に、ヌンデルさんはさらにスキルを発動する。


「スキル【心意一体】!」


 彼がそう叫んだ瞬間だ。コカトリスのポールがその場から消え、まるでエネルギーのような光へと姿を変える。やがて、その光はヌンデルさんの体に入り込み、オーラとなって彼に纏わりついた。

 まるで、ニワトリの亡霊に取りつかれているようにも見える。これなら、使役士テイマー自身で戦えるってわけかよ。最悪だな……

 使役士(テイマー)のジョブは調べ尽くしたつもりだが、こんなスキル聞いたことがない。【覚醒】だけで充分ヤバいのに、さらにもう一つヤバそうなスキル追加とは……


『楽しいショーは終わった。ここからは俺様のワンマンショーだ……!』


 ヌンデルさんの声は、まるでポールと重なっているようだ。さしずめ友情合体と言ったところか?

 冗談じゃない。こっちはボロボロなんだ。精一杯なんだ。今の俺達にこんな化け物を相手に出来るはずがないだろ……

 流石のノランも、僅かに笑顔を崩しているように感じる。まさに、絶望って奴だな。

 だが、戦うしかない。俺は汗ばんだ手で、鋼鉄スパナを強く握りしめた。

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