19 究極銀河魔道師、我名は銀河ァ! 貴様らの力など、我圧倒的銀河力の前には大宇宙の塵も同然!
オリーブの森最深部。妖精の村レネットまであと少しだ。
魔導師のルージュをメンバーに加えた俺たちは、最後の道のりを一気に進めていく。
前衛のリュイ、後衛のルージュという理想の布陣が完成し、戦闘はさらに有利な物となる。
「スキル【炎魔法】ファイア!」
「おー」
ルージュの放った炎がマタンゴを燃やす。
「スキル【氷魔法】アイス!」
「ほえー」
ルージュの放った冷気がワームを氷結させる。
「スキル【風魔法】ウィンド!」
「ふむ……」
ルージュの放った風がダークフェアリーを切り裂く。
やはり、魔法は良いな。俺とアイ、リュイは感動的な表情で彼女の魔法を見る。どうやら、魔法スキルは【炎魔法】などの種類で括られ、そこからファイア、全体攻撃のファイア、ファイアの上位魔法など、いくつもの選択肢に分かれているようだ。つまり、魔法スキル一つで、何個も技が使用できる事になる。何という多彩さ、羨ましい。
だが、何故かヴィオラさんは複雑な表情をしている。ルージュの魔法は、一般的な魔導師の物とは、若干の違いがあるようだ。
「なーんか、魔法特化のジョブの割には威力が低いわね……レベルは充分なはずなのに、何でなのかしら」
確かに、リュイの通常攻撃とそこまで威力が変わらないのは、確かにおかしい。この程度の威力なら、MPを消費してまで使うメリットはなかった。一体なぜなのか。
「き……企業秘密……!」
そう、ルージュ本人が言ってるので、これ以上言及することもない。
普通に考えるのなら、魔法の威力を上げる工夫を一切行っていないことが考えられる。しかしその場合、なおさら意味が分からない。魔法特化のこのジョブで、魔法を極めないなど考えられないからだ。
結局、ルージュの謎は解けないまま、俺たちはレネットに到着する。
森に囲まれた小さな村。切り株や大きな花が点在し、村なのに森の面影が残っている。
キノコの形をした妖精の家が並んでいるが、その大きさは人が入れるぐらいだ。普通に考えれば、人間より小さい妖精の家なのだから、家の大きさも小さくなるはず。しかし、これはゲーム。突っ込んではいけない部分だろう。そういう家に住む種族という事で、納得する以外になかった。
「はわー、妖精さんがいっぱい……」
「よ……妖精……!」
アイとルージュの視線の先には、可愛らしい妖精たち。背中に付いた昆虫のような羽に、花や草で作られた髪飾り。その等身は人の頭ほどで、空を自由に飛び回っている。
もう、本当に映画とかアニメのそれだな。今目の前に、そんな空想上の産物が存在している。科学の進歩というものは本当に恐ろしかった。
リュイと俺は、喜ぶ女二人を呆れた様子で見守る。
「女性二人が舞い上がっていますね」
「俺たち男三人には関係のない話しだな」
「殴るわよ?」
ヴィオラさんに対し、ナチュラルに失礼な事を言ってしまった。俺もアイに似てきたのだろうか。
とりあえず、リュイが受けている討伐依頼は後回しにし、ルージュの師匠を探す事になる。彼女が先ほどから「師匠……! 師匠……!」と煩いので、仕方なかった。
現状、彼を見つける手がかりはただ一つ。ルージュの持っている情報だけだ。
「し……師匠は多分、村の一番高い所に居る……!」
「バカと煙は何とやらね」
ヴィオラさんの陰口はさて置き、高い場所というのなら、考えらえる場所は一つだ。
村の中央に立つ巨大な大樹。中が空洞になっており、塔として上ることが出来る。ここ以外にないだろう。
リュイが言うには、この樹は妖精たちにとって神聖な場所らしい。内部では特にイベントはなく、村全体を見渡す展望台になっている。本当に、こんな所に居るのだろうか。
樹の塔の天辺。葉っぱの足場によって作られた展望台。ルージュの予想通り、そこにはあの男が仁王立ちをしていた。
長髪銀髪、瞳に輝く星々。それに加え、ゴテゴテした星や宇宙をイメージした服装。
あー、やっぱりこの人か。意味もないのに俺に宇宙の素晴らしさを説いた謎人物。正直、二度と会いたくなかった。
「あの人、総合ランキング四位のギンガさんですよね……」
「まあ、察しは付いていたけど……二日連続で上位陣と対面はきついわね」
物知りのリュイとヴィオラさんがそう会話する。まあ、俺も察しはついていたが。
俺たちは展望台を進み、ギンガさんの元へと歩く。彼はまるでボスキャラのように、最も眺めの良い場所で空を見上げていた。一体何をしているのか、凡人の俺には全く分からない。
そんな変人に、後ろから話しかけるルージュ。彼女は完全に、自分がギンガさんの弟子だと思い込んでいる様子。
「し……師匠……! 探しましたよ……!」
「む、ルージュ! 貴様、こんな所まで!」
「師匠……!」
「黙れィ! 私は弟子など取った覚えはないわ!」
だが、やはりルージュはただのストーカーだった。同じ魔導師として、上位に位置するギンガさんは尊敬の対象なのだろう。
しかし、着いていく人を誤ったとしか言い様がなかった。彼の性格は、全く信用に値しない。加えて、その人望も最底辺と言っていいだろう。
「ふん、ルージュ。いよいよ、貴様は私を怒らせたようだ。ここで大宇宙の塵と消えろ! 銀河究極奥義、その眼にしかと焼きつけることだ!」
「ちょっと貴方! 仮にも総合ランキング四位でしょ! 大人げないわよ!」
確かに、ルージュはまだ初心者だ。尊敬する人をここまで追いかける根性は凄いが、実力はまだまだと言える。
そんな彼女を、総合ランキング四位のプレイヤーが仕置きをするなど流石に酷い。一方的な虐殺になるのが目に見えていた。
だが、そんな事などギンガさんは全くお構いなしだ。
「黙れィ! 私は常識すらも超越するのだ! 邪魔をするのならば、この場の全員ブラックホール送りにしてくれる!」
「おいおい……」
やっぱり、この人滅茶苦茶だな……
自分のことしか考えていない最低の人だが、ここまで自己中心的だと、むしろ気持ちがいい。ランキング上位が、全員ディバインさんのような人格者とは思わない方が良さそうだ。
「究極銀河魔道師、我名は銀河ァ! 貴様らの力など、我圧倒的銀河力の前には大宇宙の塵も同然!」
ギンガさんは懐から、星の軌道をかたどったような杖を取り出す。明らかに後半入手するような上位の装備。彼はそれを見せびらかすように、天に掲げ魔法を発動する。
「スキル【星魔法】! 超波動銀河流星群!」
「なに勝手に名付けてるの! ただのメテオストームじゃない!」
ギンガさんの杖から放たれた光は空へと登る。やがて、それらは星々の雨となり、俺たちの頭上から降り注いだ。
この人、神聖なる大樹の上で、なんてものをぶっ放しているんだ! その降り注ぐ星の攻撃は、威力も範囲も半端なく、俺たちの周りの物を次々と蹴散らしていく。この大樹全体が揺れているのが、すぐに分かるほどの威力だ。
だが、攻撃は全て、俺たちに当たるすれすれの場所に落ちる。誰一人としてダメージを受けていない。完全になめられてるな……
「師匠……! 全然当たってないです……!」
そう、ドヤ顔で言うルージュ。アホの子なのか? 手を抜かれているのが、分からないのだろうか。
俺とリュイは、そんな彼女にわざわざ説明をする。
「当たっていないんじゃない。当てないようにしているんだよ。この威力なら、一発で即PKだからな」
「これだけの連撃を、むしろ当てないように調節する技術……流石ですね」
そうだ、最初から結果など分かっている。総合ランキング四位の実力者。俺たち五人が束になっても勝ち目はない。行うべき行動は、彼の説得以外になかった。
星々の雨が晴れ、こちらに行動のチャンスが訪れる。
ギンガさんは、俺たちにダメージを与えることが出来ない。ならば、次に彼が狙うのは、敵の束縛。広範囲を一気に縛る魔法を使用する確率が高いだろう。
今行える最善の作、それは相手から距離を取ること。俺は全速力で、一気にその場から離れた。
「スキル【重力魔法】! 超地球的万有引力魔法円!」
「だから! ただのオールグラビティじゃない! スキル【バックステップ】!」
ビンゴ、読み通りだ。ギンガさんが放った魔法は、自分の周りに強力な重力を発生させる魔法。敵を地面に縛る拘束魔法だった。
ヴィオラさんは、後方へと飛び退くスキルで回避する。しかし、俺にあんな動きが出来るはずがない。先読みが項をそうした。
「わわ……」
「くっ、広範囲魔法ですか……」
アイとリュイ、ルージュは重力の影響を受け、地面に伏せてしまう。俺は一人、後方からヴィオラさんを援護する体制に移る。もっとも、本気で戦う気など毛頭ないのだが。
彼女は剣を抜き、ギンガさんの元へと走りこむ。相当に速いことから、AGL(素早さ)上昇スキルを鍛えていることが分かる。
軽快な動きで敵の後ろに回り込み、剣を振り上げるヴィオラさん。これは【軽業】のスキルか、性格に似合わず猪口才な強化をしているな。
「スキル【エリアル】!」
「スキル【防御魔法】、バリアー!」
空中へと振り上げるヴィオラさんの攻撃が、ギンガさんの魔法壁に防がれる。恐らく、この障壁魔法は本来、僧侶が得意とする魔法だろう。上位陣のギンガさんには、専門外の魔法を鍛える余裕もあるという事だ。
ヴィオラさんは【バックステップ】で飛びのいた後、再び剣を構え直線攻撃に出る。非常に早い連撃、やはり彼女は相当に強い。
「スキル【スタンブロウ】!」
「スキル【移動魔法】、テレポート!」
だが、今度はその場から移動する魔法によって回避される。ギンガさんは、俺たちから数メートル離れた場所に移動し、そこで此方を睨み付ける。攻撃に移る気配はなさそうだ。
「攻撃魔法以外も使えるのね……流石は総合ランキング四位……」
「一筋縄ではいきませんね」
独り言をするヴィオラさんに、自然に混ざる俺。驚いた彼女は、すぐにこちらに振り向く。
「なっ……! 何で貴方まで避けてるのレンジ!」
「あんなの避けれませんよ。事前に退避しただけです」
ヴィオラさんも強いが、やはりギンガさんの強さが異常すぎる。こちらをゲームオーバーにする気はない様子だし、くだらない戦いは続けない方が無難か。
俺は両手を上げ、降伏のポーズをする。プライドなど犬も食わん。売られた喧嘩をいちいち買っていたら、破産するだけだ。俺は現代っ子、お金は貯める主義なんだよ。
それを見たヴィオラさんは、俺に続いて手を上げる。彼と直接戦った事により、その実力差を肌に感じたのだろう。賢明な判断だった。
俺たちの様子を見たギンガさんは、素直に杖を収める。そして、ヴィオラさんに向けて人差し指を突き付けた。
「先ほどの動き、見事だ。さぞかし名の知れたプレイヤーなのだろう。名乗ってみろ!」
「剣士ヴィオラ!」
「知らんわ!」
「えー……」
聞いておいてその態度か、相変わらず滅茶苦茶言ってるな……
彼は偉そうに腕を組み、ヴィオラさんに向かって門質する。
「ふん、私は個人ランキング200位まで暗記しているのだがな。貴様、何故名を残さん!」
「私は個人ランキングなんかに興味ないの。私が目指すのはただ一つ、ギルドランキング上位よ!」
「分からんな。何故そこまでギルドランキングに拘る。貴様ほどの実力があれば、ソロでも充分のはずだ」
「そうね……しいて言うなら、自由に飽きたってところかしらね」
まあ、ソロプレイヤーのギンガさんには、ギルドの成長を目指している彼女の気持ちは分からないだろう。
だが、その気合いだけは感覚的に感じたらしい。彼は俺たちに背を向け、指をパチッと鳴らす。
「ふん、訳ありというわけか。良いだろう! 貴様たちを認め、解放しよう!」
「よ……よし……! 師匠を確保……!」
「ただし、ルージュ! 貴様は許さん!」
「あ……あんまりです師匠……!」
オールグラビティを解除し、アイとリュイを解放。瞬時に通常のグラビティを使用して、ルージュのみ束縛。地味に物凄いことやってるな。詠唱速度が半端ないぞ。
やはり総合ランキング四位は別格、認められて助かったな。
「そして! ルージュが地に伏せている間に、私は逃げる! さらばだ少年少女たちよ! 全ては星々の瞬くままに! 全ては大宇宙の意思のままに! 銀河ァ!」
「し……師匠ー!」
決め台詞を残し、ギンガさんは颯爽とその場から姿を消す。それに続き、拘束の解けたルージュが塔の階段をかけ降りていった。
本当に、こいつらは何なんだよ……好き放題暴れて、こちらを滅茶苦茶に巻き込んで、挙句の果てに偉そうな態度。何も偉くないし、何も凄くはない。ただひたすらに変人かつ、迷惑な奴らだという事が分かった。
俺たちはこの出来事を忘れることに決める。何もなかった。何も感じなかった。そういう事にしておこう。
気を取り直して、リュイの受けた討伐依頼に望むのだった。




