203 セカンドギア
俺は召喚獣二体を無視し、そのままロボットをPCさんの元に走らせる。そして、右拳を振り上げ、それを彼女に叩きつけた。
しかし、PCさんは杖によって攻撃をジャストガードする。流石にプレイヤースキルも上位レベル。簡単に再生力を削らせてはくれない。
俺に攻められ、詠唱ができない彼女は、バハムートとテュポーンに攻撃指示をだす。二匹がかりで俺を止めるつもりだろう。
「バハムート【突進】、テュポーン【テイルウィップ】!」
バハムートは空中からこちらに突っ込み、テュポーンは巨大な尻尾を振り回す。全快していないリュイから注意が逸れたのは良いが、俺のライフも微妙。二匹を相手にするのは流石に不味い。
すぐにスパナを振り払い、テュポーンの尻尾をジャストガードする。続くバハムートの攻撃をどうするか、俺は必死に考えた。
しかし、その答えが出るより先に、アスールさんのスキルがバハムートをふっ飛ばす。
「くっそ……スキル【ボムショット】!」
『ギギィ……』
前回撃ち抜かれた恨みがあるのか、バハムートは俺を無視してアスールさんへと突っ込んでいく。そんな敵の動きを読み、リュイはすぐにその影を追った。
ナイスだ。PCさんからバハムートが離れ、彼女の足止めがしやすくなった。更に望むのなら、テュポーンの方もどうにかしてほしいものだ。
俺がそう思ったとき、召喚獣の後ろから一筋の刃が光る。
「隙だらけよ! スキル【ヘビーブロウ】!」
『ギャギャ……!』
ずっと姿を眩ませていたヴィオラさんが、テュポーンを頭部から叩き切った。重く、威力の高い【ヘビーブロウ】をヒットさせたのは大きい。
敵はヘイトを彼女に向け、俺を無視して火炎攻撃を行っていく。炎に炙られ、ダメージを受ける彼女だが、すぐに支援の魔法が放たれた。
「ヴィオラ……! スキル【水魔法】アクアリス!」
ルージュの放った水流が炎を消火し、テュポーンにダメージを与える。同時に、【覚醒】による強化を受けている彼女はすぐに敵との距離を詰めた。
そしてメイスを振り回し、テュポーンに更なる一撃を叩きつける。
「ギーンガ……! スキル【振り上げ】!」
「最高よルージュちゃん! スキル【エリアル】!」
鈍器による【振り上げ】を下部から受け、テュポーンは空中に打ち上げられる。そんな標的をヴィオラさんは対空スキルで斬り裂いた。
完璧なコンビネーションだ。これなら俺も安心してPCさんと向き合える。戦いが三箇所に別れたのは大きかった。
しかし、それぞれが離れてしまったので、ノランの陣が範囲外となってしまう。彼女は【ボレロ】や【ポルカ】をかけ直しているが、これでは意味がない。
そう思ったとき、少女は無邪気に笑い、高レベルのスキルを使っていく。
「スキル【メヌエット】! 少しだけ、陣の範囲を広げるよ! みんな早く早く!」
ノランの奴、こんな隠し玉を持っていたのか。陣が広がれば、よほど距離が離れない限りダンスの効果が及ぶ。しかし、これにも持続時間がるので時間との勝負になるだろう。
とにかく、早くPCさんを止めるしかないんだ。俺は後方に退避して【回復魔法】を狙う彼女を一気に追いつめていく。俺のロボットの機動力に魔法職が付いて行けると思うなよ。
「スキル【光子砲】!」
「くっ……【防御魔法】バリアー!」
遠距離に光属性のレーザーを放つスキルで、PCさんを狙い撃つ。しかし、彼女は前方に障壁を発生させる【防御魔法】によって攻撃を防いでしまった。
しかし、どうやらINT(魔法攻撃力)特化なのか、防御や回復魔法の性能はそこそこレベルらしい。確かに総合的な能力は高いが、全てが得意というわけではなかった。
俺はロボットを走らせ、PCさんとの距離を詰めていく。すると、この場面で仲間による支援が入った。
「スキル【返し縫い】!」
「ふみゅ……!」
仕立屋のアイが、糸によってPCさんの足を引っかけ転倒状態にする。よし、これでもう逃げることは出来ない。まさに望んでいた支援だった。
今まで後方支援をしていたアイが、今度は積極的に前へ出ていく。やがて、彼女は地面を蹴り、ロボットの操縦席に飛び乗った。
「レンジさん、彼女は私の獲物です。貴方一人で仕留めるなど認めませんよ」
「だったら協力しろ」
「言われずとも、私たちの力を持ってすれば勝利は確実です」
隣に身を寄せるアイ、彼女は小悪魔的に笑いながらロボットに揺られる。どうやら、俺のサポートに徹してくれるようだ。
やがて、地面に手を付けるPCさんに、ようやくロボットが追いつく。すぐに拳を振り落とすが、またしても彼女はジャストガードを行ってしまう。
攻撃が弾かれ、すきが生まれる。当然敵は詠唱を開始するが、それよりもアイのスキルが早かった。
「スキル【仕立直し】。厄介な装備の効果を削除させてもらいます」
「くっ……スキル【風魔法】ウィンディジョン!」
大針を一振りし、防具に付与されてるであろう効果を無効化する。恐らく、【INTup】や【MPup】が付けられていたと予想でき、削除できたのは大きい。
しかし、PCさんの詠唱が止まったわけではなかった。幸い、発動までには時間がかかる。それまでにこちらもスキルを発動できるはずだ。
アイと俺、それぞれが状況を打開するためのスキルを使用する。
「スキル【囮人形】」
「スキル【整備】!」
アイそっくりの人形が現れ、敵の放った【風魔法】の盾となった。しかし、風は人形を吹き飛ばし、こちらへとダメージを与えてくる。
俺は【整備】によって、ロボットの耐久ゲージを回復させていく。【囮人形】で威力が落ちたこともあり、この暴風でも耐えれそうだ。
風を振り払い、俺はスキルを使用する。ライフが相当削れているが、PCさんとの距離が近いこのチャンスを掴みたい。もう、攻めるしかなかった。
「私が……押されている……」
「前回は魔法の威力と範囲にビビりましたが、連続攻撃には付いていけないみたいですね! スキル【発明】アイテム、マジックハンド!」
鉄くずとレザーグローブにスパナを叩きつけ、マジックハンドを作り出す。それはロボットの右腕に装着され、目標へと一気に伸張していく。
やがて、手はPCさんの体を掴み、こちらへと引き寄せる。さあ、あとは一気に叩き込むだけだ!
敵の行動を読んだのか、アイはロボットの操縦席から飛び出す。そして、スキルによってバッグから巨大なぬいぐるみを出現させた。
「スキル【巨大人形】! さあ、PCさん! これが私達の力です!」
「行くぞ! どっらあああああァァァ……!」
ほぼ同時、俺がロボットによるラッシュを叩きつけていくと、アイはぬいぐるみに飛び乗る。そして、俺と共にPCさんに向かってラッシュを叩きつけていった。
女性をボコボコにするのは気が引けるが、彼女はダブルブレイン。再生力を削らなければ対等な条件にすらならない。とにかく、弱らせない事には始まらないのだ。
絶えず続く攻撃をPCさんは無防備で受け続ける。他のダブルブレインより再生力に自信があるのか、全く抵抗しようとはしない。
僅かに感じる違和感。やがて、彼女は一言だけこうつぶやいた。
「スキル【攻撃召喚魔法】テュポーン……」
「なっ……」
ずっと、彼女は攻撃を無視してきた。全ては安全に最強魔法の詠唱を終えるため、あえて彼女は一方的にやられていたのだ。
俺もアイも、敵を倒すために真剣だった。拳一つ一つに魂を入れていた。
むしろ、それが仇になっていたようだ。
「レンジさん! 攻撃は中断……他の皆さんも退避を!」
「もう遅いんですよ。誰にもこの攻撃を防ぐ手段はありません」
【攻撃召喚魔法】、召喚獣を呼び出し、最大の技で全体に大ダメージを与える召喚士専用のスキルだ。
長い詠唱時間に、大きすぎるMP消費。しかし、発動してしまえば驚異の威力で全体に大ダメージを与えることが出来る。
普通の【攻撃召喚魔法】ならいい。だけど、PCさんが使う魔法の威力は他とはまるで違う。
戦いの初めに放ったバハムートの【メテオブレイズ】は、充分なライフとルージュによる共闘があったからこそ防げた。消耗した今の状況で防ぎきれるはずがない。
やがて、リュイとアスールさんと交戦していたテュポーンが、星空へと飛び上がる。周囲からエネルギーを集めるそのさまは明らかにヤバい。やがて、召喚獣は蛇のような尻尾を振り上げ、それを勢いよく地面に叩きつけた。
「終わりです。【天地崩壊】!」
『ギャッギイイイイイ……!』
瞬間、足元も天空も、全ての星が強大な力によって歪んでいく。テュポーンの放った技は文字通り、天と地を崩すほどの衝撃を響かせるというものだった。
爆発か、あるいは空間の歪みか、どちらとも取れるような衝撃が周囲に走る。攻撃までの動作が長く、全員防御の態勢を取っているが……
「あれほどの攻撃を防ぐ手段は……」
「まさに絶望ってわけね……」
リュイとヴィオラさんの言うように、技の威力が高すぎて対抗手段がない。正真正銘、まさに万事休すという状況だった。
しかし、ノランとルージュ、それにアイは諦めていない。
ノランは元々諦めが悪く、スキルによる防御手段があるから当然だろう。残りの二人は、最強の魔法に対抗できるほどの最強のスキルを持っていたからだ。
「スキル【覚醒】……! ふぬけた今の私に、このスキルを使いこなせるか……」
「レンジ! 貴様も【覚醒】を持っているならさっさと動け……!」
バーサクによる暴走を気合いで抑えつつ、アイは【覚醒】のスキルを使用する。そして、ルージュと並び、テュポーンが放つ衝撃の盾となった。
ここはまあ、ルージュの言うように俺も出る場面だろう。だけど悪いな。例えお前たちの根性を見せつけられようとも、防げないものは防げないんだ。
無駄死にするぐらいなら、俺は最善の策を練る! 考えろ! 考えるんだ!
「スキル【パソドブレ】! レンジくん! ボケボケしてたらプンプンだよ!」
「黙ってろ……! 今レンジが考えてんだ!」
ノランが【パソドブレ】を踊り、敵の攻撃を自分の方へと向けさせる。これで、衝撃が一所に集中したが、あれを防ぐ力がなくては意味がない。
彼女に呼ばれているようだが、アスールさんがそれを止める。自分がなにも出来ない事が悔しいのか、彼は奥歯を噛みしめて俺を見つめていた。
分かってますよ。絶対に、絶対に思いついてやる。
俺は自分の持つアイテムやスキルを一通り振り返っていく。やがてその先に、一つの希望に辿り着いた。
「見つけた。最善の策!」
再びロボット走らせ、盾となっているアイたちと共に並ぶ。同時に、敵の衝撃が【覚醒】持ち三人に直撃した。
アイは【巨大人形】の両腕をつきだし、ルージュはメイスによる【薙ぎ払い】で攻撃の相殺を狙っている。でもそれだけじゃダメだ。やっぱりここは、更なる力が必要な場面だろう。
「結局最後は力技さ! スキル【制御不能】!」
「さらにパワーアップですか……!」
俺は先日覚えたばかりのスキル、【制御不能】によってロボットをバーサク状態にする。これにより攻撃力は大幅に上昇、さらに三人の【覚醒】にノランのダンスが加われば攻撃を防げるはずだ。
俺はアイと同じように、両腕を衝撃へと突き出す。相当に能力が上昇しているのか、ボロボロながらも相手の攻撃を相殺できそうな勢いだ。
しかし、ここで俺のロボットに異常が出てしまう。
「うわっ……くそっ……! 言うこと聞けよこのポンコツが!」
完全に暴走しているようだ。ガクガクと普段しないような動きをし、その場から滅茶苦茶に走り出そうとしている。
おいおい、勘弁してくれ……ここまで一緒に戦ってきたじゃないか。最後の最後に俺を裏切るつもりかよ。
「機嫌悪くしてるのか? まあ、いつも盾にさせたり、自爆させたり滅茶苦茶やってるからな……」
思えば、こいつとのも付き合いも長くなったな。強敵と戦うときはいつもこいつに無理をさせていた。
命のない唯の機械かもしれない。だけど俺は、こいつの事を相棒だと思っている。俺とこいつの力が合わされば、どんな強敵にも勝てるつもりでいた。
そういえば、イリアスさんは自分のロボットに名前を付けていたな。
こいつの名前か……
「頼むよ『ギア』。それがお前の名前。人と人とを繋ぐ歯車だ」
俺がそう言うとロボットの振動が止まる。
いや、それだけではない。まるで生きているかのように鋼鉄の機体は真っ直ぐと突き進み、敵の衝撃を押しのけていった。
同時に、アイとルージュの力も加わる。俺はみんなと力を合わせ、ロボットの両拳を攻撃に叩きつけた。
瞬間、テュポーンの【天地崩壊】は弾き飛び、その場から四散する。防ぎきれずに大ダメージを受けてしまったものの、見事敵の大技を防いだのだ。
「まさか……あの攻撃を……」
よほど自信があったのか、流石のPCさんもたじろいでいた。
敵が身を削って放った大魔法を防いだことは大きい。彼女の再生力も、限界が近づいていたのだから……