表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十三日目 漁村の村ゼニス
73/208

72 ギルドマスターの意思

 一気にライフを削られたが、まだまだヴィオラさんに勝機はある。二人のレベル差はそれほど開いているわけではない。冷静に敵の攻撃を捌いていけば、高威力の斧も怖くなかった。

 しかし、ヴィオラさんは強襲効果のあるスキルで一気に攻め込む。かなり、冷静さを崩してるな。


「スキル【アサルトブロウ】!」

「聞けばヴィオラ、お前は私に会うことを突っぱねたらしいな」


 彼女の上空から切り落とす攻撃を、ハリアーさんは涼しい顔で受け止めた。剣と斧では斧の方が硬い。ヴィオラさんでは、とても突発出来ないだろう。

 それにハリアーさんの言う通り、彼女はこの場所に来ることを嫌がっていた。この人、ヴィルさんから色々聞いているな。


「仲間が特異な立場にあることを知りながら、なぜ私を頼らなかった。くだらないプライドなど捨て、協力を仰ぐべきではなかったのか?」


 痛いところを突かれる。まさにその通りだろう。

 ヴィオラさんは【バックステップ】で飛び退き、体勢を立て直した。斧持ちはスピードが遅いのが弱点。距離を取るのは有効だぞ。

 それに、彼女も言われっぱなしではない。しっかりとした考えがあった。


「うう……一度抜けたギルドにおめおめ戻って、助けてほしいなんて言えるわけないじゃない! それこそ、ギルドマスターとして示しがつかないわ!」

「ほう、よく吠えるじゃないか」


 言い返した。しかも筋は通っている。

 本当はただ単に、ハリアーさんとの接触を拒んだだけだ。しかし、ここは目をつぶっておく。ヴィオラさんがそう言っているなら、それで良かった。

 ハリアーさんはゆっくりと近づき、巨大錨を横に振りかぶる。これは大技がくるな。


「言うことは正しい。だが、能力が伴っていないぞ! スキル【ヘビースイング】!」


 海賊(パイレーツ)専用のスキル。武器を横から叩きつける荒業だ。振りかぶるモーションもあり、かなり遅い攻撃と言える。

 しかし、何かの間違えで直撃すれば、一撃で終了だろう。目に見えて分かる威力の高さだ。

 普通なら避ければ済む。しかし、ヴィオラさんは攻撃に対して剣を構える。やっぱり、冷静さを失っているのか。このままだと不味いのでは……そう思った時だ。


「……うるさい! 私はもう貴方の仲間じゃない! スキル【スラッシュ】!」


 ハリアーさんのスキルに対して、彼女は別のスキルを打ち付ける。

 剣士(ソードマン)の最も基本的な技【スラッシュ】。追加効果はないが、PP(パワーポイント)の消費が少ない高威力技だ。

 互いのスキルがぶつかり合い、威力を相殺する。しかし、海賊(パイレーツ)かつ、斧を使うハリアーさんが有利。そのままヴィオラさんを払い飛ばしてしまう。

 壁に叩きつけられ、ダメージを受ける女剣士。しかし、彼女はすぐに立ちあがった。


「【エンタープライズ】に入ったのも、貴方に負けて嫌々入っただけ……チャンスがあったら、すぐにやめるつもりだった!」


 無謀でも、ヴィオラさんはあえて真っ向からぶつかった。それは、もうハリアーさんから逃げたくないという気持ちの表れかもしれない。

 しっかりと剣を握る。相手をまっすぐと見据え、ヴィオラさんは走り出した。


「スキル【クリティカルブロウ】!」

「スキル【ボーンクラッシュ】!」


 彼女の斬り落としに対し、ハリアーさんも同じ動きをする。今度は相殺せず、互いにダメージを受けた。しかし、それぞれ追加効果が違うため与える影響が変わってくる。

 ヴィオラさんの剣は相手の頭部に命中し、大ダメージを与えた。完璧なクリティカルヒットだ。

 逆に、ハリアーさんの攻撃は肩に命中し、与えたダメージは少ない。しかし、このスキルには追加効果があった。


「ぐう……防御力が……」

「だが、お前は他のゲームでずっとソロプレイヤーを貫いてきたはずだ。そんなお前が、なぜ急にギルドを作った。それも、個人ランキングには全く興味を示さずにだ……」


 スキルによって防御力を削るのと同時に、精神の方も削っていく。

 確かに、ヴィオラさんがギルドを作った理由は不明だ。俺も今だに分かっていない。

 以前、ギンガさんに聞かれた時は、自由に飽きたと言っていた。一体、どういうことだろうか。

 ハリアーさんは、じりじり近づきながら威圧していく。


「まさか、私を潰すつもりか?」

「違う!」

「人の上に立ちたかったからか?」

「違う!」


 ああ、違う。ヴィオラさんはそんなキャラではない。ハリアーさんに恨みを持つことはないし、人を従えて満足する質ではない。

 女海賊はじれったいものを見るような表情をし、巨大錨を振りかぶる。


「では、なぜギルドマスターになった!」

「ぐ……」


 そんな彼女に剣を構え、ヴィオラさんは叫んだ。


「貴方に……貴方に憧れたからよ!」

「な……」


 ハリアーさんの動きが止まる。その瞬間、ヴィオラさんの剣が彼女の胸部を切り裂いた。

 無防備なところに打ち込んだ一撃。通常攻撃だが、そこそこライフを削ることに成功する。

 だが、与えたダメージより、この一言の方が強烈だな。あのハリアーさんが完全に度肝を抜かれていた。

 そんな彼女に、ヴィオラさんは言葉を連ねる。


「悔しいけど……貴方は強くてカッコよかった。ただそれだけよ」


 顔を真っ赤に染め、恥じらいながら彼女は言う。なるほど、だから誰にも話さなかったのか。変なところでプライドが高いからな。

 少女ノランは満面の笑みを浮かべ、大声で騒ぎだす。


「きましたー! 結婚しちゃいなよ!」

「そう見えるなら、お前の目は曇ってるぞ……」


 先輩と後輩の美しい友情を汚しまくる彼女。お前じゃないんだから、そういうのはない。

 床に膝をつき、うつむいているハリアーさん。泣いているのか? 問題児の後輩が、こんなにも自分を慕っていることに感動しているのだろうか。

 恐る恐る、彼女に近づくヴィオラさん。その瞬間だ。


「スキル【サマーソルト】!」

「へぶっ……!」


 波しぶきを纏ったバック転からのキックが、ヴィオラさんの顎に命中する。海賊(パイレーツ)はこんな体術スキルもあったのか。

 【スカルクラッシュ】で防御力が下がったところに、この一撃。これは当分立ち上がらないだろう。

 床に倒れる彼女を見下しつつ、ハリアーさんは体を上げた。


「憧れだと? お前のような奴は腐るほどいる! 私に到達したいのなら、さっさとそこから這い上がってこい! 以上だ」

「ひでえ……」


 そう言い捨て、彼女は決闘(デュエル)を放棄する。

 油断したヴィオラさんが悪いのだが、あまりにも鬼畜な最後だったな……まあ、大事にならなくて良かったか。

 無様に倒れる彼女を無視し、ハリアーさんは俺の元へと歩いてくる。いったい、今度は何の用なんだ。

 女性なのだが、近くで見るとでかくて怖いな……まあ、怯えたら失礼だから我慢するが。

 そんな俺を威圧しつつ、彼女は腕を組む。


「ほう、私を前にして怖気づかないか……」


 いや、貴方を気遣っての行動ですが……不服なのだろうか?

 どうやら、そういう訳ではなさそうだ。


「ヴィルに似ているな。何を考えているのか、さっぱり分からん」


 眉間にしわを寄せ、ハリアーさんはそう俺を評価する。まさかのヴィルさん似か。あまりピンとこないな……

 彼女は巨大錨を背中に背負い、話を続ける。


「お前は機械技師(メカニック)の強化方法に迷っているようだが、そろそろ答えを教えてやる」


 いきなり、どうしたんだ。今まで、俺は色々な人に機械技師(メカニック)の性質を聞いてきた。しかし、ヴィオラさんもヴィルさんも、あまり詳しくない様子だった。

 同じ機械技師(メカニック)のアルゴさんや、イリアスさんに聞いても反応は微妙。マイナージョブ故に、発売一ヶ月では研究が進んでいなかったのだ。

 しかし、上位ギルドの頂点であるハリアーさんは、その答えを見極めている。だからこそ、こんな事を言い出したのだろう。

 彼女は語っていく。俺がずっと気になっていた機械技師(メカニック)の概要を……


機械技師(メカニック)はモーションの長い前衛アタッカーだ。魔法が苦手な為、サポートには向かない。使用するスキルもアイテムも、近距離タイプのものが大半だ」


 そう言えば、ドリルアームもイグニッションも、近づかなければ使えない。グレネードとマジックハンドも中距離向け、遠距離には向かなかった。

 【起動(スタンドアップ)】によって乗り込むロボットも、流石に魔法は使えない。カスタマイズ出来るのは、近距離から中距離までと言える。これは完全に近距離アタッカーのそれだ。


「威力はアイテムでカバー出来る。防御を鍛えて遅延し、ワンショットを狙う戦術は実に機械技師(メカニック)らしい。マイナージョブ故に、型が安定したのは最近だがな」


 これって、俺の強化方法と同じじゃないか。仲間を守るための【防御力up】スキル。それがこんな形で機能するとは……

 ハリアーさんは不敵に笑い、船全体に響く声で叫ぶ。


「正解だ! そのまま進め!」


 正解か……偶然にも、機械技師(メカニック)らしい強化方法になったんだな。やっぱり、運命ってあるんじゃないか。

 アイとバルメリオさんが、感動する俺を賞賛する。


「流石ですレンジさん! 時代を先取りですよ!」

「情報なしの強化はさぞ怖かっただろう。だが、この賭けはお前の勝ちだ」


 別に模範解答を選択する意味はない。ルージュのように、常識外れの強化方法もあるだろう。

 しかし、俺の選んだ道がその模範解答なら、甘んじて受け止めよう。それが、俺の答えだったという事だ。


「ありがとう。これで良かったんだな……」


 こうして、何だかんだで俺はテンプレ構築の機械技師(メカニック)となる。まあ、【状態異常耐性up】の方は異質かも知れないが、前衛ならまず機能するだろう。

 後はただ進むのみ。床に倒れるヴィオラさんを見つつ、俺はそう思うのだった。












 船内の奥の部屋、鍛冶工房に俺は足を運ぶ。イシュラから、完成した鋼鉄スパナを受け取るためだ。

 ほぼ全財産を支払い、俺は彼女からスパナを購入する。お店よりかなり高いが、背に腹は変えられないな。


「どう? いい出来でしょ?」

「ああ、軽くて使いやすそうだ。ありがとう」


 前の物より若干大きくて軽い。攻撃を受けることに特化した防御用の武器だ。

 スパナの動きはメイスに近い。機械技師メカニック専用の武器で、アイテムやロボットを使うこのジョブにはあまり必要ないだろう。

 だからこそ、この防御特化は適切だと思われる。【発明クリエイト】も【衛星サテライト】もモーションが長く、その時間を稼ぐために隙を作りたい。こいつで受けてジャスガして、どんどん相手を怯ませる。これが俺の戦術だ。

 イシュラは頭に巻いたバンドをほどき、俺に笑顔を見せる。


「珍しいもの作れて楽しかったわ。知り合いにも宣伝してよ」

「ああ、ディバインさんとか?」

「やめて」


 そんな冗談を言い、少し彼女をからかう。少し前までギスギスしていたのが嘘のようだな。

 こうやって、少しづつ仲間を増やしていければいいと思う。人種が似ているのだろうか。この世界で出会う人たちは、現実世界より親しみやすく感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ