表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
六日目 行商の街エンダイブ
41/208

40 世界征服

 俺たちはヌンデルさん一団と共に、オアシスで休息をとる。南国のような植物が立ち並び、テントで造られた売店がいくつも設置されていた。まるで、ここだけ別空間のようだ。

 砂漠は広く、他のプレイヤーと出会う機会はあまりない。しかし、この中心地点であるオアシスには、多くのプレイヤーが集まっている。中には、ギルド規模でお店を開いている奴さえいた。


「ナルシスの泉よ。ここ、サンビーム砂漠の中間地点ね。小さなお店もあるから、アイテムを買い足しましょう」

「オアシス! 良いねー! まさに砂漠の花! ここで提案だ。水浴びしねえ?」

「しないわよ!」


 ヴィオラさんの指示に対し、下心丸見えの発言をするヌンデルさん。年長組のいちゃいちゃは放っておいて、俺たちは泉の方へ向かう。流石に水浴びはしないが、見るだけなら悪くない。

 そんな俺たちの後をピッタリマークするフェンリルのジョージ。まるで監視されているようで、少し気分が悪かった。


 泉の岸部に付いた俺は、その水をじっと観察する。うん、かなり綺麗な水だな。砂漠の水なんてそんなに美しいものではないだろうが、そのあたりは完全にゲームだった。

 アイはケットシーのリンゴを捕まえて、肉球を触りまくっている。結構、動物が好きなんだな。


「はわ、ぷにぷに……」

『ふにゃー!』


 やめてやれよ……可哀そうだろ。しかし、このモンスターは相当しつけられてるな。嫌がる事をされても、技や魔法で反撃することはない。何だかんだで、人間を信用しているのが分かった。

 俺は【奇跡】のスキルを研ぎ澄まして、ケットシーの魂を探る。結果、こいつはスプリと同じ、魂持ちだと判明した。

 やはり、実力に伴って使役するNPCに魂が宿るようだ。強くなればなるほど、失うものが大きくなる。使役士テイマー、このゲームにおける最大のハートブレイクジョブなのかもしれないな。


 俺とアイがケットシーのリンゴと触れ合っていると、後ろからリュイが背中を突いてくる。俺が振り返ると、彼は泉の岸辺に立つルージュを指さした。

 彼女は杖を地面に置き、何やら準備体操をしている。まさかお前……


「……とう!」


 次の瞬間、ルージュは服を着たまま泉の中に飛び込む。水しぶきを上げ、オアシスに美しい虹が描かれた。


「服ごと行ったな……」

「行きましたね……」


 驚く俺とアイに、絶句するリュイ。丈の大きなローブは水を吸い込み、相当に重くなっているだろう。しかし、そこそこ力のあるルージュは物ともせずに泳ぎ回る。自由すぎて羨ましい限りだ。

 リュイはわなわなと手を震わせ、水浴びをする彼女に向かって叫んだ。


「ルージュさん! 貴方は野生児ですか!」

「そんな突っ込み、ちょっと聞いたことないなあ……」


 こいつ、時々おかしなこと言い出すな。騙されやすいし、少し天然が入っているのかもしれない。

 俺たちがルージュに唖然としていると、ユニコーンのジョンに乗ったヌンデルさんが合流する。彼は泳ぎ回る彼女を見て、笑い声をあげた。


「はーはっはっ! お前ら面白えなァ! 頭ぶっ飛んでるぜ!」

「貴方が言わないでください!」


 リュイがいると俺が突っ込む手間が省けていいな。彼は大きくため息をつくと、フェンリルのジョージの元へと歩く。そして癒しを求めるかのように、彼の頭を撫でていった。まあ、頑張れよリュイ……

 ヌンデルさんはユニコーンの上で寝転がり、休息を行う。そんな彼に、俺はずっと思っていた疑問を投げた。


「ヌンデルさんは、こんな砂漠で何をしているんですか? 先ほどの戦いを見る限り、相当のプレイヤーだと思うんですが」

「良い質問だミスター!」


 男ならミスター、女ならミース。これで人を呼ぶのは、この人の口癖だろうか。彼は俺の質問に、ふざけた態度で答える。


「実はここだけの話し、俺はとある秘密組織の一員なんだよ。で、今は極秘調査をしてるんだぜ」

「ごく……ひ……?」


 いや、全然隠されてないだろ。思いっきり公表してるじゃないか。

 俺の心の突っ込みはさておき、ヌンデルさんの奇想天外な話しは続く。


「しかも七人衆だか何だかの一人でよォ。実際、幹部クラスっつーわけ」


 おいおい、どこの少年漫画設定だよ。なるほど、七人衆……そりゃ強いわけだな!


「さらに言うと、俺人間じゃなくて不死身の肉体持ってるんだぜ? 凄くね?」

「へー、ほんとすごいですねー」


 話し盛りすぎだろ。不死身の肉体って、どんなチート能力だ。ゲーム中の話しだよな?

 結局、その秘密組織の活動内容も分からない。秘密の所悪いが、目的とかを聞いてみる。


「で、その秘密組織の目的は?」

「ああ、世界征服だ」


 わあ、すっごい悪い人なんだなあ……世界が危ないなあ……なんて思うわけがないだろ!

 彼の話しを泉の中で聞いていたルージュは、陸へと上がってくる。どうやら、ヌンデルさんの野望を食い止めるつもりらしい。もう、自由にやればいいと思うよ。


「貴様……悪い奴なのか……!」

「ああ、極悪人だぜ。しょんべんちびんじゃねーぜ」


 彼女は水を吸ったローブを絞りながら、地面に置いたメイスを拾い求める。まさか、本気で戦うつもりか?


「き……貴様はこのボクが倒す!」

「ははっ、俺はお前のような糞ガキにはやられねーよ!」


 ヌンデルさんはユニコーンのジョンから飛び降り、鞭を構える。その表情は真剣そのものだ。

 やがて、ルージュはメイスを振りかぶり、彼に向かって殴りかかった。全く容赦のない本気の攻撃。おいおい、正真正銘マジなんだな……

 しかし、ヌンデルさんは鞭でメイスを巻き取り、動きを止める。そして、近距離に入り、彼女のおでこを軽く人差し指で弾いた。

 尻餅をつくルージュ、笑うヌンデルさん。怒った少女は【炎魔法】を発動し、ヌンデルさんに攻撃を放つ。それを、彼は煽るように避けていった。

 この人、本気で戦っているように見せかけて、ルージュに戦闘技術を教えてるみたいだな。良い兄貴分だ。彼に疑いの目を向けた自分自身を恥ずかしく思う。

 今までの話しも、彼なりのジョークなのかもしれない。全然面白くなかったけど。










 オアシスで昼食を取り、回復薬や状態異常を治す薬を買った俺たちは、再び砂漠に戻る。

 こう、回復薬を何度も買うと本当にもったいなく感じるな。錬金術師アルケミストがいれば、安い序盤の薬草を回復薬に変える事が出来るらしい。しかし、それは俺たちには無縁の話しだった。


「さーて! 灼熱の砂漠越えだぜェ! 気張っていこうやー!」

「テンション高……」


 ヴィオラさんはヌンデルさんのテンションに呆れている。彼女がそれを言うぐらいだから、よっぽどだろう。

 彼はパーティーの先頭に立ち、俺たちをしきりだす。どうやら、他に行きたいところがあるようだ。


「おっと、エンダイブに行く前に、少し寄り道するぜ。付いてきな!」

「だから、勝手に決めないでよ!」


 ヴィオラさんはそう文句を言うが、結局勢いに飲まれる事となる。

 この何もない砂漠で、いったいどこに連れて行かれるのだろうか。まるで見当もつかなかった。



 オアシスから少し離れたところ。砂漠のど真ん中に、砂に埋もれた遺跡のようなものが点在していた。

 ダンジョンの入り口とは違い、見えるのは既に倒壊した瓦礫と謎のレリーフのようなもの。レリーフには何らかの文字が刻まれているが、それを読むことは出来なかった。

 何だかとても悲しい感じがする場所だ。俺にはここが、特別な意味を持って作られたように思えた。


「もしかして、これの事ですか……?」

「ああ、これだぜ」


 リュイは瓦礫を見渡していくが、何も見つからない。何かイベントが起きるような場所なのだろうか。

 俺と同じことを思ったのだろう。アイが目を輝かせて、レリーフを頻りに調べる。


「もしかして、隠し要素があるとか!」

「ないぜ、なーんにもない。まあ、記念碑みたいなもんだ」


 何もないのかよ。じゃあ、何で連れてきたのか……

 しかし、ヌンデルさんの言葉がどうにもひっかる。記念碑って、なんか違う気がするんだよ。

 この寂しい感じ、この心を締め付けられるような感じ、記念碑のそれではないだろ。俺は思わず声に出してしまった。


「記念碑……?」

「お? 俺の解説が不服かァ? じゃあ、なんに見えんだよ」


 ヌンデルさんが聞く。いや、何って……そりゃ……


「お墓……?」

「……!? へえ……」


 男は今までしたことのない驚愕の表情を浮かべる。それと同時に、コカトリスのポールが彼の肩に飛び乗った。なんか俺、変な事言ったか?


「あー、なるほどなあ……そういうことか……はーはっはっはっ! はひーはっはっは!」


 突然笑い出すヌンデルさん、こちらを見つめるコカトリス。これは一体どんな状況だ……


「はーはっはっはぁっ! ふひゃーはっはっはっ! ひゃはーひっひっ!」

「なっ……なんですか急に……」


 笑いすぎだろ。俺は面白い事なんて一言も言ってない。何でこんな空気にならなきゃいけないんだ。

 やがて、彼はポールの顎を撫でつつ、自らの思想を語り出した。


「いやあ、ミスター……俺は時々思うんだよ。真の最強とは何なのかってことをな……」


 ヌンデルさんは砂漠のど真ん中に腰掛ける。すると、彼の周りにユニコーン、フェンリル、ケットシーの三匹が集まってきた。


「驚異の力で無双して、最強の座を手に入れる。だが、周りから評価されず蔑まれたら、それは本当に最強なのか? そんな最強に何の価値があるのか?」


 彼はケットシーの頭をポンと叩き、言葉を続ける。


「ただ単に敵を無双するなら、ただの殺戮兵器。世界を滅ぼすことは出来ても、手に入れることは出来ねえ。虚しいだけだ。ただ強いだけ……」


 遠い目をして、レリーフを見つめ続けるヌンデルさん。やがて、彼は祈るように目を閉じ、軽く頭を下げた。


「違うんだよなあ……俺の求める最強は、俺の求めるエンターテイーメントは……」


 俺たちは複雑な表所でそんな彼を見る。やはり、この男はただのバカではない。もっと別の何かだろう。

 明確な目的を聞いても、世界征服という言葉ではぐらかされてしまった。結局、彼が何をしにこの砂漠に来たのかは、謎のままだ。

 だが、今はそれで良い。ヌンデルさんが良い人なら、俺はそれで良かったのだ。


「いやー悪ィ……まあ、気にすんな! さあ、レッツ砂漠越えー!」


 誤魔化すように、彼は再び仕切り出す。まだ砂漠は半分残っているのだ。こんな所で、もたもたしてはいられない。

 行商の街エンダイブを目指して、俺たちはさらに歩き出した。












 サンビーム砂漠を突き進むパーティー。そんな俺たちの前には、植物モンスターのサボテーン。ルージュは詠唱をし、敵に炎の魔法を放った。


「スキル【炎魔法】、ファイア……!」


 あまり強くないサボテーンは弱点を突かれ、一撃で消滅する。そろそろ、モンスターの相手をするのも面倒になってきたな。ここからは逃げの戦術も駆使し、一気に進めていく。

 連戦が続いたことから、俺のレベルも12になる。このサンビーム砂漠だけで3レベルも上がってしまった。レべリングポイントとして使うのもいいかもしれない。

 そして、俺たちの視界にいよいよ街が見えてくる。青と金で彩られた変わった形の宮殿。いかにもアラビアンという雰囲気だ。

 あれが行商の街エンダイブ。まさに、砂漠の都だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ