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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十三日目 漁村の村ゼニス
75/208

74 一緒のギルド!

 敵はヌンデルさんとイデンマさん。どうやら、幹部クラスは二人らしい。彼らは海賊船の上で、何やらもめている様子。


「ぜーんぶ俺様に任せればよかったのによォ。何で付いてきたんだよミース!」

「お前が勝手な真似をしないように、監視は必要だろう?」


 ヌンデルさんは文句を言っているが、イデンマさんの方が正しいな。相変わらず、彼は勝手な真似ばかりしているようだ。

 女盗賊は右手を振り上げ、何者かに合図を送る。すると、敵海賊船の船内からゾロゾロとガイコツ海賊が現れた。

 こいつがシースケルトンか……見えるだけでも50以上は居るだろう。雑魚モンスターだが、尋常ではない数だな。


「シースケルトンがあんなにたくさん……」

「滅茶苦茶だ……勝てるのかよ……」


 イシュラとアパッチさんは完全に怯えている。こちらの船上を見渡す限り、他の【エンタープライズ】メンバーも絶望的な表情だ。

 これは不味い……完全に敵のペースじゃないか。イデンマさんは、勝ち誇った表情でハリアーさんに言葉を投げる。


「【エンタープライズ】ギルドマスター、巨大碇のハリアーと見受けられた。その船に乗っている機械技師メカニックレンジをこちらに渡し、金輪際こちらの邪魔をしないと約束してもらおう。そうすれば、手荒な真似をする気はない」

「取引というわけか……」


 最悪だ……俺の味方を買収する気かよ……

 こんな所で果てる訳にはいかない。スプリ、カエンさん、ステラさん、それに金治のお母さん………

 俺は背負っているんだ。仲間とも約束した。周りを巻き込むことになっても、あいつらと戦う。そう、覚悟したんだ。

 イデンマさんの使った手段に、当然ヌンデルさんは不服な様子。


「おいおい、ミース! そりゃないぜ……」

「無駄な戦闘は極力避ける。当然の手段だろう?」


 ああ、貴方は正しい。だから、俺は追い詰められている。今はただ、ハリアーさんを信じるしかなかった。

 しかし、彼女の対応は素っ気ない。自ら判断することを拒否し、部下の一人に全てを任せる。


「アパッチ!」

「は……はいい!」

「お前が何か言ってこい」

「お……俺え!? 冗談きついっすよ!」


 冗談ではない。ハリアーさんは無言の圧力を加える。それを感じたアパッチさんは、怯えるように前に出た。

 よりにもよって、なんでヘタレな彼に判断を任せたんだよ……

 これで、俺の全ては終わった。アパッチさんは震えながら、敵に向かって親指を立てる。これは、何かの合図だろうか。

 疑問に思ったその時だ。彼は突き立てた親指を下へと振り落とす。


「どこの馬の骨か分からん輩に! 可愛い後輩差し出すかァ! てめえら糞野郎どもは鮫の餌にでもなってろやブォケエエエ!」


 唖然とした。

 そう言えばノランが言ってたな。『レンジくん、自分は特別な使命を持っていて、ノランちゃんたちとは違うんだって考えてる』確かにその通りだ。

 意思のないアパッチさんは、当然のように俺を切り捨てると思った。バカだな……それって見下してるのと同じじゃないか……

 悔しいし情けない。でも、心が温かくなる。

 イデンマさん、俺たちの負けですね!


「交渉決裂だな……」

「行けやァ! 野郎どもー!」


 舌打ちをする彼女の横で、ヌンデルさんは嬉しそうに攻撃命令を出した。

 命令を聞いた海賊スケルトンたちは、一斉に船から飛び掛かってくる。いよいよ始まるのか、敵組織との大きな戦いが……

 ハリアーさんは笑う、そして巨大な錨を天へと振り上げる。


「開戦だ!」


 愚問、最初から彼女は戦う気だった。この荒くれ者の集まり、【エンタープライズ】が逃げ出すはずないよな。

 ギルドメンバーたちは各パーティーで行動し、攻め入るスケルトンたちと戦闘を開始する。まるで映画のワンシーンだ。

 銃士ガンナーのラプターさんは自らの額に手を当て、そんな戦場を見渡していく。彼女もアイに負けず劣らない戦闘狂。非常に興奮しているように感じられた。


「やっはー! 海戦だ開戦だ!」

「お……俺はなんてことをー!」


 そんな彼女とは対照的に、今さら自分の行ったことを後悔しているアパッチさん。だが、俺は知った。何だかんだで彼も荒くれ者、【エンタープライズ】のメンバーなのだと。

 敵はまだ、俺たちのいる船首に攻め入っていない。しかし、それも時間の問題だろう。今の内に、俺は心の内にある感情を吐き出した。


「ありがとうございますアパッチさん……!」

「お……おうよ! こうなったら成るようになれだ畜生!」


 覚悟を決めたアパッチさん。彼は鞭を握り、それを船の床へと叩きつけた。これは、デカい技が来るな。


「スキル【コール】! 現れろォ! 超巨大深海獣ゲソノウミ!」


 彼の声と共に、船全体が大きく揺れる。この感覚……船の下に何かいるのか!

 今使ったのは召喚魔法? いや、違う。【テイム】で捕獲し、【放飼い】のスキルで遠距離使役してるモンスターを呼び出すスキルだ。

 やがて、水しぶきを吹き上げ、俺たちの船は空中へと浮き上がる。正確には、巨大なモンスターに持ち上げられたのだ。

 帆船を背負うほど巨大なモンスター。白く、なまめかしく、十本の足を持つそいつはまさにイカだろう。唯のクラーケンも、ここまでデカくて船と合体までしたら大ボスだな。


『ゲッゾオオオ……!』

「へえ……海賊船その物が巨大なモンスターってわけかよ! 同じ使役士テイマーとして感心するなあ!」


 目をキラキラと輝かせ、ヌンデルさんは歓喜する。このクラスの使役士テイマーに会うことなんて滅多にないからな。

 ゲソノウミは船上に攻め入ったスケルトンたちを十本足によって蹴散らしていく。当然、足の大きさも巨大で、あれを相手にするのは正直勘弁だな。本当に味方で良かった。


 アパッチさんの参入によって、敵の勢いが衰える。攻め入るのなら今しかない。

 それに真っ先に気づいたはバルメリオさん。彼は俺たちに背を向け、敵船が投げ入れた巨大碇の元へと走り出す。


「悪いなヴィオラ、馴れ合いはここまでだ。俺は敵船に乗り込む! そして、イデンマの奴をぶっ倒すんだ!」

「ちょっと無茶よ!」


 彼はヴィオラさんの警告を無視し、ただ碇を目がけて突き進む。あの碇は太い鎖によって敵船へと繋がっている。その上を伝って一気に乗り込む算段だろう。

 途中シースケルトンに阻まれ、何度かダメージを受けている。それでも、バルメリオさんは止まらなかった。ただ、イデンマさんとの蹴りを付けるため、無我夢中で走り続ける。

 あの様子なら、イデンマさんの元にたどり着けるかもしれない。しかし、それまでにライフを消費してしまったら勝負にならないぞ。

 同じ銃士ガンナーとしての責任を感じたのか、ラプターさんが行動に移った。


「大丈夫、バルメリオくんは私に任せて! スキル【ジャンプ】!」


 彼女は【ジャンプ】のスキルを使って、一気に敵船へと飛ぶ。これなら、先回りをしてバルメリオさんを支援できるな。

 ラプターさんのおかげで気づく、何も足場を伝って敵船に向かわなくていいんだ。ある手を使えば、俺もあの戦いの場にむかえる。

 だが、俺が攻め入ってどうするんだ? 敵の目的は俺なのに、わざわざ突っ込む必要はないだろう。

 ここで待機するのが最善。以前の俺ならそう考えた。

 でも、みんなが俺のために戦ってくれている。この場を左右するほどの力もある……


 知らない顔なんて出来るか!

 

「すいませんヴィオラさん……僕も行きます!」

「レンジ……」


 俺は目を閉じ、すぐにスキルを発動する。

 敵から貰ったチートスキル。今は巨大な敵を打ち倒すための希望のスキル……


「スキル【覚醒】!」


 閉じた目を開き、その眼に歯車の紋章を刻む。さあ、ここからが俺のチート無双だ!

 本気の覚悟をし、力を露見させる俺。それを見たヴィオラさんは、視線を空へと向ける。


「そっか………もうこんな所まで来たんだ。ちょっと早かったな……」

「皆はここで待っていてください。スキル【発明クリエイト】。アイテム、マジックハンド!」


 俺はレザーグローブと鉄くずにスパナを打ち付け、対象を掴む伸縮自在の義手を作り出した。リルベ戦の時のように、こいつで敵船の手摺を掴み一気に移動する。少し怖いが可能なはずだ。

 マジックハンドを構え、ヌンデルさんから少し離れた手摺に狙いを付ける。しかし、その時だ。俺の後ろから何者かが抱き付く。しかも、一人じゃない二人だった。


「私たちは!」

「一緒のギルド!」


 アイとヴィオラさん、このまま一緒に敵船までぶっ飛ぶつもりだろう。

 【覚醒】による強化を考えれば、重量オーバーはないはずだ。ここで俺が文句を言っても、絶対にこの二人はついて来る。なら、もう受け入れるしかないよな。


「分かりました……行きますよ!」

「待って……!」


 俺がアイテムを掃射した瞬間、少し遅れてイシュラが手を伸ばす。だが、それは遅かった。

 マジックハンドは敵船を掴み、一気に収縮を開始する。彼女の手から離れ、俺たちは向こう側へと引っ張られていった。


「早いわよ……バカ……」


 残された少女はしゅんとうつむき、そう言葉をこぼす。

 もう少し早く手を伸ばしていれば、何かが変わっていたかもしれない。今となっては、どうしようもないのだが。













 俺たち三人は敵船の甲板に足をつける。

 このまま一気にヌンデルさんを止めに向かおう。そう思った時だ。


『ケカカ……』

「レイドボス! キャプテンキッド!」


 俺達の前に、豪華な装飾を身にまとったシースケルトンが立ちふさがる。この海賊船ホルテンジアのボスモンスターということか。敵は剣を振りかぶり、素早い動きで攻撃を放った。

 それを迎え撃とうと、ヴィオラさんが前に立つ。しかし、彼女が攻撃を受けるより先に、敵の剣は何者かによって弾かれる。


「スキル【トマホーク】!」

『ゲカッ……!』


 剣に打ち付けられたのは巨大な錨。エンタープライズの船首から、ハリアーさんがここまで放ったのだ。

 碇は命中すると、その反動で彼女の手へと戻っていく。海賊パイレーツ専用スキル【トマホーク】。さしずめ、武器を消費しない【武器投げ】と言ったところか。

 ハリアーさんは続いて【挑発】のスキルを使用し、キャプテンキッドに中指を立てる。そして、俺たちに向かって一言だけ放つ。


「行けっ!」

「はい!」


 【挑発】の効果により、モンスターは彼女を補足する。そして亡霊は船から飛び出し、エンタープライズへと足を付けた。

 完全に助けられたが、お礼は言わない。愚問だって怒られてしまうからな。




 障害も取り除かれ、ようやく俺たちはヌンデルさんと対峙する。待ちわびた様子の彼は、椅子に座りながらケットシーの頭を撫でていた。

 見たところ、イデンマさんの姿はない。どうやら、バルメリオさんを迎え撃ちに行ったらしい。

 丁度良かった。俺たちが倒すべき相手は、このブレーメンの音楽隊だけということだな。


「来たか……ジョン! ジョージ!」

『ヒヒーン!』

『ワンワン!』


 ヌンデルさんはユニコーンとフェンリルの二匹を俺たちにけしかける。まずは手始めだろうか、どちらも魔法やスキルを使わずに通常攻撃を行う。

 爪でひっかくフェンリルのジョージ、角で突進するユニコーンのジョン。前者はヴィオラさんの剣が、後者はアイの大針がそれぞれ受け止める。


「行ってくださいレンジさん! お二方の相手は私たちです!」

「ギルド【IRISイリス】の実力、見せてやるんだから!」


 これで、敵の戦力は半減。残る敵はヌンデルさん本人とコカトリスのポール、ケットシーのリンゴだ。

 石化の状態異常は俺には効かない。ポールとの相性は最高だろう。しかし、魔法を扱うリンゴの方はどうしたものか……まあ、もう目の前にいるんだ。悩んではいられないか。

 椅子の上にふんぞり返るヌンデルさんに、俺はスパナを突き付けた。


「ポール、リンゴ、ヌンデルさん……! 貴方たちの相手は僕だ!」

「飛車角落ちってところか……いいぜぇ、低レベルのてめえをぶっ倒すには丁度いいハンデだ」


 ゆっくりと立ち上がる使役士テイマー。彼は両腕を広げ、お決まりの口上を語り出す。


「さあ! ついに始まったぜこのショー! もちろん主役は……」

「ノランちゃんだよ~!」

「なっ……!」


 しかし、その口上は一人の少女によって妨害された。

 これには俺も驚く。なんと、先ほどまでヌンデルさんが座っていた椅子の上で、アイドルのノランが両手を広げていたのだ。

 いったいどんなミラクルを使ったんだよ。あのスケルトンの中、彼女一人で先回りするなんて不可能……いや、方法はあるぞ。

 以前、俺がギンガさん相手に使った手段。その後の展開を予測して、事前に行動を行う。まさかこいつ、開戦する前から敵船に乗り込んでいたのかよ。恐ろしい奴だ。


「さあ、楽しい楽しいショーの始まりだね! ノランちゃん知ってるよ! この戦いで勝っちゃう人は……」


 ノランは豪華な椅子をステージ台として使い、その場で一回転する。


「ぱんぱかぱ~ん! 一番楽しんじゃう人でーす!」


 そう言うと、彼女はその場から飛び出し、俺の隣に付く。支援……してくれるのか?

 正直、俺はヌンデルさんに勝てるとは思っていない。まだまだ、俺のレベルは彼に追いついていないからだ。

 だけどこいつと一緒なら……二人ならやれる!

 行くぞ! vsヌンデルだ!

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