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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目~五十日目 ソルフェリノの大穴
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189 未来を頼みます

 長い戦いが終わり、俺たちは【グリン大陸】王都ビリジアンに集まる。ベルゼブブによる毒の瘴気はここまで届いていない。【ディープガルド】が混乱する中、この街は比較的安全だった。

 【ゴールドラッシュ】ギルド本部であるビリジアン王宮の一室を借り、そこで今後を話し合う会議が始まる。各上位ギルドのギルドマスターだけではなく、俺たちギルド【IRISイリス】もその会議に参加することになった。

 正直、俺はいきなり姿を消した身だから気まずくて仕方がない。ヴィオラさんたちとは全く目を合わせていないし、言葉も交わしていなかった。たぶん、怒ってるんだろうな……


 今回の戦いで多数のプレイヤーがゲームオーバーとなっている。しかし、そいつらは無傷でゲームへと復帰していた。

 ゲームペナルティは受けたものの、現実世界では完全にノーリスク。記憶操作システムが破壊されたことにより、ようやく普通のゲームに戻ったのだ。

 だが、それとは別の問題が起きている。PCさんが【ディープガルド】にもたらした試練は、そのままNPCへの暴力に繋がっていたのだ。

 【ゴールドラッシュ】ギルドマスターのディバインさんは険しい顔をし、人魚のビスカさんと話す。


「【グリン大陸】は病気が蔓延。【イエロラ大陸】はオアシスが枯渇。【ブルーリア大陸】は大嵐。【ドレッド大陸】は火山が噴火。【オレンジナ大陸】は機械の暴走。【インディ大陸】は猛吹雪。まったく酷い有様だ」

「それらに加えて【ヴァイオット大陸】では魔族が不穏な動きを見せています。どこもかしこも大混乱で、私たちNPCには大迷惑ですよ……」


 ビスカさんにも家族がいる。人魚の街セレスティアルに戻ると言っていたが、流石に俺たちで止めた。

 確かにいつ毒の瘴気が広がるか分からないこの街も危険だが、海竜が暴れるセレスティアルよりはマシだ。彼女には悪いが、身の安全を図るためにもここにいてもらう。

 俺たち【IRISイリス】や【ゴールドラッシュ】だけではなく、最強ギルドの【漆黑しっこく】も大慌てな様子。サムライのゲッカさんが、ギルドマスターのクロカゲさんに報告を行う。


「薬石無効、死者が多数報告されています。ですが、これも以前から繰り返されてきたごく自然のイベント。変わったのはゲームではなく、私たちの認識でしょう」

「ま、割り切るしかないって事だネ。それこそ、現実世界その物の思想を変えないと、何も解決しないヨ」


 このようなミッションはRPGなら頻繁にある事だ。だけど、NPCが生きているという事実が発覚して、それに対する認識が変わった。以前も思ったが、もう普通の感覚でゲームを行うことは出来ないだろう。

 俺たちがスマルトで戦っていた間に、【7net(セブンネット)】のヒスイさんを中心とする生産職も動いていた。彼らはそのプレイヤーとしてのスキルを使用し、NPCの救済へと動いていた。


「NPCに事実を伝えたのは大正解だったわ。わいらも協力して被害を最小限に抑えとる。窮鼠猫を噛む。戦闘に参加しとらん生産職が、なんもせんとボケボケしとるわけにもいかんやろ」


 視線を後ろに移すと何人もの錬金術師アルケミストが、NPCの看病を行っている。【ゴールドラッシュ】のギルド本部に病人を集め、生産職たちが活動を行っているのだ。

 【グリン大陸】は毒の瘴気が蔓延し、エルブの村、レネットの村、スプラウトの村に甚大な被害が出ている。草木も弱り、本当にダンジョン攻略を急がないと全て滅ぼされてしまうぞ。


 解決する方法は一つ。PCさんの与えた試練を突破することだ。

 どの道、全て攻略しなければ彼女との最終決算を行う事も出来ない。しかし、ダンジョン攻略に参加したプレイヤーが参戦できないのは厄介だった。

 これは話し合いが必要だ。誰がどのダンジョンに行くのか、誰がPCさんと戦うのか。人選ミスは許されない。


「PCさんに挑めるのは七人。やっぱり、最強のメンバーを抜擢すべきですね」

「そうね。とりあえず、クロカゲとディバインは確定で……」


 ヴィオラさんがそう言いかけた時だった。突然、クロカゲさんが席を立ち、俺たちに背を向けた。


「あ、俺はゲームをしたいから協力しないヨ。【ヴァイオット大陸】のヴァイナス城で、魔王の側近とやらを討伐するかラ。【漆黑しっこく】のメンバーもそっちに流さないヨ」

「ちょっと! 現状最強の貴方がなに勝手なこと言ってるの!」


 まるで以前のクロカゲさんに戻ったかのように、冷たい表情でゲームを優先する。PCさんを倒すという目的に協力する様子は全くなかった。

 急にこんなことを言いだす理由が分からないが、これで紫の試練はクロカゲさんと【漆黑しっこく】メンバーが引き受けると決定する。だが、最強ギルドである【漆黑しっこく】にはまだ余裕があった。

 幹部であるゲッカさんとフウリンさんは別の試練に挑むようだ。


「クロカゲさんがリーダーならば、そちらは安心ですね。意気軒昂、私はフウリンさんと共に【オレンジナ大陸】、クレープスの塔に挑戦します。テラコッタの住民は私たちの協力者ですから、機械の進軍から守る必要があります」

「アイヤー! 私たち人間は機械なんかに負けないヨ! 暴動は人間側の勝利確定ネ」


 これでこの二人も最終戦に参加しない事になる。【漆黑しっこく】のメンバーたちはこの場を後にし、二チームに分かれてダンジョン攻略へと向かっていった。

 最強ギルドが参戦しないのは予想外だったな。そうなると、現状二位である【ゴールドラッシュ】に頼る必要がある。

 しかし、そんな俺の考えに反し、ディバインさんは冷たい態度で俺たちに背を向けた。


「私は自分の城を守るのみだ。お前たちの戦いなどには協力せず、【グリン大陸】世界樹フォーリッジにて悪魔退治を行う事にしよう。それが、世話になった王を救うことにもなる。行くぞ、テイル」

「ええ! たかだか蝿などに、私たち【ゴールドラッシュ】が屈するはずがありませんわ!」


 テイルさんと大勢のメンバーを連れ、彼は部屋を後にする。なにか、考えがあるんだろうか。ガタブツで生真面目だが、俺たちには協力してくれると思ったんだけどな。

 ギルドランキング一位と二位からの協力が得られないため、当然話しは三位である【エンタープライズ】へと向かう。しかし、ギルドマスターのハリアーさんは鋭い眼光で、俺たちを睨み付けた。


「私の縄張りである海が、魚風情に荒らされるのは気に入らんな。【ブルーリア大陸】のデレクタブル海底遺跡に行き、嵐の根源を叩き潰すのみ。大海での【エンタープライズ】は最強だと教えてやる。アパッチ、すぐに準備だ!」

「アイアイサー! 気合い充分っすか、ハリアーさんマジぱねえっすね!」


 ニヤニヤ笑いながら、アパッチさんもそれに協力する。

 当然、他の【エンタープライズ】メンバーも力を貸してくれる様子はない。全員ハリアーさんの後に続き、縄張りである【ブルーリア大陸】へと戻っていった。

 いよいよ、残りメンバーが怪しくなってきたとき、最強のゲームプレイヤーと呼ばれるヴィルさんが話を持ち出す。自分も決戦には参加しないという意思表示だった。


「僕はもう【エンタープライズ】を抜けたし、役割は熟したから協力はしないよ。まあ、中堅ギルドでも集めて、適当にゲームを楽しもうかな。【インディ大陸】あたりならレべリングにも最適だしね」

「ヴィルさん、俺も行くっすよ! 丁度、ラピスラズリ神殿に氷の化け物が現れたらしいぜ」

「ふーん、面白そうじゃない。魔女の操る化物を私たちの手でボコボコにするわよ!」


 ヴィルさんにハクシャ、イシュラ、シュトラ。ヴィルパーティーはようやく全員集合し、また四人での攻略に戻るようだ。出来れば、ヴィルさんだけはこっちに協力してほしかったんだけどな。

 誰も協力してくれない。上位プレイヤーたちは全員、最終決戦ではなく他のダンジョンへと行ってしまう。まるで、俺たちを避けているかのようだった。

 疑問を感じたとき、呆れた様子でヒスイさんが言葉をこぼす。


「みんな、ほんまに不器用やなー。PCやんが七人って指定した理由、みんな分かっとるよ」

「素直じゃないっすね。本当は協力したいはずなんっすけど」


 そんな彼と同じく、機械技師メカニックのイリアスさんも呆れ気味だ。しかし、二人とも微笑ましいものを見るような目をしている。ようやく、俺もみんなの優しさに気づいたよ。

 アスールさんは無言で腕を組み、ルージュは胸を抑えて心を落ち着かせようとしている。リュイは覚悟した様子で刀を磨き、ノランは何故かおめかしに夢中だ。

 ヴィオラさんとアイが俺の方を見る。ああ、分かってるさ。ここからは俺たちの戦いって事か……


「貴方たちも分かっているはずです。PCさんは、ギルド【IRISイリス】の七人を指定したんです」


 ミミさんの言うとおりだ。初めから、七人という中途半端な人数を指定する理由が分からなかった。その答えは遠まわしに、ギルド【IRISイリス】で挑戦するように促していたのだ。

 ミミさんはポケットから何かを取り出すと、それを持ってイシュラの方へと向かう。そして、彼女にそのアイテムを手渡した。


「イシュラさん、これを受け取ってください」


 ミミさんが渡したのは何かの欠片。原型がなくて、いったいどういった物かも分からなかった。

 イシュラはそれをまじまじと見つめ、不思議そうな顔をする。


「これは……」

「ロストしたコボルトハンマーの欠片です。現状、これを復元する方法はありませんし、それによって貴方の大切なものが戻る保証はありません。しかし、ここには可能性があります」


 たぶん、イシュラにとって大切なものだろう。あいつは眼に涙を浮かべながら、それを力強く握りしめた。

 あいつのあんな顔、初めて見たよ。震えた声で、イシュラは疑問をこぼした。


「あんた、あの緊急事態でずっとこれを探してたの……?」

「私は自分の興味のない事は何をやってもダメです。ですが、興味のある事は何でもできる自信があります」


 ミミさんの天才たる所以。それは好きなことに対する集中力だ。

 本気を出せさえすれば、何でもそつなくこなせるのだろう。例えそれが、彼女の苦手なダンジョン攻略であったとしてもだ。

 ヒスイさんが席を立ち、イリアスさんがミミさんの手を握る。この三人もダンジョン攻略に協力するつもりらしい。


「わいらは生産職やけども、【7net(セブンネット)】と【ROCOロコ】とで協力して【イエロラ大陸】ガンボージ遺跡を攻略してみせたる。それがわいら最後の根性や!」

「私も頑張るっすよ! 砂漠に水がなくなったら、みんな凄く困るっす。古代の王とかよく分からないっすけど、今の人間を苦しめる権利はないっす!」


 ミミさんとヒスイさんは戦闘は苦手だが、レベルだけは高い。百四十人で攻略するこの戦いに参加できる力は持っていた。

 六つの試練にどのメンバーが挑戦するか決まる。これで残るは赤の試練のみだ。

 これがPCさんが望んでいた総力戦。戦闘職や魔法職だけではなく、生産職やNPCも協力して最後の戦いへと挑んでいく。どこか一ヶ所で失敗すれば全てがお終いだ。

 ミミさんは麦わら帽子を外し、俺たちに向かって丁寧に頭を下げる。まるで、全てのプレイヤーやNPCを代表してるかのようだった。


「【IRISイリス】の皆さん。【ディープガルド】を……NPCの未来を頼みます」

「ええ、任せておいて!」


 そんなミミさんに対し、ヴィオラさんは自信満々に笑って見せる。まあ、本当はプレッシャー感じてるんだろうけどな。

 まさか、このギルド【IRISイリス】でラスボスとの決戦になるとは思わなかった。しかも、他のギルドは空気を呼んで、俺たちに託しているという状況だ。

 そう言えば、スマルトの戦いが終わってすぐにここに来たから、互いの情報交換を全くしていなかったな。ぶっちゃけ気まずくて仕方がない。

 アイについての話しもしなくちゃな。あいつの裏切りをなかったことにしないといけないし、どうやって誤魔化そうか……


 いよいよ最終決戦だというのに、俺は逃げ道ばかり考えている。

 こんな事でギルド【IRISイリス】の絆を証明できるのだろうか……

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