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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
一日目 始まりの街エピナール
6/208

05 ギルドに限りなく近い何か

 ニヤニヤと笑うヴィオラさんを前にして、俺はただ混乱していた。言葉の意味は分かっても、それを行う方法が全く予測できない。


「ちょっと、意味が分かりません。叶えてくれるってどういう……」

「よくぞ聞いてくれたわ。この【ディープガルド】にはギルドシステムという物が存在するの」

「ギルド……?」


 そう言えばログインした時、ギルドに入ってほしいと二人組のプレイヤーが言っていたな。

 しかし、俺はそのギルドという物が分からず、返答に困っていた。ここでようやく、その詳細が判明する。


「ギルドってのは、言うなれば会社みたいなものね。それぞれのギルドに、モンスターの討伐以来とか、アイテムの制作依頼が届いて、それをメンバー全員で協力して熟しましょうって奴よ。基本は情報交換の場だけど、必要な時は大人数のパーティを作って、大きな仕事を受けたりするのよ」

「それは便利ですね。みんな登録しているのですか?」

「まあ、一部の変人以外はギルドに入ってるわね」


 メリットしかないこのシステム。入らない奴は相当に独断行動が好きか、何らかの訳ありプレイヤーだろう。

 俺はそういう変人プレイヤーになる気などさらさらない。入る機会があるのならば、是非とも入りたいところだ。

 だが、いったいどのギルドに入ればいいのだろう? その疑問に対する回答をヴィオラさんは用意していた。


「各ギルドには代表であるギルドマスターがいて、組織の運用を行ってるの。実は私、こう見えてギルドマスターなのよね」

「へえ、凄いじゃないですか」


 どうやら、彼女は相当の手練れらしい。何人もいるギルドメンバーを纏めているのだから、そこらのプレイヤーより優秀なのは確実だ。

 ヴィオラさんは俺たちに手を差し伸べ、自らのギルドに誘う。


「私は貴方たちの成長性を見込んで、私のギルドにスカウトしたいの。貴方たちの目的を叶えるために、手助けしてあげるわ」


 これは渡りに船か? ギルドマスターとこうして友好的になったのは、今後の活動において有利だ。

 それに加え、これは助けてもらったヴィオラさんへの恩返しにもなる。断る理由など一切なかった。

 しかし、一応アイにも聞いてみる。彼女が断るのならば、俺も考え直すかもしれない。


「アイ、どうする?」

「当然、入ります! これで私たち、お別れしなくて済みますね!」

「あー、そうなるわけか……」


 アイの答えも決まっているようだ。街までの同行だったはずだが、結局こんな形となってしまった。

 まあ、こいつと一緒に旅をしたり、依頼を熟すというのも悪くないか。


「分かりました。僕も入りますよ」

「決定ね! じゃあ、契約書にサインを……」


 ヴィオラさんは、俺とアイに一枚の用紙を渡す。契約書か、ギルド登録にはこんな物が必要なんだな。

 特に複雑な事が書いてあるわけでもなく、記述方法は入るか入らないかの二つだ。やはりこれはゲーム、基本は『はい』と『いいえ』の二択分離だった。

 俺は迷うことなく、『はい』を選らぶ。すると、ヴィオラさんが再び怪しく笑う。


「入ったわね?」

「ええ、入りました」

「入っちゃったわね?」

「……ちゃった?」


 別に、彼女のギルドに入る事に後悔はない。どの道、目的を果たすためには何らかのギルドに入る必要がある。ならば、ここで入っても全く問題などないはずだ。

 しかし、次の彼女から放たれた言葉に、俺は愕然とする。


「さあ! これから三人で頑張って行きましょーう!」


 え? 三人?

 聞き間違えじゃないよな? 今、三人と言ったような……


「……三人?」

「そう、三人」

「僕と、アイを加えて五人という……」

「いえいえ、ここにいる三人で一つのギルドよ」


 この事実を前に、アイと共に旅をする事。ヴィオラさんに恩返しをする事。その全てが吹き飛んだ。

 俺は二人に背を向け、その場から離れようとする。


「さようなら」

「待ちなさい」


 が、ヴィオラさんに掴まれた。逃げられない。

 この人、他にギルドメンバーいないのに俺たちを誘ったのかよ!


「これはギルドじゃないでしょう! ギルドに限りなく近い何かですよ!」

「ギルド登録したんだからギルドよ! 例え一人でもギルドよ!」

「僕たち来る前は一人でギルドやっていたんですか! なんて悲しい人だ!」


 もはや企業でも何でもない。ただのサークル活動に等しい状態だ。

 ヴィオラさんはただ必死に俺を呼び止める。


「お願いよ! 指定日までに五人集めないとギルドが解体されちゃうの!」

「指定日はいつですか!」

「一週間後!」

「デッドラインじゃないですか!」


 おまけに時間もない。未来があるのかも怪しい。いよいよサークル活動のそれだった。

 この一連の会話によって、あらゆる謎が解き明かされていく。全てはヴィオラさんの策略だ。


「ようやく辻褄があってきました……スタート地点での勧誘は貴方と同類の人。そして、貴方が急に優しくなったのは自分のギルドに入れるためですか……」

「このゲームは戦闘がメイン。生産職はそんなに選ぶ人がいないんだもの。何としても貴方達を育てて、今後の戦力にしたいの!」


 彼女は先ほど俺たちが名前を書いた契約書を付きだし、叫ぶ。


「そもそも、もう契約書にサインしちゃったでしょ! 逃げる事なんて出来ないわ!」

「闇金融ですか!」


 手口が汚い。そして、滅茶苦茶を言っている。この人、こんなキャラだったんだな……

 俺が一人文句を言っていると、アイがそれを宥める。


「レンジさん……ヴィオラさんのギルドに入りましょう! 私たち、助けてもらったんですから!」

「……んー」


 確かに、ヴィオラさんにはとてもお世話になった。彼女に恩返しをしたい気持ちは本物だ。

 何より、俺はギルドの種類に拘りはない。彼女が俺をエルドの元に連れて行ってくれるというのなら、信じてみるのも良いかもしれない。


「分かりましたよ……ただし、絶対に僕をエルドの元に連れて行ってくださいね」

「約束するわ! 絶対に貴方を一人前にして、エルドの前に突き出してやるわ!」

「突き出すって……」


 何だか変なテンションになってしまったヴィオラさん。これで晴れて、彼女は俺の師匠という事になる。何だかむず痒い気分だった。



 話しが纏まり、そろそろ時間の方が気になってくる。

 俺は高校生、夜更かしをして授業中に寝てしまうなど有ってはならないことだ。生真面目な俺のキャラクターが崩れてしまえば、安息な学校生活に支障をきたす。地味で目立たない生活だ出来なくなってしまうのは、不本意ではなかった。


「さて、話しも纏まったし、僕はログアウトします。あれから結構経ってますよね。明日学校あるし、流石に戻って寝ないと……」


 体感的には既に5時間は経っている感じだ。全く眠くはないが、それはゲーム世界の日が落ちていないからだろう。

 俺は体が錯覚を起こしていると判断する。しかし、ヴィオラさんが言うには、それは違うらしい。


「安心してこの世界での1時間は、現実での15分。つまり、この世界の4時間が現実で1時間よ。現実世界での0時から6時で一日、6時から12時、12時から18時、18時から明日の0時までそれぞれ一日。ちなみに、今この世界は昼の1時で、現実世界だと9時15分ね」


 現実では1時間なのに、こちらの世界では4時間……最近話題のあのシステムか。非常に解せない気分だ。

 俺が不機嫌になり会話を放棄すると、代わりにアイがヴィオラさんとの会話に入る。


「私とレンジさんはほぼ同時、夜の8時にログインしました」

「こっちの世界だと、朝の8時にログインした事になるわ。複雑だけど、時間の感覚は覚えた方が無難よ。学校がある日は、現実の午後8時にログインして11時半にログアウトがお勧めね。こちらの世界だと朝の8時から、夜の10時までになるの。ちなみに、これは私の経験談ね」


 最もログインの多い時間帯が、こちらの世界でうまく一日の行動時間に割り当てられている。ちゃんと考えられているんだな……


「深夜の討伐をする時は、部活をさぼって午後6時にログインするの。その場合、こっちの世界だと深夜0時からのログインになるわ」

「さ……参考になります!」


 俺は部活動をやっていない。その気になれば6時や7時からログイン出来るが、その場合こちらの世界は深夜になってしまう。早めのログインは、よく考える必要がありそうだ。

 しかし、この体感時間の操作というものは、どうにも解せない。やはりあのシステムを使っているという事が、俺の心に大きな隔たりを作っているのだろうか……













 ギルドに入ることが決まり、俺たちは今後の予定について話すことになる。

 自慢ではないが、俺は今から具体的に何をするのか全く考えていない。と言うより、完全初心者の俺は右も左も分からず、目的を達成するための方法が分からないのだ。

 とにかく、今はヴィオラさんを頼るしかない。やはり、何だかんだで彼女のギルドに入ったのは正解だった。


「今日は午前中を使っちゃったから、残りの時間は買い物とレべリングで潰しましょう。明日、私のギルド本部がある王都ビリジアンに向けて旅立つから、準備は万全にね」


 一人でギルドやってるヴィオラさんに、ギルド本部とかあったのかよ!

 今後の予定なんかよりも、俺たちにとってはその事実の方が重要だった。


「ギルド本部があるんですか!」

「ダンボールじゃありませんよね!」

「……アイちゃん、ぶん殴るわよ?」

「ごめんなさい……」


 アイが物凄く失礼なことを言い、流石のヴィオラさんもお怒りの様子。お前は一言多いんだよアイ……




 俺とアイはヴィオラさんに連れられて、街の商店街のような場所へと移動する。

 この街にある店は、道具屋、武器防具屋、素材屋、食料屋、スキル屋の五つ。大きな街だと、武器、防具、アクセサリーで店が分かれているらしいが、この街はそこまで別れていない。

 回復薬なども買いたいが、今一番欲しい物はとにかく発明素材だ。技スキルが使えなければ、ただスパナで殴る事しか出来ない。それでは、流石に戦力にならないだろう。


「とりあえず、一番安い素材を買います。発明クリエイトのジョブも使いたいですしね」

「素材だったら買ってあげるわよ?」

「自分で買いますよ。おんぶ抱っこじゃ、ヒモ状態ですから」


 序盤の敵なら、安い素材で充分に対抗できるはずだ。ならば、ヴィオラさんに頼らずとも、自分の力で戦えるし、施しを受ける必要もない。女性にお金を恵んで貰うなど、とんでもなかった。


 俺たちは少しの間、自由行動を取ることになる。

 アイは武器防具屋の方へと向かい、俺は素材屋へと足を運ぶ。そして、そこに陳列された商品を一通り見渡していった。

 植物やモンスターからのドロップアイテムなどには全く興味がない。今欲しいのはとにかく鉄だ。鉄が無ければ機械技師メカニックを使用する意味がない。

 俺は真っ先に、真っ黒い火薬と、ゴミのような鉄くずに目を付ける。これさえあれば、今は充分だろう。


「アイテム、グレネードを作るのに、鉄くず一つと火薬一つ消費。ヴィオラさんの情報はこれだけか……」


 発明できるアイテムは、素材が手に入ると選択できるようになる。本来は冒険の途中で素材を拾い、自然に使える技が増えていくものだ。

 しかし、俺はヴィオラさんから必要素材を聞き、このように最初期から技を使えるように素材を買った。女二人を前に、そろそろ目立ちたいから仕方ない。


「それにしても、素材が高いな……」


 機械技師メカニックによって作れるアイテムは、全体的に性能が良いらしい。しかし、機械技師メカニック銃戦士ガンナー商人マーチャントの三ジョブ以外は、そもそも使用出来ないという大きなデメリットがあった。

 それに加え、素材が高くて馬鹿にならないという問題もある。安物の薬草を煎じて回復薬を量産する錬金術師アルケミックとは、製作に対する気合の方向性が違う。下手をすれば武器を一つ作るより高くついてしまう事もあるのだ。

 だが、今は本格的な生産用のアイテムを買い揃いているわけではない。発明クリエイトを使用するための素材さえあればいいのだ。

 俺は鉄くずと火薬を二個ずつ買う。これでグレネードを作ることが出来るはずだ。


「後は戦略次第だな……」


 素材を買うと、俺は武器防具屋へと向かう。これとは別に、あるアクセサリーを買う為だった。

 それはアクセサリーの中では最も安く、性能も大したことはない。だが、俺はこれを有効利用する策があった。


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