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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
八日目~十一日目 森人の村スプラウト
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55 絶海の大陸へ

 今日は木曜日。学校が終わり、すぐにログインした俺は、アイとのトレーニングに励む。

 ロボットを随時使用しないと決め、彼女も安心した様子。このチャンバラにも、だいぶ慣れてきたからな。今さら切り捨てたりはしないさ。


 トレーニングが終わり、俺たちはヴィオラさんと合流する。今後の事を考えていないので、ここからは要相談だ。

 とりあえずはギルド本部に入り、茶を飲んで一息つく。ロボットの性能を安定させるため、今日も調整に使おう。そう思った時だった。


「アーハッハッハッ! 相変わらず、ちんけなギルド本部だねー」


 突然、ギルド本部に入ってくる四人組。彼らは図々しく俺たちの前に立ち、そのくつろぎを妨げる。

 リーダーは大きなつばの帽子を被り、ギターを持ったプレイヤー。吟遊詩人(バート)のヴィルさんだ。

 そんな彼に、アイは惚けた表情で言う。


「えーと、誰ですか? 不審者さん?」

「ヴィルだよ! 巨獣討伐ギルド【エンタープライズ】のヴィルだ!」


 相変わらず面白い人だな。後輩を引き連れて、嫌味を言うためにここまで来たのだろうか。

 リーダーの後ろにいる三人組の一人、中華服のハクシャが俺に挨拶する。こいつはまともなんだよな。


「うっす! 久しぶりだなレンジ!」

「ああ、相変わらず声がでかいな。ハクシャ」


 うるさいが嫌いじゃない。ハキハキとしていて気持ちのいい奴だ。

 彼に続き、民族風の服を着たエルフ耳の少女、シュトラが挨拶する。


「こんにちは、お邪魔してます」

「ふん……」


 丁寧な妹とは違い、彼女の姉イシュラはそっぽを向いている。相変わらず性格が悪いな。いまだにフレンド申請は無視されてるし……

 突然の四バカ登場に、ルージュは驚いて固まってしまう。気は強いが、臆病なところがあるんだな。まるで小動物のようだ。


「な……何だこいつらは……」

「大道芸人だよ」

「そこ、滅茶苦茶言わないでくれ」


 俺が滅茶苦茶言うと、聞いていたヴィルさんに指摘される。でも、間違ってはいないと思います。

 彼はヴィオラさんのギルドメンバーをその目で確認していく。俺、アイ、リュイ、ルージュ、バルメリオさん。ヴィオラさんを含めて六人、立派な小規模ギルドだった。


「ギルドメンバー六人か……ヴィオラくんのくせに生意気だね」

「ふーん、悔しい? 悔しい?」

「ああ、悔しいよ。悔しさ通り越して死んでほしいね!」

「私だって貴方には死んでほしいわよ!」


 見苦しい……なんて見苦しい争いなんだ……この二人、いい加減に仲良くなってくれないものか。まあ、無理だろうな。

 正式なギルドとなり、メンバーもそれなりに集まった俺たちのギルド。ヴィオラさんは鼻高々で、ヴィルさんの嫌味など全く気にしていない。もはや、怖いものなど何もないだろう。

 しかし、そう都合よくはいかない。彼女には他にも怖いものが存在していた。ヴィルさんは調子に乗っているこの女性に、ある者の名前を聞かせた。


「分かった。じゃあ、本当に死んでもらうよ。【エンタープライズ】ギルドマスター、ハリヤーさんが呼んでいる。ギルドメンバー全員で【ブルーリア大陸】まで来てもらうよ」

「ひぃ……」


 瞬間、ヴィオランの表情は一気に崩れ、急に大声で騒ぎだす。先ほどの余裕など、全く感じられなかった。


「いやー! 嫌よ絶対! 私はもうギルドを抜けたの! あいつだけには会いたくなーい!」

「気持ちは分かるけど! 君が来ないと僕が殺される! 絶対に来てもらうよ!」


 彼女だけではなく、ヴィルさんも同じように焦っている。彼のパーティーメンバーも何かに怯えている様子だった。おいおい、ハリヤーさんって何者なんだよ。殺すとか物騒なこと言ってるけど、例えだよな?

 俺と同じ疑問を感じたのか、アイがリュイに向かってその謎人物の詳細を求める。


「ハリヤーさんとは?」

「巨大碇のハリヤー、海賊パイレーツのジョブを選んだ海の覇者ですよ。自身のギルド名と同じ、海賊船エンタープライズによって【ブルーリア大陸】を牛耳っているプレイヤーです」


 巨大碇を……まあ、振り回すんだろうな。俺はすぐに巨漢の男を想像した。しかもジョブは横暴そうな海賊パイレーツか、これは確かに怖かった。

 リュイは彼の説明の他にも、新大陸である【ブルーリア大陸】の説明も行っていく。こいつ、知識をさらけ出すのが本当に好きだよな。まあ、助かってるけど。


「【ブルーリア大陸】は最小の大陸です。代わりに、広大な海といくつもの島々があるんですよ」

「ステージ3は海のコースってわけだな」


 まだステージ3とは決まっていない。しかし、このギルドメンバー全員で来いと言っている事から、そこまで難易度は高くないはずだ。それにしても、また大冒険になるな。

 【イエロラ大陸】に行ったときは、ビリジアン王宮から許可書を発行してもらい、魔導列車によって移動した。今回は一体どんな方法で新大陸に向かうのか。まず、許可書がないと大陸に入れないよな。俺はヴィルさんに聞いてみる。


「でも、大陸移動には許可書が必要なんでしょう? ろくに活動していない俺たちに許可が下りるか……」

「その点は心配いらないよ。許可書が必要なのは列車や船を使う場合。歩いて大陸を横断する場合は許可なんていらないのさ」


 要するに、こっちが正当なルートか。面倒なことに、【グリン大陸】と【ブルーリア大陸】の両方を進めなくてはならない。いや、さらに他の大陸を経由する可能性もある。そうなれば相当の手間だな。

 どうやら、アイも心配になっている様子。


「でも、徒歩で大陸を超えるのは大変じゃないですか?」

「【グリン大陸】の隣りだから、そこまで難しくないよ。エボニーの森に入って、森人の村スプラウトを経由。シアン大橋を渡れば【ブルーリア大陸】、大橋の街アルカディアに到着さ」


 進む大陸は二つか、それでも前回より大冒険だ。なにより、エボニーの森まで戻るのが面倒。それだけで二日かかっても不思議ではない。

 こちらが行くこと前提で話しを進めていると、再びヴィオラさんが騒ぎだす。


「ちょっと、なに勝手に決めてるの! 私は行かないから! 絶対行かないから!」

「いい加減、覚悟を決めてくれ。君の許可がないと、移動アイテムを使えないんだ。エピナールまで徒歩で戻るつもりかい?」

「だから行かないって!」


 二人の言い争いによって、移動アイテムの存在を知る。一度行ったことのある街なら、次から一気に移動できるのか。これがあれば、魔導列車などの移動で時間をかけずに済むな。

 ヴィルさんの説得も虚しく、意地でも首を縦に振らないヴィオラさん。そんな彼女に、ルージュとリュイの正論が同時に襲う。


「見苦しいぞヴィオラ……! 僕たち後輩を前に情けない姿を晒すな!」

「ヴィオラさん、元々【エンタープライズ】のメンバーだったんですよね? ハリヤーさんと喧嘩別れをしたと察しが付きますが、ここで関係を改善しなければ後悔することになりますよ」

「う……」


 リュイは喧嘩別れしてギルドを抜けているからな。何か思うことがあるのだろう。ルージュはたぶん、新大陸に行きたいだけだな。

 二人に便乗するように、シュトラとハクシャの説得が入る。


「それはダメですね。ちゃんと仲直りしませんと」

「ヴィオラさん! 気合だ! 勇気を振り絞って前進することが大切だぜ!」

「う……」


 優しい言葉が心に突き刺さるだろう。さらに追い打ちをかけるように、バルメリオさんとイシュラからきっつい言葉が放たれた。


「どうでも良いから早く決めろよ。面倒な女だ」

「さっさと動いてくれませんかね。私たち待ってるんですけどー」

「うう……」


 怒涛の罵倒ラッシュだな。こう人数が多いと、少数派になった瞬間猛攻撃だ。恐ろしい……

 ここまで言われたら、もうどうしようもなかった。ヴィオラさんは渋々首を縦に振る。


「分かったわよ……行けばいいんでしょ!」

「そう来なくちゃね」


 完全に涙目だな。そこまで、ハリヤーさんに会いたくないのか。これは嫌な予感がするな。俺も会いたくなくなってきたぞ……

 ヴィオラさんの同意を聞き、ヴィルさんは街の移動に使うアイテムを取り出す。綺麗な透明の宝石だな。炎の魔石と同じ、魔法が封じ込まれたアイテムか。


「さて、準備が整ったなら、エピナールに移動するよ。何かあるかい?」


 作ったロボットはアイテムバックに入れてある。バックより相当に大きい物だが、すっぽり入ってしまった。下手な魔法より、このバックの方が凄い魔法だった。


 特に準備するものはなく、ヴィルさんは移動アイテムを使用する。宝石が光った瞬間、ログインやログアウトの時と同じ感覚が俺の体に走った。

 体が少しずつ消え、別の場所に転送されていく。そんなとき、エルフ耳のシュトラが言葉をこぼす。


「さあ、私の出番を作る冒険が始まる……」

「始まらない」


 真顔でつっこむイシュラ。やっぱりいいコンビだな。

 一緒に冒険するからには、シュトラにも本当に頑張ってもらいたい。まあ、ヴィルパーティーのお手並み拝見といったところだ。
















 特に特徴のない普通の田舎町エピナール。相変わらず、ここは初心者プレイヤーが沢山集まっているな。俺たちより後にゲームを始めたプレイヤーたちが非常に初々しい。

 そんな街並みをバルメリオさんがまじまじと見つめる。どうやら彼は、俺以上にここが懐かしいようだ。


「エピナールか。随分と懐かしいな……」

「バルメリオさんは、この街に来る機会がないんですね」

「最初の街なんかに用はないからな。初心者狩は好きじゃない」


 売ってるアイテムは基本的なものばかりで、街の周りのモンスターは弱い。まあ、普通なら来る機会はないよな。せいぜい、ギルドでの依頼を熟す時ぐらいだろう。

 しかし、今回俺たちは【ブルーリア大陸】へ向かうという目的のためにここに来ている。まずはあの不気味なトラウマダンジョン、エボニーの森を超えなくてはならない。


「まずはエボニーの森ですね」

「余裕よ余裕。適正レベルなんてとっくに越えてるし」


 シュトラとイシュラがそんな会話をする。俺とアイはこの森で死にかけたが、今は余裕の難易度なんだな。感慨深いものだった。

 しかし、油断は禁物だ。森は状態異常を使うモンスターが多い。毒や混乱で全滅は笑えない。おまけに今回は人数が多いため、厄介なルールが追加されているようだ。


「僕たちは十人。レイド攻略が適応されて、モンスターの数が増えるから」

「ちなみに私とヴィル、バルメリオは手を出さないわ。がんばー」


 ヴィルさんとヴィオラさんがそう説明してくれる。勝手に難易度が上がったぞ。なんて迷惑な……

 だが、人数が多いという事は、多くのモンスターにも対抗できるということ。ハクシャとイシュラは文句なく強いので、よほど苦戦はしないはずだな。

 これは、他ギルドの戦いを見るいい機会だ。七人によるダンジョン攻略を楽しむとするか。

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