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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目(午後) セルリアン雪原
176/208

175 神を越える神こそ真の神

 スマルト王宮の地下。そこで私たちは、この世界の神である存在と対峙していた。

 NPCの管理プログラムであるPC。彼女は透き通った瞳で私たちを見つめる。いったい何を企んでいるのか、どうにも読めないわ。

 とにかく単刀直入に色々聞いてみましょう。敬語を使ってて、話も通じるみたいだしね。


「あんたが【ダブルブレイン】の親玉なの……?」

「少し違いますね。私は切っ掛けにすぎません。この世界でのあらゆる行動は全て【ダブルブレイン】個々によるもの。私の指示ではありません」


 つまり、今までの事件はエルドやルルノーの指示でやったってことか。切っ掛けと言うからには、何かしらのサポートはしたんでしょうけど。

 元々、ダブルブレインの奴らは普通の人間だった。そんなあいつらが特別な存在になるには原因が必要なのは確か。それが、多分こいつなんでしょう。

 ミミ同じことを思ったのか、さらに突き詰めて追及していく。


「では、質問を変えます。貴方がルルノーさんを導き、【ダブルブレイン】誕生の手解きを行ったのですか?」

「パチパチパチ、正解です。確かに私が彼らを招集し、知識を与えました。勿論、その命を奪ったのも私ではありません。彼らは自ら死を選び、ダブルブレインとして生まれ変わったのです」


 薄ら笑いをしながら、PCは両手を叩いた。

 黒か白か探りを入れていたけど、今の言葉で分かったわ。やっぱりこいつは黒よ。直接指示はしてないけど、遠まわしに【ダブルブレイン】を操作していたのは間違いないわね。

 でも、こいつはNPCなのに、何で現実と仮想世界の逆転計画を促したのかしら。あの計画って、つまらない現実をゲームの世界に変えようって計画よね? こいつには関係ないじゃない。

 そんな疑問を少女ノランが問質す。瞳に涙を浮かべ、本気で怒っているように感じるわ。


「なんで……なんで神様のPCちゃんが【ディープガルド】を滅茶苦茶にするの! ノランちゃん分かんないよ……たくさんのNPCが消えちゃんたんだよ! PCちゃんも同じNPCじゃないの!」

「神と言っても、所詮は管理するためだけの存在。私の力で何かを生み出すことは出来ません。だからこそ、こうやってルルノーさんのプログラムを拝借しようとしているわけですが……」


 そう答えると、PCは壊れた記憶操作システムに手をかざし、0と1の情報数列を読み解いていく。

 こいつ、データ世界を管理するプログラムの癖に、新しいデータを作ることは出来ないのね。やっぱり、0と1で世界を構成するには人間の力が必要って事なんでしょう。

 だからこいつはルルノーに取り入ったんだ。ずっと、計画を実行してくれる人間を探していたのよ。


「NPCの皆さんには申し訳ありませんが、計画実行のために消えてもらいました。私の力で魂を作り出すことは出来ないので、運営が作ったものを盗む必要があったのです。それと、私は他のNPCとは違います。これでも自らを最高傑作と自負していますので」


 運営から盗むって事は、運営との繋がりは薄いみたいね。【ディープガルド】開発者で、VRMMO第一人者であるDr.ブレインが黒幕かと思っていたけど……どうも、実際は全く違うみたい。

 でも、それなら運営の邪魔が入らない事に説明が付かないわ。苦労して作ったNPCの魂エネルギーを奪われたら、普通怒って対処法を打つはずよ。何で指を咥えて見ているのかしら。


「そんな事して、運営も黙っていないでしょう。あんた、Dr.ブレインと繋がっているんじゃないの……?」

「計画に関して、マスターは一切の口出しをしていません。おそらくは黙認という事でしょう」


 つまり、知ってて黙っていたわけね。理由は分からないけど、どうにも胸糞悪いわ……

 PCは機械にかざしていた手を放し、体を私たちに向ける。そして、さらに詳しい内情を説明していった。


「ディープは深い。ガルドは世界を意味します。深層心理の深い場所にある世界。それこそがこの【ディープガルド】です。ここは人間の心理、心や感情の調査を行う実験施設。私の行動も、貴方がたの行動すらも、全ては研究の一環なのでしょう」


 VRMMOは人間の精神をコンピューター世界に送るもの。まだまだ研究段階で、これから更なる進化が求められるわ。

 つまり、運営の奴らはゲームユーザーをモルモット代わりに使っているって事かしら。確かに、ゲームという餌で釣れば大量の素体が手に入るわね。気分は悪いけど、効率的なのは確かだった。


 ここまでの話を聞く限り、やっぱりPCは運営サイドだと思えて仕方ない。間接的にあいつらの研究を手伝っているんですもの、当然そう思うわ。

 ミミはその事について、さらに突き詰めて門質していく。相手は何も隠す気はないみたいだし、こうやってどんどん聞いていった方が良いでしょう。


「つまり、貴方は自らのマスターのために、研究に身を投じたというわけでしょうか?」

「全然違います。全ては私自信のため。現実の神から世界を奪い、この手に勝利を収めること。それこそが私の翠光なる目的です」


 運営とこいつの目的は違う。ただ、利害が一致しているだけって事か。

 それにしても、現実の神から世界を奪うってのは訳が分からないわね。確かに、現実世界の人間を全てダブルブレインに変えれば、そういう事になるのかもしれないわ。

 でも、やっぱり分からない。だって、私は神様なんて信じていないもの。私からしてみれば、PCは居もしない存在に対して敵意を燃やしているのと同じよ。


「神……? そんな居るか居ないかも分からない奴のために! 人間の記憶を操作して好き勝手やったっていうの!? わっけ分かんないわよ! あんた頭おかしいんじゃないの!?」

「現実の神から人を奪い、仮想の神である私がそれらを統治する。それによって、仮想が現実を越えたと証明することが出来ます。神を越える神こそ真の神なんですよ」


 なによこいつ……自分が本当の神にでもなるつもりなの? 人間に作られた癖に好き勝手言って……

 やっぱりこいつは敵よ。敵の中の敵、キングオブ敵。ボコボコにしないと絶対にヤバいわ。

 エルドとルルノーを倒したことで、今回の計画は阻止したかもしれない。だけど、回収したルルノーのプログラムを使って、こいつは一から計画を練り直すでしょう。ここで逃がすのは危険すぎるわ。

 そんな危険すぎるあいつは、視線をミミの方へ移す。そして優しくほほ笑み、誘うような言葉を放っていく。


「ミミさん、貴方はルルノーさんの思想に賛同する姿勢がありました。どうでしょう、彼に代わってこの計画に着手するというのは?」

「断ります。能力を持っている事と、それを積極的に使うかという事はまた別の問題。私はただゲームを楽しんでいただけですし、プログラミングに関して首を突っ込むつもりはありません」


 やっぱりこいつ、頭がいいのね。ボケているけど、こういうゲームやプログラムに関しての知識は凄いのかしら。本当の天才って奴なのかもしれないわ。

 そんな天才のミミは、敵の誘いを断る。一先ずは安心だけど、いまだにこいつの内情が全く分からない。もう、本当に最後の最後だし、ここはハッキリさせてもらいましょう。


「本当にあんた何者なのよ……」

「本当に何者でもないです。ただ、趣味でゲーム制作をしていて、ルルノーさんともその繋がりで知り合いました。疑う気持ちは分かりますが、本当に唯の趣味人なんです。完全に巻き込まれてしまいました」


 ようやくこいつの事が分かったわ。才能が有りすぎて周りが持ち上げまくってるだけで、本人は特に興味がなかったって事かしら。

 何というか、色々と災難だったわね。でも、そのおかげでこいつはルルノーと知り合いになれた。最後は分かれることになっちゃったけど、多分それまでの時間は幸せだったんでしょう。

 なんだ……結局こいつもただの人間じゃない。


「貴方の計画を邪魔する気はありません。ですが、ルルノーさんが犯した罪はギルドマスターである私の責任でもあります。知ってて何も出来なかったのも事実ですね。これでも怖かったんです。あのままの時間が続けばいいと逃げてもいました」


 ミミは畑仕事用の鍬を前に付きだし、防御の態勢に入る。まさか、戦う気なの……?

 

「私は戦いが苦手で弱いです。ですが、せめて盾にでもなってやるつもりです。それが、ルルノーさんを止めれなかった私のけじめですから」


 顔はいつもと変わらない無表情。だけど、今のミミは何かが違った。

 あんた、弱っちいくせに粋がるじゃない……悪いけど、非戦闘員を前に立たせるほど私は屑じゃないわ。戦うのは、戦闘スキルを鍛えた私たちの役目なんだから。

 私がミミを払いのけて前に出ると、少年ノランとシュトラも同じように前に出る。やっぱり、みんな考えている事は同じか。


「レディを盾にするのは気が進まないな。あとは全部俺様に任せておきな」

「わ……私も頑張るよ! すっごい怖いけど頑張るよ!」


 敵がどんな手を使ってくるか分からないけど、やっぱり力で対処するしかないわ。このまま放っておいたら、私たちは無傷かも知れないけど世界がヤバい。このPCって奴、目が本気だもの。

 管理プログラムっていう言うからには相当強いんでしょうけど、ここで戦えば戦闘方法ぐらい分かるでしょう。記憶操作装置は私が破壊したし、ゲームオーバー覚悟で情報を探るのは正解ね。

 とにかく速攻。私は予備のミスリルハンマーを装備し、それに【武器解放】を掛けようとする。


「スキル、武器解……」

「スキル【炎魔法】ファイア」


 敵の……PCの詠唱が聞こえた瞬間だった。

 小さな火の粉が放たれ、それが私たちの横を通過する。同時に後方から凄まじいほどの爆音が響き、強い衝撃を背部から感じられた。

 破片が飛んできたのか、背中が僅かに痛い。いえ、そんな小さなダメージなんてどうでも良いわ。それより、後ろで何が起こっているかよ。

 私は恐る恐る後方へと振り返る。


「なによ……これ……」


 さっきまであった地下の内壁は、今の魔法で完全に消し飛んでいた。

 ここまで威力ある【炎魔法】、今までに見た事ない。これほどのファイアリジョンを使えるなんて……いえ、違うわ。あいつの詠唱を思い出して、私の背筋は凍りつく。

 ファイアリジョン……? あいつはそんな魔法使ったっけ……?


「一度、言いたかった台詞があります。今のはファイアリジョンではありません。ファイアです。って、ネタが少々古かったですか」


 哀れむような表情で、PCはそう言った。冗談のつもり……? 全く冗談じゃないわよ……

 でも、決定ね。神にもジョブはある。あいつは間違いなく魔導師ウィザードよ。魔法の威力から考えても、まず間違いないわ。

 もっとも、分かったところで何も出来ないんだけど……


「次はファイアリスを放ちます。出来れば素直に退いてほしいのですが」


 私たちは思わずたじろいでしまう。次に敵が使うのは、ファイアより威力の高いファイアリス。たぶん、ノランの【ポルカ】で魔法防御力を上げても耐えられないわ。

 意地を張ってないで素直に退く……? どの道、ここでこいつを止める事なんて出来ない。ゲームオーバーになっても大して状況は変わらないでしょう。

 だけど、こっちもヴィオラを残してるし、ミミの覚悟にも答えたいのよね……無理なのは分かってるけど、心だけは絶対に折れちゃダメよ。例えゲームオーバーになっても、こいつに負けを認めるのだけは嫌!

 そう思った時だった。私が動くよりも早く、少女ノランがナイフを持って走り出す。


「私は逃げない! スキル【ポルカ】……!」


 アイドルのような衣装をした踊子ダンサー。ずっと正義感を抑え込んでいたみたいだけど、ついに限界になったみたい。

 魔法防御力を上げる【ポルカ】を踊り、彼女は敵の懐へと張り込む。だけど、それはもう遅かった。すでに、PCは魔法の詠唱へと入っていたんだから……


「残念です。スキル【炎魔法】ファイアリス」


 その瞬間、私の視界に紅蓮の炎が広がる。さっきまでノランがいた空間は、一瞬にして赤く塗りつぶされてしまった。

 それでも、私は何も出来ない。こんな威力の魔法を気合いや勇気でどうこう出来るはずがないわ……


 ただ呆然と見つめるしかない。今の私はただゲームオーバーを待つだけだった……


「ここまで頑張ってくれてありがとう。感謝してもしきれないよ」


 そんな私の耳に、聞き馴れたあいつの声が響く。

 幻聴……? それを疑ったけど、私と同じようにシュトラも驚いてるから違うわね。

 声の主は鉄のロボットに乗り、赤い炎の中から突然飛び出す。蒸気を吹き上げ、歯車はギシギシと音をたて、機体はギリギリのところで火炎の直撃を回避していた。

 マシンの腕にはノランが抱きかかえられていて、彼女の救うために無茶をしたって分かったわ。こんな事が出来る奴なんて、一人しかいない。

 助けられたノランが声を放つ。


「待ってたよ……王子様!」

「待たせてごめん。でも……俺はお前の王子様にはなれない。予約がいるからな」


 猫耳バンドを付けた機械技師メカニック、ギルド【IRISイリス】のレンジ。こいつ、こうも最高にカッコいい場面で現れて……

 最低よ……もっと早く助けなさいよ! バカバカバーッカ!

 ノランを救いだしたレンジは、私たちの隣に彼女を下ろす。また急に現れて混乱させて……ふざけないで! 私だって何も知らないまま終わるのは御免よ! あんたの戦いを教えてもらうわ!


「聞かせなさい……ここまで何があったのか!」


 ロボットに乗ったレンジに飛びかかり、私はそのスパナに手を触れる。それと同時に、私の頭に大量の情報が流れ込んできた。

 そうか……こんな事があったのね。

 私たちがこの【ディープガルド】で戦っている間。現実世界でも一悶着あったみたい。

 この世界での戦いが夢の戦いなら。レンジの戦いは現実の戦い……


 それは、あまりにも醜く、そして儚い。人間の進化を証明する戦いだった。

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