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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十八日目(午前) 氷雪の街スマルト
162/208

161 ルルノーの研究レポート

 スマルトの戦い。セルリアン平原では、連合部隊と【エルドガルド】の戦いが続いてた。

 プレイヤーの数では【エルドガルド】が圧倒的に有利。しかし連合部隊には上位プレイヤーの大半が含まれている。中でも、最強ギルドである【漆黑しっこく】のプレイヤーは別格だ。

 【漆黑しっこく】の召喚士サモナーは召喚獣を操り、部隊の防御態勢を整えていく。しかし、その守りにも限界があった。


「カー助、【ルビーの光】。くそっ、敵プレイヤーが多すぎる!」

「弱音を吐く時間があったら一人でも多くサポートしろ。スキル【氷魔法】アイスリジョン!」


 同じく、【漆黑しっこく】の剣士ソードマンは【氷魔法】によって敵プレイヤーを撃破する。しかし、こんなペースで戦っていても非効率だ。いずれ、戦力差で限界が来てしまうだろう。

 そんな連合部隊の先陣を切るのは、やはり【漆黑しっこく】のプレイヤー。ギルドの幹部である格闘家モンクフウリンだった。


「敵はバーサクのプレイヤーだかりだネ。でも、無意識を極めたら特別なスキルとか貰えるかもヨ?」


 獣耳中華服の少女は両手を広げ、彼女だけが持つ限定スキルを発動させる。


「スキル【鬼神】!」


 瞬間、彼女の体に炎が纏わりつき、頭からは小さな角が生えた。

 ここからが総合ランキング9位であるフウリンの本番だ。彼女の装備する業火のガントレットは【炎属性威力up】のスキルによって最大限まで強化される。

 炎の属性特化。それに加え、フウリンは攻める事よりも流すことを得意とする『柔』の格闘家モンクだった。


『ゆくゾ! スキル【精神統一】』


 彼女は両手を合わせ、こちらに攻める【エルドガルド】のプレイヤーたちに一礼する。

 【精神統一】は攻撃の命中精度を上げるという効果の分かりにくいスキルだ。【鬼神】によって軽い暴走状態なフウリンだからこそ、積極的に使う価値のあるスキルだった。

 やがて、炎を纏った両手両足から怒涛の攻撃が放たれていく。格闘家モンクは複数の敵を相手にするのが苦手なジョブだが、彼女の戦いからはそれが感じられない。単純に強かったのだ。


『スキル【疾風脚しっぷうきゃく】! 【真空破しんくうは】!』


 体を回転させ、戦士ナイト盗賊シーフのプレイヤーを蹴り上げる。そして、更なる追い打ちとして衝撃波を放つ【真空破しんくうは】で撃ち落とした。

 しかし、フウリンの攻撃は止まらない。そのまま、後衛の魔導師ウィザード僧侶プリーストに彼女は背中からの体当たりを放った。


『スキル【鉄山靠てつざんこう】!』


 あらゆる妨害を弾き飛ばしつつ突っ込む【鉄山靠てつざんこう】。魔法職二人はその攻撃をもろに受け、体力は一気に限界となった。

 属性特化によって炎を纏い、なおかつ【鬼神】の効果で威力も底上げされている。こと攻撃力だけなら、【ディープガルド】で最高位と言っていいだろう。


「すげえ……」

「流石は戦闘特化の限定スキル【鬼神】。力勝負なら最強だな」


 ぽかんと口を開ける【漆黑しっこく】の召喚士サモナーに、冷や汗を流す剣士ソードマン。彼らから見ても、フウリンは企画外の強さだった。

 だが、彼女の強さはあくまでも力勝負。【エルドガルド】が吟遊詩人バードサムライを投入した事により、次第にその機能は停止していく。

 やはり、一人のプレイヤーによる無双など現実的ではなかったのだ。


 連合部隊は徐々に追い詰められていく。敵プレイヤーはゲームオーバーになっても少しすれば戦線に復帰する。どう考えても勝ち目はなかった。

 しかし、それでも彼らは戦い続ける。ただ、ヴィオラたちがルルノーを止めると信じ、粘りに徹していたのだ。

 そんな連合軍の姿勢に感服したのか。この場面で一人の助太刀が現れた。


「ふん、苦戦しているようだな。この私が手伝ってやろう」


 その声と同時に、【エルドガルド】の部隊に向かってメテオストームが降り注いだ。

 【星魔法】最大の攻撃範囲を持ったこの魔法によって、弱っていたプレイヤーは一気にゲームオーバーとなっていく。魔法の威力も並大抵のものではない。

 フウリンは瞬時に魔法の放たれた方向を見る。


『この【星魔法】ハ……』


 誰かなど既に分かっているだろう。彼女の視界に映ったのは瞳に星の輝く銀髪の男。総合ランキング4位のソロプレイヤー、ギンガだった。

 彼がここで支援に入ったことにフウリンは驚いていた。この自分勝手で鬼畜な魔導師ウィザードがプレイヤー同士のいざこざに手を出すはずがない。何か裏があるはずだ。


『何故、手を貸ス……何か企んでいるのカ?』

「ある面白い女を送るためだ。宮殿内に侵入するには、こちらに敵の目を引き付けなければならん」


 仲間をスマルトの王宮内に侵入させたいようだが、その理由の方は曖昧なもの。どうやら、今回の支援も気まぐれのようなものらしい。

 あるいはただ目立ちたいのか、構ってほしいのか。何にしても、連合軍にとってはありがたい援軍だった。


















 スマルトの王宮最深部、私ことイシュラはついにルルノーの奴を追い詰めた。

 あいつが最後に入った部屋は巨大な研究室。いえ、研究室というより制御室と言った方が正しいのかもしれないわ。

 私の視界に広がっていたのは巨大な機械。確かに、アスールの予測ではプレイヤー操作に何らかのシステムを使っているという事だったけど……


「何よこの機械、デカすぎるわよ! どうやって作ったって言うの!」

「ずっと、計画していたんですよ。私がこのゲームの運営だった時から、何年もかけて少しづつ組み立てていたのです」


 眼鏡の錬金術師アルケミストがそう説明する。【ダンジョンサーチ】で表示された不自然なほど広い部屋は、機械を設置するためだったってわけね。

 不味いわ……この大きさじゃ私の力で壊せないかも。このゲームはギミックの破壊は出来るけど、大規模な破壊活動を行うことは出来ない。街やダンジョンを破壊されないようにするためのシステムだった。

 この機械が壊せるの……? どう考えても制約に引っかかってるじゃない。


「この機械でプレイヤーを操作してるのは分かってるわ。絶対にぶっ壊す」

「不可能ですよ。この大きさのギミックはプレイヤーでは破壊できません」


 つまり、ダブルブレインに壊してもらうか、ルルノーに止めさせる以外じゃ停止できないって事ね。最っ低……

 だけど、それは後で考えれば良いわ。今はこの研究者をボコボコにすることを考えればいいの。私がここに来たのはその為なんだから。


「例え機械が無事でも、あんたはどうでしょうね。ようやく追いつめたわよ。ルルノー」

「誰かがここまで到達するとは思いましたが。まさか、オアシスで会った貴方とは……」


 私と最終的に戦う事になった事実に驚いてるわね。私だって驚いてるわよ。まさか、悪の組織幹部と対峙するなんてね。

 巨大な機械の前、薄暗い地下室は【インディ大陸】の空気によって冷やされる。走り回ってたから気づかなかったけど、吐く息が白いことから結構温度は低いみたい。


 この雪と氷の地が私の決戦の舞台。約束のためにも絶対に負けられない!

 さあ、vsルルノーよ! あいつが叫ぶのと同時に、私もハンマーを振り上げた。


「やはり運命を感じざる負えない! 私の研究は貴方の敗北によって完成する! スキル【覚醒】!」

「行くわよお喋りハンマー! ここが私たちのラストバトルよ!」


 【覚醒】を発動したあいつの右眼に、薬瓶の紋章が浮かび上がる。錬金術師アルケミストの使うスキルの大半はアイテムスキルとペットスキル。【覚醒】による能力上昇で怖いのはスピードぐらいね。

 あいつは【合成獣キマイラ】と【人造人間ホムンクルス】をヴィオラたちと戦わせている。アイテムによる回復もダブルブレインには関係ないから、使ってくるのは使用アイテムぐらい。

 油断はしないけど、勝てない相手じゃない!


「一応言っておきます。私は【ダブルブレイン】では最弱ですが、あなた一人を葬るほどの力は持っていますよ」

「随分自信があるじゃない。スキル【武器解放】!」


 手始めにお喋りハンマーを巨大化させて思いっきりぶっ叩く。でも、意外とルルノーも動けるらしく、その攻撃を【バックステップ】で回避してしまった。

 こいつ、戦闘用のスキルも購入してるってわけか。あまり鍛えてないから危なげないけど、それでも逃げ回られるのは厄介ね。

 ルルノーは不敵に笑いつつ、私の予想としていなかったスキルで応戦に出る。


「スキル【分析】、スキル【鑑定】」


 ふーん、私を調べに来たか。錬金術師アルケミストはペットスキルやアイテムスキルの他に、こういうサーチ系スキルも豊富なのよね。

 【分析】はモンスターやプレイヤーのステータスや弱点をサーチするスキル。【鑑定】はアイテムや装備の追加効果や性能を調べるスキル。どちらも攻略や生産にも使える便利なスキルね。

 さらに、ルルノーは私のサーチを続ける。


「スキル【スキル鑑定】、スキル【所持品鑑定】」

「あーもうウザいわね! 調べたって何もないわよ!」


 【スキル鑑定】は相手のスキルや特性を見破るスキル。【所持品鑑定】は持ちアイテムを見破るスキルね。どっちも知られたところで問題はないわ。

 ハンマーを振り回し、あいつの胸部に一撃を加える。殴られた部分は崩壊し、そこから1と0の数列が見えるけどそれはすぐに塞がってしまった。やっぱり、あの再生能力は厄介ね。

 それに、こっちのサーチばかりやっているのも不気味で仕方がないわ。お喋りハンマーには悪いけど、武器を入れ替えて本気出していかないと。

 【武器覚醒】、【武器魔法】、【武器精霊】、この三つのスキルは使った武器をロストしちゃうから、ハンマーには使えないのよ。


「お喋りハンマー、本気出すから入れ替えちゃうわよ」

『仕方ありませんね。止めは私でお願いしますよ』


 それは分からないわね。そんな悠長なこと言ってる余裕はないの。

 鍛冶師ブラックスミスは武器の入れ替えや消費で戦うジョブ。ハンマー一つに拘ってはいられないわ。

 私は行動に移らないルルノーに警戒しつつも、積極的に武器を入れ替えていく。


「スキル【武器変更】アイテム、アクアトライデント!」


 フォークに似た水属性の槍へと装備を変える。基本、使う武器は属性をばらけさせた方が良いわ。【武器魔法】によって作られる魔法の種類が変わるから、戦略に幅が出るのよ。

 もっとも、私は【炎魔法】と【土魔法】のスキルも持ってるから、魔法に関しては結構幅があるわ。あいつがどんな動きをしても、対応する自信がある。

 それにしても、あいつ動いてこないわね。全く、これだからインテリタイプは調子が狂うわ。


「ちょっと、なに考えてるのよ。長考はやめてくれる?」

「失礼、スキル【万象】に引っかかりまして……元運営である私も聞いたことのないスキルですね」


 うっわ、ばれた……そういえば【スキル鑑定】を使われてたか。

 ほんと、戦う時も研究一本なのね。戦いにくいってレベルじゃないわ。

 あいつのペースに惑わされちゃダメよ。私は私のペースで戦わないと。



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