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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目(午後) セルリアン雪原
171/208

170 怒りの一撃

 ハリアーが参戦した事により、ラプターの視線は彼女の方へと向かう。ラプターは元々【エンタープライズ】のメンバー。既にアスールのことは眼中にないようだ。

 アスール自身も、ラプターとの決着を考えていない。確かに彼女と討伐依頼を熟した事はあるが、そこまで深い因縁を持っていないからだ。

 ハリアーはバルコニーに叩きつけた錨を振り上げ、アスールの方へと視線を向ける。どうやら、戦いの邪魔をしてしまったという気はあるらしい。


「譲れアスール。こいつとの因縁は私の方が根が深い」

「ああ、もとより勝気はなかったしな。そこで黙って見ているさ」


 そう言うと、アスールはベレー帽を外し、バルコニーの隅に腰を落とす。そして、持っていた回復薬を一気に飲み干した。

 これは【エンタープライズ】の戦い。手出しするのは野暮というものだろう。何より、彼はハリアーを全く心配していなかった。


 氷雪の街に雪がちらつく。スマルトの街での戦いもいよいよ佳境。そして、ここでもまた一つの戦いが終わろうとしていた。

 ラプターは冷や汗を流しつつも、元上司であるハリアーと向き合う。二丁のサンダーバレットを構え、その銃口を相手のクリティカルポイントに向けた。


「ヤッハー、いくよハリアーちゃん! スキル【アサルトショット】!」

「スキル【パイレーツガード】」


 二丁の銃から同時に放たれる弾丸。強襲スキルは出が速いが、ハリアーはシンプルなガードスキルで受け止める。

 海賊パイレーツのスキルに小細工はない。【パイレーツガード】はSPスキルポイントを使う高性能ガードだった。

 そんなガード上に、ラプターは弾丸を放っていく。どこかで【リロード】したのか、アスール戦で撃ち尽くした弾丸も元に戻っていた。


「ハリアーちゃんって、結構世話焼きだよね。わざわざ私を倒しに来るなんて嬉しいな!」

「ふん、微塵も思っていないだろう。よく言うものだ」


 ラプターは雷の属性特化。錨によるガード上から、その電撃は確実にライフを奪っていく。

 しかし、ハリアーは下手に動こうとはしなかった。怒りに身を任せているわけではなく、以外にも慎重な姿勢だ。

 痺れを切らしたのか、ラプターはスキル攻撃によって追撃に出る。


「スキル【アイスショット】!」

「スキル【ロープアクション】」


 氷属性の弾丸を放つ【アイスショット】。その凍結効果を恐れたのか、ハリアーはロープをバルコニーの手すりに巻きつける。そして、それを一気に手繰り寄せた。

 手すりへと引っ張られ、彼女は後方へと退避する。それによって氷弾を回避したが、距離をとれば銃士ガンナーの思う壺だ。


「逃げるなら、狙撃しちゃうから! スキル【スナイプショット】」

「ふん! その程度か」


 距離のある敵を撃ち抜く【スナイプショット】。その弾丸をハリアーはまともに受けてしまう。

 だが、それは攻撃に転じるための必要経費だ。なぜなら、すでに彼女は巨大錨を振りかぶっていたのだから。


「スキル【トマホーク】!」

「くっ……!」


 振り抜いた錨はハリアーの手を離れ、ラプターの元へと飛んでいく。海賊パイレーツのスキル【トマホーク】。【武器投げ】より威力が高く、投げた武器も手元に戻るスキルだ。

 そんな重火力攻撃をラプターはガードによって受けてしまう。ハリアーのスキル技術によって、ジャストガードを狙えなかったようだ。

 当然ガード上から大ダメージを受け、動きも止まってしまう。ここから、ハリアーは怒涛の攻撃に出る。


「スキル【ドルフィンキック】」


 先ほど引き寄せられた手すりを、今度は両足によって勢いよく蹴っ飛ばす。その反動により、ハリアーは敵の目前へと飛ばされていった。さながら【ダッシュ】のスキルのような距離のつめ方だ。

 彼女は飛ばされた勢いを維持しつつ、左手を床につける。そして、そのまま両足をラプターの顔面に打ち付けた。


「スキル【サマーソルト】!」

「うぐ……流石だね……でも! スキル【ショットガン】!」


 蹴りによる攻撃を与えたのと同時に、投げた巨大錨が手元に戻る。しかし、その隙を利用され、ラプターの拡散弾がハリアーの身体を撃ち抜いた。

 本来拡散するはずの弾丸。それを近距離で受ければ全弾命中だ。一気にライフは削られ、更に敵の起点にされてしまう。


「スキル【ボムショット】! スキル【パワーショット】!」

「ちっ……! スキル【パイレーツガード】」


 二丁拳銃の使い分けだ。一つ目の銃は【ボムショット】によってハリアーを吹き飛ばし、二つ目の銃はさらに追撃していく。

 【ボムショット】の爆風はクリティカルで受けてしまったが、【パワーショット】による高威力弾丸はなんとかガードする。ライフはだいぶ減ったが、銃弾が減ってきた今攻める以外にない。


「スキル【ドルフィンキック】! スキル【スカルクラッシュ】!」


 今度は床を両足で蹴り、勢いをつける。そして、防御力を低下させる【スカルクラッシュ】によって巨大錨を振り抜いた。

 だが、重いその攻撃ではラプターを捉えることは出来ない。彼女はバルコニーを蹴り、空中へと飛び上がってしまう。


「スキル【ジャンプ】! スキル【リロード】!」


 攻撃を空振りしたことにより生まれる隙。それを利用してラプターは空中で銃弾を補給する。

 これは不味いな……アスールは内心そう思ってしまう。ここで【リロード】を許してしまったのは非常に痛い。しかし、ハリアーは冷静そのものだった。

 空中から降下するラプターは銃口を向ける。それに対し、ハリアーは錨を振りかぶって対抗姿勢を見せた。いよいよ、決着の時は近いだろう。

 ラプターは笑う。瞬間、彼女の拳銃から弾丸が放たれた。


「いくよ、私の必殺! スキル【サンダーショット】!」


 雷の属性特化であるラプターが放ったのは、元々雷属性のスキルである【サンダーショット】。属性が重なることはないため、このスキル効果に意味はない。このスキルを選んだのは、恐らくラプターのこだわりだろう。

 雷に対する絶対的な信頼。当然、自信あっての選択だ。

 そんな彼女に対し、ハリアーは錨を振り抜こうとしなかった。別のスキルを使用し、防御の体制に出る。


「ぐ……スキル【パイレーツチャージ】」

「なんとか耐えたね。でも、まだまだだよ! スキル【サンダーショット】!」


 着地したラプターはさらに【サンダーショット】を放つ。ハリアーのライフは残り僅か、この攻撃を受ければゲームオーバーだろう。

 当然、彼女が諦めるはずがない。重い碇を掲げつつも、何とか回避へと移る。


「……スキル【パイレーツチャージ】」

「ハリアーちゃん、この【ディープガルド】は今すっごく混乱してる。本当に本当に毎日がお祭り騒ぎだよ!」


 雷を帯びた弾丸をかわし、ハリアーはスキルを重ねていく。その顔は全くの無表情。恐らく、ラプターの言っている事など全く心には響いていないだろう。

 しかし、そんな事もお構いなしに銃士ガンナーは言葉を連ねていく。まるで、同意を求めているかのようだった。


「このお祭りは終わらないよ。もっと、もっと盛り上げていかないと!」

「……スキル【パイレーツチャージ】」


 ラプターの二兆拳銃からは弾丸が次々に放たれていく。それでもハリアーは対抗姿勢を見せなかった。

 ただひたすらに通常のガードで受け、時には攻撃を回避する。傍から見れば、ライフが残りわずかになって受け身の姿勢を取っているように見えるだろう。

 しかし、アスールは気付いた。先ほどから何度も使用している【パイレーツチャージ】。このスキルの存在がどうにも不気味で仕方がない。

 背中にゾクゾクとした恐怖を感じる。このスキル、そしてハリアーというゲームプレイヤーは明らかにヤバいと……

 しかし、それでもラプターは能天気だった。自分の身に迫る驚異も知らず、ただ只管に銃弾を放つ。


「さあ、ハリアーちゃん! そろそろ決着を……」

「いや、もういい。語るに及ばん」


 それは一瞬の出来事だった。


 ハリアーがラプターに接近したその一瞬。その僅かな時間で全ては終わった。


「スキル【ブラッドバス】!」

「え……?」


 ハリアーは今まで掲げていた大碇を一気に振り落す。AGL(素早さ)の低い海賊パイレーツとは思えないほどの動き。当然、その突然の攻撃にラプターが対抗できるはずがなかった。

 脳天から叩きつけられる一撃。その衝撃によって王宮のバルコニーに巨大な亀裂が入る。戦いを見ていたアスールもこれには唖然とするばかりだった。

 次に放つ技の威力を上昇させる【パイレーツチャージ】。それを三回積んだ結果がこの一撃だ。どう見てもオーバーキルだろう。

 おまけにハリアーが放った技は【ブラッドバス】。与えたダメージを吸収してライフを回復するスキルだ。当然、彼女のライフは全快してしまう。


「よし、以上だ!」

「これはまた……プチッっと潰れたな……」


 まさに、お話にならない。そんな内容の決闘だった。

 ハリアーとして見れば、とにかくすっきり潰せればそれで良かったのだろう。全くリスペクトの欠片もなかった。

 こんなにも情けない最後になり、ラプターは完全に項垂れてしまう。恐らく、自分の全てを否定されたかのような気分だろう。


「うう……なんか、私だけ扱い酷くない……? 他の人だったら良い話しで終わってたと思うんだけど……」

「アスールに負けていれば良かったな。お前は運が悪かった。さっさと消えろ」


 慈悲はなし、問答無用だ。

 苦虫を噛み潰したような顔をしつつ、ラプターはゲームオーバーとなって消滅する。ペナルティは受けるものの、少ししたらまたログインしてしまうだろう。

 いったいこの戦いで何が切り開けたのだろうか。その場しのぎにしかならない結果にアスールは大きくため息をついた。


「なあ、ハリアー。これ、なにも根本的な解決になっていないような……」

「何度でも叩き潰せばいい。それだけだ」

「ひでえな……」


 少しラプターが可哀そうだが、とりあえずはこれで当分ログインしないはずだ。エルドとの決戦に参加しないだけ良しとするしかなかった。

 目的を達成したため、この場にいる意味もなくなる。今やるべき事は敵プレイヤーを減らす事。そして、エルドを倒す事だ。

 そんな時、ハリアーにコンタクトの魔石による通信が入る。どうやら、外でも大きな動きがあったらしい。


「ディバインからの連絡だ。敵幹部であるランスを撃破したらしいぞ」


 これでレベル4の覚醒持ち二人を撃破する。そうなれば、やはりやるべき事は限られてくるだろう。この戦いを終わらせるには、その象徴たる存在を倒す以外になかった。

 最強のゲームプレイヤー。【ダブルブレイン】の頂点に立つ男。そして、【エルドガルド】が絶対的な支持を寄せる存在。

 そう、いよいよ大ボスを倒す時が来たようだ。


「ビューシアはこの戦いに出ない。残る敵は……」

「ああ、エルド一人だ」


 最大の敵といって間違いない。誰が戦うにしても苦戦は確実だ。

 ここからワープの魔石を使用しても、セルリアン雪原までは相当の時間が掛かる。誰があの存在を食い止めているかは知らないが、ただ勝利を願うしかない。

 自分の役目は仲間の支援にある。そう思ったアスールは、ギルド【IRISイリス】との合流を考えるのだった。


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