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エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三十八日目~四十二日目 ガンボージ遺跡
152/208

152 狂気の沙汰

 巨大ピラミッド、ガンボージ遺跡の30階層で、私たちは【ダブルブレイン】のルルノーと対峙する。

 あいつは戦闘体制を取らずに、こちらを観察していた。まさに組織の研究者ってことね。

 本当はすぐにでも殴り掛かりたいけど、レンジの様子がおかしいのが気になるわ。私が警戒していると、お喋りハンマーが大声を上げた。


『ご主人様! このクリスタルです! これのせいで、この人は苦しんでいるみたいですよ!』

「ルルノー……このクリスタルは何。レンジに何をしたの」


 部屋の至るところに置かれたクリスタル。その中には色とりどりの光が閉じ込められていて、まるで何かを保管しているようだった。

 ルルノーは笑う。以前会った時とは違い、今のあいつは冷徹そのものだった。


「魂ですよ。スマルトの王宮、レネットの村、カーディナルの炭鉱、ビリジアンの街。四か所で集めたNPCの魂です」


 今まで【ダブルブレイン】が虐殺したNPCの魂。その一部が研究サンプルとしてここに置かれているってわけね。

 最低な気分よ。こんなに胸糞が悪くなる話はそうそう無いわね。魂を感知できるレンジにとって、ここは地獄なのかもしれないわ。

 普段バカをやってるシュトラとハクシャも、これには表情を崩す。


「これが全部……NPCの魂なの……?」

「正気の沙汰じゃないな……」


 気の狂った研究者は眼鏡のズレを直す。彼の癖なのかしら。何度も何度もズレを直すけど、それでも落ち着かないようね。


「ですが、全プレイヤーを操作するには、もう一ヶ所が足りないのです。あと一ヶ所……魂を回収しなくては……」

「あんた……まだ虐殺し足りないみたいね」


 どこかで聞いたわ。レンジたちがスプラウトの村とセレスティアルの街で邪魔をして、あいつらの魂回収が遅れているって。

 プレイヤーを操作するにはNPCの魂情報が必要不可欠。もう一箇所を落とされたら、【覚醒】持ちを根こそぎ操作されちゃうわ。

 レンジは辛そうにしながらも、ルルノーに言葉をぶつける。最初の頃は正義感なんて全くない奴だったのに………ほんと、随分と変わったわ。


「何でですか……ルルノーさん、貴方は人間の進化を望んでいたはずです……! そんな貴方が何で人間を捨てて、現実を滅ぼそうとしているんですか……!」

「レンジさん、私は正義も悪もどうでも良いんですよ。ただ、私の思う研究が出来るなら、それで良いんです……」


 ただ何度も、研究者は眼鏡のズレを直す。

 こいつ……全く落ち着いていないわね。私たちがここまで来て、きっと余裕が無いんでしょう。

 やっぱりボコボコにするしかないわ!


「私の研究はついに最終工程に入りました。もう、誰にも止めることは出来ません。貴方たちにはその礎になってもらいます!」


 私がハンマーを構えるのと同時に、ルルノーは後方へと走り出す。

 背を向けるなんてバカね。武器を振りかざしつつ、私は敵に向かって走り出した。

 でも、あいつは無防備なまま逃げるほどバカじゃない。ハンマーを思いっきり振り落とすと、それは何者かによって受け止められてしまう。


「な……何よこいつ!」

「スキル【人造人間ホムンクルス】ですね」


 攻撃を片手で止める白い服を着た少女。ミミが言うには、こいつが錬金術士アルケミストの【人造人間ホムンクルス】らしいわ。

 私の使う【武器精霊】や、レンジの使う【衛生サテライト】と違って、独立したAIで随時動いているみたい。

 たぶん、召喚術師サモナーの【従属召喚魔法】や、使役師テイマーの【使役獣】と同じタイプのスキルなんでしょう。

 少女はハンマーをがっしりと掴み、こちらを睨む。


『ご主人様には指一本触れさせない……!』

「イシュラ、退くんだ……! そいつは魂持ちだ!」


 レンジがそう叫ぶけど、そんな事は分かってるわ。だけど、掴まれて動けないのよ。お喋りハンマーを捨てることも出来ないし、振りほどくしかないわ。

 私がもがいていると、その間にハクシャが後ろへと回り込む。そして、通常攻撃によるラッシュを少女に与えていった。


「後ろがガラ空きだぜ! オラオラッ!」

『ふわ……』


 攻撃を受けたことにより、ホムンクルスはハンマーから手を放す。だけど、グダグダやっている内にルルノーは逃げちゃったみたい。

 距離を取られたら、ダンジョンを脱出するエスケープの魔石で逃げられちゃうわ。絶対にあいつを見失うわけにはいかない!


「待ってくださいルルノーさん……! 貴方にはどうしても聞きたいことが……」

「なら、自分の足で追うことね。さっさと行くわよレンジ」


 悔しいけど、私の力じゃあいつを倒せないでしょう。今は一番強いレンジと一緒に行動するしかないわね。

 あいつは私の言葉を聞くと、辛そうにしながらもそれに応える。


「自分の足………それは断るよ。スキル【起動スタンドアップ】」

「それでこそ機械技師メカニックっす! スキル【起動スタンドアップ】!」


レンジが【起動スタンドアップ】でロボットに乗り込むのと同時に、イリアスも同じようにロボットに乗り込んだ。

 彼女は巨大な機体を動かすと、こちらに飛びかかるホムンクルスをボディで受け止める。しかし、敵の攻撃力は結構高いみたい。流石は上位の錬金術師アルケミスト、スキルも鍛えられてるわ。

 それでも、イリアスは攻撃を受けきっていく。人魚のビスカが回復支援をし、何とかこの場は任せられそうだった。


「行くっすよレンジくん……大切なものを取り戻すんっすよね……!」

「イリアスさん……ありがとうございます!」


 涙ぐましい師弟の絆ね。まあ、どうでも良いけど。

 イリアスが攻撃を受けている間にも、ハクシャはホムンクルスに打撃を加えていく。リンゴの魔法攻撃も強力だし、やっぱり仲間が居れば動きやすいわ。

 私はレンジのロボットに乗り込み、ルルノーの後を追って隠し部屋から飛び出す。まだあいつはこの30階層にいるはずよ。絶対に逃がさないんだから。
















 ロボットの機動力もあり、逃げたルルノーにはすぐに追いついた。

 レンジは【起動スタンドアップ】を解除し、私と並んであいつを追いつめる。ここはダンジョンの中。もたもたしてるとモンスターに襲われちゃうし、さっさと蹴りをつけないと。

 だけど、レンジは私と違って慎重派だった。あいつは自分がここに来た目的を最優先する。


「ルルノーさん……一つ質問があります。最強のプレイヤーキラー、ビューシア。あいつの所在を聞きたいんです」

「所在とは、現実世界の方ですよね? 私に仲間を売れと言いますか……」


 まあ、聞いても話すわけないわよね。敵同士なんだもの。

 ルルノーは追いつめられながらも逃げるチャンスをうかがっている。流石に勝とうとは思っていないみたいだけど、全く油断できないわ。

 そんな彼に対し、レンジは誠意をもって訴えかける。ばーか、あんたは純粋すぎるのよ。


「ビューシアはマシロを殺した。あいつを野放しにしたら、両方にとって良くない事が起こるんです! 俺なら止めれる……この世界で俺だけがあいつを止めれるんだ! お願いします!」

「……なるほど、敵に頭を下げますか」


 だけど、その純粋さと誠意は効いたみたいね。頭を下げるレンジに対し、ルルノーは複雑な表情を浮かべた。

 考える眼鏡の男。やがて、彼はため息をつくと、素直に自分の知る情報を話していった。


「プレイヤーキラー、ビューシア。彼女はこのゲームの……いいえ、数多くのVRMMOを手掛けたゲーム開発者。Dr.ブレインの娘です。血は繋がっていませんがね」

「なっ……」


 こいつは【ディープガルド】の元運営。要するに、元上司の娘がプレイヤーキラービューシアだったわけか……って言うか、ビューシアって女だったのね。

 レンジの奴、アイ一筋だと思ったけど女の尻なんて追っかけてるなんて……ま、べっつにどうでもいいけどー。私には全く関係ないけどー!


『ご主人様。余分な事を考えてますよね?』

「うるさい」


 お喋りハンマーめ、無駄に鋭いわね。

 レンジの事なんてどうでも良いのよ。今はそれより、目の前の敵を確保することが最優先。ルルノーは後ずさりをしつつ、レンジに警告を促した。


「話には聞いていますが、私も彼女の顔は見ていません。その正体を知れば、貴方は後悔します」

「ありがとうございます。それでも……僕はあいつに会ってきます」


 ただ、ゲーム開発者の娘というわけじゃない。こいつの口振りからそれが分かった。

 だけど、レンジの眼は真っ直ぐ。よっぽど、ビューシアとの決着を望んでいるのか、迷いなんて一切感じられなかった。

 こいつ、まさかビューシアに対して特別な感情を抱いているのかしら。それに加えて、今はアイに合うことが出来ない。

 まさかね……いやいや、まさかね……

 私が余分な事を考えている。その時だった。


「スキル【魔石開放】アイテム、炎の魔石!」

『ご主人様……!』


 突如、ルルノーがこちらに向かって炎の魔石を使用する。でも、お喋りハンマーがいち早く気づき、私に向かって叫んだ。

 本当に優秀な子ね。だけど、あんたは武器だから扱いは別よ。

 私は容赦なくハンマーを前に付きだし、魔石から放たれた炎をガードする。【魔石解放】は魔石の使用効果を上昇させる錬金術師アルケミストのスキル。確かに火力は高いみたいだけど、何とかガードで耐えれるわ。


「レンジ! 迎え撃つわよ!」


 私はレンジに向かって叫ぶ。だけど、あいつは一人ぼーっと突っ立ていた。


「ちょっとレンジ!」

「あ……ああ、ごめん。そうだな……」


 スパナを構えるレンジ。だけど、その心はビューシアに向かっていた。

 これはダメね。ルルノーはNPCの魂を扱う研究者。どこか行動に甘さがあって、所々に優しい感情もあった。

 魂持ちの【人造人間ホムンクルス】を扱うってのも危険。甘いレンジには相性最悪と言えるわ。

 それに加えて、今のあいつはビューシアの事しか見えていない。私が戦わないと、どこかで逃げられるだけだわ。


「スキル【武器解放】! ぶっ潰すわ!」

「仕方ありません……スキル【覚醒】」


 私は【武器解放】でお喋りハンマーを巨大化させる。そしてそのままルルノーに殴りかかった。

 だけど、あいつは右眼に手を当て、【覚醒】の効果を発動させる。効果の適応されたその眼には薬品のマークが刻まれていた。

 素早さが上昇したことにより、ルルノーは涼しい顔で私のハンマーをかわす。だけど、すぐにレンジが私のフォローに入った。


「スキル【発明クリエイト】アイテム、グレネード!」

「スキル【薬品投げ】アイテム、爆発薬!」


 背を向けるルルノーにグレネードを投げるレンジ。だけど、ルルノーは爆発薬を【薬品投げ】で強化し、それにぶつけてしまった。

 二つのアイテムが空中で衝突し、大爆発を起こす。焦ったレンジはすぐに私を抱きかかえ、その場から走り出した。


「ちょ……ちょっとレンジ!」


 アイテムによる攻撃は敵味方関係なく巻き込む。だけど、なにも抱きかかえる事ないじゃない……

 光が晴れると、そこにルルノーの姿はなかった。追う事は出来たでしょうけど、レンジにその気はない様子。やっぱり、ビューシアの事で頭がいっぱいね。

 少しすると、シュトラたちが追い付いてくる。どうやら、今日はここまでみたい。恐らくルルノーは本拠地に逃げたんでしょう。

 氷雪の街スマルト。決戦の地は私にとって未知の大陸、【インディ大陸】だった。


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