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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
八日目~十一日目 森人の村スプラウト
55/208

54 ロボットを作ろう

 現実時間の7時にログインし、俺はアイとのトレーニングを行う。

 場所は俺たちの使うギルド本部の前。いつもと同じように武器を打ち付けあい、積極的にジャストガードを狙っていく。

 だが、このままトレーニングを続けても、敵に対抗できるとは思えない。あくまでも、対等な技術力が手に入るだけだ。


「そろそろ、限界かな……」


 そんな思いもあり、トレーニング終了と同時にこんな言葉をこぼしてしまう。アイはすぐに、この弱音に食いついてくる。


「き……急に何を言っているんですかレンジさん!」

「いや、このまま戦闘技術を磨いても、剣士ソードマンの劣化になるだけだと思ってな。俺は生産職、戦闘職とは根本が違うんだよ」


 この考えは正しいはずだ。前線に出て、武器を打ち付けあうのは戦闘職の役目。生産職の俺は、アイテムを作ってサポートを行うのが上等だ。

 しかし、これは今までのトレーニングを否定する考え。戦闘マニアのアイは、焦った様子で叫ぶ。


「じゃあ……もうトレーニングはしないんですか!」

「いや、トレーニングは続ける。でも、それとは別に決定的な何かが必要なんだ。機械技師メカニックらしい何かがな」


 すると彼女は何かを察し、少し残念そうな表情をする。


「ロボットですか……」

「ああ、解明すべき存在は分かった。そろそろ本格的に動き出さなきゃいけない」


 ロボットが手に入れば、もうスパナを振り回す必要はない。俺の戦い方は根本から変わるだろう。

 アイには悪いがここが分岐点だ。本当に強くなるためには、機械技師(メカニック)の特性を生かさなければならなかった。

 俺がロボットの制作を決めると、突然一人の女性が目の前に飛び出す。


「そう言うと思ったわ!」

「ヴィオラさん」


 トレーニングの終了時間は、ヴィオラさんのログイン時間だ。

 彼女はギルド本部の中へと入り、俺たちを招き入れる。受付を越え、部屋の奥へと進んでいく。そして、片隅に設置された工房の扉を開けた。


「私たちが【イエロラ大陸】に行ってる間。このギルド本部も進化してるのよ」


 扉の先は【機械制作】の設備が追加されたギルド工房。アルゴさんのガレージと同じ、最低限の設備が整っていた。

 鉄を生成する炉。溶接器具に多数の小道具。これだけあれば充分に作業が出来る。

 俺は感動で言葉を失ってしまう。


「これは……」

「遠征中に制作依頼を出しておいたのよ。これでようやくギルド本部完成ね」


 そう言えば、【機械制作】の設備が整うまで少し待っているように言われていた。ちゃんと、手を回していたんだな。

 俺はヴィオラさんに深々と頭を下げた。


「ヴィオラさん、ありがとうございます! 肝心な時にいなくて役立たずだな……とか思ってすいません! 貴方は最高のギルドマスターです!」

「え……そんなこと思ってたの……まあ、良いわ。ギルドのために頑張って頂戴!」


 【イエロラ大陸】では、まったくの役立たずだったからな。そう認識されても仕方ないだろう。せめてもう少し考えて行動してくれれば、優秀なギルドマスターなんだけどな……

 彼女について考えていると、俺はあることを思い出す。


「そういえば、結局仕入れの方はどうなったのでしょうか?」

「よく分からないから、【ROCOロコ】の担当の人に全部任せたわ!」

「本当に大丈夫なんでしょうか……」


 やっぱり、この人危険だな……

 今のままでは、いずれ大きな壁に突き当たりそうだ。そこは、ヴィオラさん自身で何とかするしかないだろう。唯でさえ、俺のようなお荷物を抱えている状況だからな。















 俺はロボットの制作を行うため、材料と設計図の調達に向かう。

 アイテムなどの制作を行うには、誰かに指導してもらうかレシピが必要だ。ロボットの設計図はこのレシピにあたる。おそらく、種類も複数あるだろう。よく選ばなくてはならない。

 王都のメインストリートから裏通りに入り、アルゴさんのお店に入店する。相変わらず鉄臭い場所だ。


「アルゴさん、こんにちわ」

「ん? レンジか、ちわーす」


 大柄な男、アルゴさんが俺を迎え入れる。

 どうやら、イリアスさんは出かけているようだ。まだ、エンダイブから帰っていないのだろうか。

 彼はカウンターから出て、俺の前まで来る。


「何か買いに来たのか? それとも工房を借りたいとか」

「工房は完成しましたよ。今日は設計図の調達です。そろそろ、ロボットを作ろうと思いまして」


 巨大なスパナで肩を叩きつつ、アルゴさんはロボットの説明を行う。


「【起動スタンドアップ】を覚えないと、ロボットは動かせないぞ」

「スキルが必要なのは知っています。でも、覚えたらすぐに使いたいので、今の内に準備したいんです」

「なるほどなー」


 彼は店の隅に置かれた本棚へと歩き、そこから数枚の設計図を取り出す。用意されたのは五枚。まあ、基本の数はこんなものか。ここから、独自に改造していくんだな。


「設計図は色々あるぞ。どんな奴が良いんだ?」

「攻撃力、防御力、機動性が高いロボットを作りたいです」

「おいおい、随分と贅沢を言うな。そんなのが簡単に作れたら苦労はないぞー」


 確かに、これだけならぶっ壊れ性能だろう。しかし、これらのステータスを上げるなら、別のステータスを落とせばいい。俺はあるステータスを切り捨てるつもりでいた。


「いえ、そのぶん持続性を落とせば、可能だと思うんですよ」

「持続性を? 確かに可能かもしれないが、ロボットの使用時間を制限されるのは、機械技師メカニックとしては致命的だぞ」

「良いんです。僕は今まで、自身のプレイヤースキルを磨き続けてきました。今さら、ロボットによる行動を中心とするには、能力がもったいないと思うんですよ」


 アイの教えてくれた技術を無駄にしたくはない。ロボットはあくまでも、最後の切り札として機能させたかった。

 ロボットで戦うと言った時、アイはさびしそうにしていたしな。恩を仇で返すような真似は出来ればしたくない。それに、俺には他にもロボットによる行動を抑えたい理由があった。


「僕はみんなと一緒に歩いて冒険したいんです。だから、ロボットはここぞという時にしか使いません」

「それだけじゃ、理由として弱くないか? 別に、使用を抑えるのは自分の意思で出来るしなー」


 確かに、これだけでは理由として弱い。しかし、俺にはさらに大きな理由があった。

 ロボットの使用頻度を削るという事は、ダンジョン攻略に支障が出るということ。長期戦になるボス戦でも圧倒的に不利だろう。

 しかし、ある一点においては優れた力を発揮する。勝負が早々に決まり、持続性の心配をしなくていい対人戦。俺はある組織の謎を解明しているんだ。対プレイヤー戦に強くなれば、それで良いのだ。


「……僕はプレイヤー戦に特化したいんです」

「なーる、闘技場で勝ち抜くつもりか? まさか、プレイヤーキラーになるとかじゃないよな……」

「PKはしない事を志しますよ。まあ、どうなるか分かりませんけど……」


 この人に話していいのだろうか。まだ会って間もなく、そんなに親しい関係ではない。話しても、どん引かれるのが関の山かもしれないな。

 しかし、信じてもらえないのなら、冗談として流せばいい。黙ってあとで後悔するぐらいなら、踏み入ってみるべきだ。もう、自分の立場を隠すのは終わりにしよう。


「実は敵対している勢力がいます。話だけでも聞いてみませんか?」


 俺は勇気を振り絞り、そんな話をアルゴさんに持ちかける。さあ、どんな結果が待っているのか。心臓が高鳴って仕方がない。

 これからは未知なる敵の相手をしなくちゃならないんだ。味方を増やすには、こんな所で躓いてはいられない。積極的に真実を話していくしかなかった。












 俺はギルドに戻り、さっそくロボットの製作に乗り出す。選んだ設計図は、重くて堅いがすぐにエネルギー切れを起こすタイプ。これで正解だ。

 まずはパーツを作るため、溶鉱炉で鉄を溶かしていく。この世界には魔法というものがある。機械類も魔法によって動くため、現実の製作より簡単になっていた。

 最初のロボットなので作りは単純。大きな歯車を生成していると、バルメリオさんが工房に入ってくる。


「何だ。生産活動をしてるのか。他の奴らは依頼を熟しに行ったぞ」

「僕は断っています。貴方こそ、ギルド活動に協力したらどうですか?」

「どうせ、レベル差があるんだ。手を出すわけにはいかないだろ」


 ぐう、正論を返された。確かに、彼がメンバーに入ったら一気に難易度が下がってしまうな。まあ、リュイはだいぶ追いついてきているようだが。

 バルメリオさんは俺の【機械製作】を積極的に見てくる。この人、俺に対してだけはフレンドリーだよな。やっぱり、気に入られているのだろうか。


「生産か……なるほど、俺のマグナムを可愛がるためついに……」

「違います。頬染めないでください」


 気に入られてるって、そういう意味じゃないよな? ギルドメンバーとしてだよな?

 この人、普通に銃を強化するためと言えないのだろうか。何でマグナムを可愛がるとか言ってるんだよ。卑猥な意味にしか聞こえないだろうが……

 彼は俺の作った部品を綺麗に仕分けし、組み立てやすいようにしていく。何だこの急な優しさは、怖い……思わず声に出てしまう。


「何ですか急に……怖いです」

「手伝ってやるよ。俺も【機械製作】のスキルは持っている。レベルもそこそこ上げたつもりだ」


 確かに、銃士ガンナー機械技師メカニックの次に【機械製作】が得意なジョブだ。手伝ってくれるのなら、ロボットの完成も早まるだろう。

 しかし、ここでバルメリオさんに優しくされるのはビックリだ。俺は彼に再確認をする。


「え……良いんですか?」

「お前にはもっとスキルを磨いてほしい。今後、世話になるつもりだからな」


 俺の修行のためという事か。【機械製作】のジョブを磨けば、バルメリオさんの銃を作ることも出来るかもしれない。何だかんだで、この人は欲しい物が手に入ったんだな。

 彼は再び頬を染め、俺から視線を逸らす。


「べ……別にお前のために手伝うわけじゃないからな。勘違いするなよ!」

「その台詞、女の子に言われたかったなぁ……」


 こうして、ホモ疑惑のあるイケメンと共に、俺はロボット製作に身を乗り出す。他のメンバーは【機械製作】のスキルを持っていないし、適性も低い。ここは彼に頼る以外になさそうだ。















 途中、アルゴさんやイリアスさんの指導を受けつつ、俺の製作は一気に進む。だが、一日二日で出来るはずもなく、あっという間に三日を費やしてしまった。

 全く冒険しない引き籠りのような三日間だったが、非常に意味のあるものとなる。目当てのロボットを完成にこぎつけたのは大きかった。

 また、【機械製作】のスキルが大幅に強化され、レベルが4へと上がる。俺自身のレベルも18となり、【生産成功率up】のスキルも強化された。まあ、失敗するような難易度の高い生産は全く行っていないんだが。

 他にも、バルメリオさんがメンバーと親交を深め、共に戦えるようになったのも大きい。本格的な行動を起こす前に、こういうインターバルを挟むのは重要かもしれないな。





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