表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四日目 王都ビリジアン
27/208

26 生産職の戦い

 敵の攻撃は防いだ。しかし、動きを読まれているのがどうにも気持ち悪い。

 流石にそろそろ戦い方がワンパターン化してきたか? 遅延からのワンショットキル。今回は絶対に狙えないだろうな。


「あんた、ジャストガードが得意みたいだし、小細工に移らせてもらうわ。スキル【武器変更】! アイテム鉄の槍!」


 彼女の持っていたハンマーが、槍へと入れ替わる。なるほど、鍛冶師ブラックスミスは武器のスペシャリストか。

 武器適正スキルを何個も鍛えることは出来ないから、一つ一つの適正度は他より劣るだろう。しかし、オールラウンダーに武器を使い分けられるのは厄介だな。

 今回、俺は攻めの姿勢で戦おうと思っている。新しい戦い方を見つけるには、多少の無茶も必要だ。


「槍なんて使えるのかよ」

「適当にやれば何とかなるのよ」


 俺はスパナによる通常攻撃を試みる。だが、槍による攻撃はリーチが長く、こちらの攻撃が届く前に牽制されてしまう。これじゃあ、真面に近づけないぞ。

 手を拱いているうちに、イシュラはさらにスキルを発動させる。


「スキル【武器解放】!」


 ただでさえ長いリーチが、スキルの効果によって大幅に強化される。巨大化したハンマーと違い、槍の方は柄が伸びる効果か。

 だが、これはチャンス。柄が伸びたところで、刃が付いているのは先端のみ。それが槍というものだ。

 俺はその先端の刃をかわし、イシュラの懐へと入る。スキルの使用が仇になったな。

 これで攻撃を阻むものは何もない。俺は至近距離からスパナを振り落す。


「食らえ!」

「残念、食らわないわ。スキル【武器変更】! アイテム初級の刀!」


 突如、彼女の持っていた槍が刀へと変わる。くそっ、その手があったか。

 敵は武器を構え、迎え撃ってくる。しかし、運が良かった。刀による攻撃は、リュイとのトレーニングによって慣れている。充分にジャストガード可能だ。

 俺は相手の攻撃を弾き、さらにスパナによって反撃に出る。何回か殴りつけたが、イシュラはすぐに刀が不利だと悟ってしまう。


「くっ……スキル【武器変更】! アイテム鉄の斧!」」

「また、変更かよ……!」


 今度は重くて大振りの斧。彼女はそれを振り回し、闇雲に攻撃する。

 突然の武器変更に驚き、上手く動きに付いていけない。今度がこちらが斬りつけられ、ダメージを受けてしまった。

 まずいな……武器が次々変わって、全くタイミングが掴めないぞ。相手の動きを止めなければ、【発明クリエイト】で攻撃出来ない。

 【発明クリエイト】の弱点、それは武器を制作するモーションが長いことだ。スパナを叩き付け、制作するのに数秒はかかる。その間にボコボコにやられてしまっては意味がない。

 俺は一気に距離を取り、様子を見る。しかし、その行動は敵の想定内だった。


「スキル【武器投げ】!」

「うおあっ……!」


 こちらに向かってぶん投げられた鉄の斧を、ギリギリのところでジャストガードする。今のは相当に驚いたぞ。思わず変な声が出たじゃないか……

 これは武器を投げるスキルか? いや、武器なら普通に投げれるから少し違うか。

 何にしても、イシュラには強力な遠距離攻撃がある。これは近づく以外にないな。俺は再び、敵の目前へと走りこむ。だが、彼女は迎え撃つ策すらも用意していた。


「スキル【土魔法】、クレイ!」

「魔法も使えるのかよ!」


 突如、地面から盛り上がった土が、俺の脚にヒットする。

 こいつ、スキルを購入して自身を強化してるのか。俺が購入したスキルは【小物制作】の一つ。戦闘では、糞の役にも立たない。アクセサリーを作っている場合じゃないぞ。

 だが、イシュラの行動により、打開策が生まれる。土魔法によって、形の変わったフィールド。これは利用しない手はない。


「スキル【解体テイキング】!」

「なっ……!」


 俺は魔法によって盛り上がった大地に、【解体テイキング】を打ち込む。砕けた土は目晦ましとなり、彼女へと放たれた。


「くう……小細工を!」

「小細工最高だな」


 これだけの隙があれば、【発明クリエイト】を使用できる。俺は鉄くずと鉄鉱石を取り出し、それにスキルを打ち込んだ。

 ようやく、大ダメージを狙える。だが、相手もそれに対抗姿勢を見せた。


「スキル【発明クリエイト】、アイテムドリルアーム!」

「スキル【武器変更】! アイテム鉄の盾!」


 装備変更で武器を盾に変えるイシュラ。しかし、ドリルアームは防御貫通効果を持っている。構えられた盾を弾き、ドリルは彼女の胸部にヒットした。

 少女に回転するドリルを打ち込むとか、かなり猟奇的だな……まあ、HPゲージを減らすだけなんだが。


「ぎりり……むぐぐ……痛ったいわね! 絶対吠え面かかせてやる!」


 非常に悔しそうだが、まだまだ元気そうだ。ハクシャの時とは違い、相手の防御は下がっていない。おまけに、グレネードより威力の劣るドリルアームでの攻撃だ。ライフゼロにはまだ遠い。

 イシュラは一気に距離を取ると、新たに剣を取り出す。彼女の両手には今出した剣と先ほど出した盾、いったい何をするつもりだろうか。


「スキル【武器精霊】、アイテム鉄の剣! アイテム鉄の盾!」


 こいつ、まだ戦闘スキルを持っているのかよ。彼女が二つの武器を地面に置くと、その横に帽子をかぶった二人の小人が出現する。少年と少女、少年の方は鉄の剣を拾い、少女の方は鉄の盾を持つ。

 裁縫師テーラーの使用スキル、【使役人形】と同じか。くそっ、スプリたちのトラウマがぶり返してきたぞ……


「NPCの精霊よ。さあ、あいつをぶっ倒しちゃいなさい!」


 俺は【奇跡】のスキルを研ぎ澄ます。うん、大丈夫だ。あいつらに命は宿っていない。恐らく、この戦闘だけを支援するコンピュター知能だろう。

 しかしあの姿はまずい。完全にトラウマになっていて、真面に戦うことができないぞ……

 二体の精霊は覚束ない様子で走りだし、こちらに攻撃を仕掛けてくる。少年の方は剣を振り落し、少女の方は盾で守ってくるが、どちらも弱い。まだ、覚えたてのスキルで、レベルが上がっていないのだろうか。


「まあ、その二体じゃあんたを倒せないでしょうね。でも、これで止めよ! スキル【武器解放】!」


 巨大なハンマーを掲げ、攻撃準備をするイシュラ。あんな物で殴られたら一溜りもないな。対抗したいが、こちらは精霊二人の相手で手いっぱいだ。

 万事休すか……って、あれ? 相手、今隙だらけじゃないか? 両手で巨大ハンマーを掲げており、加えてスピードも遅い。完全無防備だぞ、バカなのか?

 ああ、精霊の足止めによって油断してるのか。確かに現状、俺はイシュラの攻撃に対抗出来ない。だが、相手が隙だらけになったのなら、話しは別だ。


 俺はスパナを大きく振りかぶり、それを思いっきり彼女へとぶん投げた。


「ごべっ……!」

「これは、リアルファイトなんだ。別にスキルがなくても、武器は投げれるだろ!」


 見事、スパナは彼女の顔面に命中。完全にクリティカルヒットだ。 

 【武器投げ】のスキルは武器を投げれるようになるスキルじゃない。投げた武器の威力を上げるスキルで間違いないだろう。事実、俺は武器を投げているのだから。

 彼女は重いハンマーを持っていたため、そのままバランスを崩して後方へと転倒する。主人が転倒したことにより、精霊たちの動きも鈍くなっていく。勝負を決めるのは今しかないな。

 俺は精霊二人を無視し、先ほど投げたスパナを拾い上げる。そして、そのまま一気にイシュラの元に走りこんだ。


「スキル【発明クリエイト】! アイテム、イグニッション!」


 至近距離に入った俺は、【発明クリエイト】によって新たな武器を作り出す。今手に握られているのは、大きな発火装置。高い炎の魔石を使った発明品なので、威力は充分に期待できる。

 後ろからは精霊二人が追ってきている様子。俺は早々に火炎発射口をイシュラへと向けた。


「ちょ……ちょっと待……」

「誰が待つか!」


 散々ボコボコにされたんだ。今回ばかりは女でも問答無用。

 アイテムを使用した瞬間、強力な火炎が彼女へと放たれる。これはまた、かなり強力なアイテムだな。流石は炎の魔石を消費しただけのことはある。

 灼熱の業火は容赦なくイシュラを包み込み、そのライフを全て削り取る。ドリルに貫かれたり、炎に焼かれたり、こいつ本当に災難だな。無駄に粘ると、その分痛い思いをする。覚えておこう。


「うう……よくも……」

「だ……大丈夫か……?」


 炎が晴れると、そこにはボロ雑巾と化したイシュラが横たわっていた。戦闘の終了と同時に、武器精霊の二人がその場から消える。やはり、この戦闘だけのコンピュターだったか。

 俺は倒れるイシュラを助けるため、彼女の元へと駆け寄る。しかし、戦闘が終わったことにより、俺たちは受付フロントへと転送されてしまう。そうか、ライフは戦いが終われば回復するんだったな。










 二人は闘技場のフロントへと戻る。流石に三戦目は疲れたな……いや、このゲームに疲れは無いのだが。

 戦闘の報告をするため、ヴィオラさんの元へと向かおうとした時だ。俺と共にフロントに戻ったイシュラが声を荒げた。


「あんた! よくも……よくも……」

「イシュラ、良い試合だったな。お前、かなり強かったよ」

「ぐぬ……」


 悔しそうだから、そうフォローする。まあ、フォローと言っても、これは紛れもない事実だ。俺は本当に良い試合だったと思ってるし、彼女が強かったとも思っている。

 だが、こいつはそんな俺の態度が気に入らない様子だ。


「その態度がムカつくのよ! 自分が勝ったのに、負けた相手のご機嫌を取るその態度!」

「だって、申し訳ないだろ。接戦だったし」

「だから……そういう所が……くー!」


 まあ、何か面倒なプライドがあるのだろう。だからと言って、雑魚だと罵ったら怒るんだろ? なら、自分の正直な感想を言った方が良い。イシュラ、これは紛れもない俺の本音だよ。

 彼女は人差し指を俺に突き付け、叫ぶ。


「覚えてなさい! 次はボコボコにしてやる!」

「それは勘弁してほしいなあ」


 俺たちがそんなことを話していると、こちらに向かって一人の少女が走ってくる。民族風の衣装をしたエルフ耳の少女。イシュラの妹、シュトラだった。

 彼女は目に涙を浮かべて、イシュラの前に立つ。


「お姉ちゃん! 私、心配したんだよ! お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……」

「シュトラ……」


 そんな妹の態度に、姉の表情は穏やかになっていく。これが麗しき姉妹愛か……

 しかし、次の言葉でイシュラの態度は一変する。


「ちゃんと私の出番を作ってくれるか!」

「……え?」


 呆然とする俺とイシュラ。この子、何を言っているんだ……

 混乱する姉に対し、妹は必要に出番を求めた。


「ねえ、私の出番は?」

「シュトラ……」


 イシュラの右拳に力が入る。よし、ぶん殴れ。俺が許そう。


「ボコボコにしてやるわ! ゴルァー!」

「ご……ごめんなさいお姉ちゃん……!」


 シュトラ、どれだけ出番に飢えているんだよ。いや、確かにお前は空気そのものだが。

 逃げる妹に後を追う姉。この二人、本当に楽しそうな姉妹だな。少し羨ましく思いつつ、俺はヴィオラさんの元に戻るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ