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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
五日目 道楽の街オーピメント
36/208

35 丁か半か

 何回かルーレットを回した後、俺はアイにゲームの変更を既望する。結果、次のゲームはポーカーとなり、場所を移動することになった。

 しかし、俺は彼女に付き合う気など毛頭ない。アイが対人戦で真剣になっている間に、逃走するという算段だ。

 結果は見事、読み通り。彼女の集中力は半端ではなく、周りの事など全く眼中に入っていなかった。

 俺は忍び足でその場を離れようとする。しかし、そんな俺を呼び止める不届き者が一人いた。


「レンジさん……逃げるんですか?」

「げ……リュイ……」

「僕だって辛いんです。一人だけ逃げるなんて許しませんよ」


 相変わらず、リュイは真面目だな。わざわざアイに付き合うこともないのに、彼は逃げるつもりなど全くないらしい。

 なら、その真面目さを利用させてもらおうか。


「リュイ……お前、アイを避けていないか?」

「なっ……なぜ急に」


 図星を突かれたからか、急に冷や汗を流すリュイ。予想よりも単純で助かった。


「分かるよ。確かにお前とあいつの出会いは最悪だった。でも、俺たちは同じギルドの仲間なんだ!  ここで互いに歩み寄らなくちゃ、絶対的な信頼関係を築くことは出来ない!」

「た……確かに……」


 俺は拳を握り締め、涙を飲む演技をしながら続ける。


「悔しいけど、俺がここに居たら邪魔になってしまう……お前が一人で、あいつとの親交を深めなくてどうする! これはギルドの絆を強める試練なんだ!」

「すいません、レンジさん……僕は間違っていました! この試練に打ち勝ってみせます!」


 リュイは俺の口からでた出任せを信じきっている様子。

 純粋無垢ないい子だな。本当に、このギルドは人間として誇れる奴ばかりだ。まあ、俺を除いてな!


「よし、行ってこいリュイ」

「はい! 僕たちは仲間ですよね!」

「ああ、当然だ!」


 アイの元へと走り出すリュイ。俺は笑顔で手をふり、彼を見送った。


「さて、これで厄介者とおさらばだ。リュイ、悪く思うなよ」


 流石リュイ、最高のスケープゴートだな。

 我ながら、俺はなんて最低なんだろう。だが、反省はしない。

 さらば、リュイ。骨は拾ってやる。

 











 【ディープガルド】時刻で4時。アイに付き合っていたら、こんな時間になってしまった。

 何かを食べなければ体力が持たない。俺は街のパン屋で適当なコッペパンを購入し、食べ歩いていった。

 いまだにこの世界での食事は慣れない。いくら味が良くとも、体のエネルギーになっていないという理屈が、気分を悪くさせる。やはり、どうしても歯車が噛み合わない。

 まあ、うだうだ考えても仕方のない事だ。俺は目的もなく、街の最南端へと歩いていった。




 街の端に辿り着くと、そこには石で造られた堤防と大きな泉が広がっていた。さらに先には広大な砂漠。本当にこの街は、オアシスの真ん中に浮いているんだな。街の周りは全て堤防によって覆われている。まるで海に来たかのような気分だ。

 せっかくここまで来たが、この行動に深い意味はない。やる事もないので、俺は意味もなく泉を見つめる。


「暇だな……」


 今さらだが、何だかとても心細い。一人の方が落ち着くと思っていたが、それは強がりだったらしい。

 このゲームを始めてから、俺はずっと誰かと共に行動していた。仲間がいないと、こんなにもやる気が出ないのか。

 少し後悔しつつ、俺は時間を潰していく。そんなとき、一人の男が後ろから声をかける。


「おやおや? レンジさんではありませんか。こんなところで会うとは、実に寄寓!」

「な……マーリックさん!」


 振り向いた先に立っていたのは、二股帽子をかぶったポーカーフェイスの道化師(ジェスター)。いつも、俺たちに情報をくれるマーリックさんだった。

 本当に、こんなところで会うとは奇遇だ。てっきり、【グリン大陸】をうろうろしているのだと思っていた。


「何でこんなところに? 闘技場のアルバイトは……」

「充分稼ぎを頂いたので、辞職いたしました。この街は道化師ジェスターの故郷。気分転換に戻ってきたという所存です」


 そうだ、彼の目的はお金を稼ぐこと。お金は使ってこそ、初めて価値を見いだせる。更なる目的がなければ、必死に稼ぐ意味はないだろう。

 俺は恐る恐る、その目的を聞いてみた。


「マーリックさんは、このゲームで何を目的にしているんですか? 戦闘とか攻略に興味なさそうですけど」

「よくぞ聞いてくださいました!」


 するとマーリックさんは、待っていましたと言わんばかりに、声を張り上げる。

 てっきり言いづらい事だと思ったのだが、聞いてほしかったのか。彼は意気揚揚に自らの持論を語っていく。


「レンジさん、貴方はひねくれ者で理屈っぽいですね。ですが、周りの変化によく気づきます」

「え……いきなり何ですか」


 目的の話しをしているのに、なぜ俺の性格を診断しているのか。しかも、この診断が当たっているのかも疑わしい。まあ、捻くれ者で理屈っぽいという自覚はあるのだが。

 マーリックさんは俺の性格を語ると、今度は自分の性格を語る。


「わたくしは道化師(ジェスター)。気まぐれで遊び好き、周りを巻き込む。これは、わたくしの考えたジョブ占い! その普及こそが目的です!」


 なるほど、どのジョブを選んだかで性格を診断する占いか。面白い事を考えたものだ。切っ掛けさえあれば、流行ってくれるかもしれないな。

 だが、そんな理由でゲームプレイしているのか。いや、流石に他にもあるだろ……


「……それだけ?」

「はい、それだけです。ゲームの目的など、気まぐれで良いのですよ」


 本当に変な人だな。想像以上にくだらないが、とてもマーリックさんらしかった。

 俺にはエルドを探すという目的がある。しかし、この世界で充実した行動を行えているのかは分からない。今でも迷ってばかりだ。

 くだらない彼が、少し輝いて見える。俺の淀んだ使命とは違い、この人の目的はとても純粋だった。


「じゃあ、他のジョブも……」

「さて、その話は後にしましょうか、今はそれより……」


 俺が他の性格診断を聞こうとした時、マーリックさんの視線が建物の影へと向けられる。ポーカーフェイスなので、真剣かどうかは分からない。しかし、ただならぬ雰囲気だけは感じる。

 いきなりどうしたのか、そう思った瞬間だった。


「そこです! スキル【トランプアクション】!」


 突如、彼の手から一枚のトランプが放たれる。これは遠距離を攻撃するスキルか。

 トランプは真っ直ぐと建物の影へと向かい、何かを貫く。それと同時に、一人のプレイヤーが物陰から飛び出した。


「選ばれたカードはスペードの6、威力はそこそこ……」

「ちっ、【気配察知】のスキルか……」


 トランプの直撃を受け、ダメージを受ける男。サングラスをかけた銃士ガンナー、バルメリオさんだった。

 これは見事に先手を取った。【気配察知】のスキルで、敵の尾行に気づいたのか。どうやら、マーリックさんもかなりの強者らしい。

 だが、今は彼の事より、目の前にいる敵の方が重要だ。なぜ、バルメリオさんがここに居るのか。


「バルメリオさん……! 砂漠からどうやって……」

「気合いで追いついたんだよ。お前に会うためにな……」


 今朝、俺は後部車両を切り離し、彼を砂漠の真ん中に放置したはずだ。想定よりも、追いつくスピードが速すぎる。いったいどんな無茶をして砂漠越えをしたんだ。

 どうやら、敵は彼一人。カエンさんはどこかでへばっているらしい。やはり、バルメリオさんの気合いが異常だった。

 マーリックさんは彼と面識がない。俺に向かってその詳細を求める。


「彼は……?」

「僕たちを狙うプレイヤーキラーですよ。誰かに雇われたみたいです」


 俺は後退りをして、バルメリオさんから距離を取る。

 全く状況が分からないぞ。何で俺が彼に狙われなければならないのか。今までさんざん無視してきただろ。


「何で僕を狙うんですか? 他のメンバーが貴方たちの狙いでしょう?」

「カエンのくだらない依頼なんて興味ねえよ。俺はお前に興味があるんだ」


 バルメリオさんは銃口をこちらに向け、じりじりと迫る。彼は依頼も報酬にも興味が無いらしい。恐らく、俺に出し抜かれたことを根に持っているのだろう。

 ヤバいな……俺じゃあ、この人に勝てるわけないよな。レベルの差があまりにも開きすぎている。やはり、ここはマーリックさんに頼るしかないか。


「まだ低レベルのプレイヤーを狙うとは……貴方、少々節操がないとは思いませんか?」

「うるせえ、お前には関係ないだろ」

「いえいえ、彼はわたくしの大切な友人。貴方の粗暴を許すわけにはいきません!」


 どうやら、彼は戦うつもりらしい。道化師ジェスターがパチッと指を鳴らすと、巨大なルーレットが空中から落下する。そして、俺たちの目の前にセッティングされた。

 また、ルーレットかよ。随分と派手な演出だが、これは何らかのスキルなのか? その疑問はマーリックさんの口から説明される。


「スキル【ルーレットボム】! 赤が出れば相手が爆発、黒が出れば自分が爆発します!」

「何で!?」

道化師ジェスターというものは、突拍子もないのです!」


 自分が爆発って……デメリットが大きすぎる。何て危険なスキルなんだ。しかも、このスキルを使いこなす条件は運。よっぽど博打に自信がなければ、使えないスキルだろう。

 だが、当たった時の見返りも大きいはずだ。恐らく、このスキルが決まれば、一撃必殺の大ダメージを期待出来る。勿論、自分に跳ね返るダメージも相当だが。

 やがて、ルーレットが回転し、白い球が転がり出す。カジノとは違い、これは戦闘用の技。ルーレットは速攻で止まり、結果はすぐに決定する。


 入った色は……黒だった。


「ぐああああ……!」

「マーリックさん!」


 巨大な爆発音と共にルーレットが爆発し、マーリックさんだけ吹き飛ぶ。そんな彼を、俺とバルメリオさんは呆然と見つめていた。本当に、訳も分からず爆発するんだな……

 ボロボロになったが、何とかライフを残している道化師ジェスター。これは全て、バルメリオさんが悪いな。彼を爆発させるとは、なんて酷い奴なんだ!


「よくも……よくもマーリックさんを! 絶対に許さない!」

「待て! 俺まだ何もやってないんだが!」


 俺の言い掛かりによって、動揺するバルメリオさん。その隙に、マーリックさんが次なるスキルを発動する。


「まだ終わっていませんよ! スキル【トリックヒール】! 成功すればライフ回復!」

「失敗したら?」

「爆発します!」

「何でこうも爆発するんですか!」


 彼の上に天使と悪魔が現れ、その場でくるくると回る。恐らく、天使なら回復、悪魔なら爆発という事だろう。

 俺は瞬時に察した。これは悪魔が笑うな。何か、そういうフラグとしか思えない。さあ、どうなるか……


 普通に、悪魔が笑いました。


「ぐああああ……!」


 悪魔が爆発し、マーリックさんは見事に吹き飛ぶ。この状況で、ギリギリライフを残しているのは非常にしぶとかった。

 いったい、この人は何がしたかったのだろう。連続する失敗で、今までのかっこよさは全て吹き飛んでしまう。もう、何を言っても決まらないだろうな。

 さて、これからどうしようか……ボロ雑巾と化した哀れな道化師ジェスターを見つつ、俺は放心するのだった。


剣士ソードマン: リーダーシップがあり自信家。カリスマ性を持っており、周りの信頼も厚い。

戦士ナイト: 負けず嫌いで頑固者。勝負事には拘りがあり、少し大人げない部分もある。

盗賊シーフ: 野心家で向上心あり。目的のためには手段を選ばない事もあり、怖く思われがち。

格闘家モンク: おバカで熱血漢。とにかく曲がったことが大嫌いで、何でも正々堂々向き合う。

弓術士アーチャー: 無邪気で子供っぽい。何でも楽しむことを考えており、行動が読めない

銃士ガンナー: 少年的で型に拘る。自分に酔ってしまう事もあり、カッコいい行動を求める。

海賊パイレーツ: 豪快、豪傑。曲がったことが大嫌いで、何をやるにしても大雑把。

サムライ: 真面目で勤勉。どんなことに対しても真面目だが、その分頭が固いところも。

忍者ニンジャ: 計画的でちょっと姑息。何でも熟すが、想定外の事があると慌ててしまう。

使役士テイマー: 無鉄砲で考えなし。とにかく前進と進展を求める。少し人間嫌いな面も。

魔道師ウィザード: 億劫で根暗っぽい。意外と図太く、心臓に毛が生えているほど心が強い。

僧侶プリースト: 清楚で潔癖症。基本は優しいが、プライドが高く意地悪な部分もある。

召喚術師サモナー: 仲間思いで繊細。思い込みが激しく、善人にも悪人にも染まりやすい。

吟遊詩人バード: ロマンチストでナルシスト。自分の世界に入り込んでしまう傾向が強い。

踊子ダンサー: 目立ちたがり屋でムードメイカー。周りからの脚光を浴びることに優越する。

付術師エンチャンター: 内気で消極的。自分に自信がなく、誰かに依存するタイプ。

道化師ジェスター: 気まぐれで遊び好き。周りを混乱ごとに巻き込むが、本人は気にしない。

商人マーチャント: 話し上手、聞き上手。世渡りがうまく、お金に関しては少々煩い。

農家ファーマー: マイペースで鈍感。普段は優しくて物腰が柔らかいが、たまに怒ると怖い。

錬金術師アルケミスト: 好奇心旺盛で新しい事が好き。他人と違っている事に優越感を感じる。

鍛冶師ブラックスミス: 地味で堅実。他人に邪魔されるのが大嫌いで、目立つ行動も好まない。

機械技師メカニック: 捻くれ者で理屈っぽい。周囲の変化によく気が付き、他人の感情に繊細。

裁縫師テーラー: 変わり者な芸術家タイプ。独自の感性や感情を持っており、理解が難しい。


(全てマーリックの持論です)

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