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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
五十日目~六十三日目 漆黒の街ウィスタリア
198/208

197 藍の試練

 ウィスタリカの街に着いて一週間と二日。俺たちギルド【IRISイリス】はついに打倒PCさんへと動き出した。

 【ヴァイオット大陸】メインフィールドであるパープル平原を俺たちは進む。目指すは最終ダンジョンであるモーヴェットの塔。既に三つの試練を突破しているので、探索ぐらいは出来るはずだ。

 暗雲に包まれる平原を俺たちは進む。すでに俺のレベルは54から59へと上がっている。やはり、レべリングを優先したのが功を奏し、今までとは効率がまるで違っていた。


 ヴァイナス城のダンジョンを進めていた俺たちには、フィールドのモンスターなど敵ではない。

 やはり、ダンジョンの中と外とでは敵のレベルが全然違う。これなら、思いのほか早くモーヴェットの塔に着きそうだった。

 俺がロボットでサイクロプスロードの攻撃を防いでいると、ヴィオラさんが横から標的を切り裂く。

 やっぱり、俺やアイとはスタイルが違うけど相当のプレイヤースキルだ。思えば、彼女と並んで戦ったのはここ最近が初めてだったな。


「まさか、ヴィオラさんと一緒に戦えるとは思いませんでした」

「それほど貴方が成長したという事よ。ルージュちゃんやリュイは、もっと前から一緒に動いていたわ」


 まあ、少し前まで俺とアイは雲隠れしていたからな。ヴィオラさんとは一緒に動けなかったが、代わりに俺は別の先輩と行動を共にしていた。


「ヴィルさんとは結構ダンジョンを進めましたよ。アイと決別した後も、二人でレべリングを行ってしました」

「そう、私もイシュラちゃんたちと【インディ大陸】まで移動したのよ。師弟を交換した形になっちゃったわね」


 元【エンタープライズ】のヴィルパーティーと、一定期間の師弟交換になっていたようだ。思えば、あの人たちとの付き合いはゲーム二日目からだったな。

 ヴィルさんには色々協力してもらった。ハクシャには現実世界で助けてもらった。イシュラには俺の代わりに【ディープガルド】で戦ってもらったな。

 シュトラは……ごめん、特に覚えてないわ。

 ヴィルさんたちは【インディ大陸】で藍の試練を行っている。五本の指のプレイヤーと呼ばれている彼なら、容易に試練を突破できるはずだ。

 何だかんだで、あの人たちの信頼度はギルド【IRISイリス】にも引けを取らないほどだった。

















 【インディ大陸】の最果て、ラピスラズリ神殿。


 私イシュラとヴィルパーティー、そして中堅ギルドからのプレイヤーは藍の試練に挑戦していた。

 猛吹雪のセルリアン雪原を進んだ先に神殿が存在する。到達自体が【イエロラ大陸】のガンボージ遺跡に匹敵するほど面倒で、スポットが当たったのも今回の藍の試練が初めてだった。


 氷で作られた神殿を最深部まで進み、ようやく私たちは大ボスと対峙することになる。

 鏡のような氷の張り巡らされた部屋。そこで待っていたのは、氷の魔獣ベヒーモスを手なずける魔女だった。

 あいつは魔王の配下で、これでも幹部クラスという立ち位置みたい。まあ、とてもそんな感じには見えないけど。


「ぐぎぎー……わらわは魔王様の側近じゃぞ! 幹部じゃぞ!」

『ガオ……!』


 今私と戦っているのは、媚び媚びのデザインをした魔女っ子幼女。魔女という設定から考えると、いわゆる合法ロリというポジションみたい。

 あと、一緒にいるベヒーモスもデカい図体の割に愛嬌があるわね。あいつらの性格はコミカルで忙しなくて、他の試練から聞いてる大ボスの風格はないわ。

 だからこそ、みんな察したでしょう。『ああ、こいつ。七人衆のギャグキャラポジションだ』と……


「むふふ……この大陸を氷のオブジェにして、魔王様にプレゼントするのじゃ。きっとお喜びになるのじゃー!」

『ガオガオー!』

「そうかい。楽しそうで何よりだ」


 そんな魔女っ子に対し、ヴィルの奴は氷のように冷めていた。こいつの方がよっぽど大ボスの風格があるわよ。流石は元騙し討ちのヴィルリオってところね。

 ここまでの戦いはほぼ互角。攻略済みの試練からの情報を考えれば、戦いの後半で何らかの動きがあるでしょう。

 でも、ベヒーモスのライフが三分の一を切った現状でも、敵が何かを仕掛けるような素振りはない。以前として、二人のボスはパワーでごり押すだけだった。


「どんどん行くのじゃベヒーモス! 奴らをかみ砕いてしまえ!」

「そうはいかないぜ! スキル【鉄山靠てつざんこう】!」


 ハクシャの奴が突っ込んでくるフェンリルに背中からタックルをかます。普通に攻撃は相殺し、普通に両方は吹っ飛ばされたわ。確かに敵は強いけど、やっぱり小細工はないみたい。

 ベヒーモスの攻撃パターンは単調。氷属性の爪や牙で大暴れして、突進しまくるだけ。でも、その威力が半端ないからヒーラーの回復が間に合わない。

 一撃でライフがゼロになった魔導師ウィザードもいるし、何気に追い詰められてるかもしれないわ。

 それともう一人、魔女さんの攻撃は見た目通りの【氷魔法】。あとは【回復魔法】も使うけど、まあ普通の戦い方ね。


「さあ、わらわの最強魔法を食らうのじゃ! 【氷魔法】アイスリジョンオールなのじゃ!」

「スキル【属性耐性付与魔法】氷の印!」


 広範囲を凍結させる【氷魔法】最強の技が放たれる。それに対し、シュトラは仲間に氷耐性を付与することでダメージを減らしていった。

 ここまでの戦い。一言で言うなら、シュトラ地味に大活躍という内容だった。

 敵の属性は完全な氷。シュトラの使う【魔攻付与魔法】炎の印と【属性耐性付与魔法】氷の印で、相手の弱点を徹底的に突いていく。附術士エンチャンター、最も使用者の少ないジョブだけど、属性を持ってる敵には結構強いわね。


「わ……私輝いてる! 私輝いているよお姉ちゃん!」

「いえ、輝いてはいないような……ま、あんたがそれで良いなら良いわ」


 確かに有能だけど地味よ。仲間に付与しまくる作業ゲーになってるわ。

 流石に敵の魔女もシュトラの危険性に気づいたようね。ちょっと遅い気がするけど、完全に標的を見定めたみたい。

 これは、シュトラの前に立っている私が守らないといけないわ。


「ぐぬー! 氷を防ぐのはずるいのじゃ! 火は溶けるから嫌なのじゃ! あの、附術士エンチャンターから氷像にするぞ! 【氷魔法】アイスリジョン!」

「スキル【武器解放】アイテム、魔炎の大槌!」


 私はハンマーを巨大化させ、敵の放つ猛吹雪にそれを叩きつけた。攻撃は相殺するけど、こっちのハンマーは炎属性。氷にはかなり強いわよ。

 敵の魔法攻撃が強く、少しダメージを受けちゃったけど及第点でしょう。大ボス相手に一人のプレイヤーである私が対抗出来ちゃうなんて、本当に炎属性万歳ね。

 こっちは何とかシュトラを守れる。ハクシャの方もベヒーモス相手に対抗出来てるみたいね。


「スキル【連続拳】! おらおらーっ!」

「スキル【炎魔法】ファイアリジョンです!」


 あいつの放つ連続の拳がモンスターを殴りつけていく。一緒に攻撃を放ったのは魔導師ウィザードのプレイヤー。しっかり【炎属性】を選んで、確実に弱点を突いていってるわ。

 忍者ニンジャは【火遁の術】、召喚術士サモナーは炎の精霊を使役している。道中に氷モンスターが多かったこともあって氷対策は万全。完全に相性ゲーが成立していた。

 ベヒーモスのライフが減ってきたこともあって、氷の魔女も流石に焦ってくる。あいつはすぐに回復動作へと移っていった。


「か……回復するのじゃ! 【回復魔法】……」

「スキル【鎮魂歌レクイエム】。回復は禁止だよ」


 と、ここでヴィルのウザったいサポートが入る。これには魔女も唖然とするばかりね。丸ごと戦略が崩されちゃったんだから当然よ。

 だけど、めげずにあいつはヴィル本人へと攻撃を仕掛けていく。


「な……何てことするのじゃー! スキル【氷魔法】アイスリジョン!」

「まあ、必要経費かな。スキル【前奏曲プリュレード】」 


 あいつはギターを盾にし、敵の氷魔法を防御する。そしてすぐに直前に使った技を使用不能にする【前奏曲プリュレード】を使っていった。

 【魔法防御力up】を鍛えているヒーラーには魔法は効きづらい。あえて受けて、敵の行動パターンを削っているわね。

 ヴィルは前髪を振り払い、ニヤニヤと笑う。おバカな敵に対し、完全に戦略が刺さってるみたい。


「……君、頭悪いよね?」

「な……なんじゃとー!」


 魔女っ子幼女はプンプンと怒り、氷の杖を振り回す。ありゃりゃ、心理勝負にも防戦一方みたいね。これは相性が良かったわ。


 ここまでの戦い、ヴィルの奴が事前に考えていた通りの展開。あいつは今日のために綿密な計画を練り、それぞれのプレイヤーに簡単な支持を出していた。

 それだけじゃなく、二十人のレイドメンバー全てにコンタクトの魔石を配り、戦闘中でも互いの意思疎通を徹底させている。他のレイドパーティーとは、ボス戦に対する気合の入れ方がまるで違うのよ。


「勝率七割以上、それぐらいになるほどの準備をする。それが僕流だよ」

「な……なんじゃこいつ……こうなったら……」


 あの魔女、何かするつもりね。今までの試練のパターンから考えると、ここから前代未聞の戦略へと動いていく。私たちはそのつもりで、ここまでの計画を練ってきたんだから。

 彼女はフェンリルの方へと走り、その背中へと飛び乗る。そしてドヤ顔で杖を掲げ、やがてそれをこちらに向かって突きつけた。


「これが究極合体なのじゃ!」

『ワッオーン!』

「乗っただけじゃない!」


 結局、ギャグポジションで作られたキャラクターは、どこまで行ってもギャグポジションね。的が一つになってむしろ弱体化したような気もするけど、まあ一応強くなっているんでしょう。

 でも、この究極合体までの所要時間が結構長く、それまでに味方の強化が行き届く。ヴィルの指示動いている私たちは、敵が行動パターンを変えても全く焦らなかった。

 シュトラと踊子ダンサーのプレイヤーは、積極的に味方の能力を上げていく。


「今のうちですね。スキル【威力付与魔法】。スキル【耐久付与魔法】」

「敵がボケてて助かった。スキル【ボレロ】。スキル【マンボ】」

「お前ら! わらわの合体シーンを無視するな!」


 【威力付与魔法】で更に威力を上げ、【耐久付与魔法】で防御を上げる。さらに、【ボレロ】で攻撃力を上げ、【マンボ】で魔法攻撃力を上げていった。

 第二形態になった所悪いんだけど、こっちも余裕があるわけじゃないのよね。確かに戦略通りには進んでいるけど、何人かゲームオーバーにされてるのは事実なのよ。

 ヴィルはオールコンタクトの魔石を発動し、レイドメンバー全てに指示を出す。


「例のプランに変更する。作戦通り、敵を詰みの状態に持っていくよ」

「分かったわ! スキル【武器変更】アイテム、火炎の弓矢!」


 私は炎属性の弓矢によって、フェンリルを撃ちぬく。合体によって敵の攻撃は激しさを増してるみたいだけど、基本の戦略を守れば問題ないわ。

 前衛のハクシャたちも積極的にダメージを与えていく。相手が力で暴れるなら、こっちも力でぶっ飛ばすだけよ。ウザったい初見殺しがない試練なら、気にせず突っ込めるってものよ。


「スキル【根性】ォ! いくぜ……スキル【正拳突き】!」

「サラマンダー! 一気に燃やし尽くせ!」


 召喚術士サモナーのドラゴンが、火炎によってフェンリルを炙る。それに乗じて次々にアタッカーたちがダメージを与えていった。

 僧侶プリースト錬金術師アルケミストによるヒーラーサイドも健在。いくらベヒーモスが暴れてもすぐに回復動作へと移れる状態ね。

 確かに敵は今までのどのモンスターより強い。だけど、型に嵌れば勝利が見えてくるのよ!


「力では勝っておる! なのに、なぜじゃ……なぜなんじゃ……! なぜ上手くいかないのじゃー!」

「アーハッハッ! 運が悪かったね。君は僕に対して相性最悪だったみたいだ」


 嫌みったらしく、ヴィルの奴が高笑いを上げる。それに腹を立てた魔女は、標的をあいつ一人へと絞ってきた。

 アタッカーたちをケチらし、ダメージ覚悟で後衛へと突っ込むベヒーモス。

 もう、勝つ気なんてないみたい。ただ、ムカつくヴィルをぶっ倒すためだけに、あいつらは最後の攻撃へと移る。


「ええい! ままじゃ! このムカつく吟遊詩人バードをぶっ潰すのじゃー!」

『ガオオオオン……!』


 ヴィルの目の前に迫る猛獣。しかし、あいつは全く動こうとはしない。もう既に、頭の中で勝利の方程式が完成しているんでしょうね。

 ヴィルは大きくため息をつき、ギターによって曲を奏でる。それと同時に、突っ込むベヒーモスたちに向かって灼熱の炎が放たれた。


「スキル【夜想曲ノクターン】」

「スキル【炎魔法】ファイアリス」


 【夜想曲ノクターン】によって敵の魔法防御が下がる。同時に【炎魔法】による火炎がベヒーモスの残りライフ全てを奪い去っていった。

 炎の正体はシュトラの支援攻撃。ヴィルの奴……このタイミングで支援が入り、なおかつ魔法防御力を下げれば倒せると分かっていたのね。怖い怖い、敵じゃなくて良かったわー。

 ベヒーモスは氷の床へと倒れ、魔女はそのまま投げ出される。やがて、一人と一匹は悔し祖にその場で項垂れた。


「酷いのじゃ……あんまりなのじゃ……」

『きゅーん……』


 ギャグポジションキャラの鉄則、ライフが全損しても死なない。まあ、お約束の展開ね。

 私たちは彼女に近づき、その顔をマジマジと観察する。結果、どこかで見たことのある顔だと発覚した。


「っていうかあんた。【グリン大陸】、エボニーの森の奥に住んでた魔女よね。魔王にそそのかされたのかしら?」

「ぎくっ……な……何の事だか分からんのう……」


 【グリン大陸】の迷いの森、エボニーの森にはへっぽこ魔女が住んでいると有名。私たちはレべリングの時にあいつの家に訪れているけど、その時はハッキリ顔を見れずに逃げられたのよね。

 現状、魔女がトリガーとなるイベントは見つかっていないけど……まさか、こんな所に繋がっていたのね。大方、『力が欲しいか? ならばくれてやる……』的な何かがあったのでしょう。

 私たちが尋問に移ろうとした時、突然魔女が声を上げる。


「あ! ドラゴン!」


 その勢いに釣られ、私たちは彼女が指差す方向を一斉に見てしまった。

 瞬間、魔女とベヒーモスは風のようにその場から走り出す。


「おーぼーえーてーろー! なのじゃ!」


 逃げた。でも追わない。

 だってどうでも良いもの。試練を突破して、【インディ大陸】に暖かさが戻るなら勝手に消えていいわ。

 ヴィルさんは呆れた様子で帽子のつばを掴む。この場にいる誰もが、こいつと同じ顔をしていた。


「なんていうか、コミカルな幹部だったね……」

「ねえ、見てた! 私が止めを刺したよ! すっごく目立ってたでしょ!」


 そして安定のシュトラ落ち。

 ごめんシュトラ。地味な炎攻撃で終わったから、あんたの活躍意識してなかったわ。

 まあ、とにかく……強敵を倒して一段落。私の延長戦はこれにて終了ね。


 さって、後は頼んだわよ。ムカつく捻くれ機械技師メカニック

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