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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目(午前) 氷雪の街スマルト
163/208

162 消える武器

 ルルノーのサーチスキルによって、私の切り札である【万象】を認識されてしまう。

 だけど、スキルの効果までは把握していないみたい。現状、あのスキルが役に立つとは思えないし、無駄に警戒させるのも手かもしれないわ。

 だから、私は正直に、それに加えて大げさにスキルの所持を認める。


「【万象】はあんたを倒す切り札。私を雑魚プレイヤーだと思っていたら痛い目を見るわよ!」

「なるほど、これは気を引き締めなければなりません」


 逃げてばかりのルルノーが、ようやく戦闘態勢を取った。

 あいつの攻撃スキルは、アイテムスキルぐらいでしょう。魔石を使いこなす錬金術士アルケミストが魔法を覚えているとは思えないわ。

 でも、念のために遠距離から攻撃よ。私は槍の先端をあいつに向け、【武器開放】でそれを一気に伸ばした。


「スキル【武器開放】!」

「良い手ですね……スキル【薬品投げ】アイテム、爆発薬」


 フォークのような刃がルルノーの腹部を貫く。でも、あいつも負けじとこっちに爆発薬を投げ込んだ。

 【薬品投げ】は投げた薬品のスピードを上げ、飛躍距離を伸ばすスキル。これなら離れた私に届くし、伸ばした槍が縮尺するより先に爆発するでしょう。

 でも、私は冷静にあいつの攻撃を見切る。


「甘いわ! スキル【武器変更】アイテム、シルフの短剣!」


 風属性の軽い短剣に武器を変え、私はその場から飛び退く。伸ばした槍は【武器変更】でキャンセル出来るし、軽い武器に変えればスピードも上がるのよ。

 薬品は地面に落ち、そこから大爆発を引き起こす。回避は完全に間に合っていたけど、薬の性能があまりにも高かった。

 耳が壊れそうなほどの爆音が響く。そして、広範囲の爆発は私を飲み込み、そのまま記憶操作システムに叩き付けた。


「痛った……なによこの威力……」

「言い忘れましたが、私の作るアイテムは【ROCOロコ】でも随一です。スキル【簡易錬金】アイテム、毒薬」


 ルルノーは二種の薬草を取り出すと、それを薬品に変える。そして、完成した薬を怯む私にぶつけた。

 【簡易錬金】はその場で素材を消費して、アイテムを作るスキル。これがある限り、あいつはアイテムバッグに入っていないアイテムも自由に作れる。殆どの使用アイテムが、あいつの手の中にある状態ね。

 割れたビンからは緑の煙が広がり、私に毒の状態異常を与えた。


「く……毒か……」

「じわじわ効きますよ。スキル【魔石開放】アイテム、氷の魔石」


 今度は魔石による攻撃か。【覚醒】の効果で使用スピードが早い。おまけに【魔石開放】でその威力は底上げされていた。

 石から放たれる冷気。これを受けたら大ダメージに加え、凍結で動きが止まる。毒のダメージもその間に嵩むわね……

 強い……このままじゃ、何も出来ずにゲームオーバーじゃない。冗談じゃないわ……!


「スキル【武器変更】アイテム、妖精の盾……!」


 状態異常耐性のある盾に変え、【氷魔法】を何とか受ける。魔石の威力も最高峰みたいで、防御の上からもかなりのダメージを受けてしまう。

 そんな私に、追い打ちのように与えられる毒のダメージ。まずは、これをどうにかしないと……


「スキル【武器魔法】……!」

「なるほど、これは上手い」


 盾が消費されるのと同時に、私の体を癒やしの光が包み込む。

 妖精の盾を消費して【武器魔法】を使った場合、【回復魔法】キュアが発動される。アイテムを使うより動作が速く、意表もつけるわ。

 さって、ここからが反撃よ。受けたダメージを回復しつつ、あいつの再生力を削り取る!


「スキル【武器変更】! アイテム、ブラッディアックス!」

「スキル【魔石開放】アイテム、光の魔石」


 私が吸収効果のある斧を装備すると、あいつは魔石によって【光魔法】を使用する。

 魔石の厄介なところは、魔道士ウィザード僧侶プリーストのみが習得出来るスキルを使えること。強い錬金術士アルケミストは基本六属性の魔法以外も容易に操れるって訳ね。

 でも、弱点もある。魔石は所詮アイテム、魔法スキルと違って攻撃が単調なのよ。

 私は距離を詰めるために、ルルノーに向かって走り出す。そして、短い詠唱によって、威力の低い【炎魔法】を発動した。


「スキル【炎魔法】ファイア!」

「下位魔法ですか、威力はこちらが上です」


 降り注ぐ光に向かって、私は炎をぶつける。威力に差があるから、相殺には全く及ばない。でも、僅かに攻撃が遮られるだけで良いのよ。

 すぐに斧を前に突き出し、防御の体制に戻る。身を焦がす光は、私のライフを容赦なく奪っていった。


「く……」

「これで貴方のライフは風前の灯。挽回は不可能と言えるでしょう」


 大して戦闘の心得もないくせに、不可能なんて言ってほしくないわ。

 失ったライフは取り戻せばいい。そのために今まで気づかれないように距離を詰めていたんだから。

 重い身体を奮い立たせ、私は斧を掲げる。そして、ルルノーに向かってそれを振り落とした。


「……ハァ!」

「無駄ですよ。斧での攻撃は遅い」


 当然かわされる。だけど、それは計算内よ。


「スキル【武器魔法】……!」


 相手のライフを奪うブラッディアックスを消費することによって、【吸収魔法】が発動される。

 【吸収魔法】ドレインは、魔導師ウィザードが後半に覚える魔法。威力は本家より劣るけど、本来覚えない魔法を使えるのは便利ね。

 攻撃を回避した事に安堵していたルルノーは、放たれた【吸収魔法】を真面に受ける。だけど、せっかく与えたダメージも瞬時に再生してしまった。


「やりますね。ですが、まだまだ再生力は残っていますよ」

「知ってるわよ。でも思わぬ収穫があったわ」


 HP(体力)の概念がないダブルブレインに【吸収魔法】を放った場合どうなるか。結果は身を持って体感したわ。

 私のライフポイントは全快となっていた。仕組みはよく分からないけど、たぶん想定外のパターンでバグってるわね。まあ、有り余る再生エネルギーを吸収したって所でしょう。


「これで体力全快。どう? 武器の追加効果って面白いでしょ?」

「薬を扱う私からすれば、その戦略は少々高額ですね」


 不敵に笑いつつ、お金の話しを持ち出すルルノー。

 うるさいわね。背に腹は変えられないのよ。その余裕も今のうちなんだから。

 とりあえず、ここまで戦って分かったのは、あいつの攻撃は全て遠距離から中距離という事。接近戦の力勝負なら、私の方に分があるはずよ。

 でも、ルルノーは【覚醒】の効果でスピードが速く、【バックステップ】のスキルも持っている。技術で上回らなくちゃ攻撃を当てれない。


「スキル【武器変更】アイテム、不知火の刀!」

「スキル【薬品投げ】アイテム、眠り薬」


 私が接近戦を決め、刀を装備したのとほぼ同時。ルルノーはまた薬品を取り出し、それを私に向かって投げた。

 眠り薬……当たれば眠ってしまって、【魔石解放】の総攻撃を受ける。生き残れる保証なんてないわ。

 私は覚悟したの……今までこのゲームを適当にやってて、レンジたちに関わったのも単に悔しかったから。別に【ダブルブレイン】とか【エルドガルド】が何をしようと関係ないと思ってた。

 だけど、あいつの研究室でNPCの魂を見たとき、凄っごく胸糞悪かった……少し、許せないと思ったわ。


 こんな奴にゲームセンスで負けるとか……絶対にありえない!


『私を使え……行け、この瞬間だ!』


 誰かの声が聞こえた。

 眠り薬が当たるその瞬間。的確な攻撃タイミングのその瞬間で誰かの声が……

 私は添われるように、導かれるようにスキルを発動した。


「……スキル【武器破砕】」


 炎を纏った剣は【武器破砕】の効果によって刀身が伸びる。纏った炎は業火へと変わり、周囲を灼熱に染めていく。

 どんなサムライも扱えない、鍛冶師ブラックスミスだけが扱える究極の刀。私は自分でも信じられないほどの速度で、自然にそれを振り抜いた。


「これは……!?」


 驚くルルノーの声。刀は薬を真っ二つに切断し、その中身は炎によって蒸気へと変わってしまう。

 それだけじゃない。振り抜いたことによって生じた斬撃は、後方のルルノーすらも切り裂く。そして、あいつの身体を燃やし、更なるダメージを与えていった。

 我ながら、【武器破砕】の威力は物凄いわね。だけど、このスキルも使用した武器を消費するスキル……


『それで良い。武器は使われてこそ……』


 【武器覚醒】の効果によって、不知火の刀はロストされる。こいつの声が聞こえたのは、鍛えた【万象】のスキルによるものでしょう。

 何で聞こえちゃったのよ……使えば消えるのに、何で使えって言うのよ……

 もう、全部分かっちゃったわ。

 本来、武器に命も感情もない。【万象】のスキルは武器の声を聞くのと同時に、NPCとして魂を吹き込む能力。だから、お喋りハンマーは感情があったのね……


 生み出しては使う……命を消費する……私もNPCを実験に使うルルノーと同じなの?


「素晴らしい! イシュラさん、やはり貴方は私の宿敵! だからこそ、ここで障害は排除しなければ! スキル【薬品投げ】! アイテム、爆発薬!」

「……スキル【武器変更】アイテム、シルフの短剣」


 炎を振り払い、ルルノーは広範囲の爆発薬を投げつける。何だかテンションが上がってるみたいだけど、こっちのテンションは最悪なのよね。

 私は短剣を装備し、さっきと同じように爆発薬から逃げる。このまま行けば、また広範囲の爆発に巻き込まれてダメージを受けるわね。

 さて、どうしようかしら……


『ここだよ! さあ、私を使って!』

「……スキル【武器精霊】」


 また、私は誘われるように武器消費スキルを使用してしまった。

 風を纏った少女は短刀を握り、爆発薬の前に立ち塞がる。そして、両手を天に掲げ、そこから【風魔法】ウインディを発動させた。

 薬品は僅かに軌道が逸れ、逃げる私から離れた場所で大爆発を起こす。爆風は短剣の精霊だけを飲み込み、私は左足のかす当たりですんだ。


「動きが変わりましたか……貴方もレンジさんたちと同種。戦いを楽しむほど強くなるという事でしょうか」

「たぶん、逆よ……スキル【武器変更】アイテム、アクアトライデント」


 私の心は深い海へと沈んでいく。だけど、沈めば沈むほど動きが研ぎ澄まされていくのが分かった。

 そうか……私、調子に乗ってたのね。こんなに後悔すればするほど、自分が強くなるなんて……

 人にバカバカ言って、一番バカだったのは私。後悔してるはずなのに、私は勝つために武器消費スキルを使っていく。


『さあ、反撃だ。俺の力を使え!』

「……スキル【武器精霊】」


 必要だけど不要な声が、呪いのように響き続ける。私はアクアトライデントを使用し、水属性の精霊を出現させた。

 武器の声が使えと言う。それが最善だと分かっている。

 だけど、割り切れない。散々、口ではどうでもいいと言っていたくせに……


「……スキル【武器変更】アイテム、ポイズンアロー」


 毒の弓矢を装備し、槍を持った精霊を前衛として立たせる。精霊のライフは僅かで、これは囮なようなものね。だけど、矢の攻撃を生かすにはこれが一番強い。

 水の精霊は自分の役割を理解し、槍によってルルノーを突き刺していく。そして、私は後方から矢を連続で放っていった。


 弓矢なんて適当に使ってるのに、攻撃は的確に敵のクリティカルポイントを撃ちぬく。

 まるで主人公みたいな都合の良い覚醒ね……

 私はただ、沈んだ気持ちのまま苦笑いをするだけだった。


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