66 砂浜の道
俺たちはシュトラの【交信魔法】により、ヴィルさんと連絡を取る。ノランを仲間に加えた事により、今回の事件は収束へと向かった。まったく、本当にはた迷惑な奴だったな。
合流まで時間が空いているので、俺たちはアルカディアの街で買い物をする。アイは新調した服を自慢げに見せ、俺に視線を向けた。
「見てください。新しい防具、潮風の仕立服です!」
「似合ってるよ」
水色の生地に白いレースの入った服。これは裁縫師専用の防具だな。俺が素直に誉めると、アイは嬉しそうに笑う。かなりご満悦な様子だ。
そんな彼女に、俺はあるアクセサリーを手渡す。それは、彼女の頭に付けた物と同じ、青色のリボンだった。
「ほら、さっき買ったアクセサリーだ。本当に同じ物で良いのか?」
以前、猫耳バンドを新調してもらったので、そのお返しだ。本当は別のアクセサリーを買う予定だったが、アイの要望で以前と同じ物を選ぶ。
彼女は以前のリボンを外し、新しいリボンを装備する。どうやら、これで満足らしい。
「はい! このリボンは私のお気に入りなんです」
濃い青色をした大きなリボン。基本は防御力を上げるだけのアクセサリーだが、今回買った物は特別だ。これはNPCの開く店ではなく、プレイヤーのお店から購入した物。性能は格段に上がっており、おまけの補助効果が何個か付いている。
本当はもっと価値のあるアクセサリーを買ってやりたいが、今の俺にはお金がない。ロボットの製作に大金をつぎ込み、止めのゲームオーバーで完全に金欠だ。
まあ、俺は装備を頻繁に変える気はないし、高額アイテムにも興味はない。生産費用とロボットの燃料、食費さえあればそれで良いのだ。
回復薬と食料を買い込み、冒険の準備は完了する。せっかくの買い物にも拘らず、ルージュのテンションは低いままだ。歳の近いリュイは、そんな彼女を気にかけている様子。
「僕は着物と刀を新調しました。ルージュさんも、何か買いませんか?」
「要らない……どうせ馬子にも衣装だし……」
「そ……そうですか」
微妙にことわざの使い方が間違ってるぞ。テンションが変わってもアホのままだな……とりあえず、今は様子を見た方が良さそうだ。ずっとルージュがこのままなら、流石に何か考えないといけない。
俺がギルドメンバーの事を考えていると、ノランが空を見て騒ぎ出す。いったい、今度は何なんだ。
「みんな見てよ! おっきい飛空挺!」
「巨大空中要塞ギルド【漆黒】のギルド本部ですね」
解説好きのリュイが、彼女に説明する。青い空に浮かぶ、真っ黒い船。このゲームにおける最強のギルド、【漆黒】が所持する巨大な飛空艇だった。
このギルド、【グリン大陸】だけではなく、どこにでも現れるんだな。最強ギルドにとって、大陸間の移動など大した障害ではないのかもしれない。
「この大陸にも来ているんですか……」
「あのギルドは神出鬼没よ。トップギルドだから、つい意識しちゃうわね」
そう言って、ヴィオラさんは眉間にシワを寄せる。
ギルド【漆黒】は、好きな場所に好きに行けるんだ。【ディープガルド】全てを把握していると言っても過言ではない。
ああいう反則級の力がなければ、ランキングトップなど土台無理という事だ。このゲームの厳しさが非常によく分かった。
ヴィルさんとバルメリオさんに合流し、俺たちは事のあらましを説明していく。だが、説明を聞いても、二人は全く理解していない様子。まあ、俺も理解出来ていないので仕方ない。
そんな理解の出来ない存在。雌雄同体のノランを、バルメリオさんは険しい形相で観察する。今の彼女はアイドル少女のノランちゃん。どこからどう見ても女の子だ。
「また、変な奴が仲間になったものだな……」
「見事なブーメランね」
ヴィオラさんの言うとおりだ。ドヤ顔でホモ発言を繰り返す貴方に言われたくないだろう。
【ディープガルド】時刻で一時。そろそろ、時間も押してきている。今日中にハリアーさんと接触する予定なので、これ以上の寄り道はなしだ。
ヴィルさんは午後からの予定と、詳しい合流場所を説明していく。
「さて、もう一頑張りだよ。このアルカディアの街からヴェニットの砂浜を通り、漁村の村ゼニスまで行く予定さ。そこにハリアーさんの船、エンタープライズが停泊しているはずだよ」
「まだフィールドを歩くんですね……」
【ブルーリア大陸】に入ればすぐに合流できると思ていたので、微妙にテンションが下がる。まあ、ダンジョンではなくフィールドの移動なので、強いモンスターは居ないだろう。
ただ、エルブの森より推薦レベルは上がっているはず。油断は禁物だな。
俺たちは街の南へと移動し、そこからフィールドへと出る。他プレイヤーも見受けられ、ここがよく使われるルートだと察しがついた。まあ、砂漠や深い森より、通りやすいよな。
「【ブルーリア大陸】全土に広がるヴェニットの砂浜よ。この大陸のメインフィールドって所ね」
そうヴィオラさんが教えてくれる。
このヴェニットの砂浜は、非常に過ごしの良いフィールドだ。美しいエメラルドグリーンの海に、真っ白い砂浜。日差しが暑いが、潮風が気持ちいいので全く苦にならない。そりゃ、こんな場所があるなら、砂漠の【イエロラ大陸】が過疎るよな。
アイはこの海水浴場のようなフィールドに、相当テンションが上がっている様子だ。
「海といったら、やっぱり海水浴ですよね!」
「モンスターに食べられたかったら、どうぞご自由に」
性格の悪いイシュラが、悪意のある笑顔でそう勧めた。
こんなに素晴らしい場所だが、当然モンスターは出る。砂漠のオアシスの時のように、泳ぐのはやめた方が良さそうだ。最も、今のルージュはそんなことしないと思うが。
「水着回はなしなの!? ノランちゃん残念」
「そういうお決まりはブレイクしていく方針で」
性別不明のノランが水着を着れるのか? 流石に正体がバレてしまうので、まあ着ないだろうな。アイドルは水着を着たら終わりなので、むしろ正しい形かもしれない。
俺たちがそんな会話をしていると、突如バルメリオさんが歩き出す。彼はルージュの前に立つと、その手に何かを渡した。
「ルージュ、道で拾った。お前が貰っとけ」
大きな三日月の形をしたブローチ。星の装備で揃えている彼女にはよく似合っていた。
リュイはアイテムの解説をしつつ、バルメリオさんに疑いの眼差しを向けた。
「月のブローチ。闇属性の威力が上がり、光属性に強くなるアクセサリーです。拾ったってこれ……」
「拾ったんだ」
彼は拾ったと断言する。しかし、ダンジョンなら分かるが、明らかに道で拾える物ではない。どう考えても買った物だった。
ルージュはジト目を僅かに輝かせ、バルメリオさんにお礼を言う。
「あ……ありがとう」
「うじうじ鬱陶しい。目障りだから、さっさと吹っ切れるんだな」
彼女は貰ったブローチをすぐに星空模様の三角帽子に取り付ける。まるで、闇夜に浮かぶ月のようだった。
バルメリオさん、随分と気の利いたことをするじゃないか。流石はツンデレの鑑といったところだ。
「ツンデレだ……」
「ホモのツンデレ……ホモデレだね!」
「誰がホモデレだ!」
ウィンクをしながら、彼を煽りまくるノラン。しかし、そんな彼女が霞むほどの毒舌をアイは涼しい顔で言い放つ。
「そんな、バルメリオさん! ホモの上にロリコンなんて、救いようがありませんよ!」
「救いようがないのはお前の頭だ」
わざと言ってるのか、本当に一言多いのか。何にしても、彼女の問題発言には驚かされる。これで誰よりも周りと仲良くできる性格なのだから、人生かなり得してるな。ムードメーカーとは羨ましいものだった。
流石にこのプレゼントは、下心によるものではないだろう。バルメリオさんは今後訪れる大きな戦いを危惧している。だから、幼く弱いルージュを心配しているのだ。
「俺はイデンマの奴をぶっ倒す。他に構っている余裕はないんだ……精々自分の身は自分で守ってくれ」
ぶっ倒すぶっ倒すって、つまりどういう事なんだ。現実世界では既に死んでいる者をこの世界で倒す。つまり、ゲームオーバーにするという事だ。それは一体、何を意味するのだろうか……
バルメリオさんはどこか遠い目をし、銃を握りしめる。彼にとって、このゲームはただのゲームではないのだろう。
大人数による移動のため、今回もレイドシステムが作動する。モンスターの数が増えているので注意が必要だ。
出てくるモンスターは、シーゴブリン、シーサーペント、サハギン、クラーケンの四体。シーゴブリンはゴブリンの色違いで、シーサーペントはポイズンバイパーの色違い。両方とも、動きを完全に把握しているため苦戦はなかった。
「スキル【ボレロ】。パーティー全員の攻撃力を上昇させるぜ」
タキシード姿の少年ノランは、情熱的なステップで全体の攻撃力を上昇させる。彼のレベルは俺たちよりも高い。しかし、ヴィオラさんやバルメリオさんよりは低いので、今回は参戦することになる。
その戦術は味方の能力を上昇させるバッファーにヒーラーを加えたもの。典型的な踊子の戦術だ。
「よっしゃあ! スキル【発剄】!」
上昇した攻撃力をフル活用し、ハクシャが拳から巨大な衝撃波を放つ。攻撃は数体のモンスターを飲み込み、一気にライフを消し飛ばす。格闘家は一対一が得意なジョブだが、こういう広範囲スキルも持っているんだな。
俺も手製のハンドガンによって、サハギンを撃ちぬいていく。あまり可愛くない魚人のモンスターなので、勿論同情はなかった。
砂浜に足を取られるが、フィールド自体の難易度はそう高くない。大きなクラーケンが強いが、それ以外は完全に雑魚ばかりだった。
どんどん砂浜を進み、やがて俺のレベルは20になる。この20というレベルは、機械技師にとっての大きな機転だ。何故なら、このジョブの肝である重要なスキルを習得するレベルなのだから。
「【起動】のスキル……」
「ついに習得したわね。機械技師の真骨頂」
【起動】、アイテムのロボットを発進させ、それに搭乗するスキル。ロボットの強さは生産の成果によって左右され、そこに自身のステータスが上乗せされるシステムになっている。
確かに有用なスキルだが、これをメインに使う気はない。今までトレーニングしたプレイング技術は、全て武器の打ち付け合いによるもの。ロボットの動かし方は全く違うので、その成果を無駄にしてしまう可能性がある。
だからこそ俺は、ロボットの持続性を落として他の機能をアップさせた。こいつは俺のメインウェポンではない。最終奥義なのだ。
「このノランさま、興味津々だぜ。試しに見せてくれよ」
「おっ! 良いなロボット! 見せろ見せろ!」
ノランとハクシャが物凄く催促してくる。それを、イシュラとリュイは呆れた様子で見ていた。まあ、俺もいきなり実戦に投入する気はない。ここで試しに動かす必要は大いにあるだろう。
なぜか緊張して心臓が高鳴る。長い時間を使って生産したロボット。その成果をここで見せる時が来たようだ。




