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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
六十四日目 モーヴェットの塔
202/208

201 虹の架け橋

 俺がこの世界に入って六十四日目。

 この日、魔王までの道を阻む扉が開かれた。


 ここまでの道のりは苦労の連続だ。挫けそうになったこともあったし、絶望した事だってあった。

 だけど俺は、大勢の人に支えられてこの場所に立っている。


 始まりは一通のメールからだ。

 そこから俺の冒険は始まり、色々な人に出会ってきた。

 ディバインさんは頑固で、ギンガさんは変人で、ハリアーさんは凶暴で、クロカゲさんは気紛れ。ヒスイさんはやっぱり胡散臭いし、ヴィルさんは嫌みったらしい。ミミさんに至っては何を考えているか分からなかった。


 だけど、そんなみんなが俺たちのために戦ってくれた。

 虹の架け橋がつながり、そして希望へと繋がっている。全てはこの時のために……


「俺は初めて【覚醒】を使ったとき。邪悪をぶっ倒すためにここに来たと思った。でも、今は違うよ。どんな相手でも、絶対に分かり合えると思ったんだ」

「そうですね、それでこそレンジさんです」


 扉を潜りつつ、俺はみんなにそう打ち明ける。アイはそんな俺を認めてくれた。


「今も同じだ。俺はPCさんと分かり合いたい。それが俺がこの世界に来た意味だ」

「相変わらず甘いな。だが、それを実行するためにはどんな手も使うつもりだろ? なら、俺もお前の理想論に付き合ってやるよ」


 悪人に憧れていたアスールさんも俺を認めてくれる。誰一人、俺を否定するつもりはないらしい。

 敵は強大だ。だけど、恐れなんてなかった。

 俺は自分を仲間を、そして敵であるPCさんを信じている。この【ディープガルド】で消えていった命が、俺たちを支えているんだ。


 やがて、俺たちは小さな部屋に足を踏み入れる。月と太陽の模様の描かれた小さな部屋。どうやら塔の最上階らしいが、それらしい物はなく完全に行き止まりだ。

 しかし、俺は本能的に感じ取った。来る……この部屋にPCさんがいる。

 同じことを感じたのだろうか。【気配察知】のスキルを鍛えたアスールさんが、銃を構えて叫ぶ。


「来るぞ……!」


 瞬間、部屋の床や壁は崩れ、別の空間へと書き換わっていく。俺たちの立っていた場所も消えてなくなり、代わりに透明の足場が作られた。

 周囲に見えるのは満天の星空。まるで宇宙空間に投げ出されたようだが、重力は存在する。不思議な空間だが、最後に相応しい戦いの舞台だった。

 ノランは花の髪飾りを付け直し、服装を整える。そして、その場で踊るようにステップを踏んだ。


「私の気持ちは変わらないよ! 最後に勝っちゃうのは……ぱんぱかぱーん! 一番楽しんじゃう人でーっす!」


 そんな彼女の横で、アスールさんは構えた銃を起用に回す。そして、青い瞳を光らせ、周囲に警戒を払った。


「悪いな姉貴……お前の夢、ここでぶっ壊させてもらうぜ。それが俺のけじめだ」


 チームを気遣う彼とは違い、ルージュは自分の事で精一杯だ。

 彼女は胸を抑え、荒い息使いで必死に心を落ち着かせる。やがて、口を三角に尖らせて大きなメイスを天に掲げた。


「し……師匠! ボクはもう絶対に逃げない……! 全ては星々の輝くままに、ギーンガ!」


 ルージュは気合充分だ。そんな彼女をリュイはませた態度で見る。

 大きくため息をつき、不敵な笑みを零す。そして、美しく光る日本刀を舞うように構えた。


「無関係の僕ですが、何だかんだでこんな所まで来てしまいましたね。やれやれです……」


 こんな事を言っているが、リュイもルージュに負けず劣らず気合が入っている。最後の戦いなんだ。それも当然だろう。

 各自各々が戦いに思いを馳せる中。ヴィオラさんは一人、複雑な表情をしながら自らの剣を見つめる。

 彼女がそれを掲げると、周囲に冷たい風が吹く。まるで武器が意思を持っているかのようだ。


「一緒に戦う気なの……? いいわ、お姉さんが纏めて面倒見てあげる」


 剣に語りかけるヴィオラさん。よほど、あの武器は特別なものなのだろう。いつ手に入れたのか、詳細は全く分からない。

 五人の仲間が強大な敵との戦いに力を貸してくれる。そして、もう一人。俺にとっての全てと言える存在が、俺のために戦おうとしていた。

 騙され、蔑まれ、必死に戦ってようやく掴み取った友情。もう絶対に離さない。初めて本気で愛した彼女。

 

「レンジさん、私は貴方に全てを壊されてしまいました。今の私は貴方が全てです」


 アイ……あのゲス女が、今は協力してくれている。これは負ける気がしないな。

 迫るその時に思わず笑みがこぼれてしまう。さあ、PCさんをどう出し抜いてやろうか。俺の戦略でどうかき混ぜてやろうか。

 驚愕させてやる。見せつけてやる。スパナを握り、俺はみんなに向かって叫んだ。


「行くぞみんな! ここからが俺たちのチート無双だ!」


 瞬間、眩い光に照らされ、星の海に一人の女性が降り立つ。

 魔王というにはあまりにもあどけなく、無理をしているようにも感じる彼女。黒いドレスに身を包み、右手には七色の宝石があしらわれた杖を持っていた。

 PCさんは眉毛を吊り上げ、俺たちを威嚇する。七つの試練を突破され、彼女の力は大幅に弱体化していた。あの召喚獣たちは、魔王の魔力そのものだったのだ。

 みんなの勝利があるからこそ、俺たちは互角に戦える。PCさん、貴方もそんな人間の強さを分かっているんでしょう?


「現実……虚構……両方の境なんて曖昧なもの。進化した技術は、作り出した別の世界は、まさに魔法と言える存在ではありませんか」


 しかし、彼女は考えを改めない。両手を広げ、その体に凄まじいほどの魔力を集める。


「ならば、仮想の世界が現実に代わって、なんの問題があるというのですか。私は全ての人類が幸せに、平等に暮らせる世界を作る。そして私は、神に代わる存在となる!」


 やがて、召喚術士サモナーは杖を振り落とし、最強の召喚魔法を詠唱していく。

 前回は派手にやられたけど、今回はそうはいかない。俺たちはPCさんと戦う為に、ここまでレべリングを行ってきた。当然、召喚術士サモナーとの戦い方も熟知している。

 敵の詠唱は長い。使ってくるのは高威力の【攻撃召喚魔法】で間違いないだろう。恐らく召喚するのは前回も使ったバハムート。これは確信だ。


「スキル【攻撃召喚魔法】バハムート!」

「来るわよみんな!」


 予想通り、PCさんの前に魔法陣が出現し、そこから真っ白い翼を持ったドラゴンが姿を現す。ソルフェリノの大穴でも襲われた星の守護者バハムートだった。

 【攻撃召喚魔法】によって召喚されたモンスターは、一度高威力の技を放つとその場から消えてしまう。つまり、消費の大きい高威力魔法だと見ていい。他の魔法と同じ要領で防げるはずだ。

 すぐに、ノランがパーティーのサポートへと動く。それと同時に、PCさんがバハムートに技を命じた。


「【メテオブレイズ】」

『グギャアアアアア……!』


 竜の口に星のエネルギーが集まる。だが、放たれるまでの溜めは大きい。前回は予想外の事態で戸惑ってしまったが、敵を理解している今回は違う。

 召喚術士サモナーはINT(魔法攻撃力)が高く、その攻撃範囲は桁外れだ。しかし、詠唱が長く、AGI(素早さ)が低いという大きなデメリットがあった。

 だからこそ、男ノランは攻撃を放たれるより先に万全の状態を作り出す。


「前のようにはいかないぜ。スキル【ボレロ】!」

「【ポルカ】ではない……?」


 普通は魔法防御力を上げる【ポルカ】を踊るのが得策。しかし、彼はあえて攻撃力を上げる【ボレロ】を踊っていった。

 これも、事前の打ち合わせ通りだ。ノランのサポート受け、俺とルージュはバハムートの元へと走り出す。俺はスパナを握りしめ、ルージュはメイスを握る。そして、光り輝く【メテオブレイズ】の前に立ち塞がった。


「行くぞルージュ!」

「うむ……! ボクたちの力を見せてやる……!」


 ステラさん……NPCのみんな……

 このスキル、使わせてもらいます!


「スキル【覚醒】!」

「スキル【覚醒】……!」


 【覚醒】持ち同士で共闘したのはルージュが初めてかも知れない。彼女の瞳には三角帽子の紋章か浮かび出ている。当然、俺の瞳には歯車の紋章が浮かび出ているだろう。

 例え最強のバハムートが最強の技を放ったとしても、二倍のチートなら対抗できる。ノランの踊る【ボレロ】によって、その威力はさらに上がっていた。

 俺とルージュはそれぞれの武器を思いっきり振り落す。狙うはバハムートの放った【メテオブレイズ】との相殺だ。


「スキル【解体テイキング】!」

「スキル【兜割り】……!」


 渾身のスキルが敵の攻撃に叩きつけられる。凄まじい力が俺とルージュを襲うが、それでも攻撃は止まっていた。

 行ける。そう思った俺はルージュと共に武器を振り抜く。すると、攻撃は見事相殺し、バハムートの【メテオブレイズ】は小爆発と共に消滅した。

 完全に相殺しきれなかったのか、俺とルージュはその場から吹っ飛ばされる。しかし、そんな俺たちにすぐにノランのサポートが入った。


「よくやったレンジ、ルージュ! スキル【回復魔法】ヒールリスオール!」

「くっ……スキル【従属召喚魔法】バハムート!」


 が、PCさんも止まらない。今度は【従属召喚魔法】によって共に戦うバハムートを召喚する。

 これは以前戦ったカエンさんと同じだ。自分のサポートとして隣に召喚獣を付けるスキル。敵が二人になったが、先ほどの攻撃のように理不尽な威力はないだろう。

 警戒すべきは二人のコンビネーション。PCさんはバハムートを前に出し、自身は一歩後ろに下がる。


「バハムート、【星魔法】プチメテオです」

『ギャウッ!』


 バハムートの口から、【星魔法】の弾丸が放たれていく。俺とルージュは走り、その攻撃を必死に回避していった。

 怒涛の連続魔法によって、前衛の俺たちは何も出来ない。だが、この状況は逆にチャンスだった。後衛職のアイとアスールさんが支援へと動き出したのだ。


「スキル【使役人形】!」

「スキル【スナイプショット】!」


 アイの操る四体の人形が、敵の【プチメテオ】を一つずつ弾き飛ばしていく。その取りこぼしを、アスールさんの弾丸が正確に撃ちぬいていった。

 攻撃を防ぐだけではない。使役人形の一体はバハムートに攻撃を開始し、アスールさんはそのサポートとして敵を銃撃している。後方支援同士で連携が取れていた。

 そんな時、俺の耳に二人の会話が入る。どうやら、プレイヤーキラービューシアについての話しのようだ。


「アイ、俺はお前に憧れてプレイヤーキラーの道を進んだ。そんな俺を、お前は嘲笑っていたのか……?」

「どうでしょうか。ただ、悪い気はしませんでしたよ」


 アスールさんの真面目な質問をアイは鼻で笑う。はぐらかしているようにも感じるが、どうやら満更でもなかった様子だ。

 バハムートの動きは二人の連撃によって封じられる。しかし、PCさん本体は止めることが出来ない。彼女は詠唱を開始し、以前見た凄まじい威力の属性魔法を放っていった。


「スキル【雷魔法】サンダリジョンオール」

「今度はご希望の……スキル【ポルカ】!」


 巨大な雷が俺たちの頭上で光る。すぐにノランが【ポルカ】を踊り、俺たちの魔法防御力を上昇させた。

 攻撃範囲が凄まじいため、俺たちは真面に凄まじい電撃を浴びてしまう。体が痺れ、尋常ではないほどの痛みだ。でも、以前見た時よりも魔法の威力が下がっているように感じる。

 やはり、七つの試練に召喚獣を分けたことで、PCさんの力は衰えているようだ。すぐに電撃を振り払い。俺たちは再び攻撃態勢へと戻っていく。

 受けたダメージを返すのは、サムライの役目だった。


「半端な威力はしっぺ返しを喰らいますよ! スキル【袖摺返そですりがえし】!」

「速攻勝負だったら、私も得意よ。スキル【アサルトブロウ】」


 同時にヴィオラさんの剣がPCさんを捉える。二つの刃は同時に彼女を切り裂き、その体を深くえぐった。

 PCさんの傷口から見えているのは、0と1の空間。もし彼女がNPCならば、俺たちと同じようにダメージを受けるはずだろう。

 だが、この人にライフというものは存在せず、その傷口は瞬時に塞がってしまった。導き出される答えは一つ、彼女はダブルブレインだという事だ。


「くっ……貴方たち人間はどこまでも希望を捨てないのですね……」


 バハムートの足を掴み、空中へと飛び上がるPCさん。その隙に、俺たちは回復アイテムによって先ほど受けた傷を癒していった。

 PCさんは人間という存在を客観的に見ている。しかし、俺は知っていた。彼女は化け物ではなく、一つの心を持った人間だという事を……


「傷口が再生した貴方はダブルブレイン。現実世界での記憶を持っているはずです」


 俺はPCさんの事を徹底的に調べた。人間に、理不尽に、世界に絶望した彼女。ずっと、ブレインさんの下に付いて世界の逆転計画を練っていた。

 だけど、そんな事は計画の一部でしかない。PCさんは俺たちより遥かに長い時を生き、遥か昔からずっと待っていたのだ。それこそ、VRMMOが完成したその時からずっと……

 気が狂うよう程の長い時間。彼女は世界を憎み続けただろう。


 父を……


 自分を……


 殺した全てを。


「そうですよね? PCさん……いえ、Paula(ポーラ) Campbell(キャンベル)さん!」


 現実はゲーム内の話しより劇的だ。俺は改めてそう感じる。


 彼女の名前はポーラ・キャンベル。

 VRMMOの創始者、リチャード・キャンベルさんの一人娘だ。

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