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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
十三日目 漁村の村ゼニス
71/208

70 船上の武器職人

 今日は土曜日、小学生のルージュ、中学生のリュイとシュトラを除いたメンバーは休日だ。ヴィルさんとハクシャは午前中用事があり、リュイたちと同じ時間にログインする。そうなると、メンバーの大半がいないことになるな。

 ハリアーさんには現実時刻の朝9時に会う予定だ。今は朝の7時で、【ディープガルド】時刻で早朝の4時。時間はまだまだあった。

 俺は太陽の上っていない漁村で、アイとのトレーニングを行う。互いに一礼し、いつもと同じように武器を構える。そして、それぞれの技を打ち付けあっていった。

 最近はスキルや魔法なども織り混ぜ、本格的な戦いになってきている。アイの発動する【祭り縫い】を、俺は【解体(テイキング)】によって振り払った。もはや、実戦さながらだ。


 そんなガチの戦いを目撃したのは、獣耳と尻尾をつけた少女。彼女は唖然としながら、俺たちに疑問をこぼす。


「あんた達、何やってるの?」

「イシュラさん!」


 何も知らないイシュラにとって、俺たちの戦いは不自然に映っただろう。両方とも、本気で潰しあっているのだから。

 俺は練習に慣れてしまったので、平然とした顔をしつつ疑問に答える。


「戦闘技術を磨いてんだよ。そういうお前こそ、こんな時間にどうしたんだ?」

「あんたたちが戦闘技術を磨くなら、私は生産技術を磨くって事。【エンタープライズ】の工房で武器作りよ」


 そう言えば、イシュラは鍛冶師(ブラックスミス)で生産特化だったな。戦闘でも普通に強いので忘れていた。恐らく、彼女もリュイと同じ天才肌なのだろう。


「今は買い出しの途中よ。すぐに工房に戻らないと」


 そう言うと、イシュラは港の方へと歩いていく。かなり、熱心に武器作りをしているようだ。

 アイはその生産活動が気になったのか、彼女に付いて行こうとする。


「【鍛冶】のスキルですか。見に行っても良いです?」

「言うと思った。ダメよめんどくさい」


 まあ、断られるよな。あのイシュラが、快く受け入れてくれるはずがない。同じ立場なら、俺でも断りたい状況だ。

 しかし、アイは食い下がらなかった。唯々、しつこく彼女に詰め寄っていく。本当に物凄い執念だな。


「お願いします! 私、貴方と仲良くしたいんです!」


 なるほど、イシュラと親しくなるのが目的か。まあ、アイは彼女たちと接点が薄いので、納得は出来る。誰とでも仲良くするのが、この少女だ。

 あまりにもしつこいので、ついにイシュラが折れる。ただし、条件付きだ。


「分かった。でも、代わりに頼みがあるわ」


 彼女が頼みとは珍しい。俺も自然に二人の間に入っていく。厄介事は嫌いだが、今回ばかりは気になって仕方がなかった。


「私の武器を買ってよ。今後も贔屓にしてもらいたいからね」

「武器なら、レンジさんの方が必要だと思います」

「別にレンジでも良いわよ。スパナは作るの簡単だし」


 なんか、勝手に話が進んでるな。確かに、機械技師(メカニック)は銃を作れてもスパナは作れない。【鍛冶】専門の鍛冶師(ブラックスミス)を頼るしかなかった。

 しかし、残念ながら俺にはお金がない。あまり高価なものは頼めないな。


「俺、あんまりお金持ってないけど……」

「鋼鉄スパナぐらい、少し割高でも買えるでしょ。店で売ってる物より、高性能なのは保証するわ」


 ゲームを始めてまだ二週間も経っていないのに物凄い自信だな。なら、お手並み拝見と行こうじゃないか。

 俺はイシュラの条件を飲む。丁度、新しい武器が欲しかったところだ。


「分かったよ。その条件飲むよ」

「決定ね」


 いつもむすっとしている彼女が、今日は機嫌が良さそうだ。もしや、パーティー以外のプレイヤーに武器を作るのは初めてか?

 まあ、ゲーム慣れしているので心配は要らないだろう。何だかんだで、俺は彼女を信用していた。













 港の桟橋を渡り、俺たちは海賊船エンタープライズに乗り込む。ギルド本部を兼ねている事もあって非常にでかい。

 しかし、メンバー全員が乗れるほどの大きさではないな。恐らく、これと同じような帆船に加え、陸にもギルド支店が点在しているのだろう。


「これだけ規模がでかいと、組織の制御が大変だな」

「制御なんてないし、基本自由よ。ハリアーさんは奔放主義だから」


 イシュラの言うとおりなら、まさに海賊(パイレーツ)だな。まあ、ハリアーさんのカリスマ性あってのギルドだと思うが。

 そんなギルドマスターの彼女は朝が早いようだ。マストの上に設置された監視台で、女性は海を見つめている。挨拶をしようと思ったが、あの高さでは聞こえないだろう。

 仕方なく工房の方へと向かおうとした時だ。別の女性が俺たちに話しかける。


「やっはー! おはよう後輩たち」

「ラプターさん、おはようございます」

「おはようございます!」


 銃士(ガンナー)のラプターさんに、俺とアイは挨拶を返す。【エンタープライズ】のNo2らしいのだが、あまり威厳を感じない。まあ、戦闘は強いんだろうな。

 俺は海を見つめるハリアーが、なにをしているのか聞いてみる。


「ハリアーさん、何しているんですか?」

「波を読んでいるんだよ。限定スキル【海鳴】でね」


 波を読む限定スキル。俺と同じで戦闘には使えそうもない。限定なんだから、もっと派手でも良いと思うのだが。

 アイは俺の言いたかった事を代わりに口に出す。


「限定なのに、少しぱっとしませんね」

「それは限定スキルを勘違いしてるよ。スキルってのは強さの証じゃなくて個性なんだ。全部平等な性能だから、ゲームが成り立っているんだよ」


 ぐう正論だ。珍しいスキルが強ければ、それを偶然手にした者のワンマンになる。強い者は更に強いスキルや武器を手にいれ、格差は広がっていくだろう。

 そんなゲーム、だれも望んではいない。平等だからこそ、試される鍛えられる。マーリックさんが言っていたな。


「じゃ、限定スキル持ちは個性が強いって事ね。ハリアーさんはどうやって手にいれたの?」

「全部の海を航海したらNPCお姉さんに貰ったって。私もあんま知らないや」


 イシュラが聞いたところ、貰える場所は俺と同じらしい。あのNPCお姉さん、他にも同じことを言っていたんだな。一人で黙々と働いて、何だか大変そうだ。

 次会えるのはいつだろう。少し懐かしく思うのだった。















 俺たちは船内を歩き、奥の工房へと向かう。波で揺れ、足元がおぼつかない感じだ。港でこれなら沖に出ればもっと酷いだろうな。帆船なんて、この時代に乗るものじゃない。

 狭い廊下を進み、一番奥の扉を開ける。その瞬間、独特な鉄臭さと焦げ臭さを感じ取った。

 部屋には小型の炉と、【鍛冶】に使う最低限の道具が用意されている。想像よりも随分と小さい。


「さって、ここが鍛冶工房よ」

「意外と小さいな」

「船の上だから場所が取れないのよ。それに、【エンタープライズ】は巨獣討伐ギルド。生産には力を入れてないの」


 俺は生産特化で頂点の【ROCO(ロコ)】ギルド本部を使った事があるからな。ランキング上位と言えど、戦闘や攻略特化のギルドならこんなものだろう。

 部屋の隅には、製作済みの剣や槍が何個か置かれている。恐らく、イシュラが練習がてら製作した物だ。俺が見ても、性能とかよく分からん。

 アイは【目利き】のスキルを鍛えているが、【鑑定】のスキルは持ってすらいない。彼女の専門はあくまでも素材の品質チェックだ。目を凝らし、イシュラの使用している鉄鉱石を見ていく。


「流石は上位ギルド……良いものを使っていますね」

「ぶちゃけ、生産は腕より材料よね。きっちり割高にしておくから安心して」


 にっと笑い、彼女はそんな意地悪を言う。俺は不覚ながら、少しドキッとしてしまう。胸大きいし、こいつ結構可愛いのか?

 そんな事を考えていたら、アイがジト目でこちらを睨んでいた。いやいや、安心してくれ。俺は胸の大きさで女性を判断するような奴ではないぞ。俺はナチュラルで服を着こなしている子が好みなんだ。

 俺とアイが無言でやり取りしていると、イシュラが炉に【炎魔法】を放つ。瞬間、部屋の温度が急激に上がっていく。船上でも火事にならないのは、これが魔法だからか。

 彼女は作業を始める前に、俺にある提案をする。


「じゃあ、フレンド登録するわよ。今後も贔屓にしてもらうから」

「お前、俺の申請無視してただろ……」

「馴れ合いはごめんね。フレンド登録は営利目的に使うの」


 頑固者で仕事熱心。こいつ、鍛冶師(ブラックスミス)っぽい性格だな。マーリックさんのジョブ占いが、ぴったり当てはまりそうだ。

 イシュラは上機嫌な様子で、俺に人差し指を突き付ける。


「ただし、私以外から武器作ってもらったら、会うたびにネチネチ言ってやるから。覚悟しなさいね」

「大丈夫だ。他には頼らないよ」


 ようやく彼女と友達になれたような気がする。他と違って、物凄く攻略に時間が掛かってしまったな。いや、攻略とかゲームじゃないんだが……

 イシュラは道具を準備し、いよいよ製作に乗り出す。たくさん積まれた鉄鉱石の中から一つ選び、それをハサミで掴む。機械技師メカニックのパーツ作りと同じだ。これを炉の中に突っ込んで溶かすんだよな。


「今から作るけど、仕上がりに希望とかある?」

「え? 俺の好きなように作れるのか?」

「本気でゲームをプレイするなら、武器はオーダーメイドが常識よ。精々、私の機嫌を損ねないことね」


 そう言われても今日いきなりなんだ。考えがあるはずもない。


「オーダーメイドって……いきなり言われてもな……」

「じゃあ、勝手に決めるわ。あんたの戦略はお見通しだから」


 彼女は真剣な眼差しをしながら、鉄鉱石を炉の中に突っ込んだ。そして、完成品の性能について語っていく。


「受けの性能を上昇させる。ジャストガードがしやすいように、重さにも気を使わなくちゃ。威力が下がるけど、それはアイテムでカバーしてちょうだい」

「あ……ああ」


 何だよこいつ、エスパーかよ。俺の好みをピッタリ当てやがった。

 だが、不自然ではないか。イシュラはずっと、俺の戦闘を見ていた。共に戦い、ここまで来たからこそ好みが分かったのか。まあ、俺もこいつの戦略は知ってるが。


「さって、製作開始。時間がないから、アイのはまた今度ね」

「はい! レンジさん優先でお願いします!」


 見たいと言い出したのはアイの方なんだが、本当にそれで良いのか? だが、もう話は進んでいるので、ここで俺があれこれ言う気はない。彼女の善意は喜んで受け取ろう。

 イシュラは炉の中に突っ込んでいた鉄を取り出す。そして、それを鉄板の上に置き、ハンマーで万々叩いていく。細長くなってきたら、それを水の中に突っ込んで急激に冷やす。そして、また炉の中に突っ込む……

 いや、非常に興味深いのだが。気が遠くなる作業だな。俺たちが見ていても、なにも出来ないぞ。

 ぼーっと見ている俺たちに、イシュラは汗を流しながら言う。 


「……結構時間掛かるから、ずっと見てても仕方ないわよ」

「みたいだな……」


 ここにいても邪魔になるだけだろう。本来、彼女の作業を見るために来たのだが、完全に別件になってしまったな。

 しかし、完成品が非常に楽しみだ。恐らくまた破産するだろうが、もうお金の事は気にしないことにした。機械技師メカニックはお金が掛かる。万年貧乏なのは覚悟の上だった。

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