表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルドガルドギルド  作者: 白鰻
三十八日目~四十二日目 ガンボージ遺跡
151/208

151 ロボット乗りの少年

 ガンボージ遺跡の28階層。私たちはマンティコアに似た謎のモンスターと対峙していた。

 こいつは二つの首を持ち、それぞれが別の属性を持っている。動きも鈍足な部類で、マンティコアとはまったく違うモンスターみたい。

 私は【武器変更】した杖を握り、シュトラと共に後ろに下がる。それと同時に、イリアスとハクシャが前に出た。


「守りは私に任せるっす!」

「俺も協力するぜ。スキル【内丹術】」


 二人は敵の爪をガードし、攻撃を阻害していく。

 いつも突っ込んでばかりのハクシャが、自信を回復する【内丹術】で守りに出たわね。こいつも私の戦法を把握しているみたい。

 ケットシーのリンゴと並び、私とシュトラは魔法の詠唱を始める。敵の首は二つ、属性も二つよ!


「スキル【炎魔法】ファイアリス」

「スキル【水魔法】アクアリス!」

『ニャニャ!』


 ヤギの頭には私の炎魔法が、ライオンの頭にはシュトラの水魔法が命中。続いて、リンゴのサンダリジョンオールが二体の首に放たれた。

 【魔攻付与魔法】の府術によって雷の追い打ち。それと同時にリンゴの雷が炸裂する。

 モンスターは叫び声を上げ、前衛のハクシャとイリアスに猛攻を加えていく。当然、後衛の私たちに届くはずがないわ。


「パターン入ったっす!」

「スキル【回復魔法】ヒールリスオール! イリアスさんも無茶しないでくださいね」


 イリアスのロボットは、恐ろしく鈍足だけど持続性は充分。そこに、ビスカの回復魔法が加われば、まさに鉄壁の障壁ね。

 タンク、アタッカー、ヒーラーの基本戦術が完全に決まり、勝利へのパターンに入る。あとは、敵にモーションが追加されない事を祈るだけだった。

 相手も強いけど、こっちは人数もプレイヤースキルも安定してる。焦らず敵の動きを把握すれば、安定した勝利が手に入るわ。


「だいぶ魔法を打ち込んだし、そろそろ止めよ! スキル【武器魔法】!」


 使い捨ての魔導師の杖を【闇魔法】ダークリスに変換する。そして、それを偽マンティコアに向かって放った。

 闇は敵を飲み込み、暗闇の状態異常を与える。さらに、シュトラの【魔攻付与魔法】によって雷が追撃された。攻め倒すには今しかないわね。

 私はそこそこ高性能な斧、ドラゴニックハルバードを装備する。そして、それに【武器解放】の効果を加えて前線に走り出した。


「スキル【武器解放】! いっけえええ!」

「お姉ちゃん! それ返り討ちフラグだよ!」


 叫ぶシュトラなんて無視。ハクシャとイリアスを交わし、巨大化させた斧で標的に殴りかかる。その瞬間、私は闘技場でレンジと戦った時を思い出した。

 巨大な武器を振り上げた今の私は完全な無防備。闘技場ではその隙を利用されてしまった。

 背筋に悪感が走る。まさか、この偽マンティコア、暗闇状態で攻撃してくるんじゃ……


『グルガアアア!』

「ちょ……」


 モンスターは闇雲に暴れ、斧を掲げた私に牙をむける。音によってか、においによってか、何にしても私の位置を把握しているみたい。これはちょっと不味いかも……

 敵の牙が、私の頭部を切り裂く。完全なクリティカルヒット、耐えがたい痛みが頭に走った。


「こいつ……」

「イシュラ! 下がれ!」


 床にへたり込みながら、私は敵モンスターを睨む。ハクシャの指示通り、後ろに下がる気なんて全くなかった。

 ハルバードを再び握り直す。それと同時に暗闇から回復したモンスターが、私に向かって襲い掛かった。

 絶対、ボコボコにしてやる……このまま斧を振り回して返り討ちにしてやる……!

 私は座った姿勢のまま、ただ我武者羅に斧を振りかぶった。その瞬間……


「詰めが甘いな。イシュラ」


 誰かの声と共に、巨大な手が私の体を掴む。鉄で出来たロボットの手。それは掴んだ体を持ち上げ、上空へと放り投げた。

 何が起こったか分からないまま、空中で唖然とする私。やがて、下界へと降下し、何らかの装置へと着座される。

 これはロボットの操縦席ね。一人乗りの狭い空間。目の前には機体を操作する少年が座っていた。

 彼はこっちを振り向き、不敵な笑みを零す。


「行くぞ、イシュラ。しっかり捕まっておけ。スキル【加速ブースト】!」

「あんた、レンジ!」


 消えていたレンジが、私をロボットに乗せて笑っている。どんな状況か全く分からないわ!

 混乱する私を尻目に、彼は額に付けていたゴーグルを装着する。それと同時に偽マンティコアが灼熱の炎を噴いた。

 ロボットは背部に装着されたジェットから火を吹かす。瞬間、高い機動力によって一気にその場から走り出した。


「きゃっ!」

「ははっ、女の子らしい声を出すじゃないか」

「う……うるさい! バカ!」


 間一髪、機体は炎を回避する。思わず変な声が出ちゃったじゃない。最悪よ……

 猛スピードで動くロボットは、しっかり掴んでいないと振り落されそう。何も掴むものがないし、私は嫌々レンジの背中を掴む。

 悔しいけど、こいつの背中が大きく感じた。そんな私の思いも知らずに、レンジは楽しそうにロボットを動かす。


「敵に突っ込むぞ。迎え撃ってくれ」

「私が!? 良いわよ……やってやるわ!」


 ロボットのスピードが減速し、自由に動けるようになる。私は操縦席から立ち上がり、大斧を構えた。

 機体は遺跡を駆け廻り、やがて偽マンティコアへと近づいていく。もう、最強のスキルで迎え撃つしかない!

 私は斧の刃を敵モンスターに向け、それを一気に振り下ろした。

 

「スキル【武器破砕】!」


 ドラゴニックハルバードが敵モンスターに炸裂した瞬間、それは砕けて消滅する。同時に、偽マンティコアのライフもゼロとなった。

 【武器解放】以上に高い威力を発揮するスキルだけど、代わりに使用武器が消滅してしまう【武器破砕】。高級なドラゴニックハルバードがロストしちゃったけど、その役割は充分果たしたわ。


 敵モンスターの撃破と同時に、レンジはロボットを停止させる。すぐに、私は彼を質問攻めにしていった。


「ちょっと、あんた! 何で急に!」

「ピンチだったからな。あのまま善戦していたら手を出さなかったよ」

「何ですぐに顔を出さなかったの!」

「勝手に消えた奴が、ノコノコ顔を出すのは恥ずかしいだろ」


 質問に答えつつ、レンジはロボットをアイテムボックスに戻す。それと同時に、私は外に投げ出され遺跡の地面に尻餅をついた。

 こいつ、絶対わざとね……文句を言いたかったけど、ビスカが会話に入ってタイミングを逃す。


「レンジさん! 私たち心配したんですよ! さあ、ギルド【IRISイリス】に帰りましょう! アイさんも一緒に!」

「……それは出来ない。アイは今、俺たちとは会えないんだ」


 レンジはアイと一緒に行動していると思ったけど、今は離れ離れになっているみたい。

 私はレンジの帽子を見る。そこに、以前付けていた猫耳バンドは付けられていなかった。

 そう言えばアスールが、『友情が壊れたかもしれない』と言っていたわね。真実か確かめるため、私は鎌をかけてみた。


「友情が壊れちゃったのかしら?」

「……今はいないだけだ。必ず戻ってくるよ」


 ちょっと、状況が違うみたい。猫耳バンドが外されても、レンジの友情は変わらなかった。

 ま、友情云々なんて正直どーでもいいのよね。それより、この遺跡に潜んでいる【ダブルブレイン】の事が重要なのよ。

 私と思っている事は同じなのか、イリアスが先ほどのモンスターについて言及する。あの偽マンティコアは明らかに不自然だったわ。


「さっきのマンティコアは敵の刺客っすか……」

「マンティコアじゃない。【合成獣キメラ】だ。錬金術師アルケミストルルノーさんが作ったペットキャラクターだよ」


 プレイヤーの扱うペットスキルの一種だったのね。マンティコアのグラフィックを使いまわしているとか、紛らわしいわね。

 それにしても、錬金術師アルケミストルルノーって確か【ROCO(ロコ)】の副ギルドマスターよね。ミミの会いたいプレイヤーって、もしかして……


「ミミ……あんた、レンジがルルノーを探していると読んでいたのね。私たちを利用してここまで……」

「【ROCOロコ】のギルド本部は【イエロラ大陸】にあります。なので、彼の研究室も同じ大陸にあると踏んだだけですよ。彼は遺跡も好きでしたし」


 この狸女に一杯食わされたわね。天然でおバカなのは本物だろうけど、頭の方は結構回るみたい。悪くないわ。こういう女は嫌いじゃないのよね。

 ダンジョンの奥に潜む敵の詳細は分かった。でも、何でレンジが一人でそいつに会おうとしているの? っていうか、ビューシアとの決着はどうなったのよ。


「レンジ、あんた何でこの場所にいるの。ビューシアはどうなったのよ」

「ビューシアは現実世界に逃げた。あいつはダブルブレインではなく、普通のプレイヤー。現実世界で追いつめなくちゃ倒す手段はない」

「それで、ルルノーから情報を奪おうって算段ね」


 ビューシアはダブルブレインじゃないけど、【ダブルブレイン】という組織に入っている。【覚醒】持ちになっても操作はされず、ゲームオーバーでは止まらない。つまり、あいつはこのゲームで唯一、無敵の体を持っているプレイヤーと言えるわ。

 ふーん、だいたい状況が読めてきたかしら。レンジの目的は今でもビューシア一人みたい。あいつは目を細めつつ、私たちを見る。


「もう分かってるだろ。ここは錬金術師アルケミストルルノーさんの研究所だ。巻き込まれたくないのなら、今すぐ帰ってくれ」

「俺はいくぜ。ちょっと、思うことがあるからな」


 レンジの言葉に対し、真っ先にハクシャが答える。イリアスやミミにはここから先に進む理由があるけど、ハクシャには何もないわよね? 何でこんなに息巻いているのかしら。

 でもまあ、ハクシャの事なんてどうでも良いわ。当然、あからさまに行きたくなさそうなシュトラの事も知らない。

 目指すは30階層。誰一人引き返す事はなく、レンジの後へと続いていく。

 そんな私たちの答えを聞くと、あいつは心なしか嬉しそうだった。





















 30階層、壁の裏に隠れた通路。その先へ進むと奇妙な空間が存在していた。

 黒魔術師の隠れ家のような薄暗い実験施設。そこにはいくつもクリスタルが置かれ、色とりどりの光を発している。

 幻想的で美しい空間。だけど、物悲しい気分になるのは何故かしら。

 鈍いシュトラは何も感じないのか、能天気にアホ面を浮かべていた。


「わー、お姉ちゃん綺麗だね」

「だけどこれって……」


 私は不意にレンジの方を見る。あいつは顔色を悪くし、その場にうずくまっていた。

 何度もむせ返るように咳をし、必死に吐き気を抑えるレンジ。人魚のビスカが彼を優しく介抱する。


「レンジさん……! 大丈夫ですか……!」

「ああ……悪い」


 レンジは一人で立ち上がり、周囲を見渡していく。

 ルルノーはどこかにいる。私の感がそう言ってるわ。奥にもまだ部屋があるみたいだし、敵はそこに隠れているはずよ。

 やがて、奥の部屋から足音が近づいてくる。私たちはそれぞれの武器を構え、戦闘態勢をとった。

 ドアを開け、姿を現す眼鏡の男。私とビスカはこいつと面識があった。


「辛そうですね。【奇跡】のスキルを持つレンジさんには、少々刺激が強かったようです」

「あんたがルルノーだったのね……」


 ずれた眼鏡を直す錬金術師アルケミスト

 砂漠のオアシスで会った謎の男が、敵組織の幹部だったなんて………ほんと、どういう巡り合わせかしら。

 お喋りハンマーは珍しく押し黙っている。こいつがどれほどヤバイ奴か、何となく想像がついちゃったわ。

 だけど、こっちは7人と1匹。悪いけど、数の暴力でボコボコにしてやるわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ