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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
四十三日目~四十七日目 竜人の村ハイドレンジア
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158 俺たちの希望

 英雄エルドの猛攻に対し、ゲッカは脅威の粘りを見せていた。

 彼はこう読む。ゲッカは風属性耐性の装備に加え、サムライのテンプレ構成である【HPup】のスキルを鍛えていると。

 全損まではまだ遠い。彼女は怒涛の斬撃をクリティカルから逸し、必死に喰らいついていた。


「スキル【ダブルスラッシュ】」

「スキル【岩浪いわなみ】……!」


 長剣による二連撃をゲッカは刀の柄によって受け止める。そして、その僅かな隙を見てカウンタースキルを発動した。

 【岩浪いわなみ】は一定時間攻撃を耐え、その間に受けたダメージを上乗せして返すスキル。エルドの猛攻を耐える事が出来たのなら、そのダメージも驚異的なものとなるだろう。

 カウンターに成功すれば、いっきに彼の再生能力を削る事も可能。しかし、それは不可能に近い行為と言える。なぜなら、エルドの攻撃はゲッカの防御を上回っているのだから。


「無駄だ。返す前にお前のライフは尽きる」

「くっ……」


 繰り返される剣技による通常攻撃。すでに、ゲッカのライフはレッドラインへと入っていた。

 転倒から復帰したディバインは、彼女を守るためにスキルの発動を試みる。しかし、その行為をクロカゲが阻んだ。彼には考えがあったのだ。


「邪魔をするナ。これはゲッカの駆け引きダ」


 ここでゲッカを守れば、彼女はただのお荷物だ。この少女も、足を引っ張るためにここに来たわけではないだろう。

 やがて、エルドの剣から最後の一撃が放たれる。確実にゲッカを仕留める瞬速のスキルだ。


「スキル【スラッシュ】」


 彼の攻撃に対し、ゲッカは何も出来なかった。【岩浪いわなみ】の効果が継続しているため、その他一切の行動が出来なかったのだ。

 今の彼女に【スラッシュ】を耐える事は出来ない。ここで勝負が決まると思われた。

 その瞬間だった。


「スキル【回復魔法】ヒールリスですわ!」


 エルドの【スラッシュ】がゲッカに打ち付けられるギリギリのタイミング。その僅かな時を狙い、癒やしの光が少女の体を包み込んだ。

 長剣の一閃が彼女の胸部を切り割く。しかし、【回復魔法】の効果により、ゲッカのライフはイエローゾーンまで回復していた。当然、エルドの【スラッシュ】でもライフを削り切る事は出来ない。

 流石のエルドも困惑する。全く予測していなかった第三者が、ゲッカを回復支援したとしか考えられなかった。


「新手……!?」

「スキル【岩浪いわなみ】は耐えたダメージを上乗せして返します……!」


 本来撃破していたはずのゲッカ。彼女は刀を強く握りしめ、エルドに向かって一閃を振り落とす。

 避けれるはずがない。全く想定外の攻撃に加え、ゲッカのスキルには強力なカウンター効果が乗っているのだから。

 やがて、刃は最強のプレイヤーを斬り捨てる。よほどの攻撃を今まで耐えていたのか、その威力も尋常ではないほどだ。


「……!? ぐ……! スキル【ジャンプ】!」

「そこ! スキル【追い撃ち】!」


 攻撃を受けたエルドは当然回避行動へと移る。しかし、それが仇となり、飛躍するエルドを【追い撃ち】の矢が貫いた。

 このスキルの効果は撤退行動に移る相手に対し、二倍のダメージを与えるというもの。今のエルドに対し、完全に刺さっていた。

 飛んだエルドは地上に足をつける。距離は取ったが、カウンターによって受けたダメージは相当。彼は思わず、再生しつつある傷口を手で抑える。


「……危なかった」

「一矢報いる。とはまさにこの事ですわ!」


 ゲッカの隣に立つもう一人の女性。【ゴールドラッシュ】の弓術師アーチャー、縦ロールヘアーのテイルだった。

 ずっと、この機会を狙って潜んでいたのだろう。エルドは完全に錯覚していた。

 支援を警戒していなかった訳ではない。しかし、この戦いは一対一で行うと思っていた。


『邪魔をするナ。これはゲッカの駆け引きダ』


 あのクロカゲの言葉にまんまと騙されていたのだ。


「エルド、お前の敵は四人いたのだ」

「ゲッカはオレたちより実力が劣るって油断していたよネ? なめるなよ化け物……これは足を引っ張るために、ここに来たわけじゃなイ」


 普段飄々としているクロカゲが、鬼の形相で睨む。仲間をなめられたことが気に入らないようだ。

 それに対し、エルドは後悔していた。油断は相手に対する侮辱に値する。この傷の痛みはそれに対する罰だ。


「再生が遅れている……ようやく希望が見えてきたか!」

「スキル【回復魔法】ヒールリスオール。戦闘職のわたくしでは、この程度が限界ですわ」


 削ったディバインたちのライフも、テイルによって回復される。恐らく、彼女は【魔法防御力up】を鍛えたVIT(魔法防御力)特化の戦闘職。【回復魔法】の効果もそこそこあるようだ。


 ヒーラーの登場により、戦いは更に遅延されるだろう。

 もたもたしていれば、スマルトでの最終決戦が終わる。ただ勝つだけでは意味がない。


 だが、それはもうどうでも良かった。


「笑っている……」

「ヤバいねこれは……ここからだヨ……」


 エルドは歓喜する。

 追い詰められている。追い込まれている。この感覚だ。

 さっきまではずっと、責任によってイライラしていた。だが、今は違う。


 楽しい……ゲームが、戦いが、楽しくて仕方がない!


「スキル【ジャンプ】! スキル【アサルトブロウ】!」


 跳ぶ。そして空中から強襲のスキル。

 一気に降下し、前衛のディバインに迫る。


「ぬ……! スキル【鉄壁】!」

「真下ががら空きだ! スキル【風属性】ウィンド!」


 防がれるが想定内。着地と同時に下方から【風属性】を放つ。

 強風で巻き上げられるディバイン。そして、こちらに矢尻を向けるテイル。

 エルドは落下する戦士ナイトに回し蹴りを打ち付け、弓術師アーチャーに向かって蹴り飛ばす。


「お前の上司だ。受け止めろ!」

「……きゃ!」


 こんな巨体、受け止めれるはずがない。蹴り飛ばしたことが驚異的だ。

 ディバインはテイルへと叩きつけられ、二人は同時に雪の地面へと沈む。ここまでの動作に数十秒すらも経っていない。

 このスピードに付いていけるのはクロカゲぐらいだろう。


「ニンニン! スキル【口寄せの術】!」

「大ガエルのお出ましか。こい!」


 印を結んだ忍者ニンジャは、目の前に巨大なガマガエルを出現させる。そして自身は、影からサポートの体制をとった。

 同時に、ゲッカがエルドの後ろへと回り込む。スピードでは二人に追いつけないが、先を読めば攻撃に移れると考えたのだろう。

 目の前には大ガマ、その奥には忍者ニンジャ。そして後ろからはサムライ。それらは一斉に行動へと移る。 


「【叫ぶ】ダ!」

『ゲローン……!』


 大ガマが【叫ぶ】。それにより、エルドのスピードが僅かに落ちてしまう。その隙を見て、サポートのクロカゲと背後のゲッカが同時に攻撃へと移った。


「スキル【影縫いの術】!」

「スキル【燕返つばめがえし】!」


 クロカゲが印を結び、エルドの足は影によって拘束される。そして、そんな彼に迫るのはゲッカの刀。

 スキル効果で移動することが出来ない。しかし、剣を握る手は動く。

 ならば、選ぶ行動は一つ。力技だ!


「吹っ飛べ! スキル【チャージ】ッ!」

「はっ……!」


 ノックバック効果の【チャージ】でゲッカをクロカゲの方へと吹き飛ばす。纏めて消し飛ばすため、同じ場所に移動させたのだ。

 エルドは再び飛躍する。【影縫いの術】による拘束を引きちぎるほどの脚力で……


「スキル【ジャンプ】! いくぞ……スキル【エリアルバッシュ】!」


 跳んだエルドが狙ったのは大ガマ、クロカゲ、ゲッカの全員。空中で逆さまとなったエルドは、そこを目がけて渾身の【エリアルバッシュ】を放った。

 【エリアル】は上方を切り裂く剣。【バッシュ】周囲を薙ぎ払う剣。【エリアルバッシュ】はその両方を兼ね揃え、逆さまのエルドが使ったことにより、攻撃は地上を薙ぎ払う技へと変貌する。


「まだこれ程の力が……」

「ゲッカ! クロカゲ! 私が守る……! 絶対にッ……! スキル【守護の盾】!」


 斬撃を受ける二人を守るため、ディバインは走った。彼はタンク、守る事がタンクの役目だ。

 何としてでもエルドを食い止める。それが彼らの役割であり、【エルドガルド】の計画を潰す最低条件。

 エルドをスマルトに戻らせたら終わる。リーダーの帰還により【エルドガルド】は本来の力を取り戻してしまう。


 しかし、逆もまた然り。エルドの帰還を誰よりも望む者がいた。


「ディバイィィィィィン! スキル【諸刃の剣】!」

「ぬ……! ランス!」


 突如、乱入した大槍を持った戦士ナイト。彼は元【ゴールドラッシュ】の副ギルドマスターであり、今は【エルドガルド】の中心人物となっているランス。レベル4の覚醒持ちだった。

 彼はディバインの【守護の盾】に槍を打ち付け、その効果を受ける。これにより、クロカゲたちに盾役が赴くことはなかった。

 突然の乱入に誰もが驚く。しかし、一番驚いてるのは仲間のエルドだった。


「ランス……どうして……」

「エルド! お前は戻るべきだ! 俺たち【エルドガルド】にはお前が……お前たちの夢が必要なんだ!」


 エルドは満たされる。戦いへの歓喜と同じ目的を持った仲間の思いによって、乾いた心は潤っていた。

 以前の彼なら、戦いを放棄することなど絶対にありえない。しかし、今は違う。自分を信じて待っている仲間がいる。

 死んだ魚のような目をしていたエルドの瞳は輝いていた。死んで肉体を失い、人間を捨ててようやく彼は辿り着く。

 大人になれ……今すべきことは何だ。


「ランス……悪い! 俺は行く、仲間の元へ!」

「この場に及んで退くのかエルド……! 【体当たり】ダ!」

「逃がしませんわ! スキル【追い撃ち】!」


 クロカゲが口寄せした大ガマと、テイルの放った矢がエルドの背中を捉える。しかし、彼は無防備のまま、戦いから退くために走っていた。

 英雄は信じていたのだ。ここを任せた仲間が、絶対に自分を逃がしてくれると……


「いけえええ……! エルドォォォ! お前は俺たちの希望だァァァ! スキル【騎乗】ワイバァァァン……!」


 ランスは天に向かって叫ぶ。瞬間、強風を巻き上げつつ、矢と大ガマの前に小型の飛竜が降り立った。

 突然モンスターが現れたことに戸惑うクロカゲたち。その隙を見て、エルドは颯爽と戦闘圏内から離脱していった。

 彼は雪道を滑るように疾走する。そして、走っているうちに一つの策略を思いついた。

 ワープの魔石で一気にスマルト街まで移動することが可能だが、それはあえてしない。このまま山道を徒歩で移動し、街の外から敵陣を攻め落とす。

 裏をかけるのに加え、何より盛り上がるだろう。英雄には士気を高める演出が必要だった。


















 誰もが状況を理解していない。突如降り立った飛竜、ワイバーンがエルドへの攻撃を阻害したのだ。

 しかし、冷静に考えることによって状況が見えてくる。今目の前にいる新手、【エルドガルド】のランスが【騎乗】のスキルを使用したのだ。

 ワンバーンに飛び乗った彼は、ディバインたちに槍の矛先を向ける。絶対に、エルドの邪魔をさせる気はないようだ。


「ディバインさん、驚きましたか? 僕自身驚いていますよ」

「竜騎士か……ランス、戦略をスキルから組み直したか」


 ディバインは知っていた。ランスは【騎乗】のスキルなど鍛えてはいない。これはエルドのアドバイスを受けて、戦い方を変えたものだった。

 普通ならばありえないことだ。ここまでレベルが上がり、安定もしてきた今になって戦闘方法を変えるなど。しかし、ランスは真剣だ。


「エルドが言ったんですよ。俺は戦士ナイトより使役士テイマーの才能があると……考えてもみなかった。初めは怒れたけど、今となっては感謝してるさ……!」


 その言葉と共に、ワイバーンはディバインへと爪を立てる。彼はそれを盾で受けるが、飛竜のパワーに圧倒されていた。

 戦士ナイトの巨体は雪を掻き分け、崖の方へと押し負ける。このままでは崖下へと真っ逆さまだ。

 当然、クロカゲたちは支援へと走る。


「ディバイン……!」

「エルドを追え! 私に構うな!」


 だが、ディバインに言い返された。今は英雄を抑えるのが最優先だ。

 ランスはディバインに任せ、残りの三人はスマルトの街に戻る。これが今行うべき最善の行動。

 だからこそ、クロカゲはゲッカとテイルを引き連れてワープの魔石を使用した。迷っている時間すら惜しい。早くエルドを抑えなければ大変なことになるだろう。


 残ったディバインは踏み止まり。ワイバーンを押し返す。

 ここに【ゴールドラッシュ】の戦いが始まろうとしていた。

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