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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三日目 妖精の村レネット
19/208

18 (呪)

 しばらくの会話をつづけた後、リュイは俺たちに背を向ける。彼の視線の先はオリーブの森。進む道は同じだが、彼には俺たちと違う目的があるようだ。


「さて、僕はもう行きますよ。今日は討伐依頼を受けていますから」

「そんな……同行しましょうよ! どこへ行くんですか!」

「オリーブの森の奥、妖精の村レネットまで……」

「よ……妖精!」


 リュイの言葉を遮るかのように、アイが声を張り上げる。やはり女の子か、妖精という言葉に過剰反応している様子だ。男の俺にはその魅力など全く分からないが。

 目を輝かせる彼女に対し、リュイは完全に呆れている。


「まだ、話しの途中なんですけど……」

「妖精! 会いたいです! 会えるんですか!」

「会えますよ……やれやれです」


 森の奥という事は、王都を目指す俺たちとは途中で分かれることになる。しかし、今のアイの様子を見る限り、付いて行きたいと言い出しそうだ。また面倒なことになりそうだな……

 騒ぐアイを無視し、一人で森へと向かおうとするリュイ。そんな彼をヴィオラさんが呼び止めた。


「ねえ、私たちも付いて行っていいかしら? あなた一人だと心配だし」

「大きなお世話です。僕の事は放っておいてください」


 とにかく、減らず口の止まらないリュイ。しかし、本人が拒んでいるのだから仕方ない。無理を言うわけにもいかないだろう。

 ……いや、こいつの性格を考えると、押せば乗ってくれるのでは? そんな事を考えていると代わりにアイが押していく。


「妖精に会いたいです。お願いします! 同行させてください!」

「……どうしても、ですか?」

「どうしてもです!」


 リュイは嬉しそうにため息をつくと、森の方へと歩いていく。


「そ……そこまで言うのなら同行してもいいですよ。では、付いてきてください」


 こいつ、実は寂しがり屋なのだろうか。絶対、俺たちが同行することを期待していただろ。

 もしや、俺とアイのトレーニングを見ていたのは、羨ましかったから? だとしたら、この心の問題を解決すれば俺たちのギルドに入ってくれるかもしれないな。

 プライドの高い一本結びの少年、リュイ。彼をパーティに加え、目指すのは妖精の村レネットだ。


 森へと旅立つ前、俺は三人から少し離れ、一人草原で佇む。

 視線の先には名前の刻まれた石。それに向かって、俺は言葉を零した。


「俺……もう行くよ……」


 次にこの場所を訪れる時、少しは強くなっているのだろうか。

 不安で胸がいっぱいだが、それ以上に期待も大きい。限定スキル【奇跡】を携え、俺はヴィオラさんたちの元へと戻るのだった。









 俺たち四人はセラドン平原から、オリーブの森へと入る。

 暖かい光に包まれ、深い緑に囲まれたその森は、正しく最初のダンジョンという雰囲気。正当なルートを通れば、誰もが最初にこのダンジョンを攻略するのだろう。


「オリーブの森……これが、俺たちの初ダンジョンだ」

「え? エボニーの森は……」

「初ダンジョンだ!」


 レベル1でエルブの森に突撃したのは、黒歴史として闇の中に葬ろう。このオリーブの森こそが、俺とアイの初ダンジョン。森はエルブの森とは違い、明るく、平和な雰囲気だ。いかにも妖精が出てきそうで、アイのテンションも上がっている。


 森のモンスターは草原でも現れたキラービーにマンドラゴラ。それらに加え、新たにマタンゴとワームが出現する。

 マタンゴは状態異常を頻繁に使うキノコのモンスター。毒、眠り、麻痺をランダムで使う為、非常に面倒だが、耐性を持っている俺には通用しない。

 厄介なのはワームの方だ。とにかくキモイ、キモすぎる。俺は虫が嫌いだと言っているだろ。巨大な芋虫とか本当に勘弁してくれ、人によってはこの森で詰むだろうが……

 攻撃方法は転がっての体当たり。まだまだ序盤なのでそう強くはないのだが、やっぱりキモイ。




 森を進む途中で、俺のレベルは7へと上がり、新しいスキル【スパナ適正up】を手に入れる。今さら適正スキルかよ……

 アイも同じレベルになり、同じく適正スキルである【大針適正up】を手に入れた。これは、両方とも戦略が広がる事は無さそうだな。まあ、この二つは使用スキル。ほっとけば勝手に成長するので、重要と言えば重要だが。

 俺は自分の持つスキルを一通り確認していく。その中でも異様な雰囲気を漂わせる【奇跡】のスキル。どうやら自動スキルのようで、スキルポイントを振り分けないと強化されないらしい。

 このスキルは限定スキル。現状では俺しか持っていない。

 だが、過去に使っていた者はいるため、何らかの情報があるかも知れない。俺はヴィオラさんに、このスキルを知っているかを尋ねる。


「ヴィオラさん、【奇跡】のスキルって知ってますか?」

「あー、知ってる知ってる。使役士テイマーの女の子が持っていたっていうあの」


 やはり、以前の持ち主の情報が出回っていたか。ヘルプさんの話しを聞く限り、その女性は既にこのゲームを止めているはず。いったい、彼女の身に何が起きたのだろうか。


「あれは都市伝説でしょう? でたらめですよ」

「都市伝説?」


 リュイがヴィオラさんの話しを都市伝説と言う。一体、都市伝説とはどういう事なのか。物知り二人が、俺に向かって話していく。


「ある使役士テイマーが、そのスキルを持っていたらしいですよ。彼女は呪われた少女と周りから蔑まれていました。自分の判断の誤りで、大切にしていたモンスターを死なせてしまい、その日から気が可笑しくなってしまったようですね」

使役士テイマーなのに、モンスターを傷つけるのが怖くて、自分が盾になったりしたらしいわ。あと、戦略の荒い同じ使役士テイマーに向かって、命を何だと思ってるの! って叫んで暴れ出したり……」

「NPCの死亡イベントに号泣して、こんなゲームおかしいよ。狂ってるよ……って言い残して、最後はゲームを止めてしまったようです。現実とゲームの区別が出来ないのは本当に怖いですよ」


 おい……おい……洒落にならんぞおい……

 そうだ、【奇跡】の効果は死んだNPCの魂が見えるというもの。この世界の真理に関わる重要なスキルだ。しかしだからこそ、その重みも半端ない。

 使役士テイマー少女、彼女はそういった重みに押し潰されてしまったのかも知れない。これは、知らない方が幸せだった情報だな……


「現実とゲームの区別と言ったら、昨日レンジも何か言いたげだったわね。この世界は普通じゃないって……」

「あー、その話ですが……取りあえず、僕のスキル欄を見てください……」

「んー、なによ」


 ヴィオラさんたちは、俺のスキル欄を確認する。そこに合ったのは、先ほどの話しにも出たスキル。


【奇跡】


 それを見た瞬間、三人は瞬時に俺から距離を取った。


「だ……大丈夫よレンジ。大丈夫だから、近づかないで」

「レ、レ、レ、レンジさん! 安心してください! 私が付いていますから!」

「何ですか、その反応! 昨日の優しさは何だったんですか!」


 そんな恐ろしいものを見るような目はやめてくれ。このスキルはとても貴重で、とても神聖で、この世界の根本に関わる重要なスキルで……


「串刺しプレイヤーの次は、呪われたプレイヤーですか……勘弁してくださいよ」

「呪いとか言うな!」


 リュイはそれを呪いの一言でかたずける。いや、的を射ているが、酷すぎるだろ……


「大丈夫ですレンジさん! たとえ呪われていても、私はレンジさんを信じていますから!」

「アイちゃん、それフォローになってないから」


 結局、呪いかよ! 誰か、このスキルの価値に気付いてくれよ。限定なんだぞ。

 そう思っていると、ようやくリュイが指摘する。


「でも、凄いですね。これ、限定スキルですよ」

「確かに……冷静に考えたら凄いわね。貴方、才能あるわよ(呪)」

「(呪)をやめてください」


 もう、ヴィオラさんの中では、このスキルは呪いで定着してしまったようだ。かつて、これほど扱いの悪い限定スキルがあっただろうか。恐らくないな。


「とりあえず、【奇跡】のスキルは自動スキルのようだし、当分強化は控えた方が良いわ。たぶん、今の貴方じゃこれを使いこなすことは出来ない。使役士テイマー少女の二の舞よ」

「分かっています。僕の恋人は【状態異常耐性up】一人ですよ」


 恐らく、使役士(テイマー)の少女は、限定スキルという響きに舞い上がって、相当強化したのだろう。その結果、力に耐えきれなくなり、この世界から逃げ出した。

 心が壊れる前に退避したのは正解か。俺も逃げ道は考えておかないとな。







 俺たちはさらに森の奥まで進む。

 新たに現れたダークフェアリーというモンスター。こいつは人より小さい所以外は、ほぼ少女だな……ワンコ以上に倒しづらいぞ。

 しかし、アイとリュイはザクザク倒している。お前らは鬼か、悪魔か。

 だが、早めに倒さなければならないというのは事実。何故なら、このモンスターは初の魔法を扱うモンスターなのだから。


『サンダー!』


 そんな人語と共に、彼女の手から雷の魔法が放たれる。リュイがその直撃を受けるが、序盤という事もあり、威力は大したことはない。

 彼はすぐさまその間合いを詰め、スキルによる反撃を繰り出す。


「スキル【袖摺返そですりかえし】!」


 前衛のマタンゴをすり抜け、後衛のダークフェアリーのみを切り裂く。これは魔法攻撃にカウンターを与えるスキルか。また、使いづらそうなスキルだ。

 しかし、流石は戦闘職だ。俺たち生産職と違って、次々と大技が放たれていく。これなら、技不足に困る事はないだろう。少し羨ましい。



 正直、俺たちは強かった。俺以外の二人は技術が高く、限られた技でモンスターを一掃していく。

 勿論、俺も足を引っ張っているつもりはない。おつむの弱いモンスターの攻撃は、簡単にジャストガードを狙え、尚且つ【状態異常耐性up】もある。ヴィオラさんから渡された状態異常回復アイテムを使いこなし、二人のサポートも完璧だ。ここまで順調だと、本当に気持ちが良かった。


 しかし、ここで非常事態が起きる。

 森も終盤に差し掛かっとき、突如、何処からともなく謎の声が聞こえてきた。しかも、この声は明らかに此方を意識している。俺たちに向かって唱えられているものだった。


「星々の瞬きは……圧倒的銀河力が……宇宙の神秘が……超新星爆発が……」

「何ですか。この異様な呪文は……」

「ヤバいわね。これは絶対モンスターよ……」


 ……ん? どこかで聞いたことがあるような声と内容だ。

 可愛らしい少女の声だが、言葉の意味が全く分からない。もしやこいつは……


「ぎーんがぁ!」

「スキル【初発刀しょはっとう】!」

「……きゃわ!」


 突如、草むらから飛び出す三角帽子の少女を、リュイが見事に切り裂く。

 腹部にざっくりと直撃。彼女は大ダメージを受け、その場から吹き飛ばされる。やがて、少女は苦しそうに立ち上がると、リュイに向かって叫んだ。


「き……貴様何をする……!」

「モンスターではない……」

「あたりまえ……! ボクは人間だ……!」

「そのようですね」


 すぐさま、購入した回復役で彼女の治療をする。可哀そうだが、自業自得なので仕方が無い。こんな目に合いたくないのなら、今後は普通に出てきてくれよ。

 俺は彼女の顔を確認する。やはり、エピナールの街で会った魔道師ウィザードの少女だ。彼女も俺の顔を覚えているのか、こちらに向かって話しかけてきた。


「貴様……あの時の少年だな……!」

「ああ、師匠には会えたのか?」

「うむ……! すぐに逸れたがな……」

「ダメじゃん」


 また逸れたのかよ。何でこうも、師匠と動きが噛み合わないのか。何か理由があるに違いない。

 少女は回復が完了すると、その口を三角に尖らせた。


「そ……そうだ! 師匠を探さないと……!」

「なあ、何でそんなに師匠と逸れるんだよ。迷子気質か?」

「ち……違う! それは、師匠が逃げるから……!」


 逃げる……? おい、こいつは何を言っているんだ。師弟関係なのに逃げるとはどういう事だ。それは本当にお前の師匠なのか?

 ためしに、俺はこんな質問をしてみる。


「なあ、お前の師匠は、本当にお前の師匠なのか?」

「あ……当たり前だ! ボクは常に師匠の後をつけ……! 常に師匠を影から見守り……! 師匠もボクを見ると、嫌がっているふりをして喜んでいる……!」


 本当に、何を言っているんだこいつは……それは、師弟関係じゃないだろ。それは……


「それはストーカーです!」


 リュイからつっこみが入ったか。

 しかし、男の影響を受けて口調やキャラを変え、なおかつストーカー行為。この歳でこれかよ。将来が不安だというレベルではないぞ。いや、こんなゲームをしている時点で将来詰んでいるような気もするが……


「ぼ……ボクは魔道師ウィザードのルージュ……! 師匠を探すために、同行させてもらうぞ……! 銀河ぁ!」


 前回と違い、完全にテレが無くなり、ノリノリのルージュ。

 あー、また変な奴がパーティに入ってしまったか。不安ではあるが、魔法職に対し期待もある。

 俺はまだ、プレイヤーが魔法を使っているのをはっきりと見ていない。彼女は魔道師ウィザード、その魔法技術のお手並み拝見だ。

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