表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目~五十日目 ソルフェリノの大穴
192/208

191 最後の大陸へ

 昨日は【IRISイリス】のメンバーで情報交換をし、大陸横断の計画を行ってログアウトした。

 どうやら、他のみんなは深夜からログインし、【ディープガルド】時刻にして二日半戦い続けたらしい。まあ、途中休息はあったんだろうけど、本当にお疲れさまと言ったところだ。

 このゲームは総合ログイン時間が長くなると、強制ログアウトになって一定時間ログインできなくなる。そのため、土曜日の今日は早朝からログインせず、少し遅くに全員集合となった。


 こうやって、七人揃って話し合うのも何だか久しぶりだな。

 最終大陸である【ヴァイオット大陸】までは、【オレンジナ大陸】を中継する必要がある。シエナ平原を進み、屑鉄の山であるラスカス山を越えてようやく新大陸だ。


「さって、時間を用意するから、アイテムと装備を整えておきなさい。どうせ、七つの試練を突破するのに数週間はかかるし、別に急ぐ必要はないわ」


 ヴィオラさんから説明を受け、各自準備へと入る。

 彼女が言うように、他のプレイヤーが試練を突破するのにかなりの時間を要するだろう。【ヴァイオット大陸】にも街があり、そこで何日も滞在してレべリングを行う予定だ。

 しかし、これから向かおうとしているのはゲーム後半の最終大陸。装備は今用意できる最高の物を揃えた方が良いだろう。

 そんな中、リュイがある事に気が付く。


「そう言えばヴィオラさん、剣を変えたんですね」

「え……? うん、まあ……」


 確かに、ヴィオラさんの剣が別のものに変わっていた。見たところ、前の剣よりも物が良さそうだな。いったいどこで手に入れたんだろうか。

 まあ、彼女も最終決戦のために準備していたんだろう。俺もアスールさんの銃をしっかり制作しないとな。
















 俺とアイ以外のメンバーはアイテムを買い揃え、残った二人は装備を制作する。

 俺はアスールさんにウォンテッドマグナムを渡し、アイはリュイとルージュに服を渡す。三人とも、他の装備も新調しているようだ。

 アスールさんはベレー帽の上につけたサングラスを下ろし、俺の作った銃を見ていく。


「まさか、本当にこんな日が来るとは……【生産成功率up】のスキルはまだ鍛えているんだな」

「はい、むしろ今はそれ中心ですね。【奇跡】のスキルも強化していますけど」


 【状態異常耐性up】は限界数値で、【防御力up】はジャストガードで何とかなる。最近は【機械制作】を重点的に行っていた。

 機械技師メカニックはロボットと共に強くなるジョブだ。こんな鍛え方をするのは俺達ぐらいだろう。

 と思ったが、イシュラがいたか。まあ、あいつは特殊だ。多分変わり者なんだな。うん。


 俺も【発明クリエイト】の素材を買い揃えたし、いよいよ【ヴァイオット大陸】を目指すことになる。まずはワープの魔石で【オレンジナ大陸】、テラコッタの街に移動しなくてはならない。

 受付嬢のビスカさんは、俺たちを笑顔で送り出す。彼女の身は【ゴールドラッシュ】のメンバーが守ってくれるらしい。


「みなさん、私たちの世界をお願いします。無事に帰ってくださいね!」

『二ゃニャニャー!』


 ケットシーのリンゴも送り出してくれる。ああ、ヌンデルさんのためにも、俺は絶対に勝つよ。

 アイ、ヴィオラさん、リュイ、ルージュ、アスールさん、ノラン。それに俺を含めた七人は同時にワープの魔石を使用する。やがて、その体は【オレンジナ大陸】へと転送された。




















 歯車の街テラコッタ宿前、そこに俺たちは降り立つ。何やら、街は緊迫した空気に包まれていた。

 そういえば、機械の反乱によって、この大陸は紛争状態だったな。恐らく、シエナ平原に出れば一斉にモンスターが襲いかかって来るだろう。

 ヴィオラさんはため息をつきつつ、俺たちに言葉を投げる。


「ま、こんな状態でも当然行くんでしょうね」

「当然だろ? 怖いなら俺を頼っても良いんだぜ子猫ちゃん」

「じゃ、行きましょ」


 薔薇をくわえてかっこつける男ノラン。それを軽くあしらうヴィオラさん。この二人、結構いいコンビだな。

 俺たちはテラコッタの街を歩き、その外へと向かっていく。街には武装したNPCが走り回り、敵を迎え撃つ準備をしている様子。これは、長居無用な雰囲気だな。

 俺たちの目的地は【ヴァイオット大陸】。街の住民には悪いけど、防衛に参加するわけにはいかないだろう。ここは他のプレイヤーに任せて、俺たちは自分たちの役割を果たすべきだった。




 街を出ると、予想通りの事態に見舞われる。何体もの機械モンスターが、一斉にこちらへと襲い掛かってきたのだ。

 以前、ここに来たときはそれほど苦戦しなかったが、今回はあまりにも数が多い。クレープスの塔で何体も倒したキラーマシンだが、こう何体も一気に攻められたら対処できないぞ。

 何より、俺たちには別の使命がある。こんな雑魚たちに構っていられなかった。


「スキル【雷魔法】サンダリスオール……! き……きりがないぞヴィオラ!」

「スキル【惣捲そうまくり】。突破は可能ですが、ここで消耗するのは好ましくないですね」


 ルージュとリュイがレベル差で圧倒しているが、出来ればMPとPPを節約してもらいたい。もっとも、俺やアイのようにジャストガードで遅延しても、対処できそうもないがな。

 まさか、大陸を横断する前に躓いてしまうとは……まあ、時間をかけてじっくり進むしかないだろう。どの道、七つの試練を突破するには時間が掛かるし、ここで足踏みをしても問題はなかった。


 俺はグレネードで一気に吹き飛ばそうと、火薬と鉄屑を取り出す。

 しかし、その時だ。突然和服を着た二人のプレイヤーが、目の前の機械たちを纏めて薙ぎ払う。通常攻撃でこの威力とは、相当レベルが高いようだな。

 両方とも女性で、プレイヤースキルは相当の上位。それもそのはず、この二人は総合ランキング8位と9位の猛者だったからだ。


「呉越同舟、丁度クレープスの塔に向かうところです。敵を引き付けますので、その隙に目的地に向かってください」

「ギルド【IRISイリス】、運が良かったネ。こんな雑魚を相手にしてもレべリングにならないヨ!」


 瞳に桜の花びらが光るサムライ、真面目だけど狂犬なゲッカさん。長い獣耳に丸い髪飾りを付けた格闘家モンク、中華娘のフウリンさん。二人は複数のプレイヤーを引き連れ、機械モンスターを次々に倒していった。

 ギルド【漆黑しっこく】は、ここ【オレンジナ大陸】で橙の試練を行っている。偶然、ダンジョン攻略に向かうところで接触したのだろう。

 そんな二人のプレイヤーにリュイは頭を下げた。そして、俺たちと共にラスカス山に向かって走り出す。


「ありがとうございます! フウリンさん、ゲッカさん!」

「ど……どういたしまして……リュイさん」


 頬を赤く染め、テレまくるゲッカさん。疑い通り、やっぱショタコンじゃないか……

 あの凶暴な性格からの歳下好きというギャップを狙っているのだろうか? まあ、何にしても、他人の好みをとやかく言う筋合いはないな。

 俺たちは【漆黑しっこく】のメンバーに感謝しつつ、鉄屑の山に向かっていく。【ヴァイオット大陸】は陸続きで、この山さえ越えれば新大陸だった。

















 古代文明が残した鉄のゴミ山。それが【オレンジナ大陸】と【ヴァイオット大陸】を分かつラスカス山だ。

 出てくるモンスターはゴブリンボーグ、ブラックコンドル、インプ、ダストラットあたりが新しいモンスターで、残りはお馴染みのロボットモンスターだった。

 俺たちはとっくに【オレンジナ大陸】の適性レベルを超えているので苦戦はない。しいて言うなら、【闇魔法】を扱うインプが面倒かな。こいつがいるという事は、暗雲の大陸が近いということだった。


「スキル【整備メンテナンス】。あまり使わないスキルのレベルを上げないとな」

「レンジさん、まめですね」


 積極的に盾になり、ロボットの耐久力を回復する【整備メンテナンス】を使っていく。アイにまめと言われるが、俺は別にそんなつもりでスキルレベルを上げているわけではない。

 ただ、最後の戦いは万全な状態で挑戦したいからな。レベルが低いうちは上がりやすいゲームなので、そこそこ程度まで鍛えておきたかった。


 こんな調子で歩きづらいゴミ山を歩いていくと、なぜか女ノランがオリジナルテーマを歌いだす。物凄く機嫌がいいのは分かるが、あまりにも恥ずかしい。他のプレイヤーだっているんだぞ……

 変人扱いされることを嫌うアスールさんが、彼女の口を無理やり塞ぐ。このまま押さえつけてもらいたいところだ。


「おい、ノラン。恥ずかしいから止めてくれ……」

「だって、七人で冒険するなんて久々だもん! ノランちゃん、嬉しくて楽しくてすごく幸せだよ!」


 そんなノランに対し、アスールさんはため息をつき、ルージュは密かに笑っていた。まあ確かに、アスールさんがギルドを離れた時以来、俺たちが七人揃う事はなかったな。

 ある時はノランが消え、またある時はアイが消え、たいてい誰かが欠けている状態だった。七人だけの冒険なんて、【ブルーリア大陸】以来だろう。

 そんな事を考えている時だ。ヴィオラさんはゴブリンボーグを切り割きつつ、アイに向かってお礼を言う。


「アイちゃん、敵同士だったのに戻ってきてくれてありがとう。やっぱり、貴方は私たちのギルドに必要なのよ」

「虚言ですね……一度裏切った私を許すというのですか? まあ、あり得ないでしょう。疑念の心というものは根が深いものなんですよ……」


 そんなヴィオラさんに対し、アイはビューシアだった時の口調で悪態をつく。そのキャラの代わりように、他のギルドメンバーは目を丸くしていた。

 せっかくギルドに戻ったのに、また一からやり直さないといけないな。俺だって、こいつを攻略するのにどれだけ掛かったことか……やっぱり、厄介な女だよ。

 瞳が僅かに曇った少女に対し、ルージュがメイスを構えて前に出る。そして、それを振りかぶり、力の限り振り落した。


「ぐ……! な……何をするんですか……!」

「この……バカアイが……! 確かに、僕は貴様にゲームオーバーにされた! でも、ボクは許すぞ! 許すし信じるに決まっているだろうが!」


 殴打された頭を抑えつつ、アイは文句を言う。しかし、それもルージュの言葉によってかき消されてしまった。

 根暗で友達が少ないルージュにとって、アイは掛け替えのない友人だった。例え裏切られても彼女を許し、そして信じるつもりらしい。


「貴様がボクたちを信じないならそれで良い! でも、ボクは勝手に信じるからな!」

「まったく……貴方という人は、つくづくバカですね……」


 アイは僅かに笑みを零すと、モンスターとの戦闘に戻っていく。本当に、俺のお姫様は筋鐘入りのじゃじゃ馬だ。まあ、そこに惚れたんだけどな。

 アスールさんはブラックコンドルを打ち抜きつつ、ベレー帽に手を乗せる。そしてニヤニヤ笑いながら、俺にアドバイスを送った。


「ヒロインってのは、難易度が高い方が燃えるもんだ。そうだろ?」

「勝手なことを言いますね……でもまあ、勝ちますよ。あいつを攻略できるのは俺だけですから」


 ギャルゲーか何かに例える彼に、同じく例えで返す。たぶん、アイの心を掴みとれるのは世界で一人、俺だけだ。ここまで踏み入ったからこそ、言いきれるのかもしれない。

 ラスカス山はまだまだ長いが、時間はいくらでもある。それに、この山を越えても目的地であるモーヴェットの塔までは相当の距離があった。

 【ヴァイオット大陸】ソルフェリノの大穴を越え、魔族の住む漆黒の街ウィスタリアまで行かなくてはならない。まだまだ、俺たちの冒険は始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ