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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三日目 妖精の村レネット
23/208

22 一緒に行きたい

 戦闘が終わり、俺たちはその場から立ち上がる。Fクラスの依頼でこの難易度かよ。先が思いやられるな……

 ボスを倒したことにより、俺のレベルは8へと上がる。三日目でこのレベルか、遅いのか速いのか分からないが、焦る必要はない。その分技術を磨けば良いだけだしな。

 俺は鉄くずを投げてくれたアイにお礼を言う。


「ありがとうアイ。予備の鉄くずなんて持っていたのか」

「はい! 私はいつでも、レンジさんのために行動してますよ!」


 ここまでの道のりで、鉄くずが売っていたのは始まりの街エピナールのみ。あの時点で、既に予備の素材を購入していたのかよ。恐ろしいほどの先読みだ。

 リュイも彼女と同じように、色々計算して鉄鉱石を渡してくれたのだろう。


「リュイもありがとう。鉄くずと鉄鉱石で、ドリルアームが作れるって知っていたのか」

「いえ、感です。同じ鉄ですし、何か作れそうじゃないですか?」

「お……おう……」


 こっちは意外とアバウトだな……もし作れなかったら、どうしたのだろう。あ、俺が死ぬだけか、畜生。

 俺たちが勝利に浸っていると、突如草むらからヴィオラさんが飛び出す。そして両手でパチパチと拍手し、大声で騒ぎだした。


「拍手喝采雨霰ー! ブラボー! ブラボー! いやー、素晴らしい! 美しい! 貴方たち最高よ!」

「ヴィオラさん……」


 ボスとの熱い戦いに、ヴィオラさんのテンションがついに迷走する。そろそろ、止めないとウザったらしいな。俺は冷たい表情で、彼女に言葉を返す。


「マーリックさんの真似ですか……?」

「……う」


 その言葉にヴィオラさんは頬を染め、視線を逸らした。


「うう……」

「恥ずかしがるなら、最初からやらないでください!」


 テンションが上がるとおかしくなるのと、相手の挑発に乗るのを直せば、良い先輩なんだけどな……

 まあ、こういう欠点を含めて彼女の良いところだ。なんて、なぜか上から目線で先輩を評価している俺。自分で思うのも難だが、本当に性格悪いよな。








 俺たちはレネットに戻り、村長に討伐成功の報告をする。基本、依頼をしたNPCは、モンスターの討伐成功を何らかのエスパーによって察知してしまうらしい。これはゲームだ。そうした方が証拠やらなんやらで面倒な事にならなくてすむ。本当に都合が良い設定だった。


「ほほう! よく倒してくれたのう。これが報酬の7000Gじゃ」


 依頼を受けたリュイが報酬を受け取る。彼はお金を俺たちの前へとだし、それを丁寧に分けていく。


「報酬は山分けで良いですよね?」

「俺たちは無理やりついてきたからな……まあ、ギルドマスター判断で」


 ここは受け取りを断った方が良いな。出来るだけリュイのご機嫌を取って、このギルドに入ってもらわなければならない。仲間に引き入れてしまえば、報酬の問題など関係なくなるしな。

 勿論、ヴィオラさんも同意見だろう。彼女は正直に、自分の感情をぶちまける。


「報酬はいらないわ。貴方が欲しい」

「単刀直入ですね……」


 ギルドメンバーを増やすという欲望が完全に滲み出ていた。最近、ヴィオラさんがぶっ壊れてきたぞ……

 そんな俺たちの意を察したリュイは、照れ臭そうに視線を逸らす。ああ、これは絶対、自分から入れてほしいとは言わないな。本当に面倒な奴だった。






 【ディープガルド】時刻で2時。俺たちは、長老の家で遅い昼食を御呼ばれする。

 流石は妖精なだけあって、料理は自然食。木の実や葉っぱなどを調理したもので、胃には優しいかもしれない。まあ、データだから胃は関係ないが……

 ステラさんは長老に、どんな戦闘が繰り広げられたのか、詳しく説明していった。


「お爺さま、この人たちは本当に面白い戦いをしますよ。三人とも考え方がバラバラなのに、何故か連携が取れています」

「それは面白いのう。相当の信頼関係にあるようじゃ」


 信頼関係も何も、アイとは二日前に出会ったばかりだし、リュイに至っては今日出会ったばかりだ。それほど深い関係であるはずがなかった。

 褒める村長をリュイは真っ向から否定する。


「僕は今日出会ったばかりです。特に信頼なんてしていません」


 え……? リュイの方が一方的に、こっちを信用していたよな?

 先ほど出会ったにも拘らず、俺やアイとの連携を進んで行ったし、発明の素材を渡してくれたりもした。チームプレイを志そうとしているのが、よく分かるほどだ。

 まあ、それを志す理由は分かっている。恐らく彼は、一人で討伐任務を熟すことが出来なく、かなりテンパっていた。そこに俺たちが助けに入ったのだから、信用しない訳にもいかない。そんな所だろう。 


 俺が木の実スープを飲んでいると、長老からある提案が提示される。


「今日はここで泊まっていったらどうかのう」

「気持ちは嬉しいけど、今日中に王都まで行きたいの。昼食を取ったら、すぐに村を出るわ」

「それは残念じゃ……」


 しかし、ヴィオラさんがその提案を断る。

 ただでさえ、寄り道をしすぎて予定から遅れているんだ。これ以上、遊んでいくわけにもいかない。

 俺たちがすぐに出ていくことを聞くと、ステラさんは残念そうに言う。


「また、来てくださいね。いつでも待っていますから」

「はい! 絶対、絶対また来ます!」


 まあ、ギルド本部がある王都に近いので、すぐに顔を出せるだろう。今生の別れというわけでもない。やるべき事を終えた後、またギルドメンバー全員で訪れよう。

 そんな事を考えながら、俺は食事を終える。感謝のため、「ごちそうさま」と手を合わせるのだった。






 昼食を食べ終えた俺たちは、妖精二人に別れを告げる。急いで王都を目指さなくてはならない。もう半日が過ぎているんだ。

 討伐を終えたことにより、リュイと共に行動する意味もなくなる。だが、このまま彼を逃がす気はない。何とかして、ギルドに入れなくちゃな。


「討伐も終わったし、リュイとはここでお別れだ。色々とありがとう、楽しかったよ」

「こ……こっちはいい迷惑でしたけどね」


 リュイはまだ減らず口を言っている。本当は仲間になりたい事など、とっくにお見通しだ。

 このまま無理に誘えば、恐らく彼は折れる。しかし、そんな方法で仲間に引き入れていいのだろうか? もやもやした感情を抱いたままギルドに入っても、本人が辛いだけなのではないか? そんな余計な事を俺は考えてしまった。

 そんな迷いも知らず、アイは定石通り、ぐいぐいと押しの態勢を取る。


「リュイさん! 私たちのギルドに入りましょうよ。一人だと寂しいでしょう」

「べ……別に寂しくありません。大きなお世話です」


 あと一押しだな。次でリュイは、イエスと言うだろう。


「お願いです! 何としても五人メンバーが必要なんですよ!」

「まあ……どうしても、と言うのなら」

「はい、どう……」


 しかし、アイが「どうしても入ってほしい」と言う瞬間。俺は彼女の口を塞いでしまった。

 このまま放っておけば、リュイはめでたくギルドに入ったはずだ。にも拘らず、俺はこんな事を言ってしまう。


「いや、無理を言って悪かったな。迷惑なら別の人を探すよ。じゃあな」

「あ……」


 俺は、何を言っているんだ。何で、こんな面倒な事をしているのだろう。自分でもよく分からない。

 ヴィオラさんもアイも、俺を止めようとはしなかった。何故か黙って見ているだけだ。こんなの模範解答じゃないだろ。まったく意味のない行動だ。誰か、止めてくれよ……

 俺たちはリュイを無視し、森の方へと歩いていく。だが、その時だった。


「……待ってください!」


 震えた声で彼は叫ぶ。まるで縋るように、求めるように、声は森へと響いた。

 俺たちは後ろへと振り替える。するとそこには、右手を強く握りしめ、瞳をキラキラと輝かせたリュイが立っていた。


「ギルドに……ギルドに入れてください……!」


 目に涙を受けべ、彼は必死に言葉を絞り出していく。


「一人は……寂しいです……! 心細いです……! 僕……絶対役に立ちますから……! 頑張りますから……! だから……だから……」


 大きく息を吸い込み、リュイは叫んだ。


「一緒に行きたいです……!」


 ああ、そうか。俺はこの言葉が聞きたかったんだな。我ながら、なんて性格が悪いんだろう。

 ようやく満足したのか、俺は笑顔でリュイに答えを返す。 


「ああ、当然だ。一緒に行こう」

「うあ……うあ……」


 瞬間、彼の目に溜まっていた涙が、一気に溢れ出した。


「ごめんなさい……ずっと森の前で……! 怖くて立ち止まっていました……! 楽しそうに戦ってる二人が……! 羨ましくてずっと見ていました……!」

「分かった……分かったからもう泣くな。俺も意地悪して悪かったよ」


 俺とアイの予想は、当たっていたらしい。あんな風に突っぱねているが、やっぱり寂しがり屋なんだな。

 泣き続けるリュイを宥めつつ、俺たちはレネットの村を後にする。妖精たちに、こいつの弱い部分を見せたくなかったからだ。

 男は誰でも意地を張って、背伸びをしたい。俺だって、そう思っていた。




 村を出たとき、アイは俺だけにこんなことを言い出す。


「私、リュイさんを快くギルドに受け入れることが、最善だと思っていました」


 そう思ったからこそ、積極的にリュイを誘ったのだろう。お節介な彼女らしい。

 しかしその方法は、この少女にとって最善ではなかったようだ。


「でも、最善は別にありました。悔しいです。レンジさんに負けてしまいました」


 負けるって、別に競っていたわけでもないのに……

 これが、アイの本質なのだろうか。ほんの少し、彼女のことが分かった気がした。








 俺たちはオリーブの森を王都方向へと進む。

 すでにレネットの村までを攻略した俺たちに、怖いものなどなかった。マタンゴもワームも、もはや脅威ではない。リュイに至っては、スキルを使うまでもなく倒すほどだ。

 雑魚の相手をするのも面倒なので、途中からは逃げることによって戦闘を回避していく。森の出口も分かっているので、ダンジョン攻略は以外にも早く終わってしまった。



 森を出て、王都方面のセラドン平原へと出る。ここまで来たらあと少しだ。

 新たに現れたワーウルフが厄介だが、ボスを倒した俺たちを止める力はない。二足歩行する狼のモンスターで、その攻撃は単調。リュイのカウンターと俺のジャストガードによって軽くあしらっていった。


 唯々、草原を突き進む。【ディープガルド】時刻で7時になろうとした時、ようやく俺たちの視界に大きな街が映る。


「あれが……」

「王都ビリジアン……」


 王都ビリジアン、このゲーム最大の街であり、何を行うにしても中心となる場所。その大きさに、俺は唖然とするばかりだった。

 まるで、城を囲う巨大な要塞。外壁の向こうには、数えきれないほどの家々が連ねているのが分かる。それもそのはず、街は中央に行くほど高度が上がり、城はその頂上に立っているのだから。外壁があっても、外から見えてしまう。

 街の周りには、何機もの飛空艇が飛んでいる。これは、とても中世ヨーロッパの光景ではないな。ファンタジーとSFが混ざって、凄い世界観だ。

 俺たちは、街に向かって再び歩き出す。ヴィオラさんのギルドは目と鼻の先、ようやく長い旅は終わりを向かえそうだ。

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