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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四日目 王都ビリジアン
26/208

25 変人闘技場

 タダで回復薬などを貰うのも申し訳ないので、試しに戦ってみる。

 本当に大丈夫なのだろうか。基本、俺は戦闘が嫌いだ。特に、正々堂々戦う闘技場のようなフィールドはかなり苦手。俺の専門は、不意打ち、騙し討ちなのにな。


「レンジ、頑張ってね」

「レンジさんなら絶対勝てますよ!」


 女二人に応援され、若干やる気が出てくる。リュイも頑張っているんだ。年上の俺もいいとこ見せないといけない。

 俺は選手専用の扉を潜り、奥へと進む。すると突然、いつも感じている不思議な感覚を感じる。これは、【ディープガルド】にログイン、ログアウトする時の感覚だな。恐らく、人数が多いので、フィールドを別空間に用意しているのだろう。本当によく考えられていると思った。









 一戦目、蓮二レンジ vs PIKAピカ


 NPCである観客の視線が集まる闘技場。俺と対戦相手は互いに睨み合う。

 相手は小学校の低学年ぐらいか、リュイ以上にちびっ子だな。綺麗な宝石があしらわれたローブを着ており、その手には銀色の杖が握られている。魔法系のジョブだと思うが、初めて見た感じだ。

 魔道師ウィザードと違って、怪しい雰囲気ではない美しい衣装。俺はジョブの詳細を掴むため、待ちの戦法に出た。

 すると予想通り、少年は先に行動を仕掛けてくる。


「ス……スキル【従属召喚魔法】! シルフ!」


 その魔法と共に、少年の隣に同じぐらいの歳をした少女が現れた。羽を象った緑の服装に、周りを渦巻く風。空中を浮遊し、微妙に体が透けている。どう見ても風の精霊だろう。

 なるほど、こいつは召喚術士サモナーか。初めて見るジョブだな。

 どんな攻撃をしてくるか、俺は警戒の姿勢を取る。しかし、そんな俺を無視し、少年と精霊は別々に動き出した。


「ちょ……シルフちゃん! 勝手に動かないでよ!」

「おいー……」


 召喚したシルフは、自由奔放に闘技場を飛び回る。そんな彼女に向かって、少年は何やら叫んでた。お前ら、本当に大丈夫なのか……?

 まだスキルレベルも低いだろうし、そんなに思い通りにはいかないはず。だが、これはゲーム。ちゃんと指示をすれば精霊は従ってくれるはずだ。俺は思わず、敵にアドバイスしてしまう。


「あの……指示しなきゃダメなんじゃないのか……?」

「はっ……! その発想はなかったよ!」

「おいおい……」


 こいつ、どうやって王都まで来たんだ? 可愛らしい少年だし、他のプレイヤーに甘やかされて、守られて来たのだろうか。何にしても、まるで成長していないな……

 戦闘方法が分かった彼は精霊に指示し、攻撃に出る。ここからは油断できない。


「シルフちゃん! スキル【風魔法】、ウィンドだよ!」

『うん、ウィンド!』


 以前見た風の魔法。魔法攻撃はジャストガード不能だ。俺は一気に距離を取り、その攻撃を上手くかわす。幸い攻撃はノーコントロールだった。


「シルフちゃん! どんどん、いけー!」

『うん、ウィンド! ウィンド! ウィンド!』


 怒涛の連続攻撃により、逃げかわすのも限界が来る。俺は何度も風によって切り裂かれ、大ダメージを受けてしまう。MND(魔法防御力)が低い機械技師メカニックに、魔法職の相手は相当キツイ。

 しかし、あんなに闇雲に連発して、MPは大丈夫なのか? もう、相当な数発動してるぞ。

 戦闘を続ける中、突然シルフが攻撃の手を緩める。


「どうしたのシルフちゃん? ウィンド!」

『魔力切れだよ。ピカくん』

「……ええ!」


 案の定かよ。こいつ、普通に弱いな……

 俺はMPがきれて木偶の坊となったシルフを無視し、本体の方へと攻撃に出る。敵が迫っているのにも関わらず、相手はボーっとしていた。

 近距離に入り、俺はスパナを振りかざす。瞬間、彼はその場に伏せてしまった。


「うわ……! ごめんなさい! ごめんなさい! ボク初心者なんです! 怒らないで……」

「いや……何か、こっちがごめんなさい」


 こうして、対戦相手が戦意喪失したことにより、俺の勝利となってしまう。

 悪いことをしてしまったか……いや、これはいい教訓だな。ピカくん、シルフちゃんと共に頑張ってくれ。俺は影ながら応援しているぞ。


 俺はフロントに戻り、ヴィオラさんに報告する。


「一戦終えましたが、ぐだぐだでした」

「まあ、初級ランクだから。ああいう子も多いと思うわよ」


 このゲームは全年齢対象。小学生の相手もしなくてはならない。逆に心苦しいな……

 何だかもやもやした気分だ。まるで戦闘を行った感じがしない。


「もう一戦したら? 気持ち悪いでしょ?」

「そうですね……なんかしっくりきません」


 そんなわけで、俺はもう一度、闘技場に出場することになった。










 二戦目、蓮二レンジ vs ヤイバ


 相手は盗賊シーフの男性。赤いバンダナが決まっており、俺よりも年上だ。今度は相当に強そうな感じがするぞ。まあ、所詮は初級ランクのプレイヤーなのだが。

 対戦相手は俺をジロジロと観察すると、突然話しかけてくる。


「お前、機械技師メカニックか。ロボットには乗らないのか?」

「え? ロボット?」

「ああ、まだそのレベルに達してないか」


 なんか、さり気に物凄いネタバレを食らったぞ。俺は楽しむためにゲームをプレイしているわけじゃないから問題ないが。ロボットか……少しワクワクしてきたな。

 そんな思いに浸る中、素早い敵の盗賊シーフが攻撃に出てくる。


「お手並み拝見! スキル【毒斬り】!」


 ナイフによるスキル攻撃。流石は最速の盗賊シーフ。ジャストガードを狙うのはとても無理だろう。俺は普通のガードによって攻撃を受ける。威力は低い、これで充分に対抗できた。

 敵は一撃与えると距離を取り、戦闘を長引かせていく。ああ、だいたい戦略が分かってきたぞ。


「上手く防いだか。だが、このまま毒でじわじわ弱らせてやる……」

「意外とお喋りなんですね……」


 俺は毒を受けていない。今までのスキルポイントを全て【状態異常耐性up】につぎ込み、ほぼ完全な耐性を手に入れている。

 これは相性が良かったな。威力の低さを考えると、敵はダメージソースの全てを毒に任せた構築にしていると分かる。俺の強化方法に完全刺さっていた。

 状態異常を受けていない事に気づいた彼は、急に焦って再び前線に出てくる。


「毒が効かない……? なら、これならどうだ。スキル【混乱斬り】!」


 やはり素早い。一気に距離を詰め、一気にスキルによって切り裂く。盗賊シーフの特性を生かした完璧な攻撃に、今度は防御すらも間に合わなかった。

 相手は俺よりレベルが上、技術も上、戦略も間違っていない。ただ一つ、彼には運がなった。

 混乱も効かないんだよ。申し訳ないが、貴方は完全に詰んでます。

 ようやく事の重大さに気づいた敵は、冷や汗を流しながら俺に疑問を投げた。


「……その装備、猫耳バンドだよな。お前、状態異常耐性を鍛えているのか?」

「はい」


 そう返した瞬間、物凄く嫌な顔をされる。気分悪くなるからやめてくれよ……

 彼は両手を上げると、気だるそうな態度を取った。


「参ったよ。降参だ」

「え……?」

「俺、状態異常で攻める構築してるんだよ。とんだ地雷を踏んじまったな」


 地雷とは何なのか。それを考える前に、相手はスキルを発動した。


「んじゃ、さいなら。スキル【とんずら】!」

「えー……」


 スキルを発動した瞬間、彼は物凄い足の速さで闘技場から姿を消す。これは逃走用のスキルか、ダンジョン攻略には便利だが、試合で使わないでくれよ……

 ヤイバ選手、試合放棄による反則負け。俺の頭上には、そう表示されていた。散々ネタバレして、散々暴れて、最後はとんずらですか。それはないでしょヤイバさん……


 フロントに戻った俺は、ヴィオラさんに聞く。


「地雷って……?」

「一般的じゃない構築が、苦手な部分に刺さる事よ。相手さん運が悪かったわね。それにしても、【とんずら】で逃げるなんて、マナー違反ね」


 まあ、これはゲーム。運もあるし、マナー違反もある。ヤイバさんもとい、ヤバイさん。少しは対戦相手の気持ちも考えてくださいね……


「もう一戦する?」

「そうですね……せめて真面に戦わせてほしいです」


 二戦終えたが、全然戦っていないぞ……この闘技場、本当に大丈夫なのか?

 俺はまさかの三戦目に挑むのだった。










 三戦目、蓮二レンジ vs イシュラ


 ここで俺は意外な人物と対面する。

 額にバンドを巻いたボーイッシュな少女。獣の耳と尻尾を付けており、別種族を意識したキャラクターメイキングだ。

 どこかで見たことがあるが、微妙に思い出せない。彼女は俺に対し、相当に敵意を燃やしている様子。


「よく来たわね! ここで会ったが百年目! あんたなんて、ボコボコにしてやるんだから!」

「えーと……誰でしたっけ?」

「イシュラよ! 巨獣討伐ギルド【エンタープライズ】、ヴィルパーティのイシュラ!」


 あー、そんな人もいたな。ヤバいなこの闘技場。変な奴しかいないぞ……

 どうやら、イシュラは俺たちギルドをライバル意識しているらしい。本当に、この人たちは面倒事しか運んでこないな。まあ、お金を貰っているから、文句も言えないが。


「ハクシャを倒したぐらいで良い気にならない事ね! 今度は、この私があいてよ!」

「ああ、お手柔らかに」


 この人、ヴィルさんに似てきたぞ……確か、ジョブは鍛冶師ブラックスミスだったか。

 ん? さり気にこの戦い、生産職同士の戦いだな。これは不味いぞ。鍛冶師ブラックスミスの情報なんて、まるで持っていない。それどころか、ほかのジョブと違って想像すら出来なかった。

 巨大なハンマーを構えるイシュラ、スパナを構える俺。さて、どうするか……

 迷っている間に、敵が先制してくる。


「さあ、逃げるなら今の内よ! スキル【武器解放】!」

「出来る事なら逃げたいよ」


 彼女がスキルを発動した瞬間、装備していた巨大ハンマーがさらに大きくなる。武器の攻撃力と範囲を大きくするスキル。生産職なのに、攻撃的だなおい!

 大振りで殴りかかってくるが、スピードは遅い。これなら充分に狙える。俺はスパナを叩きつけ、ジャストガードを試みた。


「ふん、まあ想定内よ」


 見事ジャストガードは成功。しかし、イシュラは分かっていたような素振りをする。まあ、ハクシャ戦を見ていたから、俺の戦略も知ってるよな。

 相手はこちらの情報を知っている。当然、対策も組み立てているだろう。これは先ほどの二戦のようにはいかないだろうな……

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