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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目~五十日目 ソルフェリノの大穴
188/208

187 最後の一人『PC』

 強大な攻撃魔法を扱うPCさん。この世界の神と言える存在だが、最低限のルールは守っているらしい。使用するジョブもスキルも俺たちと同じ、魔法はお店で買える属性魔法のようだ。

 彼女は詠唱を開始し、俺に向かって狙いを定める。まずは一番邪魔な存在を抹消しようってわけか、的を絞ってくれて助かるよ。

 

「スキル【風魔法】ウィンディス」


 中位魔法とは思えないような暴風がこちらに向かって放たれる。風は床を抉りつつ迫るが、対処できないレベルではない。

 ようは威力が高い【風魔法】だ。【魔法攻撃力up】を限界まで鍛え、プレイヤーレベルを100超えればこうなるだろう。しかし、当たらなければどうという事はなかった。

 また、発動速度から見るに【詠唱速度up】のスキルは鍛えられていない。火力だけの鈍足攻撃だな。敵が詠唱をしている間に、俺はロボットの加速スキルを発動する。


「スキル【加速ブースト】!」

「レンジ、俺様もサポートするぜ。スキル【クイックステップ】!」


 男ノランが後衛につき、華麗なステップを刻んでいく。魔法に巻き込まれないギリギリの距離を保ち、守りの方も完璧だ。

 彼が使ったのはスピード上昇のスキル。効果の影響を受け、俺はその場から一気に退避する。同時に、敵の魔法が先ほどいた場所を直撃した。

 暴風は床をクレーターのように刳り、周囲にその衝撃を与えていく。これは、まともに受ければ一発でゲームオーバーだろう。回避するのが正解だな。

 相手は魔法職、近づいてラッシュを加えれば勝利も見えてくる。だが、俺は一つ調べたい事があるため、遠距離スキルで敵を狙い撃った。


「スキル【光子砲レーザー】!」


 ロボットの胴体から放たれた光線が、彼女の左脇腹を撃ち抜く。しかし、ダブルブレインと同じように、その傷口は瞬時に再生されてしまった。

 NPCだから攻撃が通らないという事はなさそうだ。こっちとしては嬉しい結果だが、同時に疑問もわいてくる。

 戦闘キャラではないNPCをプレイヤーは傷つけることが出来ない。逆に戦闘キャラならばNPCにもHP(体力)ゲージが存在しているはずだ。そのどちらでもなく、ダブルブレインと同じ再生なのはどういうことだろうか。

 まあ、その解明は後だ。相手さんも次の魔法を撃ってくるみたいだしな。


「……スキル【土魔法】クレイリスオール」

「全体攻撃ですね」

「冷静に言ってる場合じゃないわよ!」


 ミミさんの天然に対し、イシュラも的確に突っ込んでいく。

 ついに来たか全体魔法。地面から土が迫り上がり、それらはPCさんの周囲へと広がっていく。俺は自分の技術で回避出来る自信があるが、他の奴らまで面倒は見切れないぞ。

 そんな事を考えていると、ノランとシュトラが防御行動へと移っていく。二人はそれぞれスキルを使用し、魔法を受けきる作戦に出た。


「スキル【ポルカ】! 避けれないのなら、俺様の陣から出るなよ!」

「ヒーラーのノランくんだけでも! スキル【属性耐性付与魔法】土の印!」


 【ボルカ】は魔法防御力を上昇させるスキル、【属性耐性付与魔法】は強力な属性耐性を得るスキルだ。前者はノランの周囲全てにおよび、後者はヒーラーの彼にかけられる。よし、これなら充分に敵の魔法を耐えれるぞ。

 俺はロボット走らせ、足元からせり上がる地面をかわす。それと同時に、敵の魔法がイシュラたちを呑み込んでいった。魔法防御力が上がっているものの、その威力は絶大だ。

 すぐに、ノランはミミに指示し、回復動作へと移っていく。普段はボケた事ばかり言っているが、あいつの指示やサポートは常に的確だった。


「ミミ、オート回復だ! スキル【ワルツ】!」

「了解です。スキル【生命の木】」


 【ワルツ】のステップと癒しを与える植物が、イシュラたちを永続的に癒していく。これに耐性や魔法防御力上昇を加えれば、敵の攻撃を粘り続けることが出来るだろう。

 あいつらには悪いが、ここは囮になってもらうか。俺は彼女たちに背を向け、PCさんの方に向かってロボットを走らせる。遠距離戦が得意な魔法職は、接近戦で叩き潰すのみだ。

 機体の両腕を動かし、神と名乗る存在をとにかくラッシュで殴りつけていく。やはりAGL(素早さ)が低いのか、こちらの動きには全くついていけいない様子だ。 


「どっらあああああ!」


 とにかく、何度も何度も殴りつけていく。行ける……この勝負勝てるぞ!

 俺がそう思った時だった。殴りつけられながらも、PCさんはため息交じりで言葉をこぼした。


「……もう終わりにしましょう。スキル【雷魔法】サンダリジョンオール」


 彼女は体の崩壊などお構いなしに、魔法の詠唱を開始する。

 確かにこの方法なら俺は回避行動に移れない。加えて、放たれようとしているのは最強の【雷魔法】という絶体絶命の状況だ。

 さて、どうすっかな……ここで攻撃を中断しても、魔法から逃げきれる自信はない。

 避けれるかも分からない回避に移るより、このまま殴りつけて再生力を削った方が有意義か。記憶操作システムが破壊されている以上、ゲームオーバーになっても操作を受けることはない。

 一つ怖いのは、PCさんが何か細工をしているという事。場合によっては、デスゲームで命まで落とすって事になるかもな。

 まあ、その時はその時だな。そうならない事を祈るまでだ。


「攻撃は中断しない……! ノラン、後は頼んだぞ!」

「レンジ……!」


 PCさんの両手に膨大な電撃が走る。瞬間、それらは一気にこちらに向かって放たれた。

 上位魔法のリジョン系に加え、全体攻撃であるオール効果も持っている。俺だけではなく、黄色い雷は地下室全てへと広がっていくだろう。

 ノランやイシュラは大丈夫だろうか? 俺がゲームオーバーになっても、PCさんを止めれるのだろうか? まあ、考えていても仕方がない。とにかく攻撃を受け、ゲームオーバーになってから考えよう。


 そう思った時だった。


「ゲームオーバーなど認めませんよ。貴方を倒すのはこの私ですから。スキル【マジカルクロス】アイテム、雷神の羽衣!」


 俺の前に一人の少女が立つ。彼女は最上位の防具を消費し、自らに強力な雷耐性を付与する。そして、両腕を広げ、敵の全体攻撃を一挙に引き受けた。

 周囲に雷が走り、俺の体にも強い痺れが走る。しかし、目の前の少女が受けた衝撃は、それとは非にならない物だった。

 彼女は歯を食いしばり、雷鳴全てを受けきる。僅かに残ったライフのまま、鋭い眼光でPCさんを睨んだ。まったく、敵に回すと恐ろしかったが、味方になるとここまで心強いのかよ。


「アイ……! 無茶しすぎだ!」

「アイ……なのか……? スキル【回復魔法】ヒールリス!」


 驚きながらもノランがすぐに回復魔法を使用する。そう言えば、こいつらはしばらくアイと会っていなかった。まさか、感動の再開がこんな事になるとはな。

 シュトラは同じように驚き、ミミは状況を把握していない。そして、イシュラは何故か「待っていた」という表情をしている。反応は様々だ。

 そんな中、ノランは男姿の涙を見られたくないのか、【防具変更】のスキルによって少女の姿へと変わる。そして、頬に涙を流しながらこちらへと走り寄る。


「アイちゃん、お帰り……!」

「た……ただいま……いえ、今はそれどころではありませんね」


 いきなり抱きつかれ、困惑するアイ。何だかんだで助けに来るなんて、こいつもアスールさんに負けず劣らないツンデレじゃないか。流石は俺のお姫様といったところだな。

 姫と呼ぶにはお転婆すぎる彼女は、煙たそうにノランを振り払う。そして、先ほどと同じように再びPCさんを睨み付けた。

 一応姉妹関係のはずだが、敵意と殺意が凄まじい。そんな彼女に対し、PCさんは珍しく笑顔をこぼした。


「アイさん……裏切ったのですね」

「裏切る? 私は最初からお姉さまに協力する気などありません。それなら、彼らと馴れ合った方がよっぽどマシですね。まあ、解せない気持ちもありますが……」


 アイのキャラは以前とは全く違う。ノランとシュトラは困惑の表情を見せているが、イシュラは素っ気ない態度だ。あいつも本質を見抜いていたのだろうか。

 俺は裏切りの全てを無かったことにするつもりだから、こう露骨なキャラチェンジは止めてもらいたいんだけどな……

 まあ当然、あの女がそんな事を気にするはずがない。威圧的な態度のまま、アイは視線を俺に向ける。


「レンジさん、負けは負けです。彼女を倒すまでは協力しましょう」

「ああ、お前が味方なら心強いよ」


 何だか思っていたのとは違うが、一応アイを取り戻せたという事にしよう。言動から察するに、これ以上の嘘偽りはないようだしな。あとは時間をかけて分かりあっていくしかない。

 さて、こいつが味方になったのは嬉しいが、状況は何一つ変わっていないんだよな。PCさんの魔法は桁違いの威力だし、再生力も全く衰えを見せていない。正直、全く勝ちが見えない状況だ。

 彼女は両手を広げ、そこに水のエネルギーを集めていく。これはまた大魔法が発動させるんだろう。


「ここまで耐えるとは見事ですね。ですがもう容赦しませんよ? スキル【水魔法】アクアリジョンオール」


 彼女の放った【水魔法】は大津波となり、俺たちの頭上から襲い掛かる。地下室全てを巻き込む大魔法に対し、こちら全く成す術がなかった。神だというのも頷ける絶望だ。

 水に飲み込まれれば一発でゲームオーバー。だが、逃げる場所もない。

 相殺するなんてもっての外だ。この魔法に対抗出来る技を持っていないのだから。


 考えても、打開策が浮かばない。

 俺は理解する。圧倒的力というものには策略など無意味だという事が……


「スキル【撃ち崩し】!」


 諦めかけたその時、後方から放たれた矢がPCさんの頭部を貫く。同時に、彼女の放った【水魔法】に僅かな歪みが生じた。どうやら、魔法のコントロールを邪魔されてしまったらしい。

 俺は声の響いた方向を見る。すると、そこには名前も知らない弓術士アーチャーが立っていた。

 いや、彼だけではない。弓術士アーチャーの他にも、剣士ソードマン戦士ナイト僧侶プリースト。誰一人名前を知らないが、彼らは俺たちを助けるためにスキルを発動していく。


「まっにあえー! スキル【防御魔法】リフレクトオール!」

「あいつが敵だな。スキル【アサルトブロウ】!」


 再び【水魔法】による津波が襲い掛かるが、それは僧侶プリーストの発動したリフレクトオールによって弾き返される。それと同時に、剣士ソードマンのプレイヤーがPCさんに向かって斬りかかった。

 弾き返した激流に剣士ソードマンの一閃が加わり、彼女の肉体は一気に粉砕される。しかし、1と0の傷口はまたも再生されてしまった。まだまだ、余裕という事だろう。

 

 それにしても、この人たちはいったい誰なんだ……?

 数人だったプレイヤーは十、二十と増えていき、彼らは一斉に攻撃を加えていく。これほどの大人数が全員味方という事で良いんだろう。

 俺は考える。その結果、今現在がスマルトの戦いの真っ最中だという事を思い出した。

 そうか……俺たちが粘っている間に連合軍が王宮を突破し、ついにこの場所まで辿り着いたんだ。ギルド【エルドガルド】に完全勝利し、彼らは俺たちの戦いに参入したんだ。

 俺が呆然とプレイヤーたちを見ていると、聞き馴れた声が耳に入る。


「さあ、反撃開始だ!」

「いいネー。ラストバトルって感じだネ」


 【エンタープライズ】のハリアーさんに、【漆黑しっこく】のクロカゲさん。


「お前たち、よく頑張ってくれた。あとは私たちが引き受けよう!」

「イシュラ、君は本当に凄い。だけど、僕も先輩としての示しを付けさせてもらうよ」


 【ゴールドラッシュ】のディバインさんに、元騙し討ちのヴィルリオさん。みんなそれぞれの戦いに勝利し、ここまで来てくれた。【ディープガルド】の上位プレイヤー大集合だった。

 最高のメンバーに、最大の人数。俺たちの持てる全ての力を出し尽くし、PCさんに攻撃を加えていく。


 行ける。勝てる。

 魔導師ウィザードであるPCさんにこれ以上の切り札はない。どんなに強大な大魔法であろうと、数の力で圧倒すれば対処できるんだ。ついに、俺たちの戦いはここで終わる。

 結局、彼女のことを何一つ理解出来なかったのが心残りかな。でもまあ、みんなの力を合わせて強敵を倒すというのも王道か。


 ようやく、俺の因縁も……


「皆さん、本当に元気がいいですね。スキル【攻撃召喚魔法】バハムート」


 今、PCさんは何と言った……?

 【攻撃召喚魔法】……? 召喚術……? 何だよそれ、そんな魔法まったく聞いてないぞ……

 だって、PCさんは魔導師ウィザードで……だから属性魔法を使って……


『グギャアアアアア……!』

「嘘……召喚術士サモナーだったの……」


 俺の考えを否定するかのように、真っ白い翼を持ったドラゴンが魔法陣から姿を現す。そして、地下室全てに響く咆哮を上げた。

 イシュラは膝を落とし、あの冷徹なアイも流石に表情を崩している。普通に魔法を使っているだけで最強だったPCさんが、まさか召喚術士サモナーだったなんて……

 そして、まずい。彼女が使ったのは【攻撃召喚魔法】。ペットキャラクターとして共に戦う【従属召喚魔法】とは違い、このスキルは召喚獣が一発技を発動するスキル。MPの消費は大きいが強大な攻撃魔法だった。

 来る……竜の王と呼ばれる召喚獣、バハムートの技が……


「放ちなさい。【メテオブレイズ】」


 PCさんの指示と共に、バハムートは口に高熱のエネルギーを溜める。

 やがて、そのエネルギーは俺たちに向かって放たれ、地下施設の全てを消滅させていく。壁も、床も、ルルノーさんの作った記憶操作システムも。何もかもが全て光のエネルギーによって消滅していった。

 何人ものプレイヤーが呑み込まれ、一瞬にしてゲームオーバーとなってしまう。しかし、俺はまだここに立っている。ノランが【ポルカ】の効果によって、自分の周囲を守っていたのだ。


 光の中で、プレイヤーたちはそれぞれの策で生き残りを図る。まだだ……まだ終わっていはいない。

 俺たちゲームプレイヤーは誰一人諦めてはいなかった。

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