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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四日目 王都ビリジアン
28/208

27 魔女っ子ルージュちゃん

 王都の飲食店、西洋風な造りで高級感のある外観。試合を終えた俺たちはそこで遅い昼食をとっていた。

 料理はハンバーグ、ボリュームがあってお手頃という現実世界でも定番のメニューだ。

 アイは俺以上の食欲で、料理を頬張っていく。


「流石です。レンジさん! 武器を投げたり、地形を利用したり、素晴らしい戦いでしたよ!」

「ただの小細工だよ。弱者の悪知恵だな」


 少し誇らしげに、俺はそう言葉を返した。散々捻くれたことを言ってきたが、やはり勝つのは決して悪いものではない。べた褒めされるのも非常に気分の良いものだ。

 俺はリュイの方が気になり、その結果を聞いてみる。


「リュイの方はどうだったんだ?」

「僕の方も好調でしたよ。初級は初心者が多くて、話しになりませんでしたよ」


 フォークを華麗に回し、余裕に語る少年。そんな彼をヴィオラさんが否定した。


「嘘々、最後の試合は滅茶苦茶苦戦して、ビビッて三戦で止めちゃったのよ」

「う……連勝には変わりありません!」


 リュイの方も負けなしか。しかし、三戦目で苦戦したのは俺と同じ、まだまだ修行が足りないな。

 しかし、そんな俺たちを評価する者が、このギルド以外にも存在していた。


「見事だ少年! 貴様の輝きは、さしずめ大宇宙に現れた超新星! 流石、この私が見込んだだけのことはある!」

「うわっ! 貴方いつの間に!」


 突如、俺たちの会話に混ざる変人。銀髪に輝く瞳を持った魔導師ウィザード、ギンガさんだった。

 彼はテーブルの上に飛び乗ると、俺に向かって指を突き付ける。


「そんな貴様の実力を評価し、ミッションを言い渡す! ルージュをギルドに加えるのだ!」

「え? 全く状況が分かりませんが……」


 突然、この人は何を言っているのか。文句を言う前に、男から一喝される。


「黙れィ! さっさとルージュを連れていけ。二度言わすな、この愚か者が!」

「相変わらず、滅茶苦茶言ってますね……」


 俺たちがルージュと行動していた事から、仲間になる見込みがあると思ったのだろう。もう少しナチュラルに言ってほしいものだ。

 しかし、こちらが良くても、ルージュの方は違ってくる。大事なのは彼女の意思だ。


「こっちとしては、入ってほしいわよ。でも、結局ルージュちゃんの心の問題なのよね」

「そうですよ! ルージュさんは貴方に憧れているんですから!」


 ヴィオラさんとアイは、そうギンガさんに言い聞かす。だが、彼が他人の意見を聞くはずがない。


「ふん、それをどうにかするのが貴様らの役目だろう。丁度、奴も現れたようだ」

「し……しっしょー……!」


 飲食店内を駆け抜け、三角帽子の少女が俺たちの前に現れる。ギンガさんをストーキングしている魔導師ウィザード、ルージュだ。彼女は、口を三角に尖らせ、大声で叫びだす。


「ぼ……ボクの思いを受け止めてください……! 師匠……!」

「ええい! 私は貴様の師匠などではない!」

「なら……! 弟子にしてください……!」

「断る! 貴様のような問題児を相手するなど、身の毛もよだつわ!」


 この子、相当ギンガさんから嫌われてるな。まあ、ソロプレイヤーを志している人にしつこく迫ったら、そりゃ嫌われるか。

 そんなルージュをギルドに入れるため、マスターのヴィオラさんが動き出す。彼女は少女の目を見つめ、言い聞かすように言葉を投げる。


「ルージュちゃん、あの人はね。とっても器の小さいダメ人間なのよ。あんな男にくっ付かず、私のギルドに入りましょう」

「本人の前でボロクソ言いますね……」


 まあ、器の小さいダメ人間なのは確かだが、本人の前で言っちゃダメでしょ……彼女の言葉を聞いたギンガさんは、むしろ誇らしげにしている。本当に何なんだこの人。

 ヴィオラさんの必死の説得。それを聞いたルージュは、彼女に向かって中指を立てた。


「ふぁ……ファッ○ユー!」


 瞬間、ヴィオラさんは立ち上がり、座っていた椅子を持ち上げる。まさか、ルージュに投げる気か!


「うおおおおお!」

「ヴィオラさん落ち着いてください!」

「悪気はないんですよ!」


 怒りで暴れ出すヴィオラさんを、リュイとアイが押さえつけた。

 落ち着いた彼女は椅子を置き、再びそこに座る。やばいな、そろそろ店員に追い出されそうな雰囲気だぞ。誰か収拾を付けてくれ。


「では、こうしましょう。私たちの誰かがルージュさんと決闘して、私たちが勝ったらギルド入り。ルージュさんが勝ったら、正式にギンガさんが師匠になるということで」


 そんなアイからの提案。うーん、これはギルドメンバーの賭け事ではないのか? 前回禁止したはずだよな……

 いや、ソロプレイヤーを賭けているわけだし、本人の同意があれば許容範囲内か。多少無理矢理でも、収拾を付けないといけないし、これは仕方ないかな。

 ギンガさんも、これには納得してもらう以外にない。


「き……貴様! 何を勝手に決めている!」

「ギンガさん! 多少のリスクを措かさなければ、問題は解決しませんよ」

「ぐぬ……」


 全て、アイの言うとおりだ。ルージュの行動は、もはや常軌を逸している。無理にでも止めに入らなければ、彼自身が苦しむだけだろう。

 ギンガさんの方は渋々了承する。俺はルージュに、この提案に乗るかを聞いてみた。


「ルージュはこれで良いのか?」

「勝つ……! 問題ない……!」


 この子、結構自信家だな。俺やアイはまだしも、ヴィオラさんやリュイに勝てると思っているのだろうか? まあ、流石にこちらも、ガチガチの戦闘職をぶつけたりはしないが。

 そうなると、戦うのは俺かアイ。このままじゃ、俺が戦う流れになるよな……そう思っていると、案の定アイから話しが出る。


「では、レンジさん! よろしくお願いします!」

「嫌だよ……相手は年下の女だし、今回は女同士で戦ってほしいな」


 イシュラ戦の時も思ったが、相手が女だと心苦しいんだよ。ゲームだと分かっているし、殴ってもライフが減るだけで傷にはならないが、それでも気分的に嫌だ。

 特に今回は、イシュラのようなイラッとする相手でもない。絶対に真面に戦えない自信があった。

 そんな俺の心情を理解したのか、アイは素直に自分が戦う決意をする。


「むう……分かりました。今回は私が戦います」

「貴様、本当に大丈夫だろうな?」

「大丈夫です! 私、とってもとっても強いんですよ?」


 ギンガさんは心配だろうな。彼女、見た目はキャピキャピな美少女、しかもお惚けな生産職だからな。 しかし、俺とリュイは知っている。こいつの中身は、熱血バトルマニア。一対一の戦いになるとトリップし、優れた戦闘技術を発揮する。

 彼女なら、勝利も難しくないだろう。














 俺たちは商業地区にあるギルド前に移動する。ここならば、周りの迷惑にはならないはずだ。

 互いに向き合うアイとルージュ。そんな中、俺はある事に気づく。ルージュの装備が、小さなステッキから巨大な杖に変わっている事だ。先端に大きな球体が付いており、その周りに二つの輪っかが掛かっている。まるで大きな惑星だ。


「ルージュの杖が変わってますね」

「ふん、あれは杖ではないメイスだ。奴め、本気のようだな」


 あのメイスに、何らかの秘密があるらしい。しかしギンガさんは、ルージュの手の内を明かすような真似をしなかった。あくまでも公平な勝負、そういう事だろう。


「じゃあ、決闘開始よ!」


 そうこうしているうちに、ヴィオラさんの合図で決闘が始まる。アイ、ギルドのためにもここは勝ってくれよ。

 美少女二人、スピードは互角で、スキルの発動もほぼ同時だ。互いに最初の一手は正反対のものだった。


「スキル【マジカルクロス】! アイテム、シルクのローブ!」

「スキル【雷魔法】サンダー……!」


 アイは敵へと走りつつ、防御力を上げるスキルを使用する。【マジカルクロス】は防御力だけではなく、魔法防御力も強化されるスキルだ。一定時間であるが、決着の速い対人戦では非常に有用だろう。

 対するルージュは雷属性魔法による先制攻撃。雷だけあってスピードは速いが、発動までの詠唱で相手に先制を許してしまう。

 結果、アイは直撃を受けたが、最小限のダメージで抑える。これなら勝てるぞ。


「うーん、やっぱり魔法の威力が低いわね……何でなのかしら?」

「良いじゃないですか。相手が弱ければ、勝率も上がります」


 腑に落ちない様子のヴィオラさんと、勝利を確信しているリュイ。確かに、ルージュの魔法は威力が低いように感じる。普通に考えれば嬉しいことだが、胸騒ぎがするな……

 俺の心配をよそに、アイは敵の目前まで到達する。ルージュは魔導師ウィザードだ。懐に入られたら、対抗する手段はない。彼女は逃げるように後ろに下がり、我武者羅に魔法を放つ。


「スキル【水魔法】アクア……!」


 今度は水属性の魔法。無理な態勢で撃ったため、コントロールは滅茶苦茶だ。

 アイは軽く回避し、さらに一歩ルージュに近づく。もう、この少女に距離をとる手段はない。あとは大針によって一方的に攻撃を与えて終わりだ。

 この場の誰もが、これで決まったと思っただろう。だが、次の瞬間、俺たちの予想を覆す異常な事態が起きる。


「スキル【薙ぎ払い】……!」

「はっ……!」


 突如、ルージュから放たれるスキル。それは魔法攻撃などではない。巨大なメイスを振り回す物理攻撃だった。

 魔術師ウィザードが物理スキルを使用するなど、予測できるはずがない。驚いたアイは反応が遅れ、ジャストガードが間に合わなかった。


「アイ……!」


 メイスによって殴り付けられ、彼女はそのまま打倒される。だが、すぐに受け身を取り、上手く体勢を立て直した。

 どうやら、魔術師ウィザードの物理攻撃という事もあり、威力も中途半端な様子。直撃を受けたが、【マジカルクロス】の効果もあり何とか致命傷を回避した。

 しかし、いきなりメイスによる攻撃とは驚きだ。あのアイが、完全に度肝を抜かれている。


「【薙ぎ払い】って……」

「お店で買えるスキルよ……物理専用のね」


 ヴィオラさんに確認を取るが、やはり物理スキルだ。それも、魔術師ウィザードが覚えるスキルではない。購入したスキルだった。

 全く理解できないルージュの戦法に、常識人のリュイが声を荒げる。


「何で、あんな物理スキルを魔導師ウィザードが持っているんですか! おかしいですよ!」

「ふん、奴の思考回路は私にもよく分からん。奴はスキルポイントの全てを、【攻撃力up】に振っている。STR(攻撃力)が異常に高く、ああ見えてもかなりの怪力だ」


 なるほど、だから魔法の威力が低かったのか。接近戦メインで鍛えていれば、当然魔法の方は厳かになる。当然のことだった。

 しかし、理解は出来ても納得は出来ない。なぜ魔導師ウィザードが魔法を放置して、接近戦を鍛えているのか。初心者の俺でさえ、頭のおかしい事をしていると分かるぞ。

 一番納得していないのはリュイだ。テンプレートで固まった彼には、その自由すぎる強化方法が許せないのだろう。


「何で、INT(魔法攻撃力)の高い魔導師ウィザードが、STR(攻撃力)を鍛えているんですか!」

「知らんと言っているだろうが! 二度言わすな!」


 魔法のスペシャリストであるギンガさんですら分からない行動。これはこの勝負、少し状況が変わってきたな……


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