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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
八日目~十一日目 森人の村スプラウト
58/208

57 スキル【覚醒】

 エルフの子供を解放し、話し合いに乗り出す。何とか、穏便に事を済ませたいところだ。

 アイに捕縛された少年は、こちらに向かって文句を言ってくる。先に喧嘩を売ったのは、そっちなんだけどな……


「いきなり何するんだ! 不審者か! 非常識だぞ!」

「誰もしない事をするのが人間だ……!」

「まじかよ! 人間恐え!」


 ドヤ顔で人間の尊厳に関わるようなことを言うルージュ。他の種族に誤解されるので、やめていただきたい。

 やはり、俺たちのギルドにまともな奴はいないか。ここはヴィルさんのパーティーに任せた方が良さそうだ。

 ちょうど、三人組の一人がシュトラに興味を示している。彼女も耳が尖ってるからな。


「そっちのお前はエルフだな」

「え……私、エルフですか」


 困惑するシュトラ。しかし、ここは彼女に何とかしてもらいたい。

 ヴィルさんも俺と同じことを考えたのか、シュトラに指示を出す。


「シュトラ、取りあえず適当に話を付けてくれないか? 早く村に行きたいしね」

「は……はい。やってみます」


 彼女は緊張した様子で、子供たちと向き合う。相手は年下のお子さまなのに、緊張しすぎだろう。下手に出つつ、少女は頭を下げた。


「すいません、村に行きたいんです。何とかして通していただけないでしょうか……」

「ダメだ! リーダーの許可が出ないと、ここから先は通さないぞ!」


 ああ、これはリーダーとやらに認められなくてはならないイベントか。本当に面倒だな……

 もう無視して強行突破した方が良いのだろうか。一夜過ごすだけで、村自体に用はないからな。

 流石にヴィルさんも焦りだしている。こっちは、他のイベントに時間を取る暇なんてないんだ。


「どうやら、厄介なルートに進んじゃったみたいだね……」

「以前にこのイベントはなかったんですか?」

「最近のVRMMOは、NPCが自由に生きているんだ。同じイベントなんて何一つ無いよ」


 そうだ、この世界のNPCは生きている。作られた命でも個々に意思があり、それぞれが好きに動いているんだ。

 だからこそ、モンスターとの戦闘イベントより、こういう対人イベントの方が厄介と言える。関わり合いになりたくないのなら、スルーするのが賢明だろう。

 いよいよ、強行突破しかないと考えていると、森に大きな声が響いた。


「貴様ら何をしている!」

「り……リーダー!」


 森の向こうから歩いてくる一人の男。どうやら、彼がエルフの子供たちが言うリーダーらしい。

 長髪の銀髪に、ゴテゴテした服装。表は真っ白く、裏は星の模様の入ったマント。そして、瞳の中に輝く星々。その姿はまるで……


「む、貴様ら。やはり星の導きに誘われ……」

「ギンガじゃねえかァ!」


 思わずため口で突っ込んでしまう。全ての発端はこの人か……本当にろくでもない影響しか及ぼさない人だった。

 それにしても、【グリン大陸】ならどこでも現れるんだな。ルージュは嬉しそうにしているが、俺としては嫌な予感がしてならない。

 だが、とりあえずこの場は丸く収まりそうだ。今は森のダンジョンを進んで消耗している。早く村に行きたいところだった。


















 森人の村スプラウト。木で作られた家々が並んでいる静かな村だ。

 おどろおどろしい森のダンジョンとは違い、この村だけは光が差し込んでいる。これと言って目立つものはなく、質素で堅実なエルフたちの生活が見て取れた。

 そんな村の宿。入ってすぐの受付で、俺たちはギンガさんを問い詰める。こっちは足止めを食らったんだ。状況を説明してもらわないと流石に納得できない。

 だが、彼は偉そうな態度だ。椅子にふんぞり返り、上から目線で俺たちに聞き返す。


「で、貴様らなぜこんな場所にいる?」

「こっちの言いたい台詞よ!」


 ヴィオラさんが言葉をぶつけるが、ギンガさんには無意味。己が道を行く彼は、右耳から入った言葉は左耳から抜けるのだ。本当に自己中心的な人だな……

 そんな彼に対し、ヴィルさんは自己紹介に入る。一応、ギンガさんはランキング上位プレイヤー。変人だが、名前は覚えてもらいたいのだろう。


「初めまして、僕は【エンタープライズ】所属のヴィルだよ。【ブルーリア大陸】に移動するため、この場所を経由しているのさ」

「ふん、総合ランキング65位のヴィルか。中々の手練れと聞いているが、今は新人育成か?」

「まあ、そんなところだね」


 彼はこの村に来た理由をきっちり話す。真正面から向き合えば、流石のギンガさんも答えてくれるはずだ。嫌味な性格のヴィルさんだが、世渡りは上手いんだな。

 こちらの状況を話したので、今度はギンガさんの番だ。イシュラは彼に向かって人差し指をさした。


「さあ、こっちの都合は話したわ! 今度はあんたが話す番よ!」

「よく吠える女だ。良いだろう、ここに銀河英雄伝説を語ろう!」


 ギンガさんは語っていく。モンスターに襲われるエルフの子供を助け、村に歓迎されたことを。圧倒的な魔力によって外敵を粉砕し、村の英雄にまで伸し上がったことを。

 魔法の得意なエルフに認められたという事は、やはり相当な実力者だな。彼は武勇伝を語り終え、存分に満足する。


「その時、私は思った。ここに銀河帝国を築こうと!」

「狂気の沙汰ですね……」


 要するに、チートとも言えるような実力を利用し、村丸ごと支配してしまったという事だ。この人、本当に恐ろしいな。放置するのは相当危険に思える。

 とにかく、エルフの子供を使ってプレイヤーに迷惑をかけるのはいけない。ヴィオラさんは彼に念を押す。


「とにかく子供に変なことを吹き込むのは……」

「テレホンターイムッ!」

「今度は何よ!」


 ギンガさんは突然叫ぶと、右手をかざし、目の前に魔法のモニターを出現させる。テレホンと言っている事から、電話か何かか? 彼に知り合いが居るということに驚きだ。

 ギンガさんは腕を組み、モニターに表示されていく何者かを見る。


「【交信魔法】だ」

「まともに出れないのかい……」


 呆れるヴィルさん。しばらくすると、表示された人物の姿がはっきりと映る。

 頑丈な鎧を身に纏った強面の大男。大きな盾と剣を持った戦士ナイトのプレイヤーだ。

 俺たちはその人物をよく知っていた。王都自警ギルド【ゴールドラッシュ】ギルドマスターのディバインさん。今まで何度か接触をしている。


『そこにいるのはレンジか?』

「ディバインさん! ギンガさんと知り合いだったんですね」


 ランキング二位と四位がこんな繋がりを持っていたとは……まあ、二人とも【グリン大陸】を拠点にしているのだから、面識があるのは自然か。

 だが、どんな関係を持っているのかは不明だ。一方は巨大ギルドのギルドマスター、もう一方は生粋のソロプレイヤー。二人に共通点なんてまるで無いように思える。


『まあ、色々あってな。そうだな……お前たちには話してもいいだろう』


 俺が色々なことを考えていると、ディバインさんの表情が変わっていく。どうやら、何か事情があるようだ。


『最近、この【グリン大陸】で起きている事件は知っているだろう。レネットの村を考えると、次のターゲットはこのスプラウトの村だと思えてな。ギンガに見張りを任せているのだ』

「そして、私はその代わりに情報を貰っている。【ゴールドラッシュ】の情報網は実に便利だぞ」


 まあ、ギンガさんが他の組織のために働くはずないよな。彼の事はよく知っている。何のメリットもなく、人の指示に従うはずがない。

 【ゴールドラッシュ】の情報網は、相当に広いようだ。しかし、それでも俺とエルドの関係までは知らないはず。ヌンデルさんやイデンマさんの情報も恐らく持っていないだろう。

 そろそろ、ディバインさんにも話すべきだな。一応、俺が問題を抱えている事だけは知っているようだ。


『お前たちのギルドが何らかの問題ごとに巻き込まれているのは知っている。良ければ話してもらえないか?』

「分かりました。ギンガさんとヴィルさんも聞いてください。信じないのなら、適当に聞き流してほしいです」


 ドン引かれてもいい。俺は嘘偽りなく、今まで起きたことを話していく。勿論、エルドが亡霊として蘇ったという馬鹿げた話も含めてだ。

 ヴィルさんは全く信じていないようだが、ディバインさんは真剣そのもの。本気かどうかは分からないが、一応頷いてはくれた。

 まあ、調査が進めば嫌でも事実が分かるだろう。そろそろ、敵も大きな動きをしてくるはずだしな。

 俺から全ての情報を聞き、ディバインさんも腹を割って話す気になったらしい。俺たちに向かって、新しい情報を明かす。


『では、こちらも情報を渡す。最近、このゲームで暴走するプレイヤーが、【覚醒】のスキルを持っている事は知っているはずだ。そのスキルの入手条件が分かったぞ』

「本当ですか!」


 この情報が本当なら、バルディさんやカエンさんのような人を減らせるかもしれない。これは大きな前進だ。

 しかし、ディバインさんの口から明かされたのは、あまりにも簡単すぎる入手条件だった。


『プレイヤーがゲームオーバーになる事によって入手できるスキル。それが【覚醒】だ。効果は全能力が上昇する代わりに、バーサク状態になるという普通の使用スキルだ』


 この瞬間、俺の中で全てが繋がった。

 ヌンデルさんの言っていたゲームオーバーの危険性は、こういう事だったのか。記憶が消えるのは、あくまでも操作の一つ。プレイヤーを暴走状態にするのも、意のままというわけだ。

 更に敵の目的である『印を刻む』の意味も理解する。プレイヤーをゲームオーバーにし、【覚醒】のスキル保持者にする。それこそが印を刻む行為だろう。


「敵の目的は【覚醒】保持者を増やして、自在に操作することです。間違いありません」

「でも、バーサクって暴走しちゃう状態異常よね? コンピューター操作になって物凄く弱くなるはずじゃない?」


 ヴィオラさんが言うには、バーサクの状態異常も暴走状態になるらしい。この一致は偶然ではないはずだ。

 数々の思考を巡らせていると、ヴィルさんはある考えを提示する。この人、信じていない割には結構口を出すな。


「僕は知らないけど、コンピュター操作の時なら体を乗っ取るのに丁度いいんじゃないかな? ほぼ無意識だしね」

『ふむ……どうやら、バーサク状態の時に何らかの意思が混入するらしい。彼らは決まってこう言う、革命のためと』


 【覚醒】によってバーサク状態になったプレイヤーを意のままに操作する。これが計画の全貌だろうか。たかがゲームだが、人の記憶や感情を弄ぶのは良い気がしないな。

 それに、彼らの目的はこれだけではないような気がする。この先に、さらに大きな何かがあるかも知れない。そう思えて仕方がなかった。


「信じるわけじゃないけど、何だか途方もない話しね……」

「うん……」


 イシュラとシュトラがそんなことを話す。姉の方は全く信じていないようだが、妹の方は少し辛辣な表情をしていた。無駄に不安を煽ってしまったか。

 だが、彼女が信じるのも無理はない。あの真面目なディバインさんが、こんな馬鹿げた話を本気で語っているのだから。


『この事は他言無用をお願いする。差別の原因になるからな』


 そう念を推した後、彼は通信を遮断する。まだまだ、この男の受難は続きそうだな。

 ギンガさんはどうでも良いけど、ヴィルさんたちを巻き込むのは気が引ける。何だか信じていない様子だし、多分俺のことも変な奴だと思っているだろうな。

 まあ、信じないのならそれで良い。彼らには関係のない話しだからな。

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