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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
一日目 始まりの街エピナール
2/208

01 ディープガルド

 高校一年生の夏、俺、稲葉蓮二いなばれんじは今話題を呼んでいる人気VRMMORPGを知人から貰い受ける。

 趣味無し、何をやっても基本ダメ、クラスでは空気。そんな俺が、初めて自分の意思で大冒険に出る決意をしたのだ。本当に自分自信を褒め称えてやりたい。

 ゲームなど興味はなく、本気でプレイする気もさらさらなかった。だが訳あって、今の俺は真面な精神状態ではない。ここに来るまでには多くの事件、事情があるのだが、それはまた別の話しとしよう。



 剣と魔法の世界【ディープガルド】。

 今では常識になっているデータ世界へのフルダイブシステム。その機能をいかんなく発揮した最新のVRMMORPGだ。

 リアリティを求めた他のRPGとは違い、デフォルメ化された可愛らしい世界観が女性に人気らしい。また、戦闘だけではなく、物を作ったり売ったり出来るのも女性ユーザーを増やす要因になっていた。

 一ヶ月前にβテストを終え、今は安定期に入った頃合い。第一陣プレイヤーは既に根を下ろしている状況で、レベルもそれなりに上がっているはずだ。

 俺は第二陣のプレイヤーとして、この世界に足を踏み入れる。先輩プレイヤーに追い付き、何としてでも目的を果たさなくてはならない

 しかし、開始から数分。俺はものの見事に嵌まっていた。


「えーと、ジョブって何ですか?」

「この世界における職業です。大きく分けて戦闘職、魔法職、生産職があり、選んだジョブによって、ビジュアル、能力、スキルなどに違いがあります」


 青い背景に囲まれた電脳空間。ヘルプ機能によって現れたNPCノンプレイヤーキャラクターの女性に、俺は質問を繰り返す。


「す……スキルって何ですか?」

「キャラクターの能力特性です。ステータスや固有の動作に影響し、このゲームの場合、使用する技や魔法もスキルとして扱い、同じように熟練度を上げることが出来ます」

「なるほど、分からん」


 名前を決め、性別や年齢などのビジュアルが反映され、調子よく進んでいると思ったらこれだった。

 何なんだ、この知っていること前提のハード設計は……もう少し、新規ユーザーに優しく出来ないものか。

 何を聞いても訳の分からない言語ばかり。やはり、コンピューターのヘルプシステムじゃ、全くお話にならなかった。


「俺は何を選べば良いんだ? 何が正解なんだ?」

「それを自由に選択するのが、このゲームの醍醐味です」


 そう、このオンラインゲーム【デープガルド】の売りは、他では真似出来ない自由性。何をするにも、プレイヤーに選択肢を突きつける。

 モンスターを狩る討伐、ダンジョンを攻略する探索。アイテムを作って売る。プレイヤーを襲う。そのプレイヤーキラーから人々を守る。本当に何をするにも自由だ。新規ユーザーには敷居が高すぎる。


「では、ジョブの種類を説明いたします。剣士ソードマン、あらゆる武器を扱うことが出来、魔法も使えるオールラウンダー。魔道師ウィザード、長距離からの詠唱によるハイリスク、ハイリターンのジョブ。僧侶プリースト、回復手段に長け、特に魔法によるサポートが……」

「はい、キャンセル! 長ったらしいの嫌!」


 ヘルプ機能をキャンセルし、ジョブの説明をすっ飛ばす。

 何十もあるジョブの説明を、いちいち聞いていたらきりがない。どうせ聞いたところで、余計に頭が混乱するのは目に見えていた。こういう物は理屈ではなく、感覚で決めた方が良いのだ。いや、良いはずだ。


「さーて、どうすっかなー……」


 オンラインゲームどころか、普通のゲームですら最近はやっていない。その俺にこのジョブ選択というものは苦行以外の何物でもない。

 剣士ソードマン魔道師ウィザード僧侶プリースト格闘家モンク……ざっと二十以上はある。

 おそらく、剣士ソードマンは剣を使うバランスタイプだろう。しかし、だから何なんだ。それの何が良くて、何が悪いのかが分からない。決めれるはずがなかった。


「適当に決めて、気に入らなきゃリセットすればいいか」


 いや、待て、仮にオンラインゲームの世界に閉じ込められたとしよう。適当に決めたジョブで、いつ出れるかも分からない世界をさ迷うというのは……


「って、俺は何アホなこと考えてるんだ!」


 そんなことあり得るはずがない。物語でのお約束だが、現実にあったら恐ろしすぎだ。

 しかし、考えれば考えるほどに、恐怖心が芽生え始める。このまま、ここから出れなくなったら、どうするのかと……


「ヤバイな。だんだん怖くなってきぞ……完全にどつぼじゃないか」


 こうなったら、無理やりにでも決めた方がいい。大丈夫だ。この手のゲームは、どれを選んでも平等に出来ているはずだ。有利不利が出ないように、気合いを入れてバランス調整しているだろう。運営の皆さん、ご苦労様です。


「さて、そうなれば、候補はこいつだな……」


 記された文字は【ランダムセレクト】。もう思い切って、全てを運に委ねてしまうという考えだ。

 俺は特に、ビジュアルや能力に拘りなどない。このゲームをプレイするのは、あくまでも調査の一環。目的を達成すれば、すぐにでもやめても構わないのだ。

 俺は躊躇することなく、ランダムセレクトを選ぶ。結果、決まったジョブは……


機械技師メカニック


「うわ、コメントに困る……」


 何か、物凄く地味なものを引いてしまった。まさかこっちの世界にまで、現実世界の地味さを持ってこられるとは思ってもみなかった。

 決定と同時に、身を包んでいた服がそのジョブの物へと変わる。チャコールを基調とした布の服。額にゴーグルを着用し、髪は茶色。典型的な機械職と言ったビジュアルだ。腰には巨大なスパナが取り付けられており、恐らくこれで開発を行うのだろう。

 俺はヘルプ機能のNPCにジョブの特性を聞く。


「このジョブの特徴は何でしょう?」

「機械系の制作が得意な生産職です。戦闘では固有スキル【発明クリエイト】によってアイテムを作り出し、攻撃や防御に転じます。デメリットは、剣の適正が低く、魔法を使えない所です」


 剣と魔法のVRMMOで、剣も魔法も使えないとは、かなりぶっ飛んだジョブだという事は分かった。

 初心者がこんな個性の塊のようなジョブを選んで良かったのだろうか? 否、やっていれば馴れる。そう思う事にした。


「では、続いて、選択スキルを三つ選んでください」

「もういいよ自棄だ! こうなったら、とことんランダムで貫き通してやるよ!」


 またもや躊躇することなく、俺はランダムセレクトを選ぶ。その結果は……


【防御力up】

【状態異常耐性up】

【生産成功率up】


「地味に地味を重ねてきたか……凄いな」


 どうしてこうも能力アップスキルばかり選ばれるのか。

 この手のスキルは優秀なんだろうが、持ってて良かったと実感できる時は少ないだろう。

 状態異常耐性という物も微妙極まる。この手のゲームは、アクセサリーを付ければ危険な状態異常を対策出来るのだ。まあ、想定外の状態異常に対抗できるのと、アクセサリー無しで随時発動しているのは便利だが……

 最後は生産の成功確率の上昇。これは全く想像がつかない。たぶん、この中では一番便利なんだと思う。

 これらに加え、元々機械技師が持っているスキルは、【発明クリエイト】と【機械製作】。どちらも用途は不明。【発明クリエイト】の方だけルビが振ってある意味も分からない。


「発明と製作って、同じ意味じゃないのかよ畜生」


 いや、辞書できっかり調べれば、全く違う意味なのだろうが。そんな事をしているのなら、ゲームをプレイして覚えた方が良い。


「最後に、ビジュアルのカスタマイズです。このゲームには種族システムがありませんので、このビジュアルカスタマイズで容姿を変更してください」


 顔や性別は、現実世界の容姿に反映されている。ただ、そこから改良を加えれば、種族や人種を変更できるらしい。耳を尖らせればエルフ、褐色肌にすればネイティブアメリカン。これを上手に使いこなせば、三枚目もたちまち二枚目に変わるだろう。

 俺は自らの姿を、表示されたモニターによって確認する。何度見てもチャコールの素朴な衣装だ。


「このままじゃ、地味だよなあ……」


 機械技師というジョブは、とにかく見た目が地味だ。唯一のチャームポイントは、額につけられたゴーグル。せめて、髪の色や目の色は変えた方が良いのだろうか。

 俺は画面を見渡していき、自分にあっているパーツを探していく。その中で、一つ面白いものを見つける。


「け……獣の耳……」


 いや、これはダメだろう。これを装着してしまったら、人として大事なものを失ってしまうような気がする。もう、変な行動はやめておこう。


「デフォルトでお願いします」


 やはり普通が良い。下手な拘りを入れれば、周りからそういう目で見られてしまう。ここはクールに、まるで興味の無いように装うのだ。我ながら、何てつまらない人間なんだろうと心から思う。



 全ての選択を終え、ようやく本格的に始めることが出来る。悩みに悩みぬいた結果がランダムセレクト。無駄に時間を浪費してしまったと言わざる終えない。

 NPCの女性は最後の仕事として、俺をゲーム本編へと転送し始める。


「では、これより【ディープガルド】の世界に転送いたします。貴方に神様の祝福あらんことを……」


 その言葉と共に、俺の体は足から徐々に消えていく。これが転送だろう。何とも奇妙な感覚だった。

 俺は最後に、色々と説明してくれた目の前の女性にお礼を言う。NPCと言えども、見た目は完全に人間。どうしても礼儀を忘れられなかった。


「色々とありがとうございます」

「どういたしまして、次に出会える時を心待ちにしております」


 コンピューター上のキャラクターに、こんな事を言われてしまう。いったい、この言葉にどんな意味があるのだろうか。

 その答えを出す前に、俺の意識は闇の中へと消えていった。 














 視界に広がるのは地平線まで続く大草原。眩い日差しが降り注ぐが、まだ少し肌寒い。この事から、ゲーム上の時間帯は朝方だと判断できた。

 今、視界に映っているものは、全て意識とデータの中にある虚像。現実には存在していない産物だ。

 何というリアルな質感。肌に触れる風、草木や花の香り、その全てが本物と全く変わらない物だった。


「おい、科学。ここまで進歩したか……」


 美しい緑の平原と、紫色に染まる朝の空。それをしばらくの間、俺はただ見つめていた。現実世界では旅行でもしない限り、決してお目にかかれないだろう。

 正直、俺はフルダイブシステムが嫌いだ。データや精神の奥にある偽物の世界。俺にとっての認識はこんなところで、どうしても見下してしまう。しかし、こういう情景を拝見できるのは、決して悪くない気分だ。

 しかし、今は風景に見とれている場合ではない。一刻も早く、目的を達成しなくてはならない。


「いかんいかん、遊びに来たんじゃないんだ。さっさと探さないと……」


 俺は人を探しに、この【ディープガルド】にやってきた。本当にこの世界にいるのか、自らの目で確かめなくてはならない。ただの旅行者ではないのだ。

 向かう場所も分からず、俺は大草原を歩き始める。しかし、その時だった。突然、俺の目の前に、二人のプレイヤーが立ち塞がる。彼らは俺を見るや否や、大声を上げた。


「ようこそ、新人さん!」

「こいつ、機械技師メカニックだぜ! 結構レアじゃん!」

 

 白い聖職者のような服装をした女性と、中国のカンフー衣装を身にまとった男性。服装から見るに、女性の方は僧侶プリースト。男性の方は格闘家モンクだろうか。

 二人は俺を見て喜んでいるようだが、いったいなぜ喜んでいるのか全く分からない。

 レアと言うのも引っかかる。そう思うのならば、自分も同じジョブを選べばいい。選択肢の中には、普通に機械技師メカニックもあるのだから。


「なあなあ、俺のギルドに入ってくれよ!」

「ずるいよ! 是非是非、私のギルドに!」

「は? え? ギル……?」


 訳は分からないが、どうやらこの二人は俺の存在を求めているらしい。現実世界では完全に空気な存在な俺にとって、悪い気は全くしなかった。むしろ、非常に気分が良いくらいだ。

 だが、意味も分からずに彼らについていくのは流石に危険すぎる。ここは、穏便にお断りをしなくてはならない。そう思った時だった。


「おい! スタート地点での勧誘はマナー違反だぞ!」


 新たに現れた鎧を身にまとった男性。その容姿から考えると十中八九、戦士ナイトだろう。

 いかつく、強面の外見から漂う強者の貫録。俺の目の前でへらへら笑っている二人に、とても対抗出来るとは思えない。彼らは急に表情を強張らせ、その場から走り出した。


「やっべ、自警ギルドの連中だ!」

「早く逃げよ!」


 逃げ出す二人を容赦なく追いつめていく戦士ナイトのプレイヤー。俺はただ呆然と、おいかけっこをするプレイヤーを見つめる。

 頑丈な鎧に身をまとった戦士ナイトは決して素早くはない。しかし、レベルの差もあってか足の速さは互角の様子。両方とも大健闘だ。

 だが結局、その結末を見せることなく、彼らは俺の視界から消えていった。


「わけワカメだよ……誰か助けてくれー!」


 俺はアホのように叫ぶ。この大草原に発哺り出され、やることも分からない。

 全部あいつのせいだ。TP様だか何だか知らないが、最初から最後まで自分勝手すぎる。俺の歯車を狂わせやがって……

 何故俺がこんな目に合わなければならないのか。今となっては、あいつに聞く事すら出来なかった。

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